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「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞  応募作品

カセットテープの人格

作者: マガミアキ

 古今東西、全てを手にした権力者が最後に望むのは不老不死、永遠の命なのだろう。


 僕は目の前の肥えた軍人に視線を注ぎながらそう考えた。

 僕には理解できない価値観だ。


「いいかね、博士。ここに最新の記録媒体がある」

 軍人が自信満々に示すのは机の上に置かれたコンパクトカセット――いわゆるカセットテープだ。


「音楽情報を記録する媒体だがな、それはこの媒体のほんの一面に過ぎんと思う。つまり吾輩は、ここに人の精神という情報をも記録できるのではないかと考えておる訳だ。貴公はどう思う」


 僕は頷きを返してみせた。

「慧眼です、閣下」

 僕の答えに、軍人は満足そうに胸を反らしている。


「ただ閣下、人の脳を情報量として換算した場合、一五〇テラバイトの容量になると言いますが、僕はその十倍、ペタバイトはあるかと考えます」

「何、ぺた……?」

「対してこの媒体の容量はせいぜい五、六〇〇キロバイト。単純計算すれば一兆八千億個の媒体が必要になります」


 軍人は息を吐いた。

「つまり、理論的には可能と言うことだな? 素晴らしい、博士、早速実現に向けたロードマップを組んでほしい」

 僕は自分の口の端が引きつるのを感じる。


「閣下、我が国は多方面で戦線を展開している状況です。そのような計画に割くリソースが充分にあるとは、僕には思えないのですが?」


 そう言うと相手は盛大に笑ってみせた。

「博士が心配するようなことではない。これは最優先事項だ、吾輩の精神を記録保存することができれば我が軍は後顧の憂なく作戦に邁進できるというものだ」


 僕はしばらく軍人の顔を見つめた後、つぶやいた。

「あんたの知能ごときではカセットテープで足りるのかもね」

「何?」


 僕は席を立ち、再生装置を停止させた。

 スクリーンに投射されていた軍人の姿が消える。


 カセットテープに人格をダビングして欲しい。

 少し前に軍の上層部からそんな話が下りてきた。


 軍において上の指示は絶対だ。

 とりあえず作ってみることにした。音のゆらぎを情報に変換すれば少しは形になるかも知れない。


 今再生していた人格がその試作品だ。

 意外と再現性が高かったことに我ながら驚くとともに、カセットテープでこと足りる人格というのも何やら憐れにも感じる。


 あの男から感じる不快感もそのままだ。

 あの人格が増えたり保存されたりするのはぞっとしない。


 失敗したことにして、好きなレコードでも上書きしておこう。

 僕はダビング用のデッキにカセットテープを装填した。

なろうラジオ大賞3 応募作品

……でしたが、投稿時間間違ってました。

・1,000文字以下

・テーマ:カセットテープ


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