第33話 子供心は忘れずに 避難所での冒険
「よおセレン。久々じゃねえか。もっと広間に顔出せよな。お前のねぇちゃんは本戦出るから無理だろうけどよ。」
「あぁ、アカミナ。なかなか行けなかったのよ。元気だった?キエラ、ミエルも。」
「まぁ・・・元気だ。」
「見りゃわかんだろ。ピンピンしてるよ。」
「元気だよぉ。セレン君と・・・ん?」
今日は明食当日。
全て含めて12回目、つまり今回の避難生活最後の明食だ。
この都市には地下シェルターがいくつか地下に掘ってある。
高さ10メートル、幅50メートル、長さ100メートルはあろうかという大空洞。所々にぶっとい柱が立っており、普通に考えれば人が造ったとは思えない。数千年前から存在し、かつてのドワーフが掘った物を再利用しているのだそうだ。
それと同じような空洞がこの都市には他に数箇所あるらしいのだが、僕はここ以外行った事がない。
僕達は明食をやり過ごす為にこのシェルターに隠れるのだ。
そして毎回思うのだが、結構この中は乱雑としている。
何か決まり事があるわけでも無く、誰か見張りがいるわけではない。
扉を開けて外に出る事も大人なら出来るだろう。
まぁ、幾つか不安なところはあるが、今までこれでうまくいっているのだろうから問題ないのだろう。
そして今日はニアとアリシアも居ない。ニアは見張りの当番でおらず、アリシアは明日の終焉祭の準備で居ないのだ。
まぁ、実際ここにも慣れたもんだ。寝て起きれば事は済む事だし誰も心配はしていないだろう。
代わりに白髪のお爺さんを紹介されその人に見てもらう様に言われたが、その爺さんは既に寝ている。
・・・まぁ、大丈夫だろう。
「何だ?彼女か?」
「彼女って・・・知り合いの娘だよ。パンネルって言うの。同世代だからな。一緒に居てくれって言われたのよ」
「ふーん。まぁ宜しくな。」
「よ・・・よろしく・・・。」
「・・・で、今日は何する?。」
「まぁ、この地下空洞の秘密を暴こうと思ってな。」
「秘密?」
「そう、秘密だ。」
アカミナは辺りをキョロキョロと見渡し、ヒソヒソ話の体制に皆を促した。
「ここにはまだ発見されてない出口があるんだってよ。それを探して大人に教えてやろうぜ。探検だよ。きっとたんまり報酬が貰えるぜ。」
まぁ、子供アルアルかな。秘密基地を作ったり、何気ない道や建物を伝説級のソレに見立ててドキドキワクワクしながら冒険するんだ。
まぁ、僕も少年の心は忘れた事もないしな。偶然にも体もまだまだ子供だ。異転者だとバレない様に演技する必要もあるし、ここはこの子達の提案に乗ろうではないか。
実際何度もここ大空洞に避難している。僕も子供達も慣れたものだ。ここに来れば子供達は何故か夜更かしを許されるという風潮がある。
実際まだ夜も深くなく子供達も食事を終えたばかりで元気いっぱいだ。毛布にくるまり座っている大人達の隙間を縫って子供達が走り回ってるのがよく目立つ。
あと3時間程は自由に遊べる時間があるだろう。
辺りは正直結構暗い。だけど子供達が怖がる程の暗さではない。壁には等間隔で松明が刺してあったり、柱にはぐるりと鉱石を嵌め込む場所があり、その鉱石が光って辺りを照らしているのだ。
最初は謎の鉱石に感動さえ覚えたものだが、今では何も思わない。
この石は12時間もすれば光を出さなくなり真っ黒くなる事もあり使い捨てられるようだ。だからか一回点いたものを盗もうと思う人は居ない。めっちゃ光ってるから盗めばバレバレだしな。
そんな中、我々調査団は作戦会議となったのだ。
「まずパーティーを編成する。キエラ、ポジションを説明してやれ。」
「んぁ?俺か?・・・まぁいいぜ。そうだな、まず先頭が・・・。」
なる程。やはり子供ってのは冒険者に憧れるらしい。未開の地、謎のダンジョン、伝説の秘宝、魔王討伐。アリシアが王国直属の騎士団に入ってるのは普通ではないのだ。
僕も冒険者になるという可能性もあるだろう。
「君さ、得意な事とかはあるの?出来る事とか。」
「・・・わ・・・私・・・。」
「何だ?モジモジして。」
アカミナ思ったより優しいのな。アカミナがパンネルに話しかけたのだが、パンネルが返答に困っている。
やれやれ。助け舟を出してやろう。
「パンネルは転送魔法使えるよ。」
「「え?」」
そして僕は出来なかった。一緒に練習したのだが、この子の才能を認めざるを得ない。
この子とは結局あれから4日程共に寝泊まりした。
その間はリネイルも度々顔を出しにきてパンを持ってきてくれたりしたのだが、流れでもう1日、もう1日とパンネルの宿泊が伸びた感じだ。
アリシアがつきっきりで僕達を見てくれたという訳ではなく、ニアやもう一人のアリシアの友達、シリルも来てくれたりした。
せっかく先生が来たのだからと、その時僕が転送魔法の事を聞いて遊びがてら教えてもらったのだが、パンネルはそこで異様な集中力を見せた。
もちろん最初は出来なかったがパンネルは小一時間、いや、まぁ二時間程か。黙々と練習を重ね転送魔法【帰還】をマスターしたのだ。
僕は全くやり方も何も分からなかったが、彼女にはそれが分かる嗅覚の様なものがあるのかもしれない。
話を聞くと、髪の毛に魔力を宿らせるとチリチリと導火線の様に淡い光を放つらしい。
その状態で自分の持ち霊ではなく、その辺に居る風の精霊に対価を支払うとその髪の毛の持ち主を探して勝手に戻るというのだ。
その特性を利用して、紙切れを貼り付けたり包んだりしとけばメモ紙程度のやり取りは出来るって寸法だ。
もっとも、その伝達出来る距離は髪の毛の長さに比例するらしく、街から街へとかはとてもじゃないが飛ばせないらしい。
僕達が結構自由にしているのもパンネルが転送魔法を使えるからってのもある。いざとなれば連絡出来るからな。という事でメモ紙とアリシア、ミリダンの髪の毛を何本かを僕が持っている流れだ。
「スゲェなお前、天才か。」
「・・・がんばるね。」
感覚で言えば・・・そうだな。四歳で自転車に乗れるって感じだろうか。凄いっちゃ凄いけど、天才というほどでもなく、アカミナやキエラが大袈裟に誉めてくれているのだと思う。
「・・・で、セレン、お前さんは何が出来るんだ?」
「え?ちょっと待って・・・キエラ、あの光ってるのは何?」
「誤魔化すんじゃねぇって。何も出来ねぇんだろ?」
「あ・・・あ!!そうだ。穴掘れるよ?」
「穴!?・・・あぁ、そういやそうだったな。セレンは穴掘り隊長・・・か。それから・・・。」
作戦会議はキエラの淡々とした進行ですんなり終わった。まぁやらなくてもいい作業なんだけどな。目的である雰囲気は出せてたと思う。
「よし、じゃぁ行くぞ!」
「「おー!」」
「おー!」
「お・・・おー?」
アカミナの号令と共に、僕達の苛烈な生死をかけた冒険が始まったのだ。
ーーーー
「ここ、怪しくねぇか?・・・おい、セレン。やってみろ。あんまり音立てんなよ。」
・・・思ったより僕の役目は忙しかった。何かと怪しいと疑って僕に穴を掘らせられるのだ。
僕もここに来てほぼ1年、何もしてなかったわけじゃない。秘密基地をせかせかと色々やっているのだ。体力やその他諸々にもある程度自信は付いた。
穴を掘る事は全く苦ではなかった。これもドワーフの血というヤツがあるからだろうか。
もちろんいつものように精霊の力を借りてやろうとはした。けどやめた。余り目立ちたくないのだ。
「俺が掘った方が早いんじゃねぇか?」
「違う。静かにって言うからだな・・・。それにスコップはちょっと・・・。」
「もういい。ここじゃ無いだろ。」
作戦係のキエラ。この大空洞の仕組みと出口を分析しおおよその目星を付ける。
索敵班のミエル。精霊の力を何となく使ってそれっぽく目を閉じながらそれっぽくやる係。
隊長アカミナ。全体をまとめ指示を出す。緊急時には前線に立ち戦闘をもこなす。
緊急連絡班パンネル。緊急時、助けを求めたり作戦の報告も担当する。
雑用係セレン。主にアカミナの指示に従い動く。穴を掘ったりするのもその内の一つに過ぎない。
「要するに、今の出口がここと・・・ここだろ?って事はこの流れがあるとして、柱の位置を考えると・・・。この辺だな。間違いねぇ。」
「ああそうか。でかしたキエラ。ミエル、どうだ?」
「フムム・・・見えます・・・かすかな空気の流れが・・・。植物の鼓動が・・・。」
目を閉じていたミエルがカッと目を見開き壁を指差した。ミエルは今日はやたらシャキシャキしている。こういうのが好きなんだな。
「・・・ふっ。・・・やれセレン。」
「はーい。」
かれこれこのやり取りは何回目だ?子供達が目を輝かせて居るから付き合っているが・・・、そろそろ眠くなってきたぞ。
とは言え付き合ってやらにゃな。僕は最後の力・・・とかではないが父からこしらえてもらった自慢のスコップを振りかぶった。
・・・僕はふと何故か思った。力じゃない。道具の重さを利用するんだ。・・・そう。道具を加速させるイメージ。重力を意識して力を入れるのは一瞬。踏ん張る足から膝、腰、肩、肘、腕、スコップ。地面から感じる魔力の道を作るんだ。
サクッ
「おお、それっぽいじゃねぇかドワーフ。」
かなり硬いはずの岩を砂を掘るかの様に食い込ませることが出来た。
「あ、スコップでもなかなかいけるな。」
でもさっきはいい感じだった。忘れない様に今はちょっと何回かやっておきたい。
サクッ、サクッ、サクッ
この大空洞は古代のドワーフが作ったからと言って、王宮の様なしっかりした作りではなく、巨大な洞窟と言った方が近い。元々形が歪だから僕達が多少破壊した所で大人達は何も気にしていないのだ。
・・・うん、悪くない。大地の力を感じるのが大事だな・・・。
サクッ・・・
「「「ん?」」」
「おい、今何か・・・。」
「だね、今風が・・・。」
「・・・ここから?もうちょっと掘ってみる。」
サクッ、サクッ、サクッ・・・
「おいおいおいおい、これ、マジなヤツじゃねぇのか?・・・チッ奥が見えねぇ。松明・・・はダメだろうな。どっかに光はねぇかな・・・。」
「明るければいいの?」
するとミエルは小瓶から何かを一粒取り出し、土を一掴み掴んでは種を包み込む様に握った。
「フー、フー・・・あわわわ・・・。」
ミエルは握った拳の隙間から息を吹き掛けるが途中で立ちくらみしたようだ。
「セレン君フーフーしてちょうだい。」
・・・雑用係はこう言った仕事も含まれるようだ。
「フー、フー、フー、フー。」
「ありがと。んー、大丈夫そうね・・・いいかな?いくよ?」
皆キョトンとしてミエルを見守った。
「ムムムム・・・。」
「「・・・ん?」」
「ムムムム・・・。」
「・・・あ。」
ミエルの手の中が少し光っている様に見える。太陽の光に似ている感じだ。するとものの数秒でミエルの手から植物が生え花が咲き、その花が光った。
・・・僕はこの花を見たことがある。いつもニアと密会している場所周辺に生えている植物だ。
僕はまだ穴を広げねばとまたサクサクと掘った。・・・間違いない。何かの通路と繋がっている。
ミエルがその植物を僕の掘った穴に近付けると、ミエルはまたムムムと言い光を増幅させた。
「おいちょっと俺にも見せろよ。」
「抜け駆けはずりぃぜ。」
「待ってください、そんなにされたら・・・あぁ・・・」
僕掘った穴に女の子三人が顔を近づけお尻をプリプリさせている。何とも愛らしいが、まぁ10年後だな。
横にいるパンネルも目を輝かせてワクワクしているように見える。やはり冒険ってのは楽しいもんなんだろな。
かく言う僕も少しワクワクしているのだが。
「間違いねぇ、出口だろ。」
「いや、まだ外に繋がってるかは分からねぇ。そこを調べねぇと、大人に手柄を取られちまうぞ。」
「・・・だな。・・・行くっきゃねぇだろ。」
そういう事で報酬が発生するのか?だとしたら真面目に参加しなくては。アカミナ、ミエルは置いといて、キエルはめっちゃ貧乏だからな。生活が掛かっているのだろう。
「これが終わったら皆で子供ビール飲みに行こうぜ。」
「あれ、甘くて美味いもんな。よし、俺もお菓子買ってもらえる様に頼んでみる。」
僕はこれでいいのかという葛藤も少しはあった。しかし自信満々に準備、指示するアカミナに、腕を組み顎に手を当て何かブツブツ言っているキエラと、二人を暖かい視線と光で見守るミエル。
特にアカミナにはやはり人を引っ張る力があるのだと感じる。
僕はこの出口なる洞窟とアカミナ達の将来に胸を高鳴らせた。彼女らの可能性に僕の心が満たされる瞬間でもあった。
「大丈夫?」
「う・・・うん」
「行けそう?」
「や・・・やってみる」
僕にはこの子の成長にも涙が出てしまいそうだ。こういう細かい所で自信を付け成長するのだろうか。初めてのお使いに感覚がとても似ている。あの番組は反則だよな。
「おい、2人共行くぞ。遅れるな。ミエルの魔力が尽きる前に・・・早く!」
「分かった!!・・・ほら、行こう。」
僕はこの時どうすれば良かったのか。ただ運が良かったのか、悪かったのか。行くなと反対するべきだったのか。
僕はすぐさま穴を広げ、五人。暗闇の中へと入って行った。




