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コインホルダー 〜異世界で生きるガチなヤツ〜  作者: ノープラン
第一章 プロローグ
32/44

第32話 パンネルの葛藤 コインの存在


 私は知っている。

 お父様からもお母様からも必要とされていないという事を。

 お母さまはいつも怒っている。

 私に優しくしてくれたことなんて一度たりとも無い。

 なんでこれが出来ないのとか、他の上手にできている子を見つけては私を見てがっかりしている。

 私の小さい頃はこんなことが出来たとか、私に出来たんだからあなたにも出来ると毎回無理難題を押し付けてくる。

 私はその期待の眼を見るたびに自分に失望し自分の才能の無さに嫌気がさす。

 お母様はとてもえらい魔導士だ。

 普通の家庭に産まれて来れば良かったのにと思わない日は無い。


 お父様だってそうだ。

 お父様はいつもニコニコしているだけで私の事は眼中に無い。

 お父様は私のわがままを聞いてくれる。

 だけどそれは私の事が面倒だからだ。

 私がわがままを言うとニコニコしパンを与えれば黙ると考えているからだ。

 そうすれば私を攻略できると思っているからだ。

 パンが好きなのは否定しないが、それが、今がいい事だとは思っていない。

 本当はお母様のように素晴らしい魔術を使い、お母様から褒められたい。

 お父様の笑顔が本物であって欲しいと思っている。


 けどそれは叶わない願いだ。

 お母様が言うように私は何も出来ない人間なのだ。



 おまけに誰にも内緒なのだが、あの熱が出た時から目に見える色がおかしくなった。

 私が出来損ないで頭がおかしいからこうなってしまったのだ。

 人を見るとその人の周りに色が着いて見えてしまう。

 お母様は濃い黄色。とても色が濃い。

 そしてお父様が・・・お父様がとても赤黒い。

 そのせいで顔がとても見にくい。

 かろうじて表情が分かるのが救いだが、右手は全く見えない。

 声を聴いて優しくしてくれてはいるのは分かるが、その色のせいで顔を見れない。

 ・・・正直・・・お父様とお母様が怖い。

 他の人の色は薄い。

 同じ同級性くらいの子やその親は柔らかい色をしているが、・・・両親は・・・絶対に普通じゃない。

 私にとって両親は恐怖でしかないのだ。


 私はいつ死ぬのだろうか。


 そして私は今日もまた給仕室で一人パンを食べている。

 私はいったい何故この世に産まれてきたのか。

 私のようなお荷物は・・・。



 「ねぇ、パンネル。」



 唐突に話しかけられた。

 話しかけられない様に隅っこに居たのに。

 誰だ?

 ・・・あぁ、私はこの人を覚えている。

 確か母と父と対等に話していた子供だ。

 確か・・・名前は・・・。



 「セレン・・・君?」



 「え、僕の名前知ってたの?凄いね。誰から聞いたの?」



 「お母様から・・・。」



 「あぁ、なるほどね。その・・・あれだ。人の名前を覚えるってのとても良いことだよ。素晴らしい。」



 ・・・何が言いたいのか分からない。



 「ん~・・・馬車の中でかな?・・・まぁいいや。あのさ、この3つのパン形が違うけど何のパンか分からないんだよね。このパンって何パンなの?」



 ・・・パン?なぜ私に・・・。この人は正直苦手だ。

 母にお礼を行って来いと言われ何とか話しかけたが、私を食べるとかなんか意味の分からない事を言い、とっさに逃げてしまった事もあるし、あまり話したくない。

 母も彼を例にとり羨ましいとか、うちの子は・・・と私を馬鹿にする種にするのだ。

 私がこの人を好きでいれるはずがない。


 この男も私を馬鹿にしに来たのだろうか?きっとそうだ。間違いない。


 私はいつもそう思っている。

 でも・・・。

 でも少しだけ、いつもの自分じゃないような気もする。



 「・・・これがミルクパン、これが塩パン、これがカシナパン・・・。」



 「・・・へぇ、どこで分かったの?」



 「お父さんの作るミルクパンは少し白くてねじられているの。塩パンは少し塩が掛けてある。一粒舐めてみたら分かる。」



 「あ、これ?・・・あぁ確かにしょっぱい。」



 「もう一つは色と・・・匂いかな?あと形覚えてたから・・・。」



 「へぇ。ありがと・・・。パンネル、今何歳なの?」



 「・・・4歳・・・だけど。」



 彼がやたら疑り深い顔に変わった。また私を馬鹿にするのだろう。

 大丈夫。

 大丈夫。

 心の準備は出来ている。



 「嘘だぁ~。」



 「・・・嘘じゃない。」



 ・・・。

 やはりこの人も私を馬鹿にしに来たんだ。



 「僕の知ってる4歳はもっと子供だよ。君、もしかして・・・異転者?」



 「なっ!!」



 私は驚き滅多なことを口に出すこの男を抑えた。・・・私があんな犯罪者と間違われるとは。私はそこまで落ちぶれてしまったのか・・・。



 「なんて事を!ダメ!!簡単にそんなこと言っちゃ。その事話してただけでみんな殺されちゃった事もあるんだよ!」



 常識知らずも良いとこだ。

 こいつと一緒に居たら命がいくつあっても足りないかもしれない。



 「あぁ、そう言えばそうだな。ごめん。教えてくれてありがとう。あと・・・パンの事も。」



 ・・・そう言うと彼は、セレンという男の子の表情は。

 屈託のない笑顔に変わったように見えた。

 セレン・・・この人はなんか変だ。

 皆と何が違うのだろうか・・・。



 「ん?何?」



 「い・・・いや、何も。」



 ん・・・やはり何かこの人には違和感を感じる。何でだ?どういう事だ?

 私はこの人を疑いの目で見るようにした。



 「パンネルはどのパンが好き?」



 「あ、あぁ・・・カシナパン・・・かな?」



 「だよね!!あの甘酸っぱい感じと、あと元気が出る感じがいいよね!!・・・あ、そうだ。パンネルは集めたことある?カシナの実。」



 「え、セレン君はあるの?」



 「誰かと一緒じゃないとだけどさ、一回だけあるよ!カシナに帰ったら一緒に集めに行こうよ。あ、そうだ。その近くにとっても綺麗な場所があるんだ。どう?ね、誰かに頼んでさ。」



 「へぇ・・・。」



 ・・・この男は何がしたいのか。

 何処かに私を連れ去って、誘拐とかして私の両親を脅すつもりなのだろうか。

 そうだな。

 それもいいかもしれない。

 両親は私を見限り私もその辺に捨てられて飢え死にする。

 皆がハッピーになれる。



 「そうね、それもいいかもね。」



 「何だ、表情が暗いぞ?」



 何、また私を馬鹿にしたいのか?


 ・・・私は彼から目を見られている。

 私をあまり見ないで欲しい。

 私に何かさせたいのなら早く言ってくれ。



 「あ、そうだ。僕の宝物見せてあげる。・・・ほら。」



 男は首にかけてあった何かを器用に外し、私の前にぶら下げた。



 「ほら、ミスリルのチェーンなんだぜ。・・・あ、あんまり人に言うなって言われてるんだった。内緒だよ?」



 「う・・・うん。」



 私はそのミスリル・・・確かお母様のネックレスもミスリルだとか言っていたな。

 高価なのはよく分っている。

 だけど私にはその先にあるもの。とても青く光るメダル・・・コインに目を奪われた。



 「何?・・・これ。凄く青くて・・・凄く綺麗。」



 「そうか?僕はそんなに青くはないと思うけどな。」



 私はこんな綺麗な光を見た事がない。

 吸い込まれそうだ。



 「・・・そんなに気に入ったなら付けてみるか?」



 「え?・・・いいの?」



 「え、全然いいよ。変なあだ名で呼んじゃったし・・・。そのお詫びって事で。」



 「え?」



 「いや、何でもない。ほら、付けてあげるよ。」



 私は親以外でこんなに距離を近くして誰かと接したことがなかった。

 何故か分からないけど、目の前の男の子には何も嫌な感じはなかった。

 この人が私にとって害を成さない人だと感じているからだろうか。



 「はい。付いたよ。どう?」



 「はぁ!・・・凄い・・・。」



 「そんなにか?」



 この人には見えないのだろうか?この蒼く輝くこの光が。

 なのだとしたらこの私の病気も少しはいい事あったって事かな・・・。



 「あれ?」



 私は何もしていない。

 首にかけてもらってただ見ていただけだ。

 それなのにあのコインは光を失った。

 かと思えば彼の元に引っ張られるように私の首元から離れようと勝手にうごいたのだ。



 「うぉ、何だ?」



 どうやら彼もこの現象を知らないらしい。

 ・・・彼は年甲斐もなく大人びて見えたが、やはり私と同じ世代の子供のようだ。

 このコインには何か魔術が込められているのだろう。

 こんな事はそう珍しくないのに彼は目を輝かせて笑っている。



 「スゲェ、どうなってんだ!?分かる!?パンネル!!ねぇ!!聞いてる!?」



 何だろう。

 ・・・いつもの自分じゃない気持ちだ。

 モワモワと嫌な感じがする。

 嫌じゃないんだけど嫌な感じ。

 分からない。

 自分の気持ちが分からない。

 私は今どういう気持ちなんだろう。



 「うぉー、おー、あー、もう外した方がいいよね。大丈夫?」



 「ちょっと・・・痛いかも。」



 「あー、ごめんごめん。今外すから。」



 そういうとセレン君はコインを片手に取り、片手でチェーンを外そうとするが外れず、なかなか手こずっているようだ。

 彼は気がついていないようだが、またコインに光が戻っている。



 「ちょっと持ってて。」



 私はコインを手にとるように促された。

 言われたままコインを手にとると、コインの輝きはまだ残っている。

 私の手から漏れる蒼い光が、私の希望の光に見えた。

 私は大丈夫なのだろうか。

 さっき会ったばかりだけど、嫌な人だと思うようにしてたけど。

 この人は嫌な人じゃないのかもしれない。


 実は最初から思っていた。

 信じた人から裏切られるのが怖くて、私は逃げているのだとも知っていた。

 ・・・私はコインから漏れる光が溢れない様にそっと両手で包み目を閉じた。



 「よし、取れた。ごめんな。痛かった?・・・え!?どうした、そんなに痛かった!?ごめん、そんなつもりは・・・。」



 私は泣いてしまっていたようだ。

 私も何で泣いているか分からない。

 けど、とても嬉しい気持ちだというのは分かっている。

 また悲しい気持ちになるかもしれないけど、この人の友達になってみたい。

 私は産まれて初めてそう思った。



 「いや、大丈夫。大丈夫だよ。」



 「そう?なら良かった。」



 手を開くとまたコインは光を失い、彼の言っていた様なただの蒼白いコインに変わっていた。

 私はあの光を手で吸い込んだのだと思うようにした。

 そうだったらいいのになと思ったのだ。

 そうするとちょっとだけいい気持ちになった。



 「あぁ・・・。」



 「ん?何?」



 彼はコインのネックレスを自分の首に付けながら答えた。



 「あ、いや、何でもない。」



 ・・・また光っていなかったコインがまた蒼く輝き出したのだ。

 どんな魔術なのか分からないけど、きっと私の知らない何かなのだろう。

 今度お母さまに聞いてみようかな、ちょっと怖いけど・・・。


 そう言えばこの人はもう一つ違和感がある。

 何だろうか・・・。



 「あ、そう言えば・・・。この事は内緒にしといて欲しいんだけど、いい?」



 「え、いい・・・けど。それにさっきも聞いた。」



 「あ、そうだっけか。」



 彼は少し首を傾げた。

 あまり頭は良くないのだろうか。

 賢いイメージだけど、違うのかな。



 「おじさん・・・いや、お爺さんから貰ったコインなんだけどね。親から取り上げられちゃったら嫌だしさ。お前さんも・・・パンネルもこのコイン見るの好きでしょ?」



 「・・・うん。大丈夫だよ。」



 母に話しかける話題が無くなったが、暇を潰せる相手を見つけれたのは大きい。

 余計な事を考えなくても済むからな。



 「ありがとう。・・・さっきの何だったんだろうね?」



 「さ・・・さぁ・・・。」



 あまり深く考えないようにしよう。

 けど彼はコインの表と裏を見ながら口をへの字にしている。

 なんとも無邪気な姿だとは思う。



 「あ。パン食べる?」



 「いい。さっき食べたから・・・。本当はあんまり食べ過ぎたくないの。けど食べちゃうのよね。」



 「あぁ、それならこれから僕となるべく遊ぶようにしよう。ちょっとポッチャリしてるからね。食べ過ぎは確かに良くない。それとあと・・・このピンクの髪、触ってもいい?」



 「え・・・いいけど・・・。」



 男の子は私の髪をワサワサと触り出した。

 ・・・思いの外気持ちが良く悪い気はしない。

 やたら真剣に私の髪を触るので、それに伴って触られている時間も結構長い。

 私は次第にポワーンとなり瞼が重くなってきた。



 「はぁ〜わぁ〜・・・。」



 「ハサ・・・、あ、いや、髪を切るヤツとかある?」



 「ハサミの事?あると思うけど・・・。でも危ないから触っちゃダメだって。」



 「いや、あるならいいんだ。僕達が大きくなったらさ、髪切らせてよ。君絶対可愛くなる。」



 私は突拍子もない彼の言葉に少し目を丸くした。

 ・・・この私が?

 いや、いやいやいや。

 ないないない。



 「・・・無理だよ、セレン君。でも・・・ありがとうね。」



 「いやいやいや。とりあえず僕髪を切るのとく・・・に興味あるんだ。僕が練習するのに手伝ってよ。それならいいでしょ?」



 「えっ・・・と、・・・まぁ、いいけど・・・。」



 髪を触られるのは結構気持ちがいいものだ。

 そして誰かの為になるのなら是非やらせて欲しいとは思う。

 こんな私でも必要としてくれる人が居るんだなと思った。



 「この髪の色、凄いよね。地毛なんでしょ?ちょっとボサボサだけど、綺麗だね。」



 私はマジマジと髪をいじられ、綺麗だねと言われ。

 何か今まで家族にも友達にも感じたことのない感情に襲われている。

 この人の周りは私を知らない世界へ連れ出してくれる。

 憧れと、自由と、可能性と、あとよく分からない何か。



 ん?

 ・・・あ、さっきまであった違和感が分かった。

 この人には色が無い。

 今気が付いた。

 ・・・やはり無い。

 何で?

 ・・・いや、そもそも人の周りに色が見える方がおかしいんだけど、何も見えないこっちの方が普通のはずなんだけど・・・。だからだろうか。この人と一緒に居ると少し落ち着くのは。



 「あ、そうだ。どんな精霊ついてるか見てくれるお姉ちゃん知ってるんだ。僕はちなみに土の微精霊な。」



 「え、凄い!!もう?」



 「ただの土の微精霊だって。ただ早いだけで凄くはないよ。」



 「そうかな・・・。」



 微精霊はまだ私も見てもらった事がない。私が精霊持ちだったらお母様から褒めてもらえるかな。

お母様が私を自慢してくれたりするのかな。私の胸は期待で膨らんだ。


 あ・・・いや・・・。そんなに上手いことある訳はない。私は、はやる気持ちを抑えて現実を見た。まぁ、一応見てもらえたらいいなとは思う。



 「わ・・・私も、みて・・・もらいたいな。」



 「お、いいね。ミリダンとアリシアに聞いてみよう。今日、一緒においでよ。いいって言ってくれたらさ。ね!」



 「今日!?」



 私は1人が一番だと思っていた。傷付かなくていいから。私はこの人を好きでもないし、期待もしない。仲良くもならないし、ただ一緒に居るだけ。それなら多分大丈夫。

 どうせまた1人になるんだ。

 いい思い出は悲しくなるだけだから。



 「ほら行くぞ!」



 「・・・どこへ?」



 「未来だよ。」



 「え?」



 「なんつってな!!ハッハッハ。」



 私はこのままでいいのだろうか。

 変わってしまう自分が怖い。

 未来なんてどうせ・・・。



 「ほら立って!そんで自分で歩く。転んだって構いやしねぇ。また立てばいいんだ。知ってるか?頑張るって楽しいんだぜ?」



 彼が何を言いたいのか分からなかったが、彼の曇りない瞳を見れば何を言いたいのかは大体分かったと思う。

 木の棒のような私の右足に生命が宿り、地面に這った根が靴へと変わった。そんな気がしたのだ。

 そして何も考えてはいなかったが、自然と一歩前に出た。



 「そう。その一歩が、この一歩が。君の人生なのだよ。なんつってな!ナッハッハ。」



 ・・・私はーーー


 コレでいいのかと、微笑みながら思った。

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