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2.目覚め

――様。


誰かの声が聞こえる。毎日のように聞く、聞き慣れた声。


「お嬢様!」

「……はっ」


パチリと目を開く。広がるのは真っ白の見慣れた天井だった。少し首を動かせば、専属メイドのリサが心配そうな表情で覗き込んでいる。

ゆるゆると起き上がると、ベッドが軋む。ぐっしょりと全身に冷や汗をかいていた。


「大丈夫ですか?少しお部屋を通りかかった所、お嬢様が魘されている声が聞こえたので……嫌な夢でも見られましたか?」

「……嫌な、夢」


どくどくと心臓が音を立てている。夢にしては会話も、周りの景色もやけに鮮明だった。その時に感じた恐怖も、肩を掴まれた時の痛みも残っている――ような気さえする。

妙な違和感を感じるが、夢以外に片付ける術はない。


「顔色が優れないですね……具合が悪いのであれば、今日のパーティーは欠席しましょうか?」

「いいえ、私は大丈夫よ。それに今更欠席の打診をするというのも申し訳ないわ」


私は首を振って、ベッドから出た。

夢というのは、今の自分が不安に思っていることなど、強い思いが形となって現れる場合が多いのだという。私の今の一番の悩みの種は、言わずもがなディアメリオ様絡みのことだ。それが夢に出てきただけだろう。

そう自分に言い聞かせ、ベッドを出て支度を始めた。



今日は久しぶりにディアメリオ様に会える日だ。何回かデートのお誘いをした事はあるが、ディアメリオ様も忙しそうなので、あまり沢山お誘いはできない。何度も誘って重い女だと思われたくない。嫌われるのを恐れて、自分からアピールできないでいる。


ドレスはいつも無難なものを選んでいる。派手すぎず、シンプルすぎず。本当はディアメリオ様の瞳の色のドレスを着たいが、愛されていない身で烏滸がましいだろうと考えてしまって着れない。


「お嬢様、ディアメリオ様がお待ちです」

「え、もう?今日はやけに早いわね…」


いつもディアメリオ様はパーティー会場の入場ぴったり時間に間に合うように私の屋敷まで迎えにきてくれる。でも、今日はそれと比べるとずっと早い。

慌てて支度をするスピードを早めた。メイドに頼んで髪型を整えてもらい、ドレスに合うアクセサリーをつける。


急いで階段を降り、屋敷を出る。眩しい太陽に思わず目を細めた。屋敷の門の前に人影が見える。ディアメリオ様だ。

下品にならない程度に足を早め、ディアメリオ様の側に行った。ドレスの裾をつまみ、軽くお辞儀をする。


「お待たせいたしました、ディアメリオ様」


顔を上げると、ディアメリオ様は穴が開くほど私の顔をじっと驚きが混じった顔で見つめていた。


ディアメリオ様は滅多に笑顔を崩さない。それはいつであってもだ。端正な顔立ちにはいつも優しげな微笑を称えているその姿は貴族の令嬢の中でも評判が良かったが、私はそこに目に見えない壁があるように感じていた。


どうしたのだろうと首を傾げた時、ディアメリオ様はふわりと笑った。その甘く蕩けるような笑顔に、ドキッと胸が高鳴る。

そして、ディアメリオ様はゆっくりと口を開く。その口から飛び出してきた言葉は、私が一度は言われたいと願って止まないものだった。


「ルシア、愛してるよ」

「……え」


驚きで固まった私をひょいとお姫様抱っこし、ディアメリオ様は馬車へと私を連れて行ったのだった。


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