第9話 失敗は恐れない 父のお仕事
父とはあれから合流できず、言われたように先に帰り、夕食の支度が出来たという頃に父は街から帰って来た。
荷台を引いてやって来た訳だが、僕の背が低くて荷台の中に何が入っているのか分からない。
恐らく仕事絡みであろう事から、ロングソード10本を造る為の材料だと思われる。
まぁ、中から金属音がするからしてその推測はほぼ的中だろう。
「お父さん、お仕事するの?」
次の日の朝、食事が終わって父に聞いてみた。
何気に興味がある。
父に話すときは緊張するのだが、こういう事に関しては特に難なく話しかける事ができる。
話題があれば問題はないのだ.
「ああ、そうだ。」
仕事モードに入っているのか、昨日よりも少し怖い。
職人気質の人にはよくあるタイプだ。
かく言う僕もそのタイプだった。
ロングソード10本。
恐らくかなり多いと思う。
そのせいもあってピリピリもするだろう。
はっきり言って父の心境がよく分かる・・・。
僕の目標としては、父の仕事が見たい。
特に教えてもらう必要も無い。
部屋の隅で見るだけでいい。
僕はそういうタイプの人間だ。
が・・・、父の仕事風景を見せてもらうには少し厳しいかもしれない。
厳しいと思うのは、母すらもあまり工房に入れてもらえてないらしいという所から来ている。
当然と言えば当然だが、まぁ危険だからとかの理由だろう。
あとは、妙に片付けられても困るとか。
乱雑に見えて全てに意味があったりするものだったりな。
つくづく職人気質な人間とは面倒な生き物だ。
あぁ、人間ではなくドワーフか。
そうか。
そうだったな。
僕は昨日ふと思った。
父の仕事が見たいと。
そしてまたふと思った。
何故父の仕事が見たいのかと。
気になって、何故何故と色々と掘り下げてみたが、思ったより深かった。
結論になるのか、まず僕の最終的な目標は、母から受け継いだ愛情を次の世代に繋ぐ事だ。
それはつまり、子供を育てるって事だ。
逆を言えば、母親から愛情を感じなければ子供を育てようとかは思わなかっただろう。
まぁ子供は好きな方だしな。
母親関係無しに子供は欲しくなるとは思うが、大義名分はあるに越したことはない。
途中で心が折れたりもするしな。
理由は多い方がいいのだ。
子供を産み育てるという事はつまり相手を見つけなければならない。
そう。
僕は相手を見つけなければならないのだ。
そのプロセスもアリシアを見ていて思い出した。
色々省略して考えてみるが、僕はまず人を幸せにする自信が無い。
人と僕とは価値観が違うから・・・というのが一つの理由だろう。
当然どんな人でも完全に価値観が一致する事は無いと思っている。
だが、それが僕の場合極端な気がするのだ。
それで生前、僕は自分の人生の攻略法なるものをある程度だが見出していた。
この際だから整理して考えてみる。
まず僕の特性として、人を好きになりやすい。
逆を言えば、人を嫌いになれないと言い換えてもいい。
みんな大好き。
いい事だろう?
そして次に人を好きになると判断力が鈍り、周りが見えなくなる。
らしい。
実際そうだと確信した経験がある。
よって致命傷だ。
皆大好きなのだから、それはもう盲目の権化と言えるだろう。
だから最後に僕は人を好きにならないよう努力する。
僕を好きになってくれた珍しい人だけ、より好きになれるように努力する感じ。
自分からは求めない。
求められてから初めて応えるといった感じ。
これは僕が僕の為に考えた僕だけの考え方だ。
誰がどう非難しようと、僕はそれ以外うまく物事を運べないのだから仕方がない。
まぁ細かい事は置いとこう。
そしてその法則を成り立たせる為には、自分が魅力的でなければならない。
求められなければならないからだ。
最初に上がってくる魅力は経済力だろう。
僕の今の場合、最低限養うことさえ出来ない。
その最低限が無ければ人と付き合う資格も無いし、子供を授かる資格も無いと思っている。
まぁそりゃそうだ。
でもまぁその最低限ってのが難しいんだろうけどな。
って事で、経済力を身に付ける為に今の内に父の仕事を学んどきたいって訳だ。
実家の家業継ぐのはまぁこの時代のテンプレだと思うし、生前の知識を活かせたらなってのもあって、少し興味もある。
後々楽をする為に今頑張りたいって感じだ。
僕の本質はめんどくさがりなのだが、後々楽をするための努力は惜しまない。
当然鍛冶屋に限ってはど素人だけど、まぁ誰でも最初は素人だ。
何とかなるだろう。
自分の子を育てるには経済力が必要だし、嫁を探すのにも経済力が要る。
てな事で父の仕事を覚えるために盗み見る必要がある。
って結論だ。
恐らく「お父さんの仕事見たい!」とだけ言っても断られるだろう。
その・・・、あれだ。
危ないだとか、火花が飛んでくるだとかそういって理由で断ってくるだろう。
本心では面倒だとか、チョロチョロ動かれたら集中出来ないとか、子供だから何しでかすか分からないとか思っているに違いない。
父とはそこまで信頼関係を築けているとは思えないしな。
それを踏まえた上で交渉せねば。
さて。
どうなるか・・・。
「お父さん。」
「ん?なんだ。」
まだ少しピリピリしている。
正直怖い。
「お、お父さんのね。お仕事見たいな!って思って!!えっとね。いつかおt」
「いいぞ。」
・・・まぁ、世の中こんなもんだ。
自分の想定通りに事が運ぶのは珍しい。
常に臨機応変に対応する。
失敗、最悪を想定しそれを覚悟し動くものだ。
と、思う。
しかしあっさりOK出し過ぎじゃないか?
・・・まぁいい。
子が自分の仕事に興味を持ってくれる事ほど嬉しい事は無い。
自分の跡取り候補に幼い頃から仕事を見せておきたいと思うのは、息を吸って吐くほど当然の事だ。
そんな感じの心境だろうか。
まぁ、順調に越した事は無い。
とりあえず見れそうで良かった。
母は多分この事を知らない。
保存食を作っているのか、片付けをしているのか分からないが、黙々と作業をしている。
「セレーヌ。工房行ってくる。セレン連れて行くぞ。」
母は聞こえているのかいないのか、まだ作業を続けている。
あ、こっち向いた。
手を拭きながらこっちにやって来る。
洗い物でもしてたのだろうか。
「セレンを?」
「あぁ、見たいそうだ。」
「大丈夫なの?」
「ん?まぁ、大丈夫だろう。」
母はやはり心配そうだ。
というか、自分も見たいのかもしれない。
父は無表情だ。
何を考えているのか分からないが、悪い感じはしない。
「セレン、お父さんの邪魔しちゃダメよ?」
「うん。」
本当の事言ったら手伝いたいんだけどね。
流石3歳も満たない子には無理だろう。
特に準備する事なく父は地下への道をテクテク進んで行く。
ついて来いとも待っとけとも言われていない。
とりあえず興味があった僕は、父に引き寄せられる様に後をついていった。
地下までの階段までには比較的長い廊下がある。
所々荷物が置いてあるが、特に何もない廊下だ。
途中窓が2つあるのだが、登ったばかりの太陽の日差しが廊下に入り込み暖かい。
父は廊下の突き当たりまで行くと、ブツブツ何かを言いながら、階段があるであろう右の方へ曲がり姿を消した。
僕は見失ってはいけないと少し小走りになって父を追いかける。
父の姿が見えたと思ったら、もう既に一番下まで降りており、ドアの前でガサゴソやっている所だった。
気配を察したのかこちらに父が振り返り、見上げながら言ってきた。
「階段は大丈夫か。」
心配してくれているのだろう。
素っ気ない態度に時々優しさを挟んでくる。
父はツンデレのようだ。
「大丈夫。」
僕もまた父に習って素っ気なく返事をした。
男のツンデレか。
僕も誰かにツンツンしといて、どこかのタイミングでその誰かに「風邪引くなよ。」とか言えば完璧だろうか・・・。
僕が階段を四段程降りた頃に父をチラリと見たが、父は僕が階段を降りている所をじっと眺めていた。
おそらく僕の階段の登り下り熟練度を測っているのだろう。
ちょっとまだ足元を見ずに階段を降りる事はできない。
僕はまた足元をを見ながら一段、一段降りて行く。
もう四段程降りた時に父を見たが、まだこちらを見ていた。
ずっと見てくれているのか。
ありがたい話ではあるが、僕としてはなるべく父の手をわずらわせたくない。
出来れば僕の事は気にしないで、仕事に集中してもらいたいのだ。
僕のせいでロングソード10本作れなかったとかは勘弁してほしいからな。
あと、素直に僕の事を信用して欲しいって事と、父に見られるながら階段を下りるってのはやっぱり少し緊張する。
あぁ。
緊張は父も同じ事か。
うん。
多分そうだろう。
初めての息子だからな僕は。
父の背中を見せてやらねばって気持ちは大いにあると思う。
案外緊張しているのかもしれない。
とか何とか思っていたら、リネイルはもうこっちを見ていなかった。
もう既に扉を開けていて、彼の言う工房、作業場に入り、入り口付近でスコップを持っている。
剣を作るのにスコップ??
謎だ。
僕は念願の工房の中を覗く事ができた。
広さはどのくらいだろうか。
狭くは無い。
そうだな。
学校の教室くらい?
畳で言うと20畳位か。
しかも奥にはまだ部屋があるようだ。
何だこの贅沢空間。
結構広い。
確かに何かあるんだろうなとは思っていた。
街の外れに家があるもんだから、父親が嫌われていて、家族全員追い出されたんじゃないかとか。
変な考えもよぎったりしたもんだ。
しかし地下室を発見してそこが鍛冶場だって事が分かった時、あぁなる程なと思った。
確かにこの広さを確保するんなら穴掘った方がいいかもな。
防音設備もこれなら必要無いし、主屋とは少し離れてるから、騒音で母にもストレスはかけないだろう。
壁も土って感じではなく、岩って感じでしっかりしている。
天井も補強してあるんだと思う。
飾りっけが無いのは予算を低く抑えたかったからだろう。
まぁ、それでもこだわりを感じるいい工房だと思う。
父はというと、ずっと壁を見ている。
何やってんだ?
スコップ片手に。
ん?地方によってはショベルと呼ぶのだろうか。
まぁいい。
大人用のおっきいヤツだ。
扉を開けて正面は奥の部屋までの通路みたいになっている。
左側は工房になっており、壁沿いには必要な道具やテーブル等がある。
一番左奥には竈門のような、暖炉の様な、煤で汚れた場所がある。
あの設備で火を起こし、鉄を熱して剣を鍛えたり伸ばしたりするんだろう。
そして右側には何も無い。
壁だ。
父はその壁を見ている。
・・・。
大丈夫か?
階段に座って父を観察する事にした。
チラチラ竈門や道具を見ている。
時間にして3分程だろうか。
そのくらい壁を見ていた父はその手に持ったスコップで壁を掘り出した。
え?
硬そうに見えた壁をザクザク掘っていく。
思ったより柔らかいのね。
ちょっと心配になった。
崩落しない・・・よね。
ちょっと常識では考えられない様な光景が目に入ってきて整理出来ない。
そうしてる間にも父はザクザク掘り進めて、ものの30秒程で大人一人がすっぽり入ってしまう程掘り進んでいる。
いや、もうザクザクと言うのは違う気がして来た。
プリンを掘っているかの感覚さえあるからして、その擬音語には疑問を感じたからだ。
掘ったプリンは木箱の中に入れている。
50センチ角程の木箱で、持ちやすい様に二箇所、横に細長くくり抜いてある。
木箱の中にプリン(岩?砂?)を入れ、スコップでザクザク、ペタペタやっている。
途中僕の方にやって来た。
父は汗一つかいていない。
「ちょっと、立て。」
僕は意味が分からなかったが、とりあえず父の言う事を聞いてみる。
すると父はスコップと僕を比べて、何かが分かった様だ。
「ありがとう。座っていいぞ。」
「あ、はい。」
僕の中では疑問で溢れかえっていたが、何も聞かなかった。
何をしているのかと。
何故何故何故と。
恐らく今回は聴くよりも完成した後、見て聞いた方がいいパターンだ。
ほぼ間違い無いと思う。
何かを人に聞くとき、その質問の内容によってその人の人間としての質が問われると僕は思っている。
一番やっちゃいけない事が、「何で?」「何で?」だ。
子供にも出来る。
僕が精神呪文と例えたように、相手をイラッとさせてしまう効果がある。
もちろん何故と思う事はいい事だ。
だが、「何で?」だけでは答えが無数にあり過ぎて、返答に困る。
全て答えていれば日が暮れてしまう事になるからだ。
それがイラッとさせてしまう原因なのだ。
今回は謎が多過ぎる。
まずその箱。
父が入れても入れてもいっぱいにならない。
フワフワのかき氷のように、父がザクペタする度に体積が減っている。
どういう原理なんだ??
聞きたくて仕方がない。
けど邪魔したくない。
近付き過ぎたら邪魔になるだろう。
そうならない程度、立って近付いて少し中を覗いてみてみたが、やはり分からない。
そうしてるうちに父の姿は見えなくなった。
穴だ。
洞窟だ。
あ、もしかして。
僕はピンと来た。
この部屋、父が掘ったんだな。
その奥も。
え。
スゲェ。
うん。
うん。
間違いないだろう。
あー、見れば見る程もう、よく分からない。
けど見ていて楽しい。
YouTubeとかでこの動画を配信したらとんでもない事になるなコレ。
かれこれ10分か。
父に動きが見えた。
「とりあえずこんなもんだろう。」
何ということでしょう。
さっきまで壁だった壁が、秘密基地みたいになってるではありませんか。
引き戸の入り口を入ると、すぐ右側に小さな階段が数段出来ている。
そして数段上がって左側の奥には畳2、3枚は入るような空間があり、覗き窓の様なものも掘ってある。
うん。
何か好きこの空間。
父の仕事を見れるように僕の居場所を父が拵えてくれたのだ。
驚いた事にプリンの様だと思っていた壁は、思いっきり硬かった。
意味が分からん。
こーれは・・・、力があれば出来ることでは無いと思う。
それ程綺麗にくり抜かれている。
アリシアの指パッチンの炎も驚いたけど、コレはトリックでは説明出来ない。
なんて言うのかな。
カルチャーショックってヤツか?
いや、もうショックを通り越して頭が機能停止している。
とりあえずすげーな。
剣と魔法の世界・・・か。
質問したくても、「何で?」の文字しか出てこない。
さっき自分で愚問だと言っておきながら。
こういう時は一回自分でやってみてから質問するのがベストだ。
プロ野球選手にどうやったらプロになれますか?
とかは、素人の言う事だ。
返事としては野球を好きになる事、とかの返事が来るだろう。
僕はそんな返事は求めていない。
聞くとしたら、練習メニューのランニング、筋トレの割合はどれくらいかとか、睡眠時間にこだわりはありますかとか、どの施設で、誰に教わるのがいいかとか。
より具体的に、簡単に答えられるような、なおかつ自分が興味のある事。
他にも色々あるが、コレらが僕の教わる身としての最低限の礼儀ある質問だと思っている。
ちなみに僕は教えるのは苦手だけど、教わるのは得意だ。
「入れるか?」
愚問だ。
父から聞かれたが、そりゃアンタが入れるんだから、俺は入れるに決まってるだろ。
一瞬思ったが、まぁ、入れって意味と転ばないでは入れるか心配って意味の混合語なんだろう。
これもツンデレの一種か?
僕は質問は控える事にしよう。
しかし会話のキャッチボールってヤツはせねばなるまいて。
今まで父のターンだった。
次は僕のターンだ。
「お父さん、凄い!」
父はいつもの様に胸を張っているが、今日の貼り方はいつもと違う気がする。
一見全く一緒なのだとは思うが、何かが違う気がするのだ。
「僕、お父さんみたいになりたい!」
僕はまだ3歳児だ。
まぁこんなもんだろう。
一応、僕は父を認めていますよという意味合いが含まれている。
人間関係において大事なのは、その人を認める事。
そしてその事を伝えることだ。
自分が認めて欲しいのなら、まず自分から認める事って事でもある。
父は少し笑顔になった。。
その手で頭をガシッと掴まれ髪をクシャクシャにされた。
そうしながらも、「そうかそうか。」と父が言っている気がした。
父が僕をクシャクシャした手は土埃で少し汚れていたのだが、初対面の時とは違い、嫌だとは思わなかった。
僕が・・・、父を父と認めれた証拠なのかもな。
「このくらいはドワーフなら大体誰にでも出来る。お父さん達はこういうのが得意なんだ。お前も学校行ってしっかり勉強すれば出来る様になるぞ。」
ほうほう。
この事に関しては質問出来そうだ。
「学校はいつから行くの?」
この質問は精神魔術ではない。
簡潔に答えれる筈だ。
「大体8歳過ぎてからだ。明食が終わった次の年に入学式だから・・・、リンはもうすぐ学校だな。」
父はサクサクと後片付けをしながら応えてくれた。
姉は来年から学校なのか。
今まで行っていた道場は習い事って感じなのかな。
結局このスペースを掘って出た土はこの箱の3杯分で収まった。
どういう原理なのか気になったが、コレを聞いたら仕事の邪魔になると思い聞かない事にした。
僕は快適スペースを満喫していた。
自由に出入り出来るというなら・・・。
ダメだ。
ベッドがないから硬くてやり辛いな。
ん。
あぁ、仕事の話をしよう。
父は鉄屑からロングソードを創るようだ。
折れた剣やフライパン、何かのパイプや一見するとただの土にしか見えないもの。
他には、針金や釘、黒い粉末や銀色の粉末、錆びた金属のインゴットやさっき掘った土も脇に置いてある。
実に興味深い。
前世での剣を作る工法は全く知らない訳だが、今この瞬間、僕の第二の人生が始った様な気がした。
作業はまず選別の作業から始める様だ。
折れた剣の先端の方は石の箱にそのまま入れた。
釘も針金もそのまま入れる。
折れた剣のもう片方は分解して金属と、そうでないものに分けると、また石の箱に金属の部分を放り投げた。
パイプは汚れているからして外側を掃除している。
そのまま石の箱へと入れるのかと思えば、一本のナイフを取り出した。
刃渡り200ミリ程だろうか。
短いナイフだが、幅が広く80ミリはあるのではないだろうか。
ナイフの側面には赤いドラゴンの紋様入っており、刀身は白い。
金属ではない?
すると父はパイプを片手に持ち、パイプの端からナイフで切り込みを入れた。
まるで竹を縦に半分に割る様だ。
パイプは金属ではないのか?
父が力を入れる仕草をする度ラゴンの紋様が少し赤く光る・・・。
綺麗な光だ。
縦に綺麗に裂いたパイプは、箱に入るサイズになるようサクサクと輪切りに・・・、いや、もう輪ではないから輪切りではないか。
何切りだ?
まぁいい。
パイプの中は比較的綺麗だったようだ。
掃除もそこそこにまた石の箱の中に入れた。
・・・あのナイフかっこ良過ぎる。
しかし父の用意してくれたこの場所からは父の作業がよく見える。
大人の目線よりも高い場所から覗ける様、父が掘ってくれたからだろう。
こういう細かい気遣いが出来る事でも父の仕事のレベルを測れるというものだ。
父の手元も見えるし、壁に掛かっている道具もよく見える。
全て手作りっぽい。
と言っても、この世界で大量生産されていそうな物は見たことが無い。
きっと大規模な工場とかも無いのだろう。
売っているものでさえ手作りなのだから、コレらが父の手作りなのかどうかは推測出来ない。
が、道具の一つ一つにこだわりは十分感じられる。
一見ハンマーに見えるものが20本は壁に立てかけられている。
かなりの本数だが、どれも微妙に形が違っていて、先が尖っているものから細いもの、太い物から丸いもの。
使い潰されて原型が見えないものも多い。
壁には棚も多く設置されている。
棚には異形の石が何種類も置かれている。
どれも何処かの一面が平坦だ。
おそらく砥石なのだろう。
これまた300ミリ以上あるデカくて丸い物から、50ミリ程の黒くて四角い物まで。
数にしたら10か15か。
隣の棚には麻袋が所狭しと詰め込まれている。
あれは何だ。
置いてある場所やすす汚れがあることから、普通に考えてあの麻袋の中身は炭だろう。
しかし棚ごとに色分けされている意味が分からない。
新しい物と古い物で分けてあるのだろうか。
それともあれ程の種類があるというのだろうか。
赤、黄、緑、黒、白に蛇の模様やら、ドラゴンの模様の入った棚の麻袋すらある。
もしかしたら炭じゃないのかもしれない。
だとしたら何だ。
まぁそのうち分かるだろう。
推理は無限に発展させることができる。
例えその推理が外れていたとしても、その推理を現実に出来ないかと模索することも出来る。
そしてその挑戦が失敗したとしても、それは成功なのである。
経験とは失敗であるからだ。
僕はそう思っている。
ガサゴソ、ガサゴソ。
「おい。何やってる。」
本当の失敗とは、失敗を恐れて何もしない事だ。
経験とは失敗の数であり、失敗から立ち上がった回数である。
そう・・・。
私は今怒られている。
気になり過ぎて麻袋の中を覗きに行ったのだ。
父の隙を突き、棚に登り麻袋に手が届こうかという頃、父から止められたのだ。
そうガミガミは怒られなかった。
一言ピシャリと言われて、約束をさせられた。
さっき掘った場所から出てはいけないと。
しかし見始めてからまだ5分位しか経っていないというのにもう怒られてしまった。
先が思いやられる。
しかし父の仕事は早いな。
鉄の分別を終えてもう薪に火を起こし終えている。
一つ謎が解けた。
あの色分けされている黒の棚の麻袋の正体は、やはり炭だった。
ちなみに黒の袋が一番多い。
・・・黒以外色は何だ?
炭の種類だろうか?
備長炭とかそんなヤツだろうか?
しかしこの種類の多さはなんだ。
そして真実がまた一つ明らかになった。
「お昼ご飯にしましょう。」
母の声だ。
もうそんな時間か。
まだ5分くらいしか経ってないと思ったが、もう既に日も高く登っている。
3時間は経過していただろう。
タイムトラベラーになった気分だ。
それほど集中していたのか、楽しかったのか。
そしてその後の昼食にて、僕は父に、質問攻めという精神魔術をかけてしまった。
どうやら僕は鍛治職に興味があるようだ。
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