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コインホルダー 〜異世界で生きるガチなヤツ〜  作者: ノープラン
第一章 プロローグ
30/44

第30話 リンの葛藤 演者


 関係者や保護者、他にも参加者の兄弟や、元々のこの学校の生徒達が見物に来ている。

 中にはお偉いさんや、その護衛数人も付いていたりするので何だかんだ200人程にはなるのではなかろうか。


 ルカクは有名人であり、ファンの子も少なくはないのだ。

 もう既に許嫁が3人決まっており、自由な恋愛が出来ずに困っていると本人がウワサを流している程だ。



 「それでは、双方か・・・」



 主審の合図でお互い構えようとした時、ルカクが主審を左手で制し止めた。



 「ちょっとお時間を頂いても宜しいでしょうか。」



 少しの時間辺りがざわついたが、あたかも当然の権利の様にルカクが振る舞うので皆ルカクの話に耳を傾けた。



 「紳士淑女の皆様。このルカクを見に来ていただきありがとうございます。」



 「紳士淑女の皆様」というフレーズは父がパーティーなどで度々発する言葉だった。

 ルカクは物心付いた時からこの言葉をいつかは使ってみたいと思っていたのだ。



 「このままだと、僕が弱い者いじめをしている様に感じると思うのだが、それは間違っている!」



 ザワザワ。

 ルカクは辺りが落ち着くまで決めポーズを維持し、辺りを見回している。



 「彼女を馬鹿にしてはならない。何せ彼女は田舎では負け無し。大人顔負けの剣術と度量でこの場に立つ資格を得ている。名前はリン・ローダ。以後彼女の名前を覚えておくと良いだろう。」



 「ほう。ルカク様にあぁも言わせるのだ。私はみくびっていたのかもしれない。」



 「へぇ、そんなに凄いのね。」



 ルカクの演説はまだ続いた。



 「僕はとても嬉しいのだ。この様な小さな女の子でも立派に僕と対等の立場に立ち、僕をも追い抜こうとさえする実力者。」



 「何と!にわかに信じられん。」



 「ほぉ、見ものだな。」



 「でも俺はルカク様だと思うな。」



 ザワザワ



 「彼女は僕の初戦の相手に相応しく、僕が全力を持って相手出来る数少ない相手だという事を皆に伝えたかった。彼女と僕は互いに日々訓練を重ね、今。いまようやくこの時が来たのだ。」



 ルカクは故意に間を取り、辺り観客に整理させる時間を作った。

 これもまた彼の父のやり方でいつか真似をしたかった事の一つだ。



 「恐らくこの戦いは一瞬で決着が付くだろう。私は事実ここが決勝だと思っている。」



 ザワザワ



 「そんなに強いのか。」



 「ルカク様大丈夫かしら。」



 ルカクは今が頃合いかと見定め、リンと向き合いまた言葉を紡いだ。



 「例え彼女が僕に敗れようとも、彼女は決して弱者では決してない無い。彼女が居なければ僕はここまで強くなれなかった・・・。」



 「ルカク様も努力なされているのだな。」



 「素晴らしい・・・。これでこの国も安泰かしら。」



 「ルカク様に・・・。」



 「そして今!!感謝の気持ちを込めて、僕は全てを出し切り彼女にぶつける!!」



 「・・・。」



 リンはもう、何が何やら分かっていない。

 ただ、この目の前に居る男をぶちのめしたいという気持ちと、殺意が芽生えているのだけは理解できている。

 そして本当に人を切ってもいいのかと前日の夜震えていたのが嘘の様だ。



 「さぁ、始めようかリン・ローダ。僕の力を見せてあげよう!!」



 「それではよろしいでしょうか・・・双方、構え!!」



 主審もルカクの演説に当てられてさっきとまた様子が少し変わった。

 辺りも唾を飲み込み、2人の行方を見守っている。



 手合い時、構えの段階で両者は精霊を待機させる。

 ルカクの武器は大きな長物の矛だ。

 肢の部分には装飾が施され豪華な作りになっている。

 足を広げ矛を前に突き出し、突進の構えだ。

 背後には持ち霊の『ノア』がルカクと同じ構えをし、見る人が見たら見える。

 ルカクを見に来たファンもコレを見に来たんだと言わんばかりに目を輝かせた。



 対するリンはこの日の為に父から打ってもらった刀を両手に握って切っ先をルカクに向け構えている。

 刃渡は自分の腕より少し長い位。

 幅は拳一個分くらいで広く、厚みも分厚くある程度重みがあるのだが、見た目程重くはない。

 刀と言っても少し違い、リンの扱いやすいよう改良されたオリジナルの武器だ。

 父が言うにはミスリルを少し練り込んでいる事で強度はそのまま、ミスリルの特性を活かして全体の体感比重を軽くしてあるのだそうだ。

 この刀はリネイルが2年かけて打ち込んで作った名も無き業物で、ボロボロになるまで使い込めと父から言われている。


 リンは何故かルカクに怒りを覚えながらも少し嬉しかった。

 彼から出た嘘だとしても、彼から認めてもらった気がしたからだ。

 父から貰ったこの刀。

 そしてリネイル、セリーヌの視線。

 力が湧いてくるのがよく分かった。

 そして、それ以上は考えなかった。

 迷いは無かった。



 辺りに静けさが戻り、ここに居た皆が集中していた。

 その静けさと言ったら外の木の葉の擦れる音が聞こえる程だ。

 皆の緊張の糸が張り詰める中、主審の声が響いた。



 「はじめ!!」



 「はぁぁぁ!!」



 「・・・。」



 主審の合図で両者はそれぞれ違う動きを見せた。

 ルカクが突進し、大きな矛を最小限の動きで突き出し、更には突き上げようと踏み込んだのだ。

 この一連の流れは彼の一番得意とする矛術で、次の動作にも移りやすく、攻守のバランスの取れた最も安定した技だ。

 彼はこの技に絶大なる信頼を置いており、この一撃でほぼ勝負は決すると思っている。

 そうでなくとも突進のスピードについて来れないリンが第一撃をまぐれで防いだとしても、第二、第三の追撃により彼女を打ち取るイメージが既に出来ている。

 ルカクはそれを無意識に動けるよう今まで鍛錬してきたのだ。


 リンは呼吸を止め無呼吸の段階に入っていた。

 ドワーフの特性を活かし、常人の数倍酸素と大地のエネルギーを体内に取り込み一気に放出する流れだ。

 リンもルカクと同じく勝負は一瞬で決まると思っている。

 3手。

 いつもの3手だ。

 ドワーフの特性を活かし体を重くし、部分的に硬質化させ、体内に取り込んだエネルギーを爆破させると3手で呼吸が尽きる。

 リンはルカクを格上と認め、刹那の時間に全てを注ぎ込むつもりだ。

 そして・・・。



 バチン!!!



 ルカクの矛がリンの刀の側面を捉えた。

 リンがルカクの切り上げを受けたのだ。

 ルカクにとっては想定内だった。

 むしろ愚策。

 このまま押し込みバランスを崩したリンの喉元に一突き、又は薙ぎ払い、どんなコンビネーションにも繋げれる。

 ルカクはリンが受けようとした瞬時に勝利を確信した。

 がしかしリンがリカクの攻撃を受けた瞬間、その確信は間違っていたと改める事になった。

 ルカクは想像も絶する規格外と遭遇したのだ。



 リンがびくともしない。

 木の床に足がめり込む程の踏み込みでガッチリと体を支え、左手で抑えた刀は何事も無かったなかったの様にドンとそこにあった。

 リンがルカクの踏み込みに合わせて同じ力で受け、合わせたのだ。

 しかしこの力のぶつかり合いは拮抗せず、ルカクの突進の勢いはもう無い。

 それどころかリンの受けはルカクを矛ごと弾き返した。



 「あ。」



 ルカクは今の状況に戦慄し、思わず声が出た。

 この一手で全てを悟った瞬間でもあり、演者が解かれた瞬間でもあった。

 ルカクはまず何が起きているのか分からなかった。

 いや、自分が隙だらけだという事だけは理解していたが・・・。


 しかしルカクは腑に落ちなかった。

 間違えて床を切り付けてしまったのかと錯覚したのだ。

 しかしそうではないとハッキリ認識もしている矛盾。

 例え床を切り付けたとしても床の木材もろとも抉り取る事が出来る自信がある。

 一体何が起こったというのか。

 床ではなく、鉄の塊か・・・。

 鉄の塊を切り付けたようだ。

 自分の体重の10倍はあろうかという、鉄よりも硬い何かに突進し弾き返された感覚。


 走馬灯の様に彼は今の状況を理解し始めた。

 彼の優秀な脳はその当然鉄よりも硬い何かが何かを理解している。

 リンの刀だ。

 言い換えるならば、リンが踏ん張り受け固めている刀だ。

 きっと何かの術で防御力を強化し、弾き返したのだろう。

 木の棒を丸太に投げつけて弾き返ってきた様にルカクは弾き飛ばされたのだ。


 なまじ頭の中が整理出来つつある彼は見た。

 目の前のリンが水の流れる様な無駄のない動きで、受けの構えから右下段に構え直すのを。

 こんなに美しい流れる様な構えは大人でも見たことが無い。

 練習中の彼女の動きはもっと遅かった筈だ。

 しかし何故・・・。


 ルカクは弾き返されながらもリンの攻撃が来ると瞬時に察知し、矛を手元に引き寄せ自分の体の前に持って来れた。

 我ながら素晴らしい動きだ。

 もし僕がリンなら相手に防御させる間も無く素早く追撃し打ち取っているだろう。

 だが相手はそれが出来ていない。

 一瞬死を悟ったが、大丈夫まだいける。


 このまま体制を立て直してリンの攻撃を回避し薙ぎ払い一閃。

 この技は僕の守護霊得意の技。

 守護霊が現役の時、この技で世界を圧倒したと聞く。

 技も最強。

 そしてスピードでは僕の方が上。

 経験は言うまでもない。

 そう、何も問題無い。

 僕が負けるはずもない。

 思ったより防御だけは強いようだが、まだまだ僕の足元にも・・・


 刹那、リンの体がブレたように見えた。

 何故ブレたのかを考えようとした瞬間にはもう既にリンは視界から消えていた。

 いや、もう既に目の前に迫っており見失っていたのだ。



 「くっ!」



 何故だ。

 僕は彼女に体ごと弾き返され、彼女の間合いからは外れていた筈だ。

 なのに彼女との距離はスッと縮まっている。



 ガギン!!



 リンの右下段から振り上げられる切り上げは、右足の踏み込みと同時にルカクの矛を捉えた。

 両手で矛を押さえるもリンの切り込みが早過ぎてしっかり防御出来ていない。

 リンの刀は障害物など何も無いかの様な軌跡を描き矛ごとルカクの体を押し込んでいく。

 押し込んだリンの刀の切っ先はルカクの腹部を捉えながらもグググと押し込んでいく。



 「あぁぁぁ!!」



 ルカクの叫び声が木霊する。


 一方リンは冷静だった。

 最初の初撃を受けた時から彼女もまた全てを悟っていたのだ。

 リンはルカクの矛を弾き返した瞬間、ルカクに興味が無くなった。

 そしてリンはいつもの日常を取り戻したのだ。

 いつもの様に。

 何回も何回も遊びで丸太を薄切りにしてきた様に。

 一、二、三と、受け構え、踏み込み、振り抜く。


 無意識に繰り出されたそれは、ルカクの矛を歪ませ、肋骨を深く断ち切りながら本体を建物の壁へ叩きつけた。

 ルカクは建物の外でうずくまり、意識の無いルカクから離れた矛はどこかへ飛んでいった。



 勝負が決した瞬間だった。



 観客は全員壁に空いた穴を見ていた。

 しばらくの時が流れ、ルカクがその穴からもう出て来ないのだと察すると、この建物の中心に立つ1人の少女、リンへと目線が集まる。


 リンは飛ばされた先の建物の穴に剣を構え敬礼をした。

 そしてまた審判に敬礼をし、観客の皆にも敬礼した。

 敬礼は昨日父から習ったものだった。

 剣を自分の前で垂直に立て、クッと握り込むのだ。

 本当にこれでいいのかまだしっくりこず、恥をかいていないか心配なリンであった。


 鎮まり切った会場の中、ピュッっと刀を一振りし血を飛ばし、鞘にパチンと刀を収めた。



 「ふぅ。」



 リンはホッと一息ついた。


 

 半ば冗談の様なこの状況で、皆でどの様な反応を見せればいいのか分からないでいた。



 「おい、救護班!!」



 治癒術師達はハッと我にかえり動き出した。

 救護班と叫んだのはリネイルだ。

 リネイルが冷静な判断が出来たと言う事、それはリネイルがリンの勝利を信じていたという意味でもある。



 「しかしリンのヤツ、やっちまったなぁ。」



 「そうですわね。これから大変になるのでしょうか?」



 「ま、どうにでもなるだろ。しかしやっぱり見ていてヒヤヒヤするな。心臓に悪いぞ。」



 「そうね。でも・・・リンも大人になったわね。」



 ロード夫妻の目にはうっすら涙が浮かんでいたが、リネイルはすぐさま現実に引き戻され今後のあり方を模索した。



 「さて、どうなるかな。」



 時間にして半刻も経たない程だろうか。

 ルカクの安否が確認された。

 肋骨から切り込まれ、体の3分の1は刀が食い込んでほぼ死んでいたが、治癒術師の適切な処置で難なく一命は取り留めたそうだ。

 その一報に皆、安堵しそれは良かったと言い合ったのだが、中には顔がニヤけている者も多い。

 大声で笑ってしまうのを我慢しているように見える。

 皆関係者にリカクを馬鹿にした態度を見せてしまっては自分の地位が危うくなるのも知っているのだ。

 だが関係者のいない場所は別だ。

 そして多くの者がこの事を思い出す度に笑ってしまう事を覚悟した。


 なぜか激怒している人も居るし、中にはヤレヤレと頭を抱える人も少なくは無い。

 ルカクの事を大好きなハズと心配そうにするファンの目もあった。


 しかし試合予選は始まったばかり。

 ルカクの脱落も介せず、予選は消化されていった。

個人的にこのルカク様が一番好きかも(笑)

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