第43話 ルカクの光とルクシスの闇 鍛冶屋での買い物
「おい、おいったらおい。ガキ。」
辺りは暗くなった頃、魔人ギガルタスは横に倒れている少年に話しかけた。
「・・・反応がねぇな。・・・ん?よく見ると悪くねぇガキだ。・・・死にそうだなおい。」
辺りは暗いが、月明かりが眩しい程で夜にしては明るかった。
「あ・・・あ・・・。」
「お?何だ?何が言いてぇ?」
「・・・み・・・水。」
「ミミズ!?おめぇそんなん食うのか?」
「・・・・水。」
「あ、分かった。それ知ってるぞ。水だろ?・・・これか?分かった。飲ませてやるからよ。・・・ほら、元気出せ。」
そう言うとギガルタスはルカクの髪を掴み持ち上げると、空いた口に何かを流し込んだ。
「飲むの手伝ってやるよ。」
「ん!!んーーー!!」
怪力でルカクをぐいぐいと傾ける姿はおもちゃで遊ぶ子供のようだ。
「お?うめぇか?」
「ゴホッ・・・ゴホ・・・。乱暴なんだな・・・。でも助かった。あ・・・ありがとう。」
「乱暴?そりゃオメェが弱えだけだ。」
「・・・確かにそうだな。君達からすればそうかもしれん。」
「所でよ。7日後ってのを探してんだがよ。オメェ知らねぇか?散々探し回ってるのによぉ、人にすら会わねぇ。オメェが頼りなんだわ。」
「7日後?・・・昼と夜を7回繰り返した後の事か?」
「昼と夜?」
「そうだ、暗くなったり明るくなったりするだろ?」
「そだな。ここは特に明るくてあんまり動けねぇんだ。それがどうしたんだ?」
「明るくなって暗くなる。この1セットを一日というんだ。明るくなって暗くなって、明るくなって暗くなれば二日後になる。」
「何?7日後って場所のことじゃなかったのか!?じゃぁ、ハル・・ハリ・・・あぁ・・・ハロル!!そうだハロルでずっと待っとりゃ良かったんか?あのやろぉ教えてくれりゃぁ良かったのによぉ。」
「迷惑な人も居たもんだなぁ。」
「だな!!アイツは悪いヤツだったって事か?アニキが言ってたぜ?お前はすぐ騙されるから俺の言う事聞いとけって。・・・オメェ、俺を騙す気か?」
「ハッハッハ。そんな事はしないさ。命の恩人だろ?・・・まぁ、ここでそのまま死ぬかもしれんがな。・・・ゴホッゴボッ。」
「ん?死にてぇなら手伝ってやろうか?何、礼は要らねぇよ。」
「ん?冗談のつもりか?その必要は無い。僕は今花を・・・あ!!」
ルカクは大岩のふもとに小さなサボテンがあった。
「ん?どうした?・・・あぁ・・・お前、名前なんて言うんだ?」
「あ・・・あぁ・・・花が・・・。・・・くっ!!」
そのちいさなサボテンには小さなかわいらしい小さな花が咲いていたのだ。
「おい、オメェの名前だよ。オレァな、ガルってんだ。」
「ぼ・・・僕の名前は・・・ルカク・ボルトだ。まだこんな小さな花しか見つけれない弱い男だよ。」
「オメェまだガキだろ?何決めつけてんだ?俺だったら諦めねぇけどなぁ。」
ルカクは体のわずかな水分を涙として流した。この花を彼女に渡したら喜んでくれるだろうか。・・・いや、こんな花しか見つからなかった僕を笑うだろう。
・・・それでもいい。僕は何としてでもこの花を彼女に届けたい。そう思った。
・・・が、僕には力が無い。
「・・・ガル。」
「おう、どうしたいきなり。」
ルカクには何故自分が話しかけたのかは分からなかった。が、少し考えたらすぐにその謎は解け、話しながら考えた。
「君はハロルには戻れるのかい?」
「あぁ、魔界通ってもいいけどよ。場所をちっと忘れちまったな。また探さねぇと帰れねぇな。」
「・・・そうか。君はハロルに帰りたいけど道が分からない。僕は道が分かるけど帰る体力と水と食料が無い。・・・どうだろう?2人で協力といかないか?」
「おお、オメェ天才か?そりゃぁ助かるぜ。何だ?オメェを抱えて走ればええのか?」
「そうだ。善は急げだ。今から出発するか?」
「おう、善は急げ?だな!じゃぁよ、オメェ俺の肩に乗れ。夜の内に行けるとこまで行くぞ。」
ルカクは急いでサボテンの花を土ごとカバンの中にそっと入れガルの肩に力無くよじ登った。
ルカクは自分の無力さを知った。外に出ればただ何も出来ず死に行くしか無いのだと。手に入れた成果と言えばこのサボテンの花だけだ。自分の父、ルクシス・ボルトには足元にも及ばないと・・・。
ルカクは2日後ハロルに到着し、無事保護される事となった。
ーーーー
トーナメント数日前。
コロシアムの傍観VIP席にて。
「おいルクシス。」
「ハッ。」
「お前らゴミの様な下等種族がこうやって生きてられるのは誰のおかげだ?」
「・・・貴方様、魔人族の方々の庇護があってこそです。」
「だよなぁ、なのに何でお前はそんなに偉そうなんだ?おかしいよなぁ、な?そう思うだろ?ルクシス。」
「お戯を。コレでも私一国の王であります故、示しを付けなければなりません。不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。」
統治者であり、魔人族幹部であるメトルは脚をテーブルの上で足を組み、王の席である一番の上座に座って悪態をついている。
「お戯だと?俺は常に不快なのだこのゴミくそ共。お前らは息を吸って吐くだけで罪なのだ。何かを食べ肥料に分解するしか能の無い。それ以外には余計な事ばかりして俺達が統治しなければ何が起きるかお前達は知っているのか。」
「・・・それは・・・。」
「ちっ、お前らに聞くのが間違っていた。・・・おい、そこの女。火を。」
「・・・はい。」
女はすぐさま詠唱を唱え、小さな火種をメトルの近くに寄せた。
メトルは白くて細長いキセルを取り出し火を付けた。
「フゥー・・・。いいだろう。なぁ、そう思うだろ?ルクシス。」
「・・・はい。そう思います。」
「お前の父で作ったものだ。汚い素材で使いにくかったが魔界で職人に作らせた。何、私達魔族はお前らから産まれお前らから学んだのだ。生き物を頂くとはそういう事だろう?お前らの髪、骨、皮膚や肉。正直捨てるところばかりで困っていた。だがお前達は生き物殺すなら余す所なく使わなければ失礼だと言う。だからお前の父を殺した後はなるべく有効にと思って作ったのだ。いかに下等とはいえ同族。あまり良いものではないな。・・・いいと思うのならお前にやる。何、礼は要らんぞ?」
「・・・クッ・・・はい。ありがたく・・・。」
ルクシスは脳ミソを何かで殴られた感覚に襲われたが、今は感情を殺している。吐き気を催す程度で済んだ。
ルクシスは今夜も寝れなさそうだと覚悟しまた会話に耳を傾けた。
「キセルの代わりにとは言わんが、さっきの女を貰おうか。歳の割にはいい目をしている。何、すぐには殺さん。安心しろ。」
「し・・・しかし、その娘は・・・。」
「娘は何だ?・・・なぁ女。俺はこんな場所に来て退屈なのだ。一応種としては天と地ほどの差があるが、お前たちから学び進化したのだ。一応我々と同種ではあるからな。いい女は抱いて悪い気もしない。そうだな・・・何ならお前も魔族になるか?ハッハッハ。」
「王様・・・私は・・・大丈夫・・・です。何なりと。」
「ほらなぁ見込んだ通りだ。ルクシス。そのキセル、大事にするんだぞ?」
「・・・・・・はい。メトル様。」
ルクシスは激しい吐き気に襲われた。しかし同時に誰かが言っていたのを思い出した。吐き気がするのは同族だからだと。それが牛や豚、鹿ならなんとも思わない。人間は本能的に差別する生き物なのだと。
目を背けたくなることの多い王という立場だが、今日がまさにそれだと体の中でうごめいた。
そして通過した。無力さを。
どれだけ気持ち悪かろうが、立ち向かわなければならない時があるのだと。
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今香ばしい香りを漂わせた出店や、やたら派手な格好をしたピエロ。踊り子の衣装を着た女の子達や頑丈そうな鎧に身を纏った戦士。ガヤガヤといつもより数倍の活気に纏われアリシアと一緒にお金を使おうという事になった。
「セレン君、今日はなーーんでも買っていいからね!」
何だこの天使は。彼女の天然物の笑顔は僕の心を締め付け、罪悪感と共に僕は正気に戻った。
あぶねぇ。落とされる所だった。
「何でもいいの?」
「え?あ・・・いやぁ・・・。」
「買える範囲までに決まってるでしょ?また変なこと考えてたでしょ。」
アリシアと僕の会話にニアが当然の様に入って来た。さすが僕の記憶をほぼ全て覗き込んだ女だ。きっと僕の考えていることは手に取るように分かるに違いない。
「あぁ、うん。変な事考えてた〜。」
「・・・子供っぽく振る舞うのも大変ね。」
「そうでもないよ。」
そんな会話もしながらも、露出の多い女性の肌に目を奪われながら、道中の見慣れぬ光景に目を耳を鼻を傾けた。
ちなみに裏路地には治安の悪い場所もあるらしい。そういう所は立ち入らない様に言われた。
「ん?」
「どうしたのセレン君。」
「いやぁ・・・このお店に寄ってもいい?」
「あぁ、お父さんのお仕事と似てるもんね。いいわよ。入りましょうか。」
アリシアとニア、セレンは活気溢れる中央通りから少し離れた店に入った。看板には少し蜘蛛の巣が張っている。
カランカラン
「・・・・クソッ。」
店主らしき人は居るのだが太々しく悪態を吐きながらこちらを睨んできた。
「ちょっ・・・。」
ニアがその店主に文句を言おうとしたその時セレンが止めた。セレンは表情を崩さずニアに目で訴えかけた。
彼女なら僕の考えている事が手に取るように分かるであろうを踏まえての行動だ。
「・・・もう。なんで?私達客なのよ!?」
「そだね。それならちゃんと客らしく商品を見ようよ。」
ニアは分かりやすく怒っているのだがそれもまたかわいいもんだ。
そして・・・この店の雰囲気は悪く無い。ただ、手入れが不届きで埃が目立つ。アリシアも興味あるのか無いのか分からない様な雰囲気だが、興味がある様に振る舞う努力をしている感じだ。
「コレ・・・なぁに?」
「あ?あぁ、そりゃぁ鉄屑だ。数日前だかに買い取ってそのまま置いてあんだ。銅貨100枚でいいぜ。」
「なっ・・・、こんな鉄屑が銅貨100枚もする訳無いわ。銀貨10枚よ?無い無い。ぼったくりの店よここ。」
「ふぅーん・・・。」
鉄屑の中はとても人1人では持てない様な量の鉄の塊やら錆びたナイフ。クワの先端や曲がったフォークなどが入っている。普通の人ならまず欲しがらないだろう。
セレンはふと他の商品にも目を向けた。お世辞ならギリギリ立派とも言える剣や盾、少しくたびれた革鎧などが置いてある。店の中は少し薄暗く、ガラスケースに入れてある宝石の入ったアクセサリーには輝けるほどの光は届いていない。
この店主はどうも商才が無いらしい。
それにまだイライラしながらこっちをチラチラしているのが気になるな。
「あんのヤツ、私達が何したってのよ。」
「さぁねぇ・・・コレは謎だわな。実に面白い。」
「全然面白くない。」
「あ。」
「ん?どうしたのアリシア。」
「コレ・・・多分リネイルさんが打った剣だ。」
「リネイル・・・あぁ、セレン君のお父さんだっけ?何でわかるの?」
「だってほら。ここにリネイルさんのサインが彫ってある。」
「あ、本当だ。ふぅ〜ん。・・・銀貨21枚か。結構いい値段するのね。ほぼ金貨一枚じゃない。」
「シアネェ。見せて〜。」
「ん?あぁ・・・あの・・・いいですか?」
「汚すんじゃねぇぞ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
その剣は比較的細身の剣ではあったが、大人3人が上に乗っても曲がりはしないであろう力強さを感じた。
刃渡りはそこまで長くはなく、
「もともと汚れてるっつーの!!何あの店主。いちいちいちいち・・・。」
「ニア?」
「あー、はいはい。大人しくしときますよーだ。」
「・・・。」
見せてといいつつ父の打ったであろう剣も気になるのだが、僕はまたさっきの鉄屑入れの中が気になった。どうも鉄の色が若干違うのが見えたからだ。胴が錆びたら青く錆びるらしいがそんな感じではない。
どんな金属だ?
僕はその金属の一片を持ってその店主の元に歩み寄った。
「コレ、何で青いの?」
「あ?そりゃぁ最下級のオリオン屑だ。」
「オリオン?」
「あ?しらねぇのか?」
僕は声を出さずに店主に返事をした。
「ちぃ・・・そんなの欲しがるヤツは誰もいねぇ。魔力も通らねぇ、加工も出来ねぇ熱を入れると直ぐにボロボロになって灰になる。ハッハッハ。ゴミだそんなもん。・・・チィ。いや何でもねぇ。欲しいなら安くしといてやるぜ?」
「へぇ・・・。」
何故その様なゴミを売買しているのかは謎だが、いかんせんこの見慣れない金属に興味がある。以前は金属は見た目だけではそこまで詳しい情報は得られなかったのだが。この体になってからは土絡み・・・金属もその延長だ。見て触れてすれば大体の特徴を把握できる様になった。コレもまた穴を掘り続けた影響なのか。
そして極識眼と関係があるのか無いのか・・・。
「あぁ、まぁ簡単に言うと使い捨てオリハルコンの残りっカスだ。」
「使い捨ての?」
「もういいだろう。何も買わないのなら出て行ってくれねぇか。オレァ忙しいんだ。」
「いや・・・買う。その剣と屑鉄。あとは・・・砥石も。金貨一枚でどう?」
「んなっ・・・チッ・・・。おめぇな、どんな育ち方すりゃそんな平然と嘘つけるんだよ。あんたら嬢ちゃんもしっかり教えてやらねぇといけねぇぜ?」
「・・・。」
「・・・はぁ?」
「で・・・売ってくれるの?」
「は・・・はぁ・・・。」
あれから店主と少し話した。売り上げが上がる目処が立った事で機嫌も良くなった店主によると、今日はせっかくの祭りだってのに店番を嫁と2人の娘に押し付けられ、挙げ句の果てに店主は店に誰も客が来ない事に賭けていたそうだ。それが僕達が来た事により外れたとあってイライラしてたのだとか。
「いやぁ、すまねぇすまねぇ。どうもうちの嫁とのいざこざがあってよぉ。冷やかしだと思って八つ当たりしてしまった。面目ねぇ。」
「ねぇ、本当に買うの?」
「え?ダメ?」
「確かになんでも良いとは言ったし、コーガから受け取った金貨が3枚・・・2枚はセレンくんに使っていいとは思うけど・・・。」
「ほなら決まりだね。持ち運びだけど・・・。」
「ちょっと待った。納得いかないわ。こんな古ボケた店・・・。」
「ニア!!!」
「!!!」
「やめとこう。・・・でおじさん。さっきの剣見せて・・・ありがとう。ニア・・・持ってみて。」
「・・・何よ。」
「いいから。」
「普通の・・・剣ね。デザインもパッとしないし。」
「一回僕が持つよ?」
するとセレンは両手で剣を持つと、大きく息を吐き息を吸い止めてニアに片手でその剣を返した。
「え?軽くなった!!」
「んなぁ・・・土系魔術の一種だな。知らねぇのかお嬢さん。」
「・・・え?いやぁ・・・。でもほら、持ってみなよ。アリシア。」
「あ・・・うん。・・・え?凄く軽い!!ほら店主さんも」
「お・・・おう。」
「それで・・・そのまま待っててね。」
セレンは店主が鞘の刀身の部分を持っているままに柄に触れまた少し大きく息を吐きまた魔力を込めた。
「ずっと穴を掘ってて気が付いたんだ。マナの濃度によって物の重さを少し変えれるんだ。」
「おお、本当だ。重くなった。おーおー、さっきよりも相当重いぞ。やるなぁボウズ。そりゃー質量操って言って簡易魔術だな。ウチのおやっさんも重い荷物を運ぶ時重宝してたやっつだ。」
「・・・。」
セレンは思った。僕にはヤバい才能があるんだと思っていた自分を殴りたいと。さっきのどや顔を返してくれと。誤魔化せ・・・誤魔化すんだセレンと言い聞かせると共に、本当にこの魔術が簡易魔術なのかとも疑問に思った。
「いやでもすごいよセレン君。この歳で出来るってなかなか聞いたことないわよ?お父さんも喜んでくれると思うわ!」
アリシアがフォローしてくれたのだが、そのフォローもアリシア基準の思考でしてくれたようで歯痒い。なぁにいいさ。この魔術の皆の認識を書き換えればいいだけの話。未来は変えれるのだ。
「多分この剣は他の剣よりも軽くできる。練習にちょうどいいと思ってね。あと・・・まぁ・・・他にも理由はあるけど。」
コレで何とか誤魔化せたはずだとセレンは思った。が、アリシアは普通に誤魔化せなかったし、ニアにも後々バレる事になるのだが、それはまた別の話。




