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コインホルダー 〜異世界で生きるガチなヤツ〜  作者: ノープラン
第一章 プロローグ
14/44

第14話 覚悟 誕生日の肉とプレゼント


 父は鍛冶場で使っていた炭を金属の箱に入れて外に持ち出している。



 「肉!肉!肉!」



 子供のようにはしゃいでいるのを見ると、父は姉に似ている・・・いや、逆か。

 姉は父に似たようだ。

 獲物を獲ったらテンションが上がるのがそっくりだ。



 「魔物の肉って美味しいの?」



 「明食ん時の魔物は特に美味くないな。」



 「そうですね。明食によって活性化した魔物は火が通りにくく、通ったとしても焦げやすく、炭化しやすいのです。食べるとすれば煮込みになると思いますが、水分や油分が殆どないので、とても食べれたものではありません。」



 「けどまぁ今日は本明食じゃぁないからな。まぁ焼いて普通に食えるだろう。生の肉は久々なんだ。早く焼こう。」



 父は着々準備を進めて調理に仕掛かっている。


 獲物は切られて頭が無かった。

 血抜きってやつだろうか。

 灰色の毛と黒の毛が入り混じった毛はフサフサとは言い難く、針と毛の中間みたいな太い毛をした狼と言えばいいだろうか。

 でも狼見た事ないしな。

 犬とか狐・・・とも少し違うか。

 そんな感じの魔物がさっき解体されたばかりだ。


 しかしこの世界の人は動物の解体が上手い気がする。

 アリシアが鳥をほぐした時も思ったのだが、父も筋肉と筋肉の間、骨と骨の隙間を通すように切っていく。

 使っているのは鉄製の刃渡り25センチ程の片刄のナイフだ。

 この前のドラゴンの光る白いナイフは使わないのだろうか?

 血と相性悪いとか?

 使い分ける基準が分からん。



 しかしいい天気だ。

 外はまだ日が高く、日差しも暖かい。

 この世界に来てしばらく経つのだが、一年を通して日本より暑くもないし、日本より寒くもない。

 快適だ。



 「魔物・・・他にも来るの?大丈夫なの?」



 「そうだなぁ。もう少し美味しいの来てくれたらいいなぁ。」



 

 ・・・大丈夫なのだろうか。

 まともに返事をする気が無いのか・・・あぁ、きっと僕の緊張をほぐす為にそう誤魔化して言ってくれているんだよな。

 きっとそうだ。


 俺の事を忘れてただ肉を食べたいだけなはずがない。

 僕はそう自分にいい聞かせた。


 世の中都合の良いように解釈していい時もあるのだ。

 そして今がその時だ。



 というか普通にバーベキューみたいになって、楽しい雰囲気出そうな感じなんだけど・・・、不謹慎ではなかろうか。

 いいのか?

 これで。


 父は30センチ程の木の枝を数本用意していて、先を尖らせ、僕の拳程の大きさに切った魔物の肉を豪快かつ繊細に刺していた。

 炭の火力も強過ぎず弱過ぎずいい感じだと思う。

 

 炭で焼くと美味しく焼けるんだよな。

 遠火の強火が美味しさの秘訣ってな。

 焚き火やガスの火では再現できない火力ってのが炭の魅力だ。



 「セレン、塩の置いてある場所知ってるか?」



 知らねぇよ。

 知ってたとしても多分届かねぇよ。

 俺、何歳だと思ってるんだ?

 三歳だぞ。



 「知らない。ごめんなさい。」



 「あぁ、そうか。じゃぁ取ってくる。ミリダン。周りに魔物は居るか?」



 「え?・・・あぁ、残念ながら・・・居ないですね。」



 余裕だなコイツら。

 それともただのバカか?

 ちょっとスベってるぞ?

 ノリが分からん。

 大丈夫か?

 信用していいんだろうか?



 「・・・。」



 知らない男、ミリダン。

 僕は男が苦手だ。

 この男もまたいきなり切りかかったり、殴ってきたりするのだろうか。

 僕はそれに対処できない。

 下手を打たないように慎重に動かねば。

 まぁ、助けたっぽい事もしたからな。

 大丈夫かもしれないが、余計な事をしたって可能性も高い。

 警戒せねば・・・。



 「セレン君は魔物を見るのは初めてかい?」



 「はい?」



 しまった。

 考え事をしていて聞こえなかった。

 唐突にミリダンが話しかけて来たのだ。

 まずったな。

 悪手だ。



 「んん・・・、セレン君は、魔物を見たことがあるかい?」 



 「あ、あぁ・・・初めてです。」



 「魔物の中にもね、普通に話せるヤツも居るし、いいヤツも居るんだ。」



 へぇ〜。

 何か誰かを庇っているのか?

 目的が読めない。

 何が言いたい。



 「知り合いに居るんですか?」



 普通こういう事になるでしょ?

 何が言いたいんだ。

 しかしこの人の目は細くて何を考えているのかよく分からない。

 瞳と声色で大体のことは分かるのだが、この人は読めない。

 己を偽っているような、本音で話していないような・・・。



 「あぁ、そうだね。そうなるか。だいぶ昔ね、喧嘩別れしちゃってね。でも根はいい奴だったよ。あー・・・この事はナイショね。」



 「おいおい、どうしたんだ仲良さそうに。俺も混ぜてくれよ。」



 父よ。

 帰ってくるの早いな。

 余程肉を早く食べたいのだろう。



 「いやぁ、魔族の話をしていたんだ。魔族にもいいのと悪いのが居るーとかね。さっきお父さん、カッコ良かったよーとかもね。」



 「ぬかせ。全部お前が倒したんじゃないか。俺は・・・パンを守っただけだ。ハッハッハ。」



 最後のセリフで、父が冗談だと思うが、キメ顔と低い渋い声で言ってきた。

 無駄にカッコ良いと思ってしまったのは悔しい限りだ。

 あと、息子として恥ずかしいのでやめて欲しい。



 「って事でパンも持って来たぞ。後で食べるとするか。まずは肉だろ。」



 そう言うと父は焼いてある3本の串に塩をふりかけ、少し回した。



 「そうだセレン。爺さんから貰ったあのコインのペンダントあるだろ。今持ってるか?」



 「うん。」



 一応肌身離さず持っている。

 僕の数少ない私物だからな。

 必然的に僕の宝物だ。

 

 首にはかけておらず、上着のポケットからコインを取り出した。



 「ちょっと借りていいか。」



 父が手のひらを上にして僕に向けて来たので、父にコクリと頷きながら渡した。



 父もまたポケットから何かを取り出し、僕のコインのペンダントと合わせて何やらモジモジやっている。

 ん?



 「セレン、ちょっとこっち来てみろ。」



 僕は言われるがまま父の元に歩いて近付いた。



 父は僕の首元に手をやり、またモジモジと何かしている。

 革紐汚いからあんまり付けたく無いんだけど。



 「よし、ピッタリだ。」



 ん?革紐の長さを調整してくれたって事か?



 「ミスリルのチェーンだ。」



 え?今なんて??



 「軽いだろう。・・・うん。いいね、似合ってるぞ。」



 父はまた僕の首元に手をやると、またモジモジやって僕の首から外し、僕に見せてくれた。



 「ミスリルですか。珍しいですね。」



 「あぁ、嫁さんにあげたヤツが昔、切れてしまってな。短くなってしまったから使ってなかったんだが、今回丁度いいと思ってな。本当は光に当たると凄い光るんだけど、こいつは艶を消してある。普通の鎖にしか見えないだろう。どうする。このまま首に掛けとくか?」



 ・・・。

 僕はちょっとまだ頭の整理が出来ずボーっとしている。

 えーっと、汚い紐が綺麗になって、母が付けていたものを首に掛けておけば、守られている様な感じになっていいかもな。

 反射的に父の問いに縦に頷き、外したネックレスをまた父から首に掛けてもらった。



 「あぁ、コレはついでだ。こっちが・・・。」



 そう言うと父は、僕の腰回りに何かを巻いた。



 「こっちはまだちょっとデカイな。けどまぁ、似合ってるぞ。」



 腰を見ると革の分厚いベルトが腰に巻いてあり、それと平行にナイフの様なものが、そのベルトに付いている。

 革の鞘にそれが刺さっているのだ。

 ん?コレどこかで・・・。



 「イエロドラゴンの牙だ。子供が持つには丁度いいだろう。」



 良くわからないが、僕は少年心をくすぐられエロいドラゴンの牙を抜こうとした。

 ・・・抜けない。



 「ここを外すんだ。」



 簡単に抜けてしまわない様に、ストッパーみたいな仕組みがあるようで、父が片手でさっと外してくれた。


 スッと抜いてみると、ハッと思い出した。

 このナイフは覚えている。

 父が鉄屑の中のパイプを輪切りにしたナイフだ。

 言うなれば斬鉄ナイフ。

 ヤベェだろこれは。

 子供に持たせちゃ。



 「この牙は魔力を通さないとほとんど切れないからな。ほら、切ってみろ。」



 父はそう言うと、自分の腕をグイと差し出した。


 へー、そうなんだ。

 いや、え!?

 いやいや、怖い怖い!!

 無理だって。

 切れたらどうするんだよ。

 ほら、俺、転生者だし!!

 よくあるじゃん?

 実は秘めた力が〜とか。


 え、どうしよ。

 切り落としちゃったらまずいだろうからな。

 貫通ならまぁ、ギリギリ大丈夫じゃ?


 それ以上は特に深く考えなかったが、父が早くしろと言わんばかりに腕を更にグイと差し出すもんだから、僕はナイフの先をチョンと当てた。

 いや、ちょっと強めにいっちゃったかも。



 「いてぇ!」



 いてぇのかよ。

 切れねぇんじゃねぇのかよ。



 「先端は流石に痛いな。違う違う、こうやってギコギコするんだ。」



 え?いいの?

 じゃぁまぁ、軽く。

 ギコギコギコ。



 「え!あ゛ぁぁぁ!!!」



 え!?嘘だろ!?



 「あ゛あ゛ぁぁぁ!!!腕がぁぁ!!」



 



 最初の時より声が大きくなった。

 違和感があるが、気にしている場合じゃない。

 

 おいおいおい、マジかよ!!

 服の袖から腕が出ていない。

 切れたのか?

 父が抑えているせいか血は出ていないようだが・・・。

 どういう事だ。

 やはり俺には魔力が・・・秘めたる力が・・・。



 「ぁぁぁ・・・ハッハッハッハ!!」



 あ?

 ・・・あ。

 やられた。


 父は真実の口みたいなノリで、袖から健康な手が普通に出てきてグーパーしている。

 こいつ・・・信用ならんな。

 ふざけるのも大概にしろよな。

 マジでビビった。



 「ハッハッハ。すまんすまん。ビックリしたか?」



 クソ。

 怖かった。

 泣きそうだ。

 子供だからだろうか。



 整理が付かない僕に、父はまた何か言いたげだ。



 「・・・セレン。」



 何だまた真面目な顔して。

 もう騙されんぞ。



 「誕生日プレゼントだ。」



 え?



 「お前が誕生日だと母さんから聞いていた。突然残る事になったからな。頼まれていたんだ。それと・・・あれだ。お前が産まれてしばらく会えなかったからな。全然お父さん出来てなくてすまないと思う。」



 ・・・。

 父は僕をピンと立たせ、腰を落とし目線を僕に揃えた。



 「お父さんは明食が終わったらまた戦争に行かないといけない。お前達を守る為だ。分かるな?」



 ・・・。

 僕は黙ってコクリと頷いた。



 「お前なら出来る。お母さんと、お姉ちゃんを守るんだ。お父さんはお前のような息子を持って幸せだ。誇りに思う。」



 ・・・。



 「覚悟を持て。逃げるな。お前は強い。あ前なら出来る。時にはサボってもいいし、逃げてもいい。けどな。自分からは逃げるな。分かったな?お父さんの代わりを・・・頼んだぞ。」



 覚悟。

 そうか。

 僕はこの世界で生きるという覚悟がまだ出来ていないのかもしれない。

 出来るのかも不安だが。

 命を奪う覚悟・・・。



 しかし突然真面目な話しやがって。

 こんな僕でも父は誇りに思ってくれているのだろうか。

 過大評価だろう。

 僕は何もしていない。

 そう思いたいというか、誇りに思わせてくれという願望なのかもけどな。


 正直、転生直前の記憶が無くあやふやな所はあるが、生前僕は何かを殺したりする事を極端に嫌っていた気がする。

 夏場に出てきて血を吸って来るヤツや、家具の隙間に居たりする黒光してガサゴソ動く例の奴は流石に例外だが、蜘蛛とか蠅とかは、家に入ってきたとしても、捕まえて外に逃した程だ。


 そう思えば、殺って殺られてのこの世界は、僕には合わないのかもしれない。

 覚悟か・・・。



 「いいか、お母さん、お姉ちゃんを守るという事はだな。自分を守るという事だ。分かるか?自分を守れない奴は人を守れない。当然の事だな。そして強くなれセレン。そして強くあれセレン。そしてだな・・・。」



 ・・・ちょっとウザくなってきた。



 「お父さん。肉・・・。」



 「おぉっと!!おぉ、少し焦げているが・・・まぁいいんじゃないか?ん〜・・。カリカリしててそれなりに美味いぞ。食べれるか?・・・あぁ、まぁ〜そういう事だ。4歳か。おめでとうセレン。」



 父は僕の頭をガシッと掴み、グリグリと撫でた。

 色々あったけど、最初出会った頃に比べると雲泥の差だな。

 まぁ、いい事だろう。

 そして素直にプレゼントは嬉しい。



 「セレン君誕生日だったんですね。おめでとう。いやぁ〜、親子愛ですな〜。じんと来ましたよ。僕には息子居ないですからね。ウチも頑張らないとですかね〜。」



 頑張る?

 あの美魔女と子作りを?

 羨ましい限りだ。



 「ウチもまた今回の避難所で3人目を予定してますよ。授かればいいんですけどねぇ〜。」



 ん?

 あー。

 何となく分かった。

 避難所はそういう感じか。


 4年のうち1年だからな。

 子供を産み育てるにはいいサイクルかもしれない。

 戦争して帰ってきて、避難生活中に子作りをと。

 戦争も世界共通で強制休戦か。


 姉のリンも避難所ベイビーで、多分俺もそうだろう。

 って考えたら避難所生活が一気にピンク色に見えてきた。


 ・・・早くいきたい。

 あぁ。

 色んな意味で。

 アリシアの女神様は治癒部隊とか言ってたな。

 大丈夫だろうか。



 気が付けば父はガブガブと肉を頬張りながら残りの肉を捌いて干していた。

 ミリダンはというと、父がぶつ切りにした肉をまた串に刺し焼いている。


 肉を瞬く間に干し終わった父は何か思い出したように立ち上がった。



 「そうだ。地下整理して来るから。ミリダンはこの辺適当に頼む。」



 「あぁ、えーっと・・・はい。分かりました。」



 父はそう言うと肉を頬張りながらパンを2つ程手に取り、家の玄関に向かって歩き出した。

 色々僕に臭いセリフを言って、照れ臭いとかあるんだろうか?

 まぁ・・・いいか。



 「誕生日かぁ。」



 ミリダンが何やらうなっている。

 何だ?



 「セレン君は、何か欲しいものありますか?」



 いやぁ、貰うわけにもいかんだろ。

 ほぼ他人だし。



 「娘と家内を助けてもらいましたし、リネイルさんにも色々とお世話になっておりますからねぇ。」



 あぁ、パン沢山貰ってるし、十分だろ。



 「何も用意してませんからね。どうしましょうか。んー、そうですね。丁度そのプレゼントもありますし、剣を少し教える。というのはどうでしょう?」



 おお!!



 「え、いいの?」



 「おお、興味あるんですね。」



 大人気ない返事をしてしまった。

 あ、今子供だからいいのか。


 最初は興味無いと思ってたけどね。

 魔物が襲って来るのを直接では無いにしろ目の当たりにしたからな。

 最低限の護身術は必要だと感じ始めていた所だ。

 それに父に言われた事もあるし、母や姉を物理的に守る為にもこの世界では必要だろう。



 「じゃぁ、触りだけ教えようか。時間も無いし。」



 ミリダンはそれから自分の流派の構えや基本的な振り方を教えてくれた。

 まぁ教えてくれたと言っても形だけだが。


 俺の剣。

 もといエロドラゴンの牙。


 どう見てもナイフなだけあって片手でしか持てない。

 が、ミリダンの剣も片手剣だったのもあって、まぁ丁度いいって話だ。


 ミリダンは自分の周りに近づくなと言い、距離を取る。

 一歩、もう一歩と離れるがちょっと離れ過ぎな気がする。

 声は聞こえるか?



 「ちょっと危ないな。何かいいの無いかな。ん〜・・・セレン君の牙でもいいけど・・・。」



 リーチが短ければいいって事かな?


 

 「あ、いいのあるよ。」



 「おぉ。」



 「ちょっと待っててね。」



 僕はちょっとワクワクしながら家の玄関の方に向かう。



 「あった。」



 僕は玄関に入るとすぐ左手に立て掛けてある物を見つけて手に取り、ミリダンに渡すべく駆け戻った。

 脚がとても軽い。



 「はい。」



 「あぁ、折れた木剣か。・・・いいね。さすが。」



 僕はまた彼のリーチであろう距離まで離れた。



 「では。まぁ僕の流派だから。参考までにね。軽くやろうか。」



 「はい。」



 「まずは構え。こう。」



 僕はストッパーが外れたままになっていたエロ牙の剣を取り出して、見様見真似で構えてみた。

 しかしこの牙恐ろしく軽い。



 「こう?」



 「そうそう。そんな感じ。」



 細かく言ったら違うんだろうな。

 子供の遊びって感じだろう。

 細かい指摘はされなかった。


 ミリダンは足をピンと揃え剣先を上に向け持ち手はアゴの少し下、胸の上辺りに持ってきた。

 左手は反対に腰に当てている。



 「この構えは始の型。ここから攻める事は無いが、次の型に繋げて攻撃に移ったり、防御、回避の型に移ったりする。左手が重要だ。剣を持った右手と対になる動きでバランスをとるんだ。」



 何か何処ぞの騎士みたいだな。



 「そして重心を落として、こうね。これが動の型。」



 言うとミリダンは左足を引き、腰を落とした。

 直立を10として全屈伸が0ならば、6か7くらいか。

 自然にやっているが、事細かに意味があるのではなかろうか。

 一応僕もそれっぽく構えてみる。



 「そうそう上手だね。」



 ホンマかいな。



 「体重は基本50と50。そして移動する時は反対の50を10にする。体重を抜くんだ。こう。こう。」



 うん。

 もう僕のペースに合わせるつもりは無さそうだ。

 けど一応僕は大人だからな。

 それなりに理解は出来る。


 ミリダンは前に後ろに蹴り出すというよりも、前に転ぶ、後ろに尻餅をつくような仕草を見せた。



 「コレを始の型からやると、ココからこうなって、ココで踏み込んで最後は振り抜く。こうやって、こう。こうやって、こう。」



 ミリダンは一連の流れをゆっくりやって何度か見せてくれた。

 と言っても解釈しながら目で追うには早過ぎるが。

 コレまた一応僕もやってはみるものの、おそらく似ても似つかないだろう。



 「上手上手。才能があるよ。」



 絶対嘘だ。

 まぁいい。

 1、2、3。

 1、2、3。

 こんな感じか?

 知らんけど。



 「ちょっとずつ早くしてみるね。まずは始、次に動、振り抜く。振り抜き方も色々あるけど今は置いておこう。始、動、振り抜き。」



 この時点でもう既に早い。

 剣先が折れているにも関わらず、振り抜く度にピュンピュン音が鳴っている。



 「もう少し早く。始、動、抜き。始、動、抜き。」



 なんだろう。

 速いというより流れる様だ。

 んん、ちょっと違うか、

 息をするように剣を振っている。

 そのせいか簡単そうに見える。

 そして明らかにピュンピュンの音が高くなっている。



 「もう少し早く。」



 何回か素振りをした後、おそらくコレがMAXだろう。

 体が鞭のように動き、最早ピュンという音が聞こえ辛くなった。



 「そしてコレからが本番。身体強化。剣士は大体、己の魔力を纏って戦う。魔力の質は個性があり、万能型、防御型、攻撃型、速度型のおおよそ4種類かな。治癒型とか属性持たせるヤツもあるが、基本この四つから派生する。」



 へー。

 ちょっとついていけてない。

 まぁ自慢したいのだろう。

 おじさん凄いだろうって。

 俺、三歳だからな。



 「僕は速度型が得意でね。攻撃型も少しは交えれるけど・・・ッ!!」



 パチン!!


 音が鳴った。

 別に何かを叩いたわけじゃない。

 切ったには切った。

 空を。


 ったことは・・・え?

 音速を超えたとかそんな感じか?

 え?

 薄々思ってはいたが、この人凄いんじゃないの?

 それともこれがこの世界の普通なのか?


 さっきまでとは明らかに早さが違う。

 元々早いとは思っていたが、いよいよ人間のそれではなくなった。

 攻撃と速度とそれの型の何が違うのかは知らんが、あのスピードで攻撃されたら僕の胴体が真っ二つにされるか、そうでなくともくらえば、僕の体重ならぶっ飛ぶのは目に見えて分かる。

 あ、いや、見えてないんだけどな。

 スピード重視とはいえ十二分な攻撃力だと思う。



 「あぁ、ごめん。ちょっとうるさいね。この辺でやめとこうか。」



 もう、凄いを通り越して訳がわからん。

 この人が敵で出て来たら土下座一閃で謝ろう。



 「さっきのが前方切り上げ。その他に切り下げ、突き、切り下がり、下がり切り上げ、右薙ぎ払い、左薙ぎ払い、上段の構え、下段の構えとか・・・かな。色々あるけどパッと思い付く中ではこんな感じだよ。どう?」



 するとミリダンは僕の近くに寄ってきて、木剣をポトリと落とし、腰も落として僕の両肩にでを乗せてきた。


 何だ?



 「君なら出来る。お母さんとお姉さんを守ってあげるんだ。」



 ・・・。

 顔は真面目だが、目の奥が笑ってる気がする。

 相変わらず瞳は見えないが、声色具合でわかる。

 それに、なんか聞いたフレーズだなと思えば、さっき父が言ったセリフをほぼそのまま言ってやがる。


 まぁ、ユーモアがある人って事にしとこう。



 「出来ますかね?」



 「ハハ。出来ないと・・・思うかい?」



 いや、100%無理だろ。

 100年修行しても出来ねぇし、勝てねぇし、勝つつもりもない。



 「無理でしょう。」



 苦笑いだ。



 「じゃぁ無理だろうね。」



 何だそれ。

 君なら出来るって言わないのね。

 正直なのね。

 どうせ才能ってヤツだろ?


 まぁ最初から自分に期待などしていない。

 自分への評価は変わらない。



 「僕は一応星が二つ付いてるからね。そしてこの剣も星が一つ付いている。簡単な家なら豪邸一件建てれちゃうお値段するんだよ?」



 へー。

 要するに自慢ね。



 「何が言いたいかっていうと・・・、おじさん凄いだろう!!ナッハッハ。」



 「凄ーい!!」



 はいはい。

 分かってるって。

 一応それっぽく反応してみた。

 僕の顔、多分表情は笑っているが、目の奥が笑っていないだろう。


 正直、自分が弱過ぎて、この人を測れない。

 剣道二段と八段の差が分からないようなもんだろう。



 まぁ僕は剣を打って稼げばいいんだ。

 試し切り出来るレベルにあれば問題ないだろう。

 そうだな。

 造るだけにしても、こうやれば振りやすいとかは実際使ってみないと分からないからな。

 将来的に木の枝を切れる程にはなっときたい所か。


 とは言え、やっぱりアレはカッコいい。

 陰ながら練習はするつもりだ。

 アレだけやってこんなもん?

 と、思われたくないからこっそりやると思うが。




 肉も一通り焼き終わり、炭にも砂をかけ消火した。


 合間に僕はせっかくだし素振りをしてみたが、ミリダンは上手としか言わない。

 僕はもっと厳しくして欲しいのに。

 あ、でもやっぱり優しい方がいいかな。


 最初に剣のレクチャーを受けていた時に焼いていた肉は少し焦げていたが、見た感じ炭化はしていないようだった。

 コンガリとカリッと仕上がったと願いたい。



 干している肉はそのまま放置しとくらしい。

 地下室の中に入れたら生臭くてしょうがないからだそうだ。

 まぁ確かに。




 そろそろ地下室に帰る流れだろう。

 ミリダンはまだ地下に入ったことが無い。

 と思う。

 ある程度の位置は把握しているような素振りだったが、玄関に入り、正規のルートで父の居るはずであろう地下の工房に案内する事にした。



 「玄関です。そのまま中に、大丈夫だよ。」



 「失礼します。」



 ミリダンは焼き終わった肉やらさっきまで炭が入っていた鉄の箱を抱えて家に入ってきた。

 部屋を少しキョロキョロしている。

 ちなみに室内は土足厳禁なのだが、玄関から工房までのルートはそうではないのだ。


 ん?

 ちょっと違和感がある。

 気のせいか?



 僕は階段があるであろう場所に近付くにつれ、違和感が確信に変わっていった。


 あれ?

 階段が無い。



 「あれ?・・・お父さん?・・・何処??」



 階段があるであろう場所は壁になっており、廊下が行き止まりだ。

 工房に行くまでの階段が無く壁になっている。


 んーーー。

 どゆこと??

 どうすんの??


 僕は思考停止した。

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