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その3

「ねえ結翔さん」

「ん?」


 アパートでおれは結菜さんと昼の食事にカレーライスを食べた後だった。結菜さんは手に持った食べかけのドーナツをお皿の上に置くと、


「王妃さまと何が有ったの?」

「ぶはっ」


 おれはコーヒーを飲んでいたから、むせそうになってしまった。


「何が有ったって、どういう意味?」


 王妃さまのおれに対する態度が変だと言うのだ。確かにそれはおれもうすうす感じている。


「いや、別に、何にも無いよ」

「嘘おっしゃい!」


 結菜さんの目がおれを非難している。


「いや、本当だってば」

「王妃さまとあなたは2人だけで出掛けたでしょ」


 それは確かに出掛けた。何処か面白い処に連れて行って欲しいと王妃さまから頼まれて行った事がある。秋葉原のメイド喫茶を見せてあげたのだが、それは結菜さんも承知しているはずだ。その時に時空移転したテロリスト集団に襲われる事態に遭遇してしまい、とんでもない事になった。だけど後から結菜さんにはちゃんと全てを説明している。


「それ以外にも何か有ったでしょう」


 これはまいった。結菜さんはおれと王妃さまの関係を疑っている。実を言うとおれも王妃さまのおれに対する態度が変化しているのには気がついていた。だけどまさかそこまで結菜さんが疑っているとは思いもしていなかった。


その時、


「逆らったらダメよ」と、トキがおれの耳元で囁いてくれた。


「あの、結菜さん、本当に何にも無いけど、これからは注意して王妃さまとは接するようにするよ」

「…………」


 結菜さんはなんとか納得してくれた。





 18世紀半ばからイギリスで起こった産業革命は、石炭利用とそれにともなう社会の変革のことである。この新しい世界では前倒しで早くも始まっている。おれが鶴松に転生して以来、数々の時空移転が歴史に様々な影響を与えているようだ。



 ロスチャイルド家は大規模にアメリカ公債を引受けたり、ヨーロッパでも鉄道事業に積極的な投資を展開していたが、債権国同士が対立する時代になると、その兄弟間の国際協調に限界がくる。


 相次ぐ戦争と各国での国家主義の高揚により、衰退が始まったのだ。ロンドン家とパリ家は繁栄していたが、フランクフルトの本家はネイサンの提案を聞かず、発祥の地フランクフルトに固執して新しい金融の中心地ベルリンに移ろうとしなかった。ために衰退し、ウィーン家もハプスブルク家と運命をともに没落していった。ナポリ家に至っては危機的状況に陥っていた。


「まず初めに家長のフランクフルト家、さらにナポリ家も家業を閉鎖する事態に追い込まれます。そして世界規模の大戦が起こると、ウィーン・ロスチャイルド家は財政が危機的となり、やがてオーストリアの内乱で閉鎖となるでしょう。最後まで残るのはロンドン家とパリ家です」


 この世界はおれの知る歴史とは微妙なずれを生じており、全て前倒しが原因の様で、おれの知識も次第に通用しなくなってくる。

 それでもおれの知識はネイサンに比べたら段違いだ。マリー・アントワネットの遠大な予言とも取れる話に、ネイサンは言葉を失っていた。


 マリー・アントワネットが残したとされる言葉「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」からもわかるように、彼女は貧しい市民たちに目もくれず、豪華絢爛な生活に溺れていた。そして彼女こそがフランス財政破綻の根源であったと理解されがちだったと。

 しかしそれは非常に誇張された事実だった。確かに彼女は今までの王族同様に豪華絢爛な生活をしていた。だが彼女がフランスを財政破綻に陥れるほど浪費したという証拠はどこにもなく、実は彼女が敵国ハプスブルク家の出身であったことを妬んだヴェルサイユ宮殿内の貴族たちの企みによって、このような誇張したイメージや噂がパリ中に広められたとされている。

 あのオーストリア女と陰口を叩かれ、浪費家の王妃、フランスの悪の根源と市民の怒りを爆発させるはけ口となってしまったのだ。




「ユイト、貴方にお願いがあります」


 スターバックスの席で、王妃さまは言葉を改めるようにしておれに話し掛けてきた。


「私には復讐しなければならない者が居るんです」

「えっ!」


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