第35話 カラエル
明食の最終日、セレン達が外への抜け道を見つけた頃、故郷の村、カシナでの出来事。
大理石の床で出来た村一番の建物の中心で、一人の老人が両膝を床につき目を閉じている。白い服をキッチリと着込み、白髪には髪脂を馴染ませ、いつもボサボサな髭は真っ直ぐに伸ばしている。
右腕と右脚には包帯を巻き、座禅を組んでいる。
息が荒い。
老人はそこでどれだけの時間を待ったのだろうか。何の前触れも無く大きな正面の両扉が開いた。
立ち姿がスラリとした男がガチャガチャと鎧を鳴らし大広間の中央へと近づくと、その男は口を開いた。
「報告しろ。」
「・・・今日は一人なのか?テラリオル。」
「そんな事はどうでもいい。報告しろ。」
「相変わらずお堅いのぉ。ほれ、いつもと違った格好をしてみたが似合っとるかね?」
「報告しろと言っている。」
「つれないねぇ・・・。」
カラエルの目は鋭い。
「・・・何だ。」
「いんや?何もないが?」
「・・・報告しろ。」
「・・・やれやれ仕方がないのぉ。・・・カシナ村は23。他ゼリ村は13、ラクト村は7、チョコ村は41・・・。」
「ご苦労。お前の選別か?」
「・・・。そうじゃ?ワシの選別じゃ。今回の選別は自信があるぞい?」
「自信だと?」
「そうじゃ?自信じゃよ?」
「お前の戯言に付き合っている暇はない。お前の役目は欠陥品を選別し処分、選定する事だ。それ以上でも以下でもない。」
「何じゃつまらんのぉ・・・老人の楽しみを奪っちゃいかんぞい?」
「また訳のわからない事を。何が老人だ。お前の寿命は無いに等しい。お前は魔王様から譲渡されたコインによって不死の呪いがかけられているのだ。老人という概念を捨てろ。そしてお前の様な監督者は我等高等種族によって選ばれた存在なのだ。腑抜けた事をぬかすならまた永遠と体を切り刻むぞ。それが嫌なら魔王様の契約の下に働け。」
テラリオルは虫でも見るかの様な蔑む目でカラエルを見下し言葉を吐いた。
カラエルはテラリオルには目も合わせず、何かを思い出したかの様に歯を食いしばりながら激しく鼻で呼吸し、冷静を装うのがやっとだった。心なしか震えているのが分かる。
「な・・・懐かしいのぉ。アレを思い出すと今でも頭が痛いわい。」
「だったらその減らず口を・・・ん?」
「・・・。」
「貴様・・・。その腕はどうした。何かとは思っていたがやはり不自然だ。ただの怪我ではないな?その包帯を取れ。命令だ。」
「・・・さて。どうしたものか。」
「早くその包帯を取れと言っているのだ。」
「まぁ、落ち着きなさいな。言われなくてもそのつもりじゃ・・・。」
カラエルは左手で右手の肩に手を伸ばし包帯に手を掛けた。
「ワシは選別したのじゃ。」
カラエルが手にかけた包帯からはポロポロと砂の様な灰のような粉が落ちていた。
カラエルはその事を気にも留めずゆっくりと包帯を解きながら言葉を言葉を紡いだ。
「いやぁ、最初見た時は驚いたぞい。このワシが押し負けたんじゃ。」
「チッ、何の話だ。」
「前にも言ったがのぉ。実はあのコインさえあれば無敵だと思っておった。」
「・・・。」
「ワシ・・・いや、ワシらは強かった。・・・がしかし若く、そして浅はかだった。永遠の時間と永遠の命が欲しくて欲しくてたまらんかった。この目もその為に鍛え身に付けた物じゃ。いずれはお前達を打倒し、我々の時代がやってくると・・・そう確信しておった・・・。」
「・・・。」
「まぁ聞け。テラリオルや。お前達の知っての通り、ワシはお前達の犬に成り下がった。せいぜいやれた事と言えば、身寄りの無い子供達を育てては貴様らに当て一矢報いる事じゃった。」
「フッ・・・。あれらはなかなかいい遊び相手だったな。魔王様も誉めておられたぞ。・・・一矢報いる・・・か。まぁいい。それがどうした。」
「勝負じゃテラリオル、そしてお前さんの主である魔王。ワシは飛びきりの矢を放ったぞ。まぁ、本人は気が付いとらんかもしれんがのぉ。」
「・・・どういう事だ?お前の育てた子供が私を倒しに来るとでも?」
「おや、鋭いお前さんが気が付かなんだとは。悪くない。最後にいいもんが見れそうじゃ・・・。」
カラエルは右腕の包帯を全て取ると、カラエルの右腕は燃え尽きる寸前の木の枝の様だった。
カラエルはその右腕を左手で激しく掴むと、右腕はボロボロと崩れ落ちた。
「お前・・・その腕・・・。」
「ハッハッハ。そうじゃ。」
カラエルは崩れ落ちた右腕を気にもせず、むしろそれを嬉々とし不気味な程の笑顔に変わっていた。
「コインを譲渡した。コレがその証拠じゃ。」
「な・・・貴様・・・!」
「ハッハッハ。驚いたであろう。」
「それがどういう意味か分かっているのか!!そんなこと・・・そんな事がある訳が無いだろう!!」
「さてそれはどうかのぉ?何せワシも初めての経験じゃ。お主もそうじゃろ?テラリオル。」
「何を呑気な事を・・・。チィ。・・・あぁぁぁぁ!!!クソォ!!」
テラリオルの周りの空気が歪み大地が揺れているのが分かる。この町で一番丈夫な建物だった筈が、キシキシと壁にヒビが入りパラパラと欠けた破片が辺りに落ちた。
「ワシはコレでやっと死ねる訳じゃ。お主の脅しももう意味が無いぞい?気楽なものじゃのぉ・・・、ワシはこのままこの建物が崩れ落ちて、押し潰されて死んでもええんじゃ・・・フォッフォッフォ。」
「んなぁぁ!!クソジジイが。」
「おや?いやいやいやぁ、先程概念を捨てろと言わんかったか?変な事を言うようになったのぉ、フォッフォッフォ。」
「あぁぁぁ!!!」
ズズズ・・・ズドーン!!
テラリオルは怒りを露わにした。
テラリオルのその怒りは行き場を失い、カラエルとテラリオルを中心に辺り一帯を、建物全体、村全体をカシナの村を吹き飛ばした。
カラエルもその影響で、脆くなっていた箇所の右半身は吹き飛び倒れた。
「ハァ・・・ハァ・・・フゥ。まぁいい。魔王様もきっと良き余興として対処される筈だ。魔王様は貴様らとは違って計算高い御方。お前の行動も見抜かれているに違いない。」
「・・・最後にお前さんのうろたえる姿が見れて本望じゃわい。」
「死んでなかったか・・・。減らず口を。フッ、私はお前を恨んではいない。お前はお前の正義を貫いたまでだ。そして我々はお前の正義を利用して目的を果たしていたに過ぎない。そうだろう?今も昔も、私はお前達を愛しているのだ。」
「よくもまぁそんな事を・・・。」
「お前達は魔王様の元で生まれ、魔王様の元で生き、魔王様の元で死に、我等魔族の糧となり幸せに死ぬのだ。」
「そんな事にはさせんと言っておる!!ワシはお前達の勝手な理屈に終止符を打つぞ!!さぁ殺せ。コレがワシの生き方じゃ!!全てを懸ける。燃え尽きてなおお前達を追い詰めてやるぞ!!」
「ハッハッハ・・・素晴らしいぞカラエル。それでこそ魔王様が監督者として見込んだ男。魔王様も喜びになられる筈だ。」
「・・・。」
カラエルの体は、コインの効果が切れ、老化に耐えきれずボロボロになっていた。まともに立つことも出来ずに地面に伏しており、息を荒げ砂埃を巻き上げている。
情けない体制のカラエルだが、その目の奥には魂の炎がメラメラと燃え上がっていた。
「かわいそうに。もう自分で座ることも出来ないのか?」
そう言うとテラリオルはカラエルの残り少ない髪をブチブチと鷲掴みにし、起き上がらせた。
「話せ。何か私にやれる事はあるか?」
「あ・・・あぁ・・・。お・・・お前達には譲渡した少年を教える。」
「何?」
「だがその前に約束だ。」
「・・・忙しいヤツめ。まぁ何でもいい。聞かせろ。」
「お前達は私に強さを求めた。ヤツにもそれを求めるのか?」
「ヤツ?新たなホルダーの事か。それはそうだ。魔王様は遊び相手を常に探されている。」
「ならばその少年の環境を大事にしろ。ワシの様に孤独では強さに限界がある。」
「そヤツの親しき同族を殺すなという事か?それはおかしな話だ。お前達はその復讐の心で相当に強くなる。利用しない手はあるまい。・・・それともあれか?仲良しこよしでパワーアップでもするのか?」
「お前達には分からんよ。・・・護るべきものがある者は強い・・・。その事を何処ぞに隠れている魔王にも伝えろ。まさか本当に明月に封印されている訳ではあるまいて。」
「・・・。いいだろう。魔王様に伝えよう。私はお前達を愛しているのだ。お前達が種として成長出来るならいくらでも手伝うとしよう。出来の悪い個体は排除し、出来の良い種だけ残す。これはお前達を愛するが故・・・分かるな?より強く、より美しく、より多く繁栄する・・・。それがお前達の幸せだ。お前の意見も魔王様は尊重されるだろう。魔王様は慈悲深いのだ。」
「・・・。」
「カラエル。ひとつ気になるのだが・・・死ぬ前に聞かせろ。」
「・・・。」
カラエルはもう虫の息だ。
命の炎がジワジワとだが弱っているのが分かる。
「カラエル、お前はコインをどうやって譲渡した?アレは向けられた期待以上の期待を向けなければ契約は成立しない。そしてその契約でお前は何を願ってそのコインを対価として支払ったのか。お前がコインを譲渡するのは不可能な筈だ。」
カラエルは口元をニヤリとし、黙っている。
テラリオルはカラエルのその態度に待ち切れずまた口を開いた。
「2000年前、貴様らは魔王様の条件を飲んだ。このまま我々がお前達の国を滅ぼすのを止めたかったお前達と、人間を選別する目を持っている人間が欲しかった我々。更にお前は不老不死を渇望していた。この上無い契約だった筈だ。時にはそのコインを対価に、一方的に国をも滅ぼせる力を持つそのコイン。このへんぴな土地から出られないお前が、どんな大きな対価を要求したのかと言っている。」
「・・・フォッフォッフォ。」
「寿命が尽きる。早く言え。」
「いつぞやお前達も言っていた・・・。あのコインには謎が多い。」
「・・・。」
「何、簡単じゃ。馬車の席をその少年から譲ってもろうてな。困っておったしお礼にとそのコインをくれてやったのじゃ。」
「なん・・・だと?馬車!?」
「・・・。」
「・・・そのコインはお前の命そのものだぞ。」
「そうじゃ?」
「くれてやっただと?」
「そうじゃ?」
「・・・そんな事が・・・あるのか?」
「現にほれ・・・。」
カラエルは更にボロボロになった体を一掴みすると、一握の体の破片を掌からこぼした。
「この通り。ワシはもうホルダーではない。」
「国一つ滅ぼせる力だぞ・・・?不老不死だぞ。その力を馬車の席一つで譲渡したというのか!!」
「フォッフォッフォ・・・ハッハッハ。」
「・・・。」
「いずれお前さんにも分かる筈・・・じゃて。・・・くっ!」
「・・・チィ。そろそろか。」
「・・・あぁ。そろそろじゃのぉ・・・。やっと・・・いい夢を・・・見れそう・・・じゃ・・・。」
・・・カラエルの目にもう光はやどっていない。
何か小さな衝撃でもあれば、カラエルの亡骸は崩れ落ちて灰になってしまうだろう。
「チィ。・・・誤算だった。魔王様は一体何をお考えなのか・・・まぁいい。カラエル・・・悪くないコマだった。新しくコインを手にした輩も呪いを利用して手駒にすれば良いだけの話。・・・さて・・・魔王様に報告せねば。ギガルダスは・・・まぁ放っておいていいだろう。この際あの街は壊滅させても問題無かろう。それよりも報告だ。さて・・・どうしたものか。」
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「大丈夫かい?セレン君!!セレン君!!・・・意識が・・・。それと・・・君は?」
「アカミナ。・・・あんたは?」
「私はミリダンという、ただのパン屋だよ。そこに居る桃色の髪の毛の父親だ。白紙のメモ紙が何通も届いたんでね。何かあると思って後を辿ったんだ。一見外傷は無いようだが・・・。」
「あぁ、魔族が現れたんだ。セレンが色々話してくれた。疲れたんだと思う。」
「魔族!?誰だ?どんなだった?」
「どんな!?・・・そうだな、背はアンタより2回りはデカい。横幅は更にその倍はあるような魔人だった。名前は確か・・・ガルって言ってた。」
「ガル・・・。知らないな。3人はいつから意識が無い?」
「えっと・・・。」
意識があるのはアカミナとキエラだけだった。
アカミナは多少混乱はしていたが、ミリダンとなんとか受け答え出来た。さっきまでガルと対峙して疲弊したセレンは倒れてしまって意識が無い。自分がしっかりしなければという気持ちだった。
キエラは意識はあるものの、自分の無力さに打ちひしがれ、魔人の圧力に押され言葉が出せないでいた。
アカミナはハッと思い出したかのように事のいきさつをミリダンに話した。
出口を探して見つかった事。岩の間を抜けて行けば地下の避難所に通じている事を。
ミリダンは倒れている娘を横目に怒った素振りも見せず、アカミナの必死な訴えを受け止めた。
「そうか、それは大変だったね。・・・娘の状態が気になる。君はセレン君の意識が戻らないか試してみてくれ。」
「わ・・・分かった。」
アカミナは何をすればいいのか分からなかったが、この人の邪魔をしてはならないと思い返事をした。
「パンネル、パンネル!!聞こえるか、パンネル。・・・お嬢さん、そっちの緑髪の子はどうだい?あまり頭を動かしてはいけないよ?」
「そ・・・あ・・・、そ・・・その・・・。」
「うん、大丈夫。大丈夫だよ。」
「い・・・息はしている。」
「そうか・・・娘も息はある。一応大丈夫だとは思うが・・・。念の為早く治癒術師に見せた方がいい。」
「ん・・・あぁ・・・。みんな・・・。」
「セレン!!」
アカミナの声掛けに気が付き、意識を朦朧とさせながらも、セレンがミリダンの気配に気が付き起き上がってきた。
「ん?・・・ああセレン君。起きたんだね、大丈夫かい?」
「あ・・・あぁ、良かった。ミリダン。ふ・・・二人は?」
「大丈夫、寝てるだけだ。」
「そう、なら良かった。・・・ハァ・・・。」
起き上がったセレンの声はガラガラ声だ。魔人とのやり取りで声を張り過ぎた反動だろう。
セレンはフラフラになりながらも周りを見渡した。
「ミリダン、ここまでどうやって来た?」
「ちょうど光の道筋が見えたからね。門の外に出て外周をぐるっと回って来たんだよ。」
「遠いかな?」
「・・・。」
「僕とキエラで助けを呼んでくる。この場所・・・大人に伝えるにはどうしたらいい?」
「ん?何故君とキエラちゃんなんだい?」
「僕達が小さいからさ。あの岩の隙間は狭くて体の大きいアカミナだとギリギリで危なかった。あとまた魔人がここに来る可能性もある。子供達だけで待機するのは危険だ。意識の無い二人をミリダンが背負って行くのもいいかもしれない。それかミリダンが誰かに救援のメッセージを送る手段があればいいんだけど・・・。」
「・・・セレン君。君は・・・。」
「あ・・・、ってアリシアお姉ちゃんと脱出ごっこで話してたりしてたの思い出したんだ。ミリダン、僕達どうしたらいいかな?」
「脱出ごっこ?・・・なる程・・・あぁそうだ。転送魔法で緊急連絡先があるんだ。それとアリシアちゃんにも連絡しておこう。なに、もう大丈夫。もう少しの辛抱さ。後は僕に任せてゆっくりしといていいよセレン君。」
「・・・そう?・・・ごめん。ちょっと眠いや・・・。」
「大丈夫。後は任せて。」
セレンはまた眠りに付いた。
その後ミリダンが救援部隊とアリシア、他数人に転送魔法を送り小1時間程で事態は収束した。
保護者として任されていたアリシアは任務を一時的に解任され子供達の面倒を見る流れとなった。
そのアリシアの診断によると子供達は何も問題無いらしい。
アカミナ達の出入り口探索の功績だが、子供達のイタズラとして処理される事となった。というか、明日の終焉祭の準備でそれどころでは無いという感じで辺りはもうお祭り騒ぎだ。
日の出と共に歓声が上がり、今回の明食の犠牲になった者達の親族は涙し地に伏している。
あの出入り口はというと、正直また3年後、あの避難所に入ってみなければ分からない。どの道あと3年は使われる事もないであろうし、後回しにされるという話だ。アカミナは自分の功績だと一般兵の門番に訴えかけていたが、その行為はその門番を困らせだだけで終わった。
それに合わせて魔族が出没したという話も流れてしまった。ミリダンが上層部に報告してくれと頼んでくれていた様だがコレもまたどこ吹く風というように、子供の戯言だと片付けられてしまった。
そんな僕たちをよそに辺りに明るい空気が漂い、活気が戻って来たのが分かる。
街行く人達は忙しそうに走り回り、見渡せば所狭しと出店が出店されている。男は出会いを求めて辺りを散策し、女は自分をより美しく見せようと気合いが入っている。
そんな中、包帯まみれの男が居た。
その男は絶望という程落ち込んでもおらず、希望がそこにあるのかと言われれば皆無だった。ただ、手に取った羊皮紙が彼の運命を打ち砕いた。
「・・・おい・・・、嘘だろ・・・。じいさんが・・・死んだ?」
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