第38話 ガルの親切と魚の骨
丁度リンと別れ、ルカクが花を探しに行った頃、人気のないゴミ置き場の隣にある小さな門の前に居る門番に、大きな影が忍び寄った。
「オメェよ。ココはやっぱりハロルでいいんだよな?」
無精髭に10年は髪を切っていないであろう白髪混じりの長髪。10日は体を拭いてすらいないような、汚くぐったりした老兵にその影は話しかけた。
「んだべ?ハロルで合っとるっちゃが?どうしたんべな?」
「それがよぉ、アニキが来てくれる予定なんだがよ。来ねぇんだ。オメェ何かしらねぇか?」
「そりゃオメェかわいそうな事になってしもたなや。ほれ、飴ちゃんいるかや?すまねぇな・・・俺っちには分からねぇだわ。」
「そうか・・・そりゃ仕方ねぇな。お、すまねぇ。オメェ優しいんだな。オレはオメェを絶対殺さねぇよ。」
「物騒だなオイ。でもありがとよ。けどなぁ、わしゃオメェじゃねぇ。コロリってんだ。代々この城で門番やっとるでな。オメェの甲冑程じゃねぇが、この立派なアーマープレーツに誇りを持っておる。・・・うぃ〜。」
コロリと名乗る老人は傷だらけのアーマープレートに向かって拳を突き立てた。
コロリは片手に酒瓶を持ち、つまみに飴玉を口の中で転がしている。
「オメェ、デケェ図体だな。この門入れっか?」
「オリャぁな、ガルってんだ。オメェじゃねぇ。どうだろな。いざとなったら壊しゃぁいい。」
「そりゃオメェ・・・あぁ・・・ガル、オメェダメだぁ〜?」
「んぁ?何でダメなんだよ。」
「そりゃオメェ・・・あぁ、ガルオメェ、修理が大変だからに決まっとるっちゃが?」
「そりゃ大変だな。そりゃダメだ。」
「んでオメェ、何しに来たんだ?こんな誰も通らねぇ非常門によ?」
「ん?だからよぉ、オレァオメェじゃねぇ。ガルってんだ。そりゃオメェ暴れに来たに決まってんだろうがよ!思いっきりなぁ!!」
「するってぇと、トーナメントに出場するって事だなぁ!!そりゃそんなデカい図体ならいい所まで行くだろうよ。頑張んなガルさんや。応援しとるでな!!」
「おう、ありがとよぉ!!・・・ん?トーナメント?そこで暴れればいいのか?どうもアニキが居ないとよく分らねぇんだ。」
「ほう、それなら7日後だな。予選は早朝から始まるから遅れねぇ様にしねぇとな!ガル!!しかしオメェでエラく稼げそうだ。何か分からない事があればこの・・・ヒック。このコロリ様に聞いて構わねぇよ。」
「そりゃ助かるぜコロリ様。・・・しかしこの飴もうめぇな。お前さては天才だな?」
魔人ギガルタスはバリバリと飴玉を噛み砕きながら答えた。
「はっはっは。バレてしまっては仕方がねぇ。我こそはこの城都ハロル始まって以来の槍使い・・・一点一閃のコロリ様とは俺の事よ!!」
「ホォォォ!!カッコいいじゃねぇか!!一点一線のコロリ様!!オォーオメェ、つええのか!!」
「そりゃ〜つええのなんの・・・ちぃ言うときたいがの。昔の話やぁ。ほれ見ろ。今じゃ右脚も無くなってしもて何も出来ん。それとあと40歳若けりゃ今の餓鬼共にも遅れはとらんのだががにゃや。」
「はぁぁぁ・・・、確かによく見りゃ・・・。」
「ワシが若けりゃぁな、オメェも一捻りだったんじゃがの。すまんな。まぁワシの居ないトーナメントで勝ち上がってくれや。」
「ほぉ・・・。」
・・・ギガルタスの目つきが変わった。
「ガルやオメェ。怖い顔してどうしたんだべな。」
「おい、コレやる。コレとコレも・・・。」
ギガルタスは青紫色の液体の入った小瓶を2つと、赤紫色の液体の入った小瓶2つ。大きな葉っぱを丸めた物をコロリに渡した。
「オ・・・、ガルオメェ、こりゃ何だや?ええのんか?」
「俺もよく解らねぇんだけどよ。巻き戻すホウシンヤク?と、世界の上の葉っぱらしい。アニキが俺に大事にしろって何年か何十年か前にくれたんだがよ。要らねぇんだわ。ん、んん?ちょっと待てよ?確かコレをこうややって・・・。」
ギガルタスは思いのほか器用に大きな水々しく丸まった葉っぱを開き、コロリの右脚に手をかけた。
あまりにも自然な流れでコロリも何の警戒も無かった。
「ちょっとちぎるぞ。」
「お?」
ギガルタスはそう言うと、流れるように作業に移った。
馬鹿でかいゴツゴツした爪を立て、そしてコロリの途切れた右脚の先端を千切った。綺麗な花を見つけて、咄嗟に摘み取ったかの様に、切れた脚の先端を骨ごとブチリボキリと千切っのだ。10センチ程切れ折れしたコロリの右脚の肉片を隣のゴミ箱にポイと捨て次の作業に移った。
「あぁぁぁぁ!!!がぁぁぁ!!!ちゃがてっちぐまちゃがってオメェ!!!ぁぁぁ!!」
「ちといてぇが我慢しろや。」
千切られた脚からはドクドクと血が溢れている。
ギガルタスは溢れる血止めるかのように大きな葉っぱを脚に巻き付けた。
「何かねぇかなぁ・・・。あ、コレでええな。よっと。」
ギガルタスはコロリの髪を鷲掴みにすると、勢いよく束ごとむしり取った。
「ぐぁぁ!!!あ・・・あ・・・。何しちゃかたらがくるぁなんが!!!」
「あ、きったねぇな。まぁいいか。」
ギガルタスの引き抜いた髪の毛には血が大量に付いていた。というより頭皮ごとはがれている部分も多々ある。
その引き抜いた髪でさっきの巻き付けた葉っぱを髪でグルグル巻きにし固定した。
「よし、完璧だな。あとは・・・。」
ギガルタスは間髪入れずに先程出した小瓶のコルクを器用にポンと引き抜き、コロリの口に入れようとした。
「アガガァァ!!」
半分程は口に入ったが、半分程は溢れてしまった。
「オイオイ頼むぜ。こぼれちまったじゃねぇか。・・・ま、いいか。ほら、次だ。飲め!飲み込め!!」
溢れた液体は地面に落ちた。
するとその漏れた液体に触れた雑草がモゾモゾと揺れたかと思うと、グン、グングンとギガルタスの背丈ほどまで成長した。
「あぁ、ほらやっちまった。・・・邪魔クセェ。」
大きな手で生い茂る雑草をむしり取ると、今度はゴミ箱とは反対方向にポイと捨てた。それでもその周辺の雑草は生い茂り続けた。
「よしゃ、飲めたな。うん、あと一本いっとけ。」
「あ・・・あ・・・!!!」
「おお、了解了解。コレで・・・最後だ。ほら、飲め。」
「んー!!んーーー!!!」
ギガルタスは優しく優しくコロリの口を閉じて押さえた。そしてちゃんと飲めたか心配になり、コルクを優しく優しく持ち上げ上に下に、斜めにしては振ったりしてコルクが飲むのを助けた。
「おい、大丈夫か?」
「・・・くぁ・・・、ゴホッ、ゴホッ!」
「後はそうだな、コレで埋めてやれば多分大丈夫だ。」
するとまたすぐさま間髪入れずに素手でその場の地面を掘り返し、コロリを埋めた。するとすぐさまさっき漏れ出た液体で茂る植物に覆われて、ものの数分で近くの門が開閉出来ない程植物で生い茂った。
「よしゃぁ、コレで強いヤツ完成だ!・・・ん?あぁ、出れるかな?まぁ、つええヤツって言ってたからな。大丈夫だろ。なぁに、礼は要らねぇぞ?」
ギガルタスは手に付いた土埃とコロルの血を拭いながらニコニコした。
「さてと・・・どうすっかなぁ。確か7日後か・・・。7日後って何だ?」
ギガルタスがコロリに使ったのは、王族や貴族でも手に入れる事は非常に困難を極めると言われる世界樹の葉と、高濃度ハイポーション2瓶、逆行の宝神薬2瓶なのだが、ギガルタスは何がどうあれ、強者と戦えるのなら惜しむ事ではないと思った。
この後ギガルタスは7日後を探して荒野を彷徨う事になるのだがそれはまた別の話。
ーーーー
同日の夕方、セレンとアリシア、ニアは少し豪華な夕飯として、外で焚き火をしながらその火で調理し食事をしていた。
焼き魚と芋を蒸し小麦と一緒に練り上げた物だ。
少し豪華にしたのは、昨日の夜明けのあの一件からセレンがボーッとしてフラフラしているから、アリシアが性のつく物をとこしらえたのだ。
「セレン君、食べれる?」
「あぁ・・・。」
「大丈夫だとは思うけどね・・・。」
アリシアがセレンに問い、ニアが心配そうにアリシアへと呼びかけた。
いつもは目一杯目を丸くしながら食べてくれるセレン君が・・・とは思いながらも、一応は食べてくれているから心配はないのだろうとアリシアは自分に言い聞かせた。
「私達も食べましょう。明日からまた忙しくなるわよ。」
「・・・それもそうね。・・・うん、美味しい!」
今は明食による緊急時で魚が相当に高騰している。
この魚一匹でアリシアの1日の稼ぎ相当である銀貨3枚にもなるのだ。更には三匹買おうと思ったら余計お金を取られ、結局銀貨10枚相当を払った。アリシアはセレンが少しでも元気になって貰えるのならと糸目をつけなかった。
ニアも手持ちの銀貨5枚を使って鹿の干し肉を買った。夜お腹が空いたら食べさせてあげたいと、セレンの為を思った結果だった。
夕方と言ってもまだ少し日は高く、空もまだ青かった。
セレンの体調もあまり良くなく、ニアとの会話も弾ませてはならないと考えたアリシアは空を見上げ、二つの月をチラりと見ながら胸を痛めた。
「こんな生活がいつまで続くのかな。」
「どうしたの急に。・・・でもそうね、アリシアはどうしたいとか思ったりするの?・・・私、出来る事ならやるよ?」
「ありがとうニア。・・・そうね。でも正直分からないの。この生活が当たり前だし、・・・それに考える余裕が無いもの。」
ニアはセレンの方に目線を移し、そして串に刺した魚に目をもどしそれを頬張った。
「・・・、私もそんな所かしら。私は皆んなが元気で居てくれたらそれでいいかな?」
セレンも焚き火を見ながら目を虚にし、口をゆっくり動かしていた。
パチパチと焚き火の炎が揺れる中、日も次第に傾き太陽が紅に染まろうかという頃、辺りの住民は各々の居住区に戻り寝支度を整える準備に取り掛かったていた。
そして何処からか、鳥の鳴き声が響いた。
ピェー・・・ピェー
甲高い鳴き声だ。恐らく鷹か何かの鳥の鳴き声だろう。この辺でははそう珍しい事ではない。
魔力の届く範囲であれば転送魔法で事足りるが、街から街へ、村から街へと手紙を運ぶ時は鳥を使う。
ある地域ではフクロウやカラスなども飼い慣らされ使役するらしいが、この辺では鳩が主流だ。
そしてたまに鷹も見かける。
アリシアとニアもきっとそれだろうと、周りの近隣の住人と共にそう思った。
セレン以外は。
「・・・ん?シアネェ。何か来る。」
「え?」
アリシアとニアは疑問と共にセレンの目線を追った。
「何?・・・人?」
色々と何がおかしい事は理解出来たが、夕日の逆光でよく見えなかった。ただ、鳥の影の下に人の影が写っているのは見えた。
そして数秒も待たずしてその全てを理解出来た。
ズザザザザ・・・。
どこかで見たことがあるような風貌。軽やかな身のこなし、皆この男の事を知っていた。
「よお、アリシア。ニア・・・と・・・セレン・ロード。」
「コーガ!?」
「よお。」
「あの鷹・・・は、カラエルさんとこの?もうそんなに動けるの?」
「あぁ、ノロマだ。体は・・・まぁ大丈夫だ。」
コーガがやたらデカい鷹に連れられ飛んできたのだ。
そのノロマと呼ばれた鷹も一周2週と辺りを旋回し、コーガの側に狙いを付けて降下した。
「お疲れ。」
コーガはノロマの胸をポンポンと叩き労を労った。
そして括り付けられた皮袋の中から金貨を3枚取り出し、アリシアに渡した。
「・・・コレ。」
「何?・・・え、何?3枚も・・・。」
「そりゃ治療費だ。少ねぇが取っといてくれ。まぁ嫌なら捨ててくれ。要らないなら・・・そうだな。セレンにでも使ってやってくれ。シュナイダーと、アルダートに聞いた。かなり良くしてくれたんだってな。恩に切る。」
「役目を果たしたまでよ。1枚で良いわ。残りは返す。」
「いや、まぁそのままにしといてくれ。・・・それに今日の本題はそこじゃねぇんだ。」
アリシアとニアは頭の中で、ハテナが浮かんでいた。
そして気がつくとコーガとセレンと目があっていた。
「ん!」
「お、くれんのか。すまねぇな。」
コーガはそう言うと、セレンからもう既にほぼ食べ終わって身も殆どない状態の焼き魚を受け取った。
するとコーガは尻尾から骨ごとボリボリと頭の骨だけ残しものの数秒で噛み砕き飲み込んだ。
「無性に何か食いたくてよ。・・・ん?変か?」
「変ね。」
「・・・変よ。でも、魚の骨を食べに来たってわけじゃないんでしょ?」
「・・・あぁ。その・・・セレン・ロードに話がある。」
「・・・。」
「どう言う事?」
「・・・爺さんが死んだ。コイツがその爺さんの形見を持ってんだ。だから話をしに来た。」
「カ・・・カラエルさんが!?」
ニアとセレンは黙っている。
「・・・まだ・・・まさかセレン君、盗んだの!?」
「いや、そうじゃない。・・・お前も話を聞くか?お前にも聞かせる必要がありそうだ。」
「ニアも。」
「ん?」
「ニアも一緒にいい?」
「セレン君・・・。」
「お前がそう言うのならそうした方がいいだろう。」
「・・・。」
僕はニアに目線を送り、いつもニアと2人で話している場所へと移動した。
そしてそこで記念すべき第一回目となる幹部会議が行われる事となった。
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