第26話 とある日常ではない日常 忍び寄る影と覚悟
とある日とある場所で。
「兄貴兄貴兄貴ィィィ。」
「どうしたギル。」
「一体いつになったら強い相手とやらせてくれるんですかい?」
「いつだろうなぁ?」
「ちょ・・・ちょっと待ってくれよ。俺はずっと強いヤツと戦いたくてミミっちぃ魔獣の数を数えたり、クズみてぇな人間の数を数えさせられてきた。毎日毎日毎日毎日だ。」
「それがどうした。」
「もう明食始まってから半年以上経つぜ!?もうそろそろ骨のあるやつとさぁ、ねぇ?兄貴。」
「・・・そうか。分かった。相手してやるからかかってこい。」
「ちょ!!ちょーちょーっと待ってくだせぇ。そうじゃないんですわ。なんて言っていいか、そのぉ・・・。」
「フン。分かったから北に行って魔物の群れの進路を変えてこい。あの村はまだ先の予定だ。」
「えぇ・・・そんなぁ。」
「早く行け。ボサッとするな。・・・あと3ヶ月だ。3ヶ月したら人間共が面白い事をやるはずだ。そこにお前も参加していいぞ。」
「さんかげつ??ホントですかい?兄貴!!・・・ってぇ・・・何をするんです?」
「戦うんだよ。何でもありだ。ルールは無いらしい。勝てばいいんだ。200年前も俺が参加したんだが・・・解放を使わなければそれなりに楽しめるぞ?」
「ッハァ!!そりゃ楽しみだ。するってぇと、やっちまってええんですかい?」
「・・・好きにしろ。ただ、解放は無しだ。そういう決まりだ。いいな?解放は無しだ。分かったら早く北に行け。」
「分かりやした!!ヘッヘッヘ。きたですね?楽しみだぜぇぇ・・・。さぁ、かわいい魔物ちゃん達は何処かなぁ?・・・きたかぁ・・・。」
そう言うと魔人ギガルダスは両手で空を突き刺し、黒いプラズマをバチバチさせながら空間をこじ開けギガルダスは意気揚々と何処かへ消えていった。
「ふん。あいつの相手は疲れる。」
辺りは夕陽で赤く染まり、その中で残された魔人テラリオルはため息混じりに言葉を漏らした。
「・・・あぁ、今日も夕陽が美しい。」
テラリオルは両手を大きく広げて目を細めた。
「素晴らしいものだ。それも『あの方』あってこそ・・・。はぁ、私は恋をしたのだ・・・結ばれる事のないこの想いは何処へ向かうというのだろう。・・・言わずとも分かっております。必ず守ってみせます。愛を込めて・・・。」
テラリオルはそう言うと、夕陽に向かって赤い涙をこぼした。
ーーー
あの夜の後、僕とニアは泣き過ぎて相当に目を赤くしてしまった。
変に疑われるのも嫌だと思い、ニアの目をどう誤魔化そうかと思ったが、ニアは早々に下手な朝食を作り、寝ぼけたアリシアの頬にキスをして早々に立ち去っていった。
用事を思い出したとかも言っていたか。
僕はというと子供だからな。
色々方法はあると思うが、テーブルの脚に足の小指をぶつけ号泣した。
コレで目が赤い事は誤魔化せたと思う。
それから数ヶ月が経った。
一応僕が異転者だという事はニア以外誰にもバレていないと思う。
しかしあれからというもの生きた心地がしなかった。
僕は関わる人を全員不幸にさせてしまう存在になってしまったのだ。
そんな中、僕が知らずに暴走してしまうのを避けるために、ニアは自分の命を顧みず進言してくれたのだ。
僕にそんな事が出来るだろうか。
ニアが強い人だと改めて思ったものだ。
僕は色々調べる事が出来ない。
いくつか理由がある。
簡単に言うと、異転者の事を調べる賢い子供が居れば異転者だと怪しまれるからだ。
それに何処で調べればいいかも分からない。
子供の体でいる事をこれほど悔やんだ事があるだろうか。
僕はニアに任せなければならない。
何から何までニアには申し訳なさでいっぱいだ。
ニアは色々と動いてくれた。
でもあまり目立たない様にと念を押していたのもあってか確信に至る程までの情報は集まらなかった。
歴史書から過去の異転者の情報を拾ったりも試みてくれたようだが、辛うじてそれっぽい一文が見つかっただけだった。
『アルス歴6802年。転生者と名乗る少年現る。転生者、我々の理解を逸脱し国から離れる。6812年、その少年成人し魔術と奇怪な術を用い、ココ我が国と宣言す。6824年、その国魔人の襲来により滅ぶ。数人生き残るも皆、理から逸脱。6825年、虚言を繰り返す最後の一人を処す。一連の事件を異転者村魔人襲撃事件と定め、異転者災いの元とす。』
1000年以上前の一文だ。
最初は日本語でメモを取ろうとも思ったが、そのメモが誰かに見られたらマズイと思いやめた。
記憶力は無いのだが、理解力はあるつもりだ。
一度理解してしまえば忘れないだろう。
しかし細かい言い回しや表現までは思い出せない。
この世界の文字も読めないし、忘れないよう定期的にニアに読んでもらう事にするか。
ニアはと言うと、あれからまた何回か遊びに来た。
遊びにと言っても夜僕と話す為にだろうが。
あれから1週間もした頃と、さっきの一文を見つけた時に一回、それからは1週間に一回か、2週間に一回は来ている。
ちなみにリンはアレから一回も見ていない。
そんな中、アリシアが目を丸くして口を開いた。
「セレン君聞いて。驚くわよ?」
「へぇ〜何?」
正直あまり驚きたくない。
最近は色々と驚きを通り越して心身共に疲れ果ててる感じだからな。
楽しい事でも楽しめない自信がある。
頑張ってリアクションをせねば。
「終焉祭って知ってたわよね?3ヶ月後にやるお祭りのこと。」
「うん。知ってるよ。」
「凄いわよ〜?リンちゃんね。終焉祭の代表に選ばれたんだって!!凄いのよ~?家族にも補助金も出るらしいわ。私が8歳の頃はてんでだったなぁ〜。どう?驚いた?」
!!!
・・・驚いた。
マジか。
終焉祭をどうやって避けるかを考えているのに、その一手で詰んでしまった。
「ん?どうしたの?」
嫌な方の驚き方をしてしまった。
多少隠せては居るが、アリシアにその不自然さを読み取らせてしまった。
誤魔化さねば。
「え、えー!お姉ちゃん凄いね!!」
「お姉ちゃん、いっぱい勝って優勝しちゃうかもよ?」
「怪我しちゃったりしないかなぁ?」
「フッフッフ、大丈夫よ。私も含めた4人の治癒術師がすぐ側で待機してるから。もし事故が起きてもお姉ちゃん達が全部治しちゃうんだから!」
「へぇ〜。シアネェも凄いね!!」
「へへへ、ありがと。」
アリシアはそう言うと、僕の頬にキスをしてくれた。
心が痛い。
僕はアリシアを好きになればなる程苦しくなる。
家族やアカミナ達の事も。
親密になればなる程心が痛い。
・・・辛い。
「ちょっと眠くなっちゃった。」
「あらそう。もう暗くなってきちゃったからね。そろそろニアも来るとは思うけど・・・。」
辛くなったら寝ればいいのだ。
子供に与えられた特権でもある。
僕は一回寝れば嫌な事を忘れ、感情をリフレッシュ出来る。
筈だ。
記憶力が乏しい代わりに得た特技だ。
生前、僕はこの特技に何度救われて来た事か。
だからか記憶力が高すぎる人も良し悪しなのだと思う。
忘却力は時には記憶力よりも大事だと思う。
この世界に忘却術はあるのだろうか。
そうだ。
潜在意識ごと記憶を無くせる魔術みたいなのがあればいいんだよな。
それがあればニアにそれを施術してもらって僕が行方不明になれば全てが解決する。
ニアを巻き込まなくて済むからな。
今となってはニアもアリシアと同じくらい信用している。
記憶を消す事を模索はしているが、ニアにはあまりその事は話さないようにしている。
大きな希望を抱くと、絶望もそれに比例して大きくなってしまうからな。
「はぁ。」
しかし僕は無力だ・・・。
(そんな事ないよ?)
ありがとう、サーチャ。
(私はまた・・・セレンと話せて嬉しいよ。)
精霊とはある程度話せるようになってきた。
ちなみにサーチャというのは元嫁のあだ名だ。
サーチャには僕の前の本名ではなく、この世界の名前で呼んでもらう事にした。
誰かに精霊の声を聞かれたらマズイと思ったからだ。
そのせいで異転者だとバレる可能性は低いと思うが、細かい不安要素を徹底して排除しときたいという流れの判断だ。
精霊との対話は、寝る前の中途半端な感覚、夢か現実か分からないような、その状態の時に精霊と話せるようだ。
一応瞑想で深く潜った時でもある程度話せるが、話せない時もある。
難しいのだ。
寝る時に偶然気が付いて話せるようになったのだが、無意識の中で意識して会話しなければならず、結構難しい。
強く意識してしまえば目が覚めて会話出来なくなるし、意識しなさ過ぎれば寝てしまう。
最初は単語だけでの会話で練習して、今では簡単な会話なら出来るようになった。
この寝てるか寝てないか分からない状態を無意識領域と名付ける事にした。
(大丈夫だよ。きっと上手くいく。セレンなら出来る。私は知ってるんだから。)
・・・変わらないな。
でも僕はそんな人間じゃないよ。
でも、ありがとね。
(そうかなぁ。)
嫁は僕をいつも肯定してくれる。
どんな失敗をしても挫折をしても。
そんな君に僕は愛で応えるのだ。
そして今も愛している。
まぁ、しょっちゅうケンカもしてたけどな。
逆に言えば嫁としかケンカ出来なかった。
本気でぶつかれる相手は嫁だけだった。
誰かが言ったケンカする程仲がいいとはこういう事なのだろう。
あ、そうだ。
サーチャは・・・土の精霊なの?
(そうだよ。)
サーチャはさも当たり前の様に答えた。
いつから?
(さぁ、分かんない。でもね、他の精霊とお話とかは出来るんだよ?偉い人?とかも居るし。この前ね、その人に話しかけられてビックリしちゃった。)
そっちの世界があるって事?
(分かんないけど。まぁそんな感じかなぁ?)
・・・推測するに、僕の今いる世界とは別の、周波数の違う世界があるのだろう。
仮にも精霊界とでも言っておこうか。
そこと交信出来るのが無意識領域。
そんなとこか。
楽しい?
(うん。色々あったけど、今はセレンと話せて嬉しいよ。)
そうか。
それは良かった。
・・・僕も死ねばそっちに行けるのかな?
(ダメ!!絶対ダメ!分かんないけど、絶対ダメ。あなたはいつもそう。あなたは人の為と言っていつも人を苦しませる。悪いクセよ。私の気持ち分かってる?)
あら、サーチャはこんな子だったか?
成長したのだろうか。
嬉しい限りなのだが、言っている意味がわからない。
生前の死ぬ前の記憶がどうも曖昧なのだが、その辺りの事を言っているのだろうか。
正直あんまりよく分からない。
けど、なんかごめん。
(・・・死んじゃダメよ。もう・・・誰かの為に死ぬなんて事はしないで。)
でも・・・。
(私も色々とやってみるから。諦めないで。)
?
別に諦めている訳ではないが、サーチャはそう感じたのだろうか。
諦める・・・か。
僕の意識はそこで途絶えた。
夜目が覚めた。
まぁ、おそらくいつもの時間だ。
見てみると、僕とアリシアとニアで川の字で寝ていたようだ。
アリシアとニアに挟まれて僕がいる訳だが、2人共また薄着過ぎやしないか?
確かに最近暖かくなってきた。
春先と言った感じか?
この世界での衣類は高価だ。
話によると、高価な布地は、大人が両手で広げたサイズで成人男性の月収程にもなるそうだ。
だからか、街ゆく人々は衣服の良し悪しで貧富の差を見極める様な風習がある。
まぁ、分からんでもないが。
アリシアは置いといて、ニアは僕が子供ではない事を知っている。
露出の少ない服を持っているのも知っている。
なのにいつも露出が多い。
僕に襲えと言っているのだろうか?
でもあれからはというもの、そういう気分になれない。
僕に余裕が無いという事なのだろうか。
でも2人の太ももに癒されるのは間違いない。
・・・この2人。
僕が居なければ幸せに過ごせていたんだろうな。
そう・・・。
そう思えば思う程僕の心は闇に落ちていった。
「!!」
あぁ、多分さっき無意識領域に入ったんだ。
それでサーチャに何かされたっぽい。
頭にガツンと何かされた感じがする。
はぁ、難儀な体になったものだ。
・・・。
「・・・ニア。・・・ニア。」
僕はニアの肩を持って揺すりながら言った。
「ん、んんー。」
多分この子、もう起きている。
なのにモジモジしている。
眠たいだけなのか、据え膳なのか。
正直僕はそんな気分では無いのだが・・・。
とりあえずこの子は意味があってここに来たはずだ。
話を聞かねばなるまい。
「あっ・・・、ちょっ・・・。」
僕は指で彼女の脇腹辺りを何回か突いた。
流石に起きたようだ。
「外に出てるね。」
「あ・・・うん。」
僕は一言言うと外に出た。
今日はやけに暖かい。
春の風といった感じだ。
このくらいなら薄着でも寒くないかもな。
「ちょっと待ってよ。」
「・・・。」
「怒ってる?私何かした?」
ん?どう言う意味だ?
どうやら僕は彼女に嫌な思いをさせてしまったらしい。
こういう時は聞くのが1番だ。
「そんな事ないよ?何でそう思うの?」
「・・・まぁ、大丈夫ならいいんだけど・・・。」
「ニアの方こそ、体調は大丈夫?あとね。もう少し肌隠してくれない?困るんだけど。」
「いいじゃない。好きにしても。かわいいでしょ?」
「かわいいけどさ。困るよ。」
「あら、それはどう困るのかな?ん?セレン君。」
なんだ。
やけに今日は余裕があるな。
何かいい事があったのか?
「・・・何かいい事でもあった?」
「まぁね。ほら、またあの場所で話しましょう。」
「・・・。」
何かあるのだろうか。
僕らは秘密基地に到着した。
秘密基地と言っても軽く穴を掘って遠目からは見えない様にしただけの場所だ。
寝床から2分程の場所にあり、普通に大きめの声で喋っても誰にも聞こえないだろう。
ちなみにあれから少し快適に過ごせる様に改良を施してある。
枯れ草を下に敷き詰め、ある程度大きめの木を探して椅子にしてある。
4歳の体力にしては上出来だろう。
僕はほぼ毎日この場所でプライベート空間を楽しんでいる感じだ。
彼女は訓練も兼ねて毎回僕の精霊と記憶を覗いている。
僕の事を信用してもらう為でもあるが。
特別機嫌が悪くなる事も無い為、ある程度は信用してもらっていると判断していいとは思う。
彼女は特異体質の能力を使って僕の事を探るのに、いつでも何処でも何回でも出来る訳では無いと言っていた。
聞いてみると、息を止めるのと同じような感覚らしい。
体力的にも、全力で100メートルを走った時と同じくらいの脱力感に見舞われるそうだ。
1日に3回までしかやらないと決めているらしいのだが、ここ最近は5回以上僕の中を覗くのも普通になってきた。
彼女は訓練だとか言うのだが、正直記憶とか一番人に見られたく無い部分だ。
そんなにおいそれと見せるもんじゃない。
だが、彼女がそれで機嫌が良くなるのであれば、仕方があるまい。
色々と迷惑かけているし、彼女は皆の命の恩人と言ってもいいのだし。
ーーーーー
「よし。契約成立!!」
「え?何だって?契約?」
「フフッ。そうよ?契約。」
「誰と?」
「あんたの精霊とよ。」
「へ?どういう事?」
「いやね。あなたのこと色々見てたら精霊に話しかけられてね。お互いに相談したり、話し合っったりして決めたの。」
「な・・・何だって!?」
「私、あなたのお嫁さんになるわ。誰かさんのせいで私の人生終わっちゃったんだから、それくらい責任取ってもらうの。いいわよね?」
「え?僕と?精霊との契約じゃないの?」
「んー、精霊と契約して、その契約内容にあなたとの結婚が含まれるの!win winの関係よ!」
「は・・・はぁ。僕4歳だけどそんなことあるの?」
「中身は大人なんでしょ?正式じゃなくていいわ。ここが私達のお家。どうせ死ぬんだもの。気分だけでも味わいたいの。責任取ってもらうわ。」
「あぁ、なる程。そういう事か・・・。」
・・・強かなものだ。
僕は跪き、彼女の手を取った。
「僕でよければ。結婚して下さい。」
胡散臭い僕の言葉にニアの顔が赤くなっているのがわかる。
生前の嫁はどれだけ心のこもってない言葉でも喜んでいた。
少なからず女性は言葉に重きをおく傾向にあるのだと思う。
しかしなぜ僕がこの子にこんなにも好かれているのだろうか。
ニアは僕の言葉に被せるように応えた。
「はい。宜しくお願いします。」
そして僕らは正式ではないにしろ結婚する事になった。
まぁ、ママごとみたいなもんだろうけどな。
彼女がそれで満たされるのなら僕も本気でママごとをやろう。
元嫁とも連携が取れてるみたいだし。
女性の望みを叶えるのが男ってもんだろ。
「さてと。今からどうしようか。」
「・・・そ・・・そうね。」
何やらニアが女になっていた。
4歳の僕にどうしろというのだろうか。
とりあえず手でも繋いでゆっくり今後の策を練るか。
ゆっくり両手の掌を上にして差し出すと、ニアもまた両手を差し出した。
僕らはしばらくの時間、目を合わせずお互いの手を温め合ったのだが、その時間がとても尊い時間に思えた。
そしてこの一連の流れが、僕の中で大きな変化をもたらす事になるのだが、この時既に僕はうっすら感じてしまっている。
この子を死なせてはならないと。




