四十四話 やってきた人
四十四話完成です。
ついにあの人が来ます。
キンッキンッ ドーーーン
町から離れた街道で、豪華な馬車を、50人ほどの盗賊が襲っている。
周りにはすでに事切れている人達が何人か倒れている。
盗賊もいるが、ほとんどはこの馬車を護衛していた人達でした。
「クッ流石に多勢に無勢・・・・・これは不味いか?」
燕尾服を着たいかにも紳士な感じの男が忌々しげに言う。
すでに、戦っているのはこの紳士しかいなくなっていた。
「お父様、私も戦います」
そう言って、馬車の中から出てきたのはまだ10にも満たない女の子だった。
「・・・・・リリー、無茶はするなよ」
紳士は少し考え、女の子が戦うことを許可する。
今は少しでも戦力が欲しかった。
「分かっています。その辺の輩に負けない自信はありますが、この人数相手に突っ込んで無事で済むと思うほど未熟なわけでもありませんから」
女の子は紳士と背中合わせに立ち、近づいてきた盗賊を切り倒す。
そう言うだけのことはあり、年齢からは考えられないほどこの少女は強い。
紳士が魔法で盗賊を蹴散らし、近づいてきた者は女の子に倒される。
盗賊は少しずつ人数を減らしていき、このまま勝つかと思われたとき、巨大な岩の塊が紳士と女の子を襲う。
ドーーーーン
紳士は咄嗟に女の子を抱いて岩を避けるが、そこを狙っていた盗賊の弓で腕と足を負傷してしまう。
「おっさん、なかなかやるようだが、我らに目を付けられたのは不運だったな」
魔術師風の男が、30人ほどの盗賊を連れて出てきた。
ただでさえ不利なところに、この増援である。
流石の紳士も負傷した状態でこの人数を相手にするのは難しい。
「リリー、私が時間を稼ぐ、お前は逃げるんだ」
「そんな、お父様を見捨てて逃げるなんて出来ません」
女の子は紳士を守るように立ち、盗賊たちを睨みつける。
紳士は何とか逃がそうとするが、女の子は一向にいうことを聞かなかった。
「元気なお譲ちゃんだ。きっと高く売れるだろうよ」
魔術師風の男が、いやらしい笑みを浮かべ、盗賊たちに指示を出す。
女の子は魔術師風の男の指示で襲ってきた盗賊の1人を切り倒し、2人目も傷を負わせるが、そこまでだった。
3人目と剣を合わせているところで、4人目に切りかかられ、それを無理に防いだため、バランスを崩して倒れてしまう。
そして、それをチャンスと見た5人目の盗賊によってついに女の子は組み敷かれてしまう。
紳士も助けに入ろうとしているが、魔術師風の男に邪魔されて近づけない。
盗賊が拳を振り上げたのを見て、女の子は目をきつく閉じる。
ザシュッ
しかし、いくら待っても痛みは訪れず、不思議に思い、ゆっくりと目を開けると組み敷いていた男は首がなくなって居り、黒い髪をポニーテールにした、少女が立っていた。
「な!?貴様なにも・・・・・」
ザシュッ
魔術師風の男が驚いて叫ぶが、最後まで言う前に首が吹き飛ぶ。
紳士のところには、金色のツインテールの少女が立っていた。
「マキちゃん、そっちよろしく」
黒髪の少女はそういうと、目にも留まらぬ速さで盗賊達を切り殺していく。
それに合わせて、金色の髪の少女も手に持っていた大きな鎌で盗賊を切り殺し始める。
ザシュザシュザシュ
2人の少女は、1分ほどですべての盗賊を始末し終える。
盗賊を退治し終わると、黒髪の少女が、まだ倒れたまま呆然としている女の子を助け起こし、金色の髪の少女が紳士の傷を回復させる。
「貴方達はいったい・・・・・」
紳士がそう呟くと、黒髪の少女が振り向く。
「娘に向かってそれはないんじゃないですか?お父さん」
そう、この紳士は『キルベルト=ヴィア=クロスロード』リタの父親でした。
その日、私がいつものようにマキちゃん達と『いちゃいちゃ』しながら、教室でお弁当を食べていると、放送が流れました。
ピンポンパンポン
「1年12組、リタ=ロスト=クロスロード様、学園長がお呼びです。至急学園長室まで来てください。繰り返します。1年12組、リタ=ロスト=クロスロード様、学園長がお呼びです。至急学園長室まで来てください」
ピンポンパンポン
その放送を聴いて、クラス中がシーーンとなります。
私も、思わず顔を引きつらせます。
なんか、放送で『様』を付けて呼ばれました!!
いや、それよりも、なんでいきなり本名で呼ばれるの!?
「今の、リタのことですよね?『クロスロード』ってどういうことですか?」
メイド服(いつも違う形のを着ている)のアンが聞きます。
「『クロスロード』は私の本名です」
マキちゃんとティアを除いた、クラス中の人が驚きます。
「ちょ、ちょっとリタ!!本当なの?『クロスロード』といえば、リーン王国には知らない人はいないって言われるほどの名門貴族ですよ!!」
アンが大声で叫ぶと同時に、クラスが騒がしくなります。
「本当です。でも、『クロスロード』を名乗るのは禁止されてたはずですけど・・・・・いきなりどうしたんでしょう?学園長ならそのことも知ってるはずですし・・・・・まぁ、いいです。とりあえず学園長室に行きましょう」
私はそう言って席を立つと、さっさと教室を出ます。
はぁ、面倒なことになりました。
バタン
「学園長、いったいあの放送は何なんですか!!」
私は学園長室の扉をけり空けると、学園長に怒鳴ります。
扉が壊れたみたいですが、そんなの知ったことではありません。
「おぉ、リタ君来たか、実はワシにお前さんの父親から『伝言水晶」が来てのぅ」
そう言って学園長は私に『伝言水晶』を見せます。
『伝言水晶』とは、言葉を記録して、遠くの人に伝えることが出来る特殊な水晶で手紙みたいなものです。
値段が高いので、一部の貴族しか使えないですけどね。
その『伝言水晶』を簡単に要約すると、『クロスロードを名乗ることを許すのでこれからはケミアではなく、クロスロードを名乗りなさい。それと、近々学園に行くので迎えに来て欲しい。お前が住んでいる寮が何処か判らないので『伝言水晶』は学園長に渡しておく』とありました。
なるほど、それであの放送ですか・・・・・仕方ないとは思いますが、もう少し違う形で呼び出して欲しかったです。
「用はこれだけじゃ、ちゃんと伝えたからの」
学園長がそう言ったので、私は「失礼しました」と言って部屋を出ました。
ちなみに、戻ったら何故か教室が破壊されていて、皆がティアを見て震えていました。
質問攻めにあわなくて良かったけど、これってティアがやったのでしょうか?
それから数日後、ティアとアンに留守を頼んで、私はお父さんを迎えに行きました。
1人で行っても面白くないのでマキちゃんだけは連れて行きます。
マキちゃんと『いちゃいちゃ』しながら歩くこと数時間(歩くと言っても魔法で強化してあるのでかなりの速度です)前方で何やら魔法の爆発音が聞こえました。
私達が音の聞こえたところに着くと、豪華な馬車が盗賊に襲われていました。
しかも、良く見ると、襲われているのは私のお父さんと妹のようです。
「マキちゃん、男の人のほうお願い」
私はマキちゃんにそう言うと、盗賊に向かって疾走しました。
「貴方達はいったい・・・・・」
盗賊を退治し、妹を起こしていると、お父さんが私に他人行儀な感じで言います。
「娘に向かってそれはないんじゃないですか?お父さん」
「リ・・・リタなのか?」
「そうですよ、もしかして・・・・・私の顔忘れちゃったとか?」
「いや・・・あまりにも強くなっていたのでな、少し驚いただけだ」
お父さんはそう言って目を丸くしています。
「お姉ちゃん!!」
自体が飲み込めず、呆然としていた妹ですが、私が姉と分かると笑顔で飛びつきました。
私は妹を抱きとめて抱っこします。
リリー=フル=クロスロード
私と同じ黒い瞳と黒い髪をしていて、その髪を肩の辺りで切りそろえている、元気のいい自慢の妹です。
「リリー久しぶりね」
「うん、久しぶり~~」
リリーはうれしそうに笑っています。
流石私の妹、かわいいです。
「リタ、馬車は大丈夫みたいです」
私達が話をしていると、馬車のチェックをしていたマキちゃんがそういいました。
「マキちゃん、ありがとう。さて、こんな所じゃ何なので学園まで行きましょう。お父さん、馬車お願いできますか?」
「わ、分かった。私が運転しよう」
私達が全員馬車に乗ると、お父さんが馬車を出発させました。
「それにしてもリタ、見違えるほど強くなったのだな」
お父さんがうれしそうに言います。
「まぁ、色々ありましたから」
私はリリーを抱っこしながらそう答えます。
「そうか・・・・・ところで、そちらのお嬢さんは誰だね?」
「ん?マキちゃんのことですか?私の恋人です」
「マキ=クロイです。よろしく」
その答えに、お父さんが固まってしまいます。
まぁ、いきなり娘に女の子を「恋人です」って紹介されたら、固まりもしますか。
「お姉ちゃんの恋人?女の人だよ?」
リリーが不思議そうに聞きます。
「女の人でも愛さえあれば恋人になれるのよ」
「そうなの?私もお姉ちゃん好きだから恋人になれる?」
リリーが純粋な目で私を見つめます。
「もちろん、なれますよ、愛の前には性別も年齢も人数も関係ありませんから」
「じゃぁ、私もお姉ちゃんの恋人になる~~」
リリーがうれしそうにそう言って私のホッペに『ちゅう』しました。
やりました。
かわいい恋人ゲットです。
なんか、マキちゃんの視線が冷たいですが、気にしないでおきましょう。
そうこうしているうちに、馬車は学園に着きました。
さてっと、まずは学園長の所ですね。
その後は・・・・・ティアとアンも紹介して・・・・・あ、そういえばここからって結構距離あるけど大丈夫かな?
はぁ、まぁいいです。
色々大変そうですが何とかなるでしょ。
ここまで読んでくれてありがとう。
さてさて、波乱の予感ですね。
誤字、脱字、感想など書いてくれるとうれしいです。
次回は、この続きか閑話です。
え?閑話多すぎだって?
すいませんすいません、でも書きます。
あ、物を投げないでください。