第12話 別れの余韻 恐怖との対立とカラエルの賭け
「あら、アナタ残るのね。」
「ん?」
ちょっとした騒ぎになっていて、馬車から降りて来た姉が話を聞いたのか僕の所にやって来た。
姉がいつもと少し違う無表情で話しかけて来た。
今日はやたら大人びて見える。
子供の成長とはそれほど早いという事だろうか。
とは言えまだ7歳とかだぞ。
優秀なんだろうな。
って感じがする。
「うん、お父さんの仕事見たいって言って・・・。」
「ふーん。」
ちょっと残念そうに見える。
いつもは邪魔とか空気みたいにしか思われていないと思っていたのだが、クールな姉が感情を変化させてくれると思うと、少し嬉しく感じる。
と言っても無表情αから無表情βへの変化だからな。
日頃姉を観察している僕くらいにしか分からない変化だろう。
姉はそのまま何も言わずに父の所にテクテクと遠ざかって行く。
僕はというと、馬車の車輪の仕組みが気になって覗き込んでいる所だった。
一応カラエルや母親との話が聞こえる範囲に居るのだが、乗車をキャンセルするに当たっての手続きや、金銭の受け渡しをするので少し時間がかかっているようだ。
他の馬車の内一台はもう出発している。
残り二台の馬車だが、問題無かったもう片方の一台も、じきに出発する雰囲気だ。
「いやいや、受け取って下さい。ほんの気持ちですから。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。病み上がりで大変だったでしょう。馬車の代金は受け取りましたし、そのお金で元気になる物でも食べさせてあげて下さい。」
「あぁなんとも慈悲深い。貴女のようなお人がこの世におられるとは。」
「ははは・・・。」
母はなんとも苦笑いだ。
しかしピンク夫人は感情豊かなのだな。
その反動か、反面教師でか。
傍にいるピンク饅頭の少女は無口にボーっと僕の方を見ている。
ちょっと怖い。
だが、さっきまで泣きそうだったのが今はそうではない。
その辺を見るに、彼女はこの状況を理解しているという事になる。
大人でも説明されなければ分かりにくいと思うのだが・・・。
この場の雰囲気やら、自分の母親の言動から察しているという事だろうか。
それならまぁ納得は出来るか。
どちらにせよなかなかに賢いのかもしれない。
が、どれだけ賢かろうと、今の所不気味なポッチャマってイメージが先行しているからして、あまり関わらないでおきたい所だ。
「ではこうしましょう。ウチはパン屋です。長旅になると思いパンを焼いて来ました。食パン、コッペパンから、アラシナパンやカシナのジャムパンまで。ウチの旦那のミリダンが丹精込めて焼きましたの。まだ少し暖かいですわ。美味しいんですのよ?」
なんとも騒がしい母親だ。
でも本当に感謝の気持ちが伝わってくる。
僕はあんなに感情的になれない。
あぁなりたいとはまた違うのだが、あれも一つの正しい形なのだろう。
ピンクの美魔女夫人は脇に置いてあった大きなバスケットごと僕の母に渡した。
「それじゃぁ・・・、馬車の中の皆で道中食べましょうか。えっと・・・。」
「私、バネッサと申しますわ、バネッサ・ヒュース・モグリル。こっちの旦那がミリダン・ヒュース・モグリル、娘がパンネルですわ。」
「バネッサ・・・さんですね。馬車の中で一緒ですし、一緒に食べましょうか。あぁ、私はセレーヌ・アース・ロード、コッチの息子がセレンでこの娘がリン、彼が旦那のリネイルです。パンはあまり食べないので楽しみですね!美味しそう。ありがたく頂きます。あぁ、そうだ。後でバスケットはお返ししますね。」
面倒な事に巻き込んで申し訳ないと思う。
「セレーヌ。もう手続きは終わったか。そろそろ出ないと、日が暮れてしまうぞ。」
「ええ。それにしても、本当にセレンは大丈夫なの?あなたに迷惑をかけてしまうわ。」
「あぁ、僕の小さな頃に比べたら大人しいもんだ。もっと暴れていたって構いやしない。むしろ大人しすぎて心配しているくらいだ。大丈夫。ほんの一月だ。どうにかなるさ。」
「でも・・・。」
「あぁ、それでしたら。」
ピンク夫人・・・、いや、名前は確か・・・バネッサ。
そう、バネッサ・ヒュース・モグリル。
そうそう。
彼女が口を挟んできた。
そして旦那のえーっと、細身の男とモゴモゴと何やら話している。
「ほら、パンを・・・アナタが・・・。」
「そうだな。そうしよう。」
何か結論が出たのか、ミリナンタラ・・・ミリ・・・ミリ・・・ミリダン!!
そうそう。
ミリダンが話を始めた。
「失礼ながら。先程リネイルさんからもお誘い頂きましたし。私も一緒なら大丈夫ではないでしょうか?お子さんを見られる時は一人だと何かと不便でしょう。多少剣の覚えもありますし・・・どうでしょう?」
「そうですね・・・。」
「そうしましょう、そうしましょう。ホラ、パンも焼いて来ますし。ね?ミリダン。」
母はとりあえず心配なご様子。
向こうは恩を返せる絶好の機会と言わんばかりだ。
この感じだと母が折れる形になりそうか。
ちなみに馬車の車輪の仕組みは至ってシンプルだった。
コレで舗装されていない砂利道をガタゴト3日も行くのか。
ケツが痛くなるなこりゃ。
ケツと言えば。
バネッサ夫人のケツはいい。
下から見ると特にいい。
最高だ。
今のうちに目に焼き付けとこう。
予想外な事に野郎が更に一人増えてしまったからな。
しばらく女性を見れないし。
目の保養、目の保養っと。
正直そのまま馬車に揺られていた方が良かったかも知れない。
アリシアにも早く会いたいってのもあるしな。
今からでも間に合うか?
バネッサの膝の上にチョコンと座ればそのまま・・・いけるんじゃね?
・・・馬車は揺れるからな。
その揺れで僕がバランスを崩して何が起きても不思議では無いし、胸が揺れるのをドアップで見放題、そんでもってイタズラし放題。
今回の一件で僕の株は上がってるからな。
何をしても許してくれるだろう。
ヤベェ、最高じゃねぇか。
もう話も煮詰まりそうだ。
やるなら今か。
さて、どうする。
決断の・・・。
「あ・・・あの・・・。」
ん?
あ、ピンク饅頭だ。
どうしたんだ。
もしかして・・・。
何度も言うが、僕は面食いなのだ。
この子には悪いが、どうにかして距離を置きたい。
「ピンク饅頭・・・。」
「ピンク饅頭?」
あ、聞かれてしまった。
小声でだったが、心の声が漏れてしまった。
耳がいいのかね。
「ピンク饅頭・・・って置いてない?君の店。」
「え?」
「ほら、髪がピンクで、ふっくらしてるから、ピンクの饅頭みたいで。」
「・・・・・・。」
あ、ちょっと酷いなこれ、若干ピンク饅頭に可愛い要素あるかなって思ってたけど、実際口に出したら酷いなコレ。
パンネルだったか。覚えやすいから覚えている。
んでもってえも言われぬ表情をしている。
えっと、えーっと。
「ほら、美味しそうだから、あるかな〜って。」
「!!」
2ターンで何も言わず逃げてしまった。
メタルスライムか。
とりあえず酷いな俺。
何か言いたかった様な感じだったけど、引き出せなかった。
なんか。
ごめんなさい。
彼女は今、バネッサ夫人の足元で縮こまっている。
泣きじゃくっていないだけまだマシか。
人は苦手だけど、コミュ障ってわけじゃ無い筈なんだけどな。
まぁ、いっか。
大人達の話も一段落したようだ。
あ、バネッサの膝の上でイタズラ三昧しようかどうか思ってたんだけどな。
言い出すタイミングを失った。
まぁ・・・、いっか。
「セレン、おいで。」
僕は母によって召喚された。
「ちゃんとお父さんのいう事聞くのよ?」
母が涙目だ。
まさかの別れだもんな。
すまんな母上。
男にはやらねばならん事もあるのだ。
「寝る前にはちゃんとトイレに行って。」
流石に三歳の子を相手に子離れしろっていうのが間違いか。
「辛くなったら泣いてもいいのよ?」
ありがとう母上。
僕はこれで少しまた成長出来る気がします。
「それから、それから・・・。」
ライオンは我が子を崖から突き落とすって言うけど。
本当はアレ、自分から飛び込んだ方がいいと思うんだよね。
今回は別に狙ったわけじゃないけど、結果として自分から崖を飛び降りた訳だ。
突き落とした親を恨まなくて済むしな。
明食。
正直よく分からない。
でも、まぁ大丈夫だろうって雰囲気だ。
父任せではあるが。
一応軽い気持ちで残ると言った訳ではない。
ちょっと怖いけど。
いや、かなり怖いけど。
こういう経験は大事だと思う。
自分の為に。
未来の僕の家族の為に。
そしてだ。
んー、何か忘れてる気がする。
あ、鞄だ。
「それからー、鞄。お母さん。」
「あ、そうね!鞄ね。・・・リネイル、ほら、セレンの鞄。お願い出来るかしら。」
父が言われて馬車の荷物置きの中をゴソゴソやっている。
程なくしてそれっぽい鞄を持って中を母に見せていた。
「コレでいいか。」
「はい、大丈夫です。でもリネイル、本当に大丈夫なの?」
「安心しろ、なんて事はない。」
「・・・。それじゃぁ。」
母にはリネイルにギュッと抱きしめられた。
そして僕もギュッと抱きしめられた。
「城都で待ってるわ。」
「はい。」
いざ離れるとなると、うっすら涙が出て来てしまった。
不覚だ。
母を不安にさせてはならないのだから泣いてはいけないのだ。
悟られてはいけない。
そうだな。
涙を誤魔化そう。
無関心を装うのだ。
下、横、上。
何か誤魔化せるネタはないか。
蟻の行列とかあったらいいな。
観てるうちにもう出発していた、とかが理想だ。
思えば家の周辺は木が生い茂っていて、あまり空を見上げるという事はなかった。
ここは人気の少ない街のど真ん中だ。
いつもは人混みで空は狭いが、今日は人が居なくて空が広い。
僕にとっては激レアだ。
太陽が眩しい。
一悶着あったせいか、日も少し高い場所まで来ている。
昼食まであと1時間って所か。
所々雲があるが、いい天気だ。
あ、月も出てる。
太陽と反対の空には月もうっすら見えていた。
月か。
あぁ、久々見た気がする。
ん?ん!?
あああぁぁ。
何か。
嘘だろ。
こ、ここは。
異世界だ。
間違いない。
月がもう一個あるのだ。
しかも赤くてデカイ。
かなりデカイ。
「・・・・・・・なんだ?。」
魔術だと言って手品みたいな炎を見たり、魔物だとかの話を聞いたりはしていたが、まだ異世界だと確信に至らない自分が居たものだ。
けど、今確信した。
クソでかい月が太陽の後ろを追従している。
月が二つある。
太陽が眩しくて見にくいが、確かにある。
生前でも知っている月と、知らないデカイ月。
そしてデカイ方は赤い。
高い位置にあるのに月が赤い。
ワインレッドという感じか。
正直怖い。
胸の奥がゾワゾワし自分の中で不安が増長するのが分かる。
落ち着け。
呼吸を浅くするな。
鼻から大きく吸って、ゆっくり吐くんだ。
深呼吸。
深呼吸・・・。
大したことではない。
大丈夫。
大丈夫。
・・・よし。
一旦忘れる事にする。
そうだ、母や姉との別れだった。
もうなんか、母には悪いが、サクッと終わらせてあのデカイ月っぽいヤツの話が聞きたい。
「それでは。」
母は姉と馬車に乗り込んだ。
中ではバネッサが馬車の同乗者にパンを配っているのが目に見える。
差し詰め、出発が遅れた迷惑料みたいなもんだろうか。
「出してくれ。」
カラエルが御者の人に指示をだし、御者がパチンと鞭を軽く叩くと、ヒヒンとラオウの馬が鳴き、馬車が動き出した。
向きが悪いせいか、馬車が動き出してすぐにもう母と姉の姿は見えなくなった。
また母達の姿が見れるのは1ヶ月後か?
その辺だろう。
はぁ。
これから男ばっかしだな。
カラエルとリネイルと、ミリダンか。
それと僕で馬車を見送った。
このメンバーだと、僕も男の仲間入りをした様な感じがして、委縮した心と共に少し引き締まる思いがした。
馬車の音が聞こえなくなる頃、僕は口を開いた。
「お父さん、アレ、何?」
「ん?どれだ?」
「太陽の後ろの大きくて赤いの。」
「・・・アレが明だ。正確には明赤月といって、あの月が太陽に追いつくと、明食が起きる。」
ほぇ〜。
それが明食ね。
神秘的な感じになるのかな?
でも見る人が見たら恐怖でしかないんだろな。
デカイ月。
明赤月か。
見てみると、何かの顔に見える。
ずっと見られている様な。
なんか・・・、さっきからやっぱり変な感じがする。
この世界に心が負けそうだ。
怖い。
なんとなく、なんとなくだが。
この世界を生き抜くには物理的な力が必用な気がして来た。
恐怖に怯えないで生きれる様。
身も心も強くあらねば。
でなければ・・・押しつぶされる様な・・・。
そんな気がする。
「もうその辺にしとけ。」
リネイルは僕の目を塞いだ。
「明月を長く見続けるとあまり良くない。」
「よくないの?」
「迷信だがな。お父さんも、あまり見過ぎないようにしている。」
そんなんがあるのね。
まぁ、見られてる感じで確かに嫌だな。
「遥か昔。」
爺さんが明月を見ながら語り出した。
ガン見である。
いいのかよ。
「アルス歴起源の年。勇者アルス様が魔王を討伐せんとし立ち向かったのじゃ。大地、世界が揺れる程の激しい戦いの末、アルス様は自分の命と引き換えにあの大きな月に魔王を封印なされたのじゃ。しかしその封印には欠点があった。明食にて太陽の力弱まりし時、魔王の力が漏れ出し、魔物が活性化してしまうのじゃ。」
おとぎ話であって、そうではない。
そんな感じか。
魔王。
勇者。
勇者って、アルス多いよな。
同一人物が親戚か。
まぁ、僕には関係の無い話だが。
カラエルの爺さんは明月から目を逸らし、また話し始めた。
「今はアルス歴8025年。ワシらはずっとこの明食と共に同じ歴史を繰り返し、歴史を、世界を守っておる。ワシら人類種の絶滅を救って下さったアルス様からの贈り物。伝統なのじゃ。ワシらはこの伝統を守らなければならん。次の世代、次の世代へとなぁ。」
爺さん語るなぁ。
雰囲気出てる。
8000年間、時代の変化が無いって事か?
良く言えば安定してるとも言えるが、成長していないとも言える。
いいのか悪いのか。
俺には分からん。
「セレン・アース・ロード。」
おお、ビックリしたぁ。
何?
「リネイルはいい倅を持ったもんじゃ。セレーヌさんの育て方がええのんかのぉ。」
「お陰様で面白い子に育ってくれてます。」
「セレンや、今回は助かったわい。あぁ、そうじゃの。ワシからプレゼントじゃ。」
そう言うと首にかけている革紐を外したと思ったら、先端にコインが付いていた。
色は白っぽい銀色だと思ったが。光の加減で少し青っぽく見えたりもする。
革紐はくたびれていた。
ほぼ真っ黒だ。
爺さんの汗が染み込んでいると思うと、だいぶ嫌だ。
「コレをお前にやろう。あの馬車の時のお礼じゃ。」
えぇ〜微妙。
「カラエルの爺さん、子供はそんなのすぐ無くしちまうぞ。それにそんな高価なものは・・・。」
「イヤイヤイヤ、コレは別に値段も付かないヤツじゃて、お守りだと思って待っておきなさい。いい事が起きるかもしれんぞ?無くしたら無くしたでかまへんかまへん、ナッハッハッハ!」
「んんー。それなら・・・。」
「わしゃなぁ、賭け事が好きなんじゃ。お主の息子は面白そうじゃからのぉ。一枚ベットするぞい?」
「ハッハッハ。」
父よ。
笑って誤魔化したな?
僕は手を出すと、笑いながらホイとそのコイン、もといネックレスを渡された。
んー。
汚い。
潔癖症って訳でもないんだけどな。
「さぁて。そろそろ撤収しますかな。あぁ、そうそう。ミリのダンさんや。」
「・・・・・・。」
ん?
ミリのダンさんは真顔で何かを見ている。
変な言い方されて怒ってるのか?
目線を辿ったが特に何がある訳でもない。
「ん?あ、はい?」
我に返ったみたいだ。
「どうしたんじゃ?寝てないのか?」
「あぁ、確かにあまり寝てないかもしれません。」
「大変じゃったからのぉ。まぁ、落ち着いたらでええからの。パンを少し分けてくれんか。丁度話を聴いとったら食べとうてのぉ。」
「あぁ、分かりました。リネイルさんの所にも持っていきますね。えっと・・・。」
パンをどうするかで打ち合わせがされている。
10日後に明食が来るらしく、それを踏まえて滞在時に何回か持って来てくれるそうだ。
父は馬の打ち合わせも軽くしていた。
なる程。
馬車ではなく、大人一人と子供一人なら馬に直接乗って城都に行くのか。
なる程ね。
「明食が終わって10日もすれば馬が来るじゃろう。怪我するでないぞ?」
「あぁ、カラエルさんも気を付けてな。」
そんな感じで帰路に着いた。
あぁ、この街に残る事になるとはな。
ちなみに話の流れでこの街の名前が分かった。
カシナ村だ。
街というか、村だった。
カシナの実って、この街・・・じゃなかった、村の特産なのかな?
へぇ〜。
新しい発見は楽しいものだ。
怖いと感じる発見もあったが。
ん?
カラエルの爺さんは、何故まだ残ってるんだ?
明食はどうするんだ?
まぁ、カシナ村の管理とかしないとなのかね?
父も気にしてないみたいだし。
まぁいっか。
帰ってきた我が家はいつもと全く違う。
父と二人だけ。
・・・・・・さて。
頑張ろう。
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