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その2

 スターバックスで、おれは王妃さまにロスチャイルド家がこれから辿る苦難の歴史を話し、理解して頂いた。

 王妃さまにはネイサンに接触すると、おれとの打ち合わせ通りにイギリス・ロスチャイルド家の共同経営者となる話を持ち掛けてもらうの

だ。



 重厚な調度品で埋め尽くされたネイサンの執務室に座る王妃さまは、ロスチャイルド家の先行きに暗雲が垂れ込めていると話し始める。


「ベルリンへの移転は断られているのではないですか?」

「ーーーー!」


 兄弟間の意見が別れている事や、さらにロスチャイルドがこれから辿る厳しい道のりと、世界の変化を重ね合わせて聞かされたネイサンは眼を見開く。世界情勢はともかく、この方はなぜそんなロスチャイルド家の内部事情まで知っているのか。ワーテルローの戦いはフランスで戦われたのだから、元フランス王妃のマリー・アントワネットがいち早く戦況を知ったとしてもおかしくは無い。だが、ロスチャイルド家の内情をそこまで詳しく知っているとは信じがたい事だった。


 しかしその資金出費の提案は、イギリス国債を殆ど全て失った今となっては、この上なく魅力的な話である。今回の損失分全てを無利子で提供しようと言われたのだ。これでイギリスに対する発言権も回復出来るかもしれない。

 さらに共同経営とは言っても、ネイサンの手腕を尊重して、資金を出すだけで、口は出さなくてもいいとまで言っている。

 ついにネイサンは王妃さまの提案を受け入れ、ここに新生ネイサン・ロスチャイルド家が誕生したのだった。


 その後は、王妃さまの声掛けで、ロスチャイルド家一族全員がハプスブルク家より男爵位を与えられ、また五兄弟の団結を象徴する五本の矢を握るデザインの紋章も与えられた。




 今回の話でおれは表に出ない事にした。王妃さまの後ろから手助けをする、裏方に徹しようと決めたのだ。おれが出て行くとまた面倒な事になるだろうからな。


 しかし王妃さまの提案を呑んだネイサンではあったが、未だに釈然としないものを抱えているらしい。

 何度も、どうしてワーテルローの結果を早く知る事が出来たのか、またロスチャイルド家の内情に何故そんなに詳しいのかと、探りを入れる質問をしてくるという。王妃の後ろには並外れた経済ブレーンが存在しているに違いない。ネイサンはそれを知りたがっているようだ。


「王妃さまはどう答えていらっしゃるのですか?」

「情報の大切さを認識しているのはロスチャイルド家だけではありませんと」

「…………」

「私もあなた方ロスチャイルド家を遥かに上回る情報網を持っていますと答えておきました」


 そう言った王妃さまはおれの顔を見ると、意味ありげに笑ってみせた。ただ隣に座っている結菜さんは微妙な顔をした。王妃さまがおれをユイトさんではなく、ユイトと呼んだからだ。




「イギリスではこれから産業革命が起こり、鉄の需要が高まりますから、製鉄事業に乗り出すべきです」

「…………!」

「また戦争の混乱によりドイツでは綿製品が不足して価格が高騰すると思われます。ですからイギリスで大量生産されていた綿製品を安く買い付けてドイツに送れば莫大な利益を上げるでしょう」


 背後におれの情報があるなどとは思いもしないネイサンは、王妃さまの提案に驚きの表情を浮かべる。

 この時点までネイサンは、この王妃はお菓子を食べながら宮廷でおしゃべりをするだけの、世間知らずだと思い込んでいた。マリー・アントワネットから共同経営の話があった当初は、自分がリーダーシップを握ればこの王妃などどうにでも支配出来るとふんでの共同経営だったのだ。

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