第41話 苦手な自己紹介と眷属
「へぇ、ここにも同じような施設後があったんだね。」
「セレン君・・・あ。セレン・・・さん?」
「あぁ、セレンでいいよ。好きにして。」
「うん、分かった。・・・で・・・セレン、よく見つけたね。」
「あぁ、違うの。コレ僕が掘ったんだ。階段状に彫っていくのがポイントね!」
入口とは別に、大空洞の建設中であろう状態を指しセレンが言った。
「ハハ、どの辺からセレンが掘ったの?まだ途中っぽいからね。ある程度は形になればいいね。」
ココはセレンが招待した場所で、説明によれば秘密基地らしい。かなり狭い岩の間の通路を抜け、岩の下の穴の地下深くを螺旋階段で下ると開けた場所に出たのだ。どうも明食で皆が避難する時に入る地下と似たような場所なのだが、どうも建設途中のようだ。
「ここにもあったんだね。確かに秘密基地にはうってつけかも。入口も相当分かりにくい所だったし。」
「あれはね、お父さんの地下室の裏口を真似て作ったんだ。秘密基地だからね。汚れない工夫とかもしてあるんだよ。」
「ん?あぁ、リネイルもこんな感じで地下掘ってたのね。」
「そだね。あぁ、アリシア、光の魔法?ありがとね。凄い便利。」
「あぁ、コレね。ちょっと練習すれば大体誰でも出来るわ。この種類の花を摘んで、根本からからマナを流し込むの。大体コレで2時間は維持できるわ。」
「へぇー、いつか教えてもらおうかな。」
「そうね、いつでもいいわよ。・・・そのさ、セレンはどうやって穴掘ってたの?暗くなかった?」
「あぁ大変だったよ。だからさ、暗闇に目を慣らすのと同じ様な原理でどうにかならないかなとか思って。微精霊と話して色々やってたら周りの空間を土絡みならある程度把握出来るようになったんだ。掘るに連れて精度も上がって来てね、今ではその地面が硬いか柔いか、含まれてる金属の種類とかならある程度把握出来てる。」
「あぁ、確かドワーフの特性ってヤツよね確か。」
「あぁ・・・特殊能力とかじゃなくて・・・そうだね。多分それだと思う。何か本能レベルで分かるっていうか・・・ね。だよね・・・。」
「・・・お前、ここ全部1から掘ったのか?」
「!!そだね。結構凄い事になったなぁとは思ったけど・・・あと2000時間くらいかかればある程度形になると思う。でも・・・あれだよね。これくらいドワーフなら誰にでも出来るかな?やろうと思えば・・・ね?」
「・・・え?いや・・・スゴ・・・え?いつ掘ってたの!?全然気が付かなかった!」
「夜中だよニア。ニアが来てない時暇だったし。スコップだと音がうるさくてね、修行も兼ねて手で・・・こうやってね。土汚れは精霊に手伝って貰えばすぐに綺麗になる。まぁ・・・誰にでも出来るとは思うけど・・・。」
「・・・。」
半ば冗談の様な雰囲気を出しつつ、他の3人は間に受けていいのかどうかを判断しかねていた。
「将来的にはここで特訓とか、本格的な居住区とか、ヤバイ時の避難所としても使えそうだよね。途中で水が溢れて来て死にかけたけどさ、まぁ、運良く悪くも実家の事を思い出して他の水脈と繋げて水路も作れた。あとは温泉とかも欲しいよね。」
「水路があるの?」
ニアが土壁をコンコン叩きながら聞いて来た。
「まぁ、ただ水が流れてるだけだけど。」
「へ・・・へぇ・・・。」
「この辺の地盤はそんなに固くないから天井と柱は圧縮して固めてある。流石にこの量をやれば嫌でも出来るようになったかな。」
するとセレンはおもむろに掌を上手をスッと出すと、土の塊を出現させた。
出現させた土を反対の左手で押し込む様な動作をすると土の堆積が減り、ボコボコと凹みながらサッカーボール程だった土の塊は野球ボール程の大きさまで圧縮された。
更にクルクルと回転させ形を整え、ほぼ真円の高高度な土団子を完成させた。
それをコーガにひょいと投げるとセレンは言葉を続けた。
「こんな感じで。遊んでたら出来たんだ。天井とか柱とかはそんな感じで固めてある。」
「・・・。やるよ。」
コーガは黙ってセレンから受け取ると、コーガはそのままアリシアにヒョイと投げた。
「あ・・・っと、って・・・重っ!!何これ、鉄?いや・・・それより重い。ニアも・・・ほら!」
「まぁ大体分かった。で、お前はコレからどうするんだ?」
コーガが鋭い目つきでセレンに問いただした。アリシアの光の光源がコーガに当たり、影を落とす。
「コレからか・・・。ついさっき状況が変わったばっかりだから・・・、気になってる事は幾つかあるけど。あぁ、ニア。それ、その辺に捨てといて。」
「は・・・はーい。」
「んー、そうだね。その前に僕の自己紹介をしないとかなって思う。その辺が苦手だからここに連れてきたってのもある。」
「本当に・・・ここセレンが作ったのよね?」
「まぁ・・・そだね。階最初は慣れなかったから階段で3ヶ月かかった。ここに来てから約11ヶ月で掘り始めたのが2ヶ月後とかだったから、9ヶ月間。1日大体4時間はやってるから・・・大体1000時間かかってる。」
「1000時間・・・。」
三人は当たりを見渡したが、やはり疑いの目は残っている様だ。
「楽しかったからね。実際こういうのが好きなドワーフなら誰にでも出来ると思うよ?要はやるかやらないかの違いだと思う。あとね・・・そのせいでか精霊とも仲良くなった。」
セレンは先程土の塊を出した時のように掌を上にし、淡い光を出す精霊を呼び出し具現化した。
「はっ・・・マジかよ。」
「うっそ・・・でしょ!?」
「・・・ッ、セレン・・・、どうやってコレを?」
呼び出された精霊は小さな人の形をしつつ、4枚の光る羽が付いていた。
「まぁ、誰かを驚かせたくて黙ってたのはあるけど・・・。恥ずかしいね。」
「・・・うん、分かったから、だからどうやって精霊を現出させる事が出来たの?・・・えっとね、シリル覚えてる?あの最初の授業でお婆ちゃんの格好してた私達の友達。」
「あぁ。覚えてるけど。」
「あの子が一応精霊化出来てるわ。精霊を何かに憑依させて一時的に生命として現世で活動出来るようにする魔術よ。私たちの世代ではあと・・・、飛び級組のリーダーが武器に宿らせて戦ってるらしいわ。ほんの光だけ漂わせる位なら成人迎えた人なら大体は出来るけど・・・。そのレベルなら相当な量の鍛錬と対話が必要なハズよ?」
「あぁ、あのコーガの看病してた時に来た人ね。対話かぁ・・・。なる程ね。」
「チッ・・・、お前、やはり何者だ?辻褄が合わねぇ。精霊の現出もこんな馬鹿げた広さの空間も、例え脳みそが大人だからと言って出来るもんじゃねぇ。極識眼だってそうだ。・・・、お前は危険だ。今ならまだ勝てるだろうよ。四肢を切り裂いて首を落とし、それぞれ離れた場所で封印すれば・・・。」
「ちょっと待ってよコーガ。」
「俺にはコインの行く末を見守る義務がある。・・・俺にはもうコレしかないんだ・・・。」
荒ぶるコーガにニアが止めに入るが、コーガも戸惑いながらも剣に手を掛けている。
「・・・、ニア、アリシア。この世界にふさわしくないと彼ががそう思うなら、僕はコーガに身を委ねるよ。」
「セレン!!」
ニアはセレンのその言葉に反射的に答えたが、アリシアは苦悶の表情だ。
「それにさっき、僕はコーガにコインの存在を知らされた。・・・コインを譲渡した事でカラエルさんは死んだんでしょ?」
「・・・なぜそう思う。」
「そうとしか考えられない。カラエルさんはホルダーとして不老不死だった。更にはあの見た目・・・、その状態で不老不死になれば、コインを消失した時に寿命が尽きるのだとは思うけど、僕に渡して直ぐにはカラエルさんはピンピンしてた。不老不死でなくなったカラエルさんの寿命が追い付いたのか、不老不死の反動が徐々に来たのか、それとも誰かの手で・・・、どちらにせよ僕が殺した様なもんだ。」
「じゃぁお前は死にたいって事でいいんだな?」
「君達の選択がその結果なら僕は受け入れる。けど、僕は死ねない理由があると思うが。感情を抑えるんだコーガ。冷静に考えろ。」
「・・・クッ。」
「僕を脅威だと思って警戒しているのだと思うけど、それは光栄な事だ。僕は君が認めてくれたのだとして嬉しい。けどね、コーガ以上に僕を評価してくれた人が居るんだ。僕はその人の為にも意志を受け継がなければならないと思っている。」
「あ?誰だよ。ニアか?アリシアか?それともお父様お母様ってか?」
「茶化すなコーガ。カラエルにお前の未熟さが見抜かれているって事が今ので良く分かった。」
「何・・・だと!?・・・くっ、適当なこと言いやがって。いくらコインホルダーだからってな、死ぬより恐ろしい目にだって合わせられるんだぞ。」
「それがお前の答えか?」
「・・・。」
「それがお前の答えかと聞いている!!」
今まで感情を表に出さなかったセレンが、信じられない程の大きな声で怒りをあらわにした。
かと思うとまた穏やかな声に戻り語りかけた。
「今は動揺して冷静を欠いているだけだ。お前なら時間も掛からず克服出来る。俺よりも相応しいと思えばこのコイン、お前に譲渡するべき時が来る。俺みたいな部外者ではなく、お前が手にするべき物だ。」
「あ・・・。」
「なのにカラエルさんは、コインは・・・僕を選んだ。僕はこの話を聞いた時、コーガ、お前に再譲渡する事をすぐさま考えた。・・・。」
「・・・すまねぇ。精進・・・する。だがよ!!俺も一生懸命やってんだ。お前の・・・何倍も頑張ってんだよ。なのに・・・、なのにカラエルは全然俺の事を認めてくれてねぇ。お前だってそうだ。お前も・・・お前も・・・。」
「皆、コーガの事は認めている。お前がそう思い込んでいるだけだ。」
「そ・・・そうよ?クラスでもトップの成績じゃない。」
ニアがフォローに入ったのだが、コーガは意に解さなかった。
「俺には分かんだよ。何処かでバカにされてるってな。どいつもこいつもクソばっかりだ。全員ぶっ殺してやろうかって思う日なんてザラだ。お前らには無いって言うのか・・・。お前ら・・・には・・・。」
コーガは剣から手を離し、全身で自分の主張を訴えかけた。
「己を知れコーガ。世界がどうであろうと構いやしない。世界を知る過程で己を知るんだ。世界の知識など、己を知る過程の副産物でしかない。」
「・・・。」
「世界の全てを知っていたとしても、自分を知らなければ何も出来んだろう。僕みたいな社会不適合者でも、いや、だからこそ今がある。」
「何を!!お前など、ただの特殊能力に恵まれていただけだろう、ホルダーだってそうだ。その精霊だって・・・。」
「・・・本当にそう思っているのか?異転者として俺がニアと共にどれだけの葛藤に苛まれ涙してきたか知らないだろう。俺の精霊は土の微精霊。取るに足らないありきたりな精霊ではないのか。ホルダー・・・、俺が不老不死を望んでいるとでも?」
「・・・違うのか?」
「違う。不老不死とは、ゴールの無い迷路を彷徨っているような物だ。カラエルが僕にコインを託した理由も分かる。彷徨っていたカラエルが、俺をゴールとして評価した結果だ。カラエルは自分の死が救いだった筈だ。・・・そうでなければならない。」
「お前が居なければジジぃは死ななかった!!」
「だから何だ。」
「何だだと!?仲間が死んで悲しまないヤツなど居ない。居るとしたらそれは悪魔だ。やはりお前は悪魔の類か。」
「・・・悪魔か。では何か?誰も死なない世界が、皆全て不老不死の世界がお前の理想だと言うのか。」
「そうじゃない。」
「だったら何だ、お前の考えを聞かせてくれ。」
「俺はただ・・・、恩・・・恩を返し切れてないんだ・・・。」
先程とは少し変わって、コーガに力強さが無くなった気がする。
「・・・お前はまだ子供だ。親になったら分かる。子に恩返しを望むのならそれこそ悪魔だ。違うか?」
「意味の分からない事を!!俺はあいつに拾われて、あいつに育てられた。恩を返したいのは当然の流れだ。」
「だったら今から返せばいい。」
「死んでるんだぞ。出来るわけがない。」
「・・・カラエルの望みは何だ?」
「・・・知るか。」
「・・・。」
「ちょっ・・・2人共、その辺にしといたら?」
「黙ってて。お願い。」
ニアが止めに入った。ニアは昔から協調を重んじる節がある。優しい子だとセレンは毎度思う。
「ニア、大丈夫。コーガは悪くない。とてもいい事を言ってるのは事実だ。けど、その上で話をしたい。ニアとアリシアにも・・・。」
「・・・。」
「カラエルの望みは何だと言う問いの前に・・・そうだな。この石は何故ここにあると思う?」
「・・・は?」
セレンはあまり間を開けずに続けた。
「僕はちょっと頭が悪いんだ。正確に言うと、人を本当の意味で信じていない。だから僕は前の世界では授業を理解出来なかったし、理解しようとも思わななった。自分がコントロールされるのを嫌い、誰の教えにも染まりたくはなかった。自分から教えを請うのは良くやったが、逆は無かった。」
アリシア、コーガ、ニアはセレンの話に戸惑いながらも耳を傾けた。
「僕は僕の正義を貫き、そして世界から逸脱したと思う。まぁ社会的には誤魔化しながら上手いことやれてはいたとは思うけども、根本的に僕は人よりズレてた。何故なら僕は全てを1から考えるから。この石は何故ここにあるのだろうってね。」
「石?」
「石じゃなくてもいい。何故ここに木が生えているのだろうでもいい。何故この人が教師になったのかでもいいし、何故この人は僕を育てているのだろうでもいい。答えが正しい必要も無いんだ。大事なのは自分を納得させれるかどうか。自分の正しき道に当てはめられかどうか。」
コーガはセレンに対する警戒を解きながら耳を傾けた。
アリシアとニアも疑問を浮かべながらも聞いている。
「僕は小さい時からその事だけを考えて来た。壁にある染みや、平べったい石。派手な色の服や、捨てられているゴミ。空を飛ぶ鳥の人生や、のたれ死んだ犬の人生とかも振り返った。答えが正しい必要は無い。僕は皆全ての物語を紡いだんだ。・・・物心ついた時だから、丁度今の俺・・・4か5歳くらいからだろう。記憶が途切れたのが34とかだから・・・およそ30年。俺は大体ぼーっとしてたんだが、そんな事ばっかり考えてた。1日8時間かそこらだろう。平均を少なく見積もって5時間。それを365日、30年。」
「どういう?・・・そんなに?」
「コレは僕の狂気だ。自覚している。常に思考を巡らせ直ぐに頭が痛くなるんだが、その度に糖を補給し更に思考を巡らせた。計算すると訳5万時間。結果僕は経験値として何かを見る目を得たみたいだけど、コーガがそれを特殊能力なのだと言ってくれるのなら僕はそれを否定しない。それに僕はただの頭のおかしい逸脱者だ。ただその逸脱を自分の物にするべくまた思考を巡らせ今に至る。さっきコーガに自分を知るべきだと言ったのも、僕のその経験から来ている。」
「・・・分かった・・・。・・・分かった。」
「何か凄いセレンっぽいね。確かに色々考えてるなって思ってたけど、そんな感じで考えてたんだね。・・・私も正直よく分からないけど・・・、コーガ、どうするの?」
「・・・、カラエルと話す時、カラエルはお前と同じ様なことをよく話した。物事の可能性を模索しろってな。やがてその思考がマナと大地を通じて世界樹と繋がり、お前の目に全てを宿らせる・・・。耳にタコが出来るほど言われた言葉だ。」
「その目が極識眼の正体って訳ね。・・・世界樹か・・・。」
アリシアもまた思考を巡らせているようだ。
「なる程ね。確かにマナの使い方を覚え始めてからは色々と調子がいい。精霊を現世に出せるようになったのもそのお陰でだろうな。何回失敗したか分からんけど。」
「・・・分かった。・・・俺は未熟者だ・・・。認めよう。・・・クソッ。」
「僕はコーガを一人前として認めている。だからこそだ。黙っていたら何か教えて貰えるとは思うなよ。」
「・・・あぁ。それで頼む。」
「まぁ、僕も全然未熟なんだけどね。偉そうな事を言ったけど、コーガはコーガで自分だけの道がある筈だ。そもそも僕もコーガの正しい道なんて分からない。」
「・・・もうその話はいいだろう。」
「・・・分かった。」
「・・・。思い付きなんだがよ・・・。」
「・・・ん?」
「・・・俺を従属にする気はねぇか?」
「え?嫌だよ。」
「ハッ・・・。」
「何言ってるのコーガ。セレンくんはまだ4歳よ??」
「だから何だ。」
「だからって・・・。」
「カラエルは命を張ってまでコイツに賭けたんだ・・・。ニア・・・お前がソレを言うなら爺さんを否定してるって事になるんだぜ?」
「それはそうかもしれないけど・・・。いや、そうじゃなくてね・・・。」
「・・・分かった。俺にも考えがある。セレン。・・・あんた・・・自分の剣にマナを込めれるか?」
「ん?あの牙のナイフなら込めれるよ。」
「何も言わずにそのナイフにマナを込めてくれないか?」
セレンは何も考えずにナイフを抜きマナを込めた。
さも当然出来るように振る舞っては居るが、この前やっと出来るようになったばかりなのは勿論内緒だ。
そしてそのナイフをコーガに見せたら渡せと目で合図されたのでそのままコーガに剣を逆さにして、刀身を掴みコーガに差し出した。
「ありがとよ。・・・でなぁ。」
コーガは一息付き、セレンのナイフを手に取ると背筋を伸ばしセレンの前にひざまづいた。
「俺はカラエルの爺さんから色々教わっててなぁ。お前らよりかは少しばかり物知りな部分もあると思う。」
「・・・え?どうしたのコーガ。」
「その中の一つだ・・・。Sの名の付く星付きの極識眼の持ちには・・・。国から2人以上の眷属を付けられるように命じられるんだ。眷属ってのはなぁ、主人のマナの籠った武器で眷属の体に傷を付け、その流れで主人に同じ傷を付ければ準備完了だ。」
「・・・え?あんたまさか・・・。」
「いや、コレは正式じゃねぇ、俺の勝手な遊びだ。生半可な気持ちでここに来た俺が俺を許せねぇからやるんだ。気にするな・・・。」
するとコーガは徐に躊躇いもなく右手で力強く左腕の肘の付け根から甲に掛けて、この世界の文字でSEと刻んだ。
その傷口からはどくどくと血が溢れ出し、もはや刻んだ文字は見えない。
「ちょっとアンタ!!また・・・。」
アリシアは反射的にコーガを止めようとしたが、思う所があったのかそれ以上は言わなかった。
「もういいやめろコーガ。それ以上は意味が無い。」
「・・・。」
「俺はどうすればいい?」
「・・・俺はアンタが見る景色が見てみたい。」
「・・・。」
「アンタが何を望んで何を為すのか・・・。特等席で見てぇんだ。」
「くだらない事かもよ?僕は君を助けてあげれないよ?」
「そんなのはどうだっていい。大事なのはアンタにとって俺が使えるかどうか・・・だ。そして悪いがアンタの眷属になってどれだけ俺が動けるかは正直・・・正直まだ自信がねぇ・・・。だがよ。確信とまではいかねぇがよ。この腕にアンタの名前を書いても痛くねぇんだ。」
「嘘でしょ?感覚が・・・?」
「チッ・・・痛いに決まってんだろ。それよりもアンタについて行きたいってワクワクの方が勝ってるって言ってんだ。頼む・・・セレン。アンタの右腕として・・・この左腕に掛けて・・・。」
「分かった。分かった分かったから。アリシア・・・止血とか出来る?傷は完全に直しちゃダメなのよね。」
「大丈夫。この傷を跡形も無く消せるのは過去回帰魔法くらいよ。」
「それじゃぁ・・・。」
「俺もいつかは腹を括らなきゃとは思ってたんだ。いい機会だ。」
「ちょっと待って?あのさ、眷属と嫁ってどっちが上なの?」
「あ?」
「あじゃないわよ。オイ、コーガ。割り込みしやがって。アンタが最後に来たんだから3番目よ?分かってる?」
「あぁ、分かってるさ。でも眷属になったのは俺が1番最初だ。」
「まだなってないわよ!!!セレンの腕には傷一つもないわ!!アリシアもそう思うでしょ!?」
そんなこんなでセレンにコーガとニア。2人の眷属が出来た。アリシアはコーガの手当がまた大変になったのと、ニアとセレンの傷も心配だという事で眷属がどうのという話どころではなかった。
後日3人の腕の傷跡が消え、入れ墨の様な跡が残った。コーガ、ニアの腕には黒く、セレンの腕には赤く残った。
なんちゃってのつもりだった儀式が正式なものとして扱われた証拠。眷属の契りが結ばれた証として主人と眷属の精霊が共鳴し、刻印として体に刻み込まれたというのだ。
朝起きてこの入れ墨を見たニアは目を輝かせ、コーガは覚悟を決め、セレンはため息をついた。
「さて・・・やるか。」
そう言いながらセレンは天井を見上げた。




