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コインホルダー 〜異世界で生きるガチなヤツ〜  作者: ノープラン
第一章 プロローグ
28/44

第28話 極端な力 嵐の後の静けさ



 「オラァ、テメェら!この世は何が全てか分かるか!!そこの貴様。立て。」



 「は・・・はい。」



 「ダメだ。不合格。・・・ここに立て。」



 「え?・・・えぇ!?」



 そう言われたひ弱そうな少年は、床に丸と書かれた印の中に入った。

 ムキムキマッチョな教官が幾つかある紐を一本を切った。

 するとシュルシュルと紐が緩み、仕掛けてあったのであろう紐が立たされた彼を襲い逆さの宙吊りにした。



 「う、うわぁぁ。」



 「フン。そこで足の甲に100回タッチしろ。終われば降ろしてやる。活かしてやるだけありがたいと思え。」



 一斉に教室に緊張感が走るのが分かる。

 ヤベェの来たなこれ。

 死んだかもな。

 俺。



 15分程前ー



 僕はいつもの様にニアとアリシアと教室に来ていた。

 今日は特別講師が来るそうなのだが、どうやら僕も入れたようだ。


 最近は母の顔も父の顔も見ない。

 聞いた話によると、この一帯から半日程馬で行った場所に第二訓練所というのがあるらしく、この国代表者が訓練を受けているそうなのだ。

 リンもその参加者で、そのサポートに両親のセリーヌとリネイルが付くのだとか。


 通常ならリンの訓練を優先して僕もくっついていく流れだとは思うが、僕は前から手のかからない子で有名だったのもあり、アリシアとニアが面倒を見るという流れになったそうだ。

 まぁ、僕からしたらご褒美だな。

 色々動きやすいし。

 合法エロイベントで鼻血が出過ぎて死なないかだけが心配か。


 ニアには情報収集も兼ねて、僕をなるべく授業に連れて行ってくれるよう頼んである。

 アカミナ達3人がいるとしてもあのカオス会場は苦手だもんな。

 それに僕には護るべき嫁が居るのだ。

 そして・・・あの三人はもう僕に関わるべきではない。



 「あ、あのぉ。席についてください。」



 何か気配の薄い人が来た。

 心なしかげっそりしてて色素の薄い感じの人だ。

 着ている服もそうなのだが、存在自体が申し訳なさそうにしている。

 この世界には珍しく男だ。



 「あ!あの人がシュナイダー先生かなぁ?」



 「そうみたいね。ちょっとカッコいい・・・かも。かなり上位の教官らしいわ。・・・そうは見えないけど。」



 「私、実はちょっと短めのスカートにして来たんだ。似合ってるって言ってくれるかな?」



 「どうりで今日かわいいと思った。どうだろ?そだね。授業終わったら二人でお昼誘っちゃう?」



 「いいねいいね。」



 窓際の席に座っているアリシアと同世代と思われる子達が話している。

 やたらピンクな会話だ。

 この世界では女性の比率が高く、積極的にならなければ勝ち取れないみたいな雰囲気がある。

 特に成績優秀者や位の高い人は2人3人と嫁を娶る方針にあるらしく、多い人では10人以上妻が居るそうな。


 僕からしたらとんでもない事だ。

 干からびてしまう自信がある。

 けどまぁ、あれだな。

 家事育児は大変だからな。

 色々手分けしたり分担出来るとなれば効率的なのかもな。

 知らんけど。



 パン・・・パンパン



 「さぁ!!!授業を始めるぞぉ!!!」



 !?



 大体いつも授業の終わりと始まりに3回破裂音がする。

 花火みたいな音だ。

 チャイムの代わりみたいなものだろう。

 その音が鳴ると共に彼の筋肉もうなった。

 細身で猫背だと思っていたシュナイダーとか言う講師がいきなり一回り、いや二回りは大きくなり、ムキムキになったのだ。



 「んー・・・全員居るな。余計なのも居るが。おいお前。」



 「はい。」



 「そのガキはしっかり面倒見ろよ。邪魔したらつまみ出すからな。」



 「はい。」



 おー怖。

 余計なのとは僕の事だろう。

 許可はとってるはずだけどな。

 にしても答えたアリシアの胆力が凄い。

 全く怯まずに平然と答えた。

 しかし何だこの人。

 テンションのギャップでついていけねぇ。



 「セレン君大丈夫?」



 「だ・・・大丈夫。」



 まぁ、僕も全てを覚悟しているつもりだ。

 いや、つもりじゃない。

 覚悟している。

 この位で丁度いい。

 今日は来て良かった。

 さぁ、始めてくれ。



 ーーー



 「オメェらは何一つ分かってねぇ。それを分らせるために今日ここに来た。次はお前だ。立て。」



 「・・・はい。」



 「この世は何が全てか答えろ。」



 「力・・・ですか?」



 「正確だがダメだ。お前もここに立て。」



 「え!?ヒィィ・・・。」



 するとまた1人が宙吊りにされた。



 「誰か数えておいてやれ。ズルしたら3倍やらせる。」



 パワハラだろ。

 しかも点典型的な。



 「さぁて。次は誰にしようかな。どうもヒラヒラしたのはいてる女を吊れば面白そうだ。次は女にするか。」



 「ヒ・・・。」



 さっきピンクなガールズトークをしていた女の子達の声が聞こえた。

 ビクリとして震えているのが見なくても分かる。

 するとカン高い声で何処からか声が聞こえた。



 「私が答えますわ。よろしいでしょうか教官。」



 「何だガキ。吊るされたいのか?」



 「吊るされたくはありませんわ。ただ、さっきの答えが力と仰った事の補足をと思いまして。」



 「まぁいい。答えろ。」



 「力とは全てのことを言いますわ。単純な腕力、お金、経済力。カリスマ性、影響力。知識、知力。それらを一括りにしての力。それが答えですわ。」



 「んー、間違ってるが正解だ。座れ。」



 「あへ?」



 所々聞こえるこの声の主。

 僕の目線が低くて視界が悪いせいで顔と声が完全に一致している訳ではないが、多分あの人だ。

 金髪で立て髪ロールのお嬢様。

 ちらっとだけ、何回か見たことがある人だ。

 しかし根性あるなぁ。



 「さっきの金髪ロール吊るしてもなぁ、じゃぁガキ連れてる女。お前が答えろ。」



 「はい。」



 アリシアが指された。

 指された時違和感があった。

 シュナイダーから殺気の様なものを感じたのだ。

 そしてアリシアからも負けじと殺気を感じる。

 アリシアの殺気には子供だからか、頼もしさを感じた。



 「力、単純な戦闘力。相手を無力化する力。ただそれだけです。」



 「ほう。正確だ。だがお前ここに立て。」



 「嫌です。」



 「・・・フン。いいだろう。俺と決闘だなぁ。」



 おいおい。

 コイツクソ野郎か。

 


 「ちょっと待てよオッサン。」



 「あ?何処のどいつだ。」



 「カシナ出身のコーガってんだ。決闘なら俺とやろうぜ。力が全てなんだろ?今か・・・。」



 コーガなる男の声が、ガタッと椅子のズレる音と共に止まった。

 なにが起こっているのか僕には分からない。



 「ん?どうした?まだ喋るか?」



 「んガッ・・・ハッ・・・!!」



 ・・・。

 展開が早すぎてついて行けない。

 何かが光ったと思えば少しの音と共に風が吹き、シュナイダーが教室の一番端に居るコーガの首を押さえている。

 瞬間移動でもしたのか?

 いや、恐ろしく早く動いただけか。



 「・・・まぁ、この辺でいいだろう。」



 するとシュナイダーは懐からナイフを取り出し、最初に吊るされた生徒のロープを投げて切り落とした。

 もう一本のロープはコーガを抑えていない方の手で何かを掴み握りつぶすと何故か離れた場所にあるロープが切れた。

 ドスドスと落ちて来た生徒は頭に血が昇りぐったりしている。



 「このくらいでへばるとはな。・・・お前が1番見込みがある。後で決闘ならしてやるぞ。いい目だ。まぁせいぜい死ぬな。」



 「ガハァ!!・・・ハァハァ。・・・チィ。」



 シュナイダーは、ゆっくり教室の上段から降りながらまた口を開いた。

 授業の再会のようだ。



 「お前、名前は?」



 「アリシアです。」



 「ラストネームは?」



 「ガルダです。」



 「ハッハッハァ。なる程なぁ。どうりで肝が据わってるわけだ。しかし似てねぇなぁ。アリシアか。覚えておこう。で、そのガキは?」



 「お世話になっている人から預かっています。」



 「子供を守る女は強えからな。・・・なる程。まぁしっかり守ってやれや。」



 「どうも。」



 アリシア強え。

 かっけー。



 「まぁ、こんな感じだ。分かるか。」



 シュナイダーは辺りをじっくりと見ている。

 しばらくの沈黙が教室を支配し、シュナイダーがその沈黙を破った。



 「俺の友人は皆いいヤツでなぁ。皆、身も心も強い屈強な戦士だった。頭がキレる奴も居れば、装備にスゲェ金掛けてる奴もいた。皆んなの意見をまとめるのが上手なヤツも居たし、すんげぇ美人なヤツも居た。でもなぁ、皆死んじまったんだ。何故だか分かるか?」



 あの理不尽な問答の後だ。

 誰も答えようとはしなかった。



 「・・・ん、それは弱かったからだ。俺達が弱かったから。それだけだ。あの力の前では何の意味も無かった。経済力?カリスマ?知力?あの前でそんなこと言えるか?バカバカしい。俺はあの時、絶対な力の前では何の意味もねぇって悟ったんだ。・・・どうだ。こんな弱い俺でもこの中では一番強い。綺麗事はいい。たださっきは、一番強いオレがルールだった。そうだろう?外に出れば全てがそうなる。弱肉強食だ。今お前らは強い奴らに護られてるからあまり感じんだろうが・・・。」



 この間。

 また一段と空気が変わった。



 「肝に銘じろ!!!・・・弱ければ死ぬ。覚えておけ。」



 喝を入れたその後の彼の言葉は・・・、荒ぶるでもなく静かでもなく。

 風が吹き、水が流れるかのような言葉だった。

 僕はこの世界の倫理というものに触れた気がした。

 強ければ勝つ。

 当たり前の事だとは思うが、それは中学生までの話だと思っていた。

 彼の言葉は重く、小さな事ではないと思えた。

 ・・・あぁ。

 思えば前の世界でも同じ事か。

 戦争して強い国が勝つ。

 近年では兵器の数や船の数で戦わない戦争しているとも言える。

 より多い兵器を持つアメリカが勝つ。

 今も昔もこの世界でも変わらないという事か。


 ・・・いや、普段争いの無い前世の世界が狂ってたって事か?


 まぁ、今はそんな事どうでもいいか。



 彼の登場はこの教室に居る全員の甘えた考えを引き締めたように感じた。



 「あぁ、ちなみにこの教室に居る生徒、3人までなら殺していいと許可が出ている。まぁ、俺がお前らの授業をする条件でもあるんだがな。まぁ〜安心しろ!!うん!!それだけお前らは期待されてるって事だ。良かったなぁ!!ハッハッハ。そしてさっきのお前。気が変わった。授業の最後に決闘だ。どちらか死ぬまでやろうぜ。」



 皆の顔を見なくても分かる。

 青ざめている事だろう。

 でも何故か・・・。

 何故か僕はやけにスッキリした気分になった。

 このおっさんに跡形も無く僕を消して貰えば全て上手く行く気がしたからだ。

 それにこの世界の価値観。

 人の命をそこまで重く捉えていないのか?

 ・・・僕は考え過ぎていたのか?

 家族の命を守る事を。


 ・・・だとしたら・・・そうだな。

 攻めるのもいいかもな。

 このおっさんの言う通りだ。

 いや・・・、いや・・・。

 まぁ、考えてみるか。


 極端な話、このおっさんの1万倍強ければ細かい事を気にしなくて良くなる。

 だが・・・あぁ、そうだな。

 大切な人を守れるかと言われればそうではないか。

 寝ている時間は守れないし、四六時中いつでも一緒という訳でもない。

 愛する人が居れば居る程弱みを握られ弱点となる。

 ・・・か。


 とある映画の悪役は、覚悟を決めるため、自分の正義を貫くために家族を殺し、好きだった人を殺し、守るべき人を無きにして挑んだと言う。

 確かに強いだろう。

 その映画を見た時は共感さえした。

 ・・・だがそれはあるべき姿ではない。

 そもそも僕は家族を守るのが目的なのだから結果は同じにはならない・・・まぁいい。

 少し思っただけだ。


 ・・・とにかく僕だけが強くなってもダメって事か。


 そう、強く思った瞬間だった。



 「・・・でだ。お前らにこの世界を教えるのが本題になる訳だが・・・。さっき俺が言った強さとは。アレは根本的な話だ。脳みその空っぽのヤツはどれだけ強かろうと使えねぇ。さっきのクルクル金髪の嬢ちゃんが言ったような強さが必要だ。強さの土台の上に技術を磨き、技術の上に知識を練り上げろ。それを心で束ねるんだ。・・・まぁその辺は一回死んでからでも覚えるんだな。一応俺は言ったぞ。いつかその時が来れば反芻して思い出せ。そして噛み締めて飲み込め。そうすりゃ分かる。・・・とまぁ、こんな基礎的なのはつまんねぇか。・・・んー、じゃぁまぁそうだな・・・、俺が旅して来た大陸を教えてやる。」



 そう言うと、シュナイダーは皆に背を向け黒板に向かって文字を書き始めた。

 彼の描く文字は歪で、チョークを何本も折っていた。

 ポキリ、またポキリと。

 かなりシュールな絵が続いたが、生徒達は静かに見守った。

 どうやら書き終わったようで、シュナイダーはまたこちらを振り返った。



 「あー、で、おいそこの銀髪に赤毛混じりの・・・名前何だったか。」



 「チッ、コーガだ。」



 「そうそう、コーガ。カシナ出身だったっけかな。・・・でーお前、何故俺を殺しに来ない?お前はこのままだと死ぬんだぞ?背中向けてアホみたいにしてる俺を何故攻撃しに来ない?そんなに大陸の名前が知りたいのか?行動力が無さすぎるぞコーガ。お前みたいなヤツが一番最初に死ぬんだ。」



 「ク・・・クソが。調子に乗りやがって・・・。」



 バチ・・・バチバチ



 コーガの体に電気が流れているのが目で見て分かる。

 臨戦対策に入ったのか?

 そう思ったがコーガはシュナイダーには飛びかからずに、がじゃんと腰を落とした。



 「フン。」



 「おーおー若いねぇ。しかし俺の挑発に乗らねぇのは上策だ。ちったぁ大人って事か?それとも・・・ただのビビリかぁぁー?」



 「早く授業始めろ。そんなに死にたいなら殺してやるからよ。」



 「いいねいいねぇぇ。悪くねぇこの感覚。俺に傷を付けたら弟子にしてやってもいいぞ?ダハハハ。あぁ・・・でもそれは無理か。お前はここで死んじまうんだからなぁ!残念極まりない!!ハッハッハ。」



 シュナイダーとコーガは今命のやり取りをしているという事か。

 周りの人間も他人事では無いと空気を張り詰めている。

 俺はそうだな。

 他人事だ。

 いっその事こと殺してくれたらラッキーだとさえ思う。

 現実逃避ってヤツだ。

 事故死って事になるのかな?

 僕はこれからやろうとしている事の途方の無さで疲れている僕の癒しだ。

 解放してくれたらありがたい。



 そんなこんなで授業は続いた。


 要約すると、大陸は大きく7つに分かれている説が有力なのだそうだ。

 今居る大陸はヨタ。

 ヨタ大陸というらしい。

 南端の大陸だそうだ。

 東端の大陸ホダタ大陸。

 西端の大陸シエル大陸。

 北端の大陸フォルドール大陸。

 それぞれの大陸は海峡を挟んである程度は繋がっているそうだ。

 時期によっては歩いて渡れるが、時期によっては船で3日はかかるそうな。

 そういった情報は各港町で厳密に管理され、高値でやり取りされているのだそうだ。

 大陸の行き着く先は断崖絶壁の崖で、海の水は地平線の彼方まで滝になって流れているそうだ。

 何処ぞの冒険家、コル何とかって人が、その崖の深さを調べた事があるそうだが、1か月下に下っても底は見えなかったそうだ。

 海の滝も地面に付いている音さえ聞こえないとかも言っていた。


 本当に世界の果てなんだな。

 天動説が現実化した世界なのだろうか?

 だが地平線があるからして球体のはずだが・・・。



 「とまぁこんな感じだ。中央に大陸よりでけぇ海があってよぉ、その中に島みてぇな山脈が大陸として数えられている。まぁ、その辺は俺も行った事ねぇから詳しく知らねぇんだ。すまんな。あぁ、そうだそうだ。この前そのでっけぇ海でよぉ、ヨタからホダタ大陸に渡った後の海峡だったかなぁ、こんなでっけぇ・・・」



 「やっとだオラァァ!!」



 気が付けば鋭利に切ったパイプのようなものをコーガがシュナイダーに突き立てている。

 空気を読めないヤツだ。

 しかし空気を読んでいたらシュナイダーを倒せないと踏んだのだろう。

 コーガが決死の形相で挑んでいる。



 「ラァラァラァオラァ!!・・・ック。」



 「・・・せっかく俺の武勇伝が。・・・まぁいい。俺が許可する。教室ぶっ壊してもいいぞ!!誰か死んでも構いやしねぇ。俺が責任もつ。悔いの無いないように思いっきりやれやぁ!!」



 「フゥ!!フゥ・・・。」



 コーガの握っているパイプは自分の使っていたイスか机を鋭利に切り取ったものだろう。

 しかしさっきの接触でグニャグニャに曲がってしまっている。

 ・・・。

 あぁ、変な事を思い付いた。

 実は服の下に父から貰ったイエロドラゴンの牙なるナイフを隠し持っている。

 まぁ、実際隠せてはいないのだが、ニアやアリシアを守る為、僕では無く彼女らが護身で使えるよう持ち歩いているのだ。

 その辺この世界ではルーズで、一部の武器はアクセサリーのような扱いをされる。


 気が付いたら僕はコーガにそのナイフを投げていた。

 投げた瞬間に後悔したのだが、もう投げてしまったのだ。

 仕方がない。


 コーガはエロドラゴンのナイフを見ずにパシリと受け取り、シュナイダーへの視線とナイフを重ねた。



 「軽いなぁこのナイフ。・・・でも・・・!!」



 コーガの体を纏っている電気の道が、ナイフに集まっていくのが僕でも分かった。

 ドラゴンの赤い紋章が眩く輝き、ナイフの周りの空気が歪んだ。

 心なしかナイフの刃が伸びているように感じる。



 「コレなら・・・。よく通る・・・。壁唱!!」



 今度はナイフだけでなくコーガの周りの空気が歪んだ。



 「留昇!!」



 「ん?おぉ〜やるなぁ。しかしあれは・・・。」



 シュナイダーは何やら関心している。

 腕を組んで臨戦対策では無い。

 コレは本当にシュナイダーをやれるのでは?

 皆教室の端に避難し、皆コーガを応援しているように思える。

 まぁ、それもそうか。

 下手したらあと2人殺されるんだもんな。

 ・・・あぁ、僕がナイフを渡した理由が分かったきがする。

 僕の頭の整理が済む前にコーガが動いた。



 「折波!!!」



 その言葉と共にコーガは教室の床をぶち抜き加速してシュナイダーに突っ込んだ。

 勢いで教室のガラスは全部割れ、コーガの後方の壁は吹き飛んだのだが・・・その後は静かなものだった。



 「く・・・く・・・!!!」



 「んー、まぁまぁだ。突進は遅いし、読みも甘い。頭も使ってねぇし、武器は借りもんか?」



 「整備に出してんだよ!!」



 「・・・あ?言い訳か!?それがぁぁ!!!」



 シュナイダーの体の周りにさっきコーガがやったことと同じような現象が起きた。

 でも、俺でも分かる。

 桁違いだ。

 どういう原理か分からんが、周りの建物が軋んで埃が落ちて来る程の空気の振動だ。



 「甘いって言ってんだろうが!!!」



 ボコォォ!!



 シュナイダーの拳一撃はコーガを確実に捉えた。

 右拳によるアッパーの様に見えた。

 コーガは吹っ飛ぶでも無く、地面に倒れ込み血を吐いた。



 「コホッ・・・ガハッ・・・。」



 パン・・・パンパン



 ・・・授業の終わる合図だ。

 ・・・教室はさっきの騒がしさと打って変わって葬式の様な静けさだ。

 さっきの合図の破裂音が木霊する。

 その静けさを打ち破ったのはアリシアだった。



 「シュナイダー先生。」



 「はい。何でしょうかアリシアさん。」



 !?!?

 あぁ、そう言えば授業が始まる前はこんなだったなこの人。

 授業の終わる合図と共にシュナイダーの体がまた細身の猫背に戻ったのだ。



 「コーガ君を治療します。良いですね?」



 「勿論です。」



 「ニア、アルダート先生呼んできて。」



 「分かった。」



 アリシアは冷静沈着だ。

 場数を踏んでいるのが伺える。

 ・・・。

 僕に出来ることは無いだろうか。

 アリシアは呪文を唱えるのかと思ったが、コーガの腹部に手を当て何やらブツブツ言っている。



 「お・・・お前・・・。」



 「黙ってなさい。今治すから。」



 「・・・こ、・・・殺してくれ・・・。」



 銀髪の少女の髪が逆立つのが分かった。

 アリシアは相当に怒っている。



 「それが甘えてるって言ってんの。アンタはまだ分かんないの?」



 !!!

 コーガは驚きの顔を見せていた。

 そのように見えただけかもしれないが。



 「あなたにはやる事があるでしょう。貴方は死なせない。絶対に。」



 アリシアも何かの意地がある様だ。



 ・・・その後ニアの連れて来たアルダートとか言う、アリシアに似た銀髪の白衣っぽいロープを着た男か女か分からん様な人と一緒にコーガを治癒した様だ。

 呪文1つで治癒できるのかと思ったが、そう簡単では無さそうだった。

 見える範囲で洞察するに、損傷した箇所、出血具合、修復の順序などを話している様に見えた。

 さながら手術のイメージに近い。


 アルダートが到着してからはアリシアとの彼のやり取りをクラスの皆が見守った。

 依然コーガの意識は無い。



 「えーっと、君の名前は・・・。」



 「あ・・・セレンです。」



 僕は目を合わせないように答えた。



 「き・・・嫌われちゃったかなぁ。・・・はい。コレ。」



 エロドラゴンのナイフだ。

 シュナイダーが僕にナイフを届けに来てくれたのだ。

 ・・・今なら僕でもこの人倒せるんじゃないか?



 「君はコレを何処で?」



 「お父さんから貰った。」



 「ほう。・・・なるほど。大事にしなさい。」



 この人はいったい何なんだ。

 もう殺気を感じられない。

 僕は死ぬチャンスを逃してしまったようだ。



 「・・・アリシアさん。ありがとう。アルダート先生も。生徒の皆さん。今日は大変失礼致しました。ですが、私の伝えたかった事がお分かりでしょうか?私は毎度この授業をする時、死を覚悟しております。その意味がお分かりでしょうか?貴方達の半分は10年もしない内に死ぬでしょう。どうか、どうかそうならないように私は願っております。・・・では、コレで私の授業を終わります。」



 「・・・。」



 「・・・では皆さん、今日はありがとうございました。」



 帰り際、シュナイダーは痛そうに掌を見ながら教室を去って行った。

 さながら台風が過ぎ去った様な安堵感を覚えた。


 そのせいか、シュナイダーのありがとうございましたの言葉に誰も返事をしなかった。

 皆呆然と立ち尽くし、目の焦点が何処にも合っていなかった人がほとんどだ。


 ニアと僕とアリシアと数人は例外の様だったが。

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