三十八話 鍛冶
三十八話完成しました。
今回は剣の話です。
トントン、カンカン
トントン、カンカン
私は今、草原の真ん中で気持ちのいい風に吹かれながら剣を作っています。
草原と言っても、精霊王達が私の亜空間を勝手に改造して作った草原です。
なんで私がこんなところで剣を作っているかというと、この前、ドラゴンと戦った際に、私が愛用していた剣、『レッドキャンパス』が修理不可能なくらいに見事に砕けてしまったからです。
「ふぅ」
私は、そう言って額の汗を拭きます。
「リタ様~~~今日も~~~お疲れ様です~~~」
私が一息つくと、アクアがやってきて『おいしい水』をくれます。
アクアの持ってくる『おいしい水』はすごく飲みやすいので、私は「ごくごく」と一気に全部飲み干してしまいます。
「アクア、ありがとう」
私がお礼を言うと、アクアはにっこりと微笑みました。
それを見て、私はまた剣作りに戻ります。
トントン、カンカン
トントン、カンカン
そうそう、アクアが『今日も』といったのは、私がこの剣を作り始めてからすでに10日ほどたっているからです。
私がこの剣を作り始めた頃は他の精霊王達も見に来ていましたが、すぐに飽きたのか、今では時々見に来るくらいです。
常に一緒にいるのは私が剣を作っている姿をニコニコ見ていて、一息ついた時に『おいしい水』をくれるアクアと、剣の作り方を教えてくれているリーフェの2人だけです。
「もう少しで完成しますね」
「そうですね、これ以上は魔力の密度も上がらないみたいです」
「魔力でできた剣を作るのは私も初めてなので完成がとても楽しみです」
リーフェがワクワクした顔で完成を待っています。
そうです。
私が作っているのはただの剣ではありません。
というか、私は鍛冶の仕方を学んだことがないので普通の剣は作ることが出来ません。
これは、魔力を物質化して作った特殊な剣なのです。
では、どうしてこんな剣を作っているのかというと、この前神様に貰った『特殊魔法の使い方』という本に、『魔力を物質化する方法』というのが載っていたからです。
作り方はこうです。
まずリーフェがバランスの良い剣の形になるよう叩く場所を指摘して、私が『物質化した魔力』を『魔力を込めた拳』で剣に叩きつけるという感じです。
トントン、カンカン
トントン、カンカン
そして、剣を作り始めてから10日目の昼過ぎ、ついに剣は完成します。
切先から鍔、柄頭まで全て1つの魔力の塊で出来ており、その刀身は反対側が透けて見えるほど薄く、片刃で出来ています。
私はその剣を手に持ってみます。
流石に私の魔力で作っただけあって、私の手にすごく良くなじみます。
私は嬉しくなり、2、3度その剣を軽く振ります。
シュッシュッブォン
ん?今、最後に剣を振った時、変な音しませんでしたか?
私はもう1度剣を振ってみます。
シュッシュッブォンシュッブォン
明らかに変な音が混ざってますね・・・・・何の音でしょう?
「じ、次元が裂けていませんか?」
私が不思議に思っていると、いつも『のほほん』としているリーフェが少し引きつった顔でそう言いました。
私は、もう一度剣を振ってみます。
シュッシュッブォン
・・・・・・・・確かに次元が裂けてますね・・・・・一瞬空間が歪んで見えました。
軽く振っただけで次元が裂けるとか・・・・・自分で作っておいてなんですが、この剣、どれだけ切れ味良いんでしょうか・・・・・
それにしても困りましたね、軽く振ってこれなのですから、戦闘中に思いっきり振ったら自然修復できないほど、大きく次元が裂けてしまいそうです。
どうにかして次元が裂けるのを防がなくてはいけません。
「リーフェ、何か良い案ありませんか?」
「そうですねぇ、剣自体がリタ様の強力な魔力で出来ているので、リタ様が自分の意思で『物質化した魔力』を操れればどうにかなると思うのですが・・・・・」
私が聞くと、リーフェはそう答えます。
自分の意思で『物質化した魔力』を操る・・・・・どうやればいいんでしょう?
普通の魔力ならある程度操れます。
操れなければ魔法の制御も出来ないですからね。
けれど1度私の意思を外れた魔力は上手く操れません。
出来て魔法の軌道修正くらいです。
しかも、『物質化した魔力』ですと、何をどうしていいのやらまったく分からないです。
「ん~~~ちょっと私には出来そうにないですね」
「そうですか・・・・・それだと難しいですね・・・・・」
私がそう答えると、リーフェは考え込んでしまいます。
私も考えて見ます。
剣に結界を張ってみる・・・・・剣を作った意味がないですね。結界を張ると切れなくなりますから、その辺の木の枝に結界を張って叩くのと一緒です。
刃の部分を太くする・・・・・そもそも刃の部分が鋭いから次元が裂けるんじゃなくて、私の魔力で作ったから次元が裂けるんです。次元が裂けないほど太くしたら、それは剣ではなく棍棒になってしまいます。
私の魔力で次元が裂けるのを強引に押さえつける・・・・・これなら大丈夫でしょうが、すごく疲れそうです。まぁ、最悪この方法ですかね。
・・・・・・・・・・・・・
ん~~~あまり良い方法は思いつかないですね・・・・・
リーフェも私と同じで良い考えが浮かばないのか、未だに考え込んでいます。
「私達が~~抑えてあげれば~~~良いんじゃないでしょうか~~~?」
私とリーフェは考え込んでいると、それを見ていたアクアがそう言います。
「私達がですか?」
「そうです~~私達の魔力を~~~リタ様に物質化してもらって~~~その剣に~~付ければいいんです~~~」
「なるほど、普段は物質化した私達の魔力で次元が裂けるのを抑えるようにしておき、いざという時はリタ様が念話で私達に言ってくれれば、魔力の性質を変更できるというわけですね」
「そうです~~~」
アクアとリーフェが剣の威力を抑える方法を思いついたみたいですね。
私も2人の話を聞いてなんとなく方法が分かりました。
・・・・・・・・ん?
もしかして2人は『物質化した魔力』を操れるのでしょうか?
「アクア、リーフェ、2人は物質化した魔力を操ることが出来るんですか?」
私は2人に聞いてみます。
「できますよ~~~元々~~~自然の中の~~~魔力が~~~意思を持った存在が~~~精霊ですからね~~~」
「つまり、私達の一部を使って『物質化した魔力』を作れば、それを操ることは簡単にできるということです。もっとも、私達の一部から作った『物質化した魔力』でないと出来ないですけどね」
ん~~~分かったような、分からないような・・・・
「とにかく、アクアとリーフェが協力してくれれば、次元が裂けるのを防げるということかな?」
「違います~~~私達~~~2人だと~~~少し難しいです~~~」
「シルフィ、フレイ、レイ、ノアの四人にも協力してもらった方がいいですね」
私が確認すると、2人そう訂正しました。
「なるほど、では他の4人も呼びますね」
私はそう言って他の精霊王達を念話で呼びます。
精霊王達が全員揃ったところで、私はことの経緯を話します。
「なるほどな、それにしても、さすがリタ様、こんな剣初めて見るよ」
「ですねですね。私も初めて見ます」
「あらあら、私だってこれほどの剣を見るのは初めてですよ」
「初めて」
上から、フレイ、シルフィー、レイ、ノアの順で私の作った剣を褒めてくれます。
なんか、少し照れくさいですね。
「えっと、そういうわけで、次元が裂けてしまうので、それを抑えるために協力してもらっていいですか?」
「はい~~」
「いいですよ」
「いいぜ」
「いいよ~」
「わかりました」
「いい」
私がお願いすると、6人とも笑って答えてくれました。
トントン、カンカン
トントン、カンカン
それから私は、精霊王達の一部を球状の玉にして、剣の鍔の部分に埋め込みました。
青、茶、赤、緑、金、黒の色をした玉はとても綺麗です。
玉を埋め込み終わったところで、精霊王達の希望で試し切りをして見ることにします。
まずは普通の案山子で試して見ます。
ザシュ
あっさり切れました。
次は岩で試してみます。
ザシュ
これも簡単に切れます。
次は鉄です。
キンッ
切れました。
次は『竜の鱗』です
ザクッ
これも切れました。
最後に、精霊王達が特別に用意したオリハルコンを切ることになりました。
オリハルコンって・・・・・私初めてみましたよ。
というか、実際に存在していたんですね・・・・・てっきり伝説か何かだと思っていました。
私は、今までよりも少し気合を入れて剣を振りぬきます。
キンッ
私が剣を振りぬくと、オリハルコンは真っ二つになりました。
・・・・・・・・・・えっと・・・・・あっさり切れてしまったんですが・・・・・これ、オリハルコンですよね?あの世界で一番硬いといわれる、伝説の金属ですよね?
私は少し呆然としてしまいましたが、精霊王達は『やっぱり切れましたか』という顔をしています。
「どういうことかな?」
「その剣はリタ様の魔力で出来てるんだから当然だろ」
「今は抑えてるとはいえ、次元さえ切り裂くほどの威力だったんですよ」
「オリハルコンですと、特殊加工をしないかぎり、次元を切り裂くなんてまねできないですからね」
「切れて当たり前だよ~~」
私が精霊王達に聞くと、フレイ、レイ、リーフェ、シルフィーがそう答え、アクアとノアも頷いていました。
なんか、納得行かない気もしますが、最強の剣ができたということで良しとしますか♪
「名前、なに?」
剣のできに満足していると、ノアが私の袖を引っ張ってそう聞いてきました。
「名前?」
「そう」
聞き返すと、そう言ってノアが私の作った剣を指差します。
この剣の名前ですか・・・・・そうですねぇ・・・・・
「『ゼロ』なんてどうですか?」
「ゼロ?」
「そうです。全てを切り裂き無に返す剣ということで『ゼロ』です」
「ん、良いと思う」
私が剣に名前を付けると、ノアは満足そうに頷いて微笑みました。
こうして、世界最強の剣『ゼロ』が生まれました。
というか、私が作り出しました。
後に、この剣は更なる進化を遂げるのですが・・・・・それはまだまだ先の話です。
ここまで読んでくれてありがとう。
最強の剣、どうでしたか?
誤字、脱字、感想など書いてくれるとうれしいです。
次回は、魔法大会の話になればいいと思います。
え?マキちゃんが出てこのいとはどういうことだ!!って?
すいませんすいません