第1話 決意と覚悟 物心ついたその日
この作品を通じて共に成長できることを願って
今本能で行動している。
ちょうど今は目の前にある白くて柔らかい先にあるポッチ、つまりおっぱいの先にある乳首を口いっぱいに広げてチュパリングし、栄養補給している所だ。
チュパチュパチュパ
うん。
しょっぱくないし、旨味、後味、申し分ない。
食生活が乱れてたら母乳にも出てくるからな。
この行為は母親の健康状態のチェックも兼ねているのだ。
ご覧の通りもう既に何日も前から物心ついているわけだが、いかんせん何故こういう状況にあるのかは理解できていない。
ただ本能の赴くままに行動しているだけだ。
・・・何もやましいことはしていない。
どんなにエロくておいしいシチュエーションだったとしても、僕は無罪だ。
だってこれやらないと腹減って死ぬんだぞ。
どんなにエロかろうと、これは正義なのだ。
「ほーらよしよし」
母であろう人の優しい声。
声質だけで深い愛を感じることが出来る。
実に落ち着く。
外は暗い。
今は夜中の何時頃だろうか。
それは分からないが、今日は暗くなってから2回目の栄養補給だ。
そう。
僕は今赤ん坊なのだ。
問題は意識が大人のまんまな事だが・・・。
まぁいい。
今は栄養補給が優先だ。
本当はもぞもぞとまさぐってセルフで栄養補給したいところではあるが、残念ながらこの体はまだ寝がえりすら打てていない感じである。
生前の僕は、女性の服を脱がすのが比較的得意なはずだが、この体ではなかなか難しいものだ。
母の寝ている時に自力で発掘してポロリを試みたが難しかったのだ。
単純な筋力はそれなりにあると思うのだがね。
まだ思ったように体を細かく制御ができないのだ。
だから僕は泣くことによって親を起こし、ポロリしてもらわなければならない。
実に申し訳ない事だ。
早いとこ自立したいと思うのだが、いかんせんそれはだいぶ先の事だろう。
今は泣くことしか出来ないからな。
不便だ。
何が嫌って、スヤスヤ気持ちよさそうに疲れて眠っている母を「オンギャオンギャ」と泣き叫んで起こさなければならない事だ。
申し訳なくて仕方がない。
腹のタンクがまだ小さいから、1日に何回も起こさなければならないのもまた申し訳ない。
下手に自我が芽生えているのもあって少し泣くのを我慢しようとしたりもするのだが、この体は腹が減れば勝手に泣いてしまう。
いっそのこと何も考えず、本能に身を任せて泣き叫べばいいという事は分かっているのだが、生前子育てが大変だった記憶が邪魔をして感情を抑えようとしてしまう。
だがそれも叶わず本能に負けて泣き叫んでしまうのだが、泣き叫んでしまったことへの罪悪感でまた泣き声の音量が増してしまう。
本当に申し訳ない・・・。
そして・・・ありがとう母上。
チュパチュパチュパ
もしこの人が母親でなく雇われた乳の出る乳母的な人という線はないだろうか。
そうすれば給金が発生するのだから心置きなく泣き叫べるし、エロい事いっぱいしても大丈夫な気がする。
・・・だが、多分この人は血の繋がった母親だ。
本能的に。
彼女の胸を見ても全く興奮しない。
芸術的には最高点を叩き出しそうないい形をしているのにだ。
僕が太もも派だという事には関係していないだろう。
うん。
彼女は母親だろう。
スースー
母親は乳を与えながら眠ってしまった。
しかしあれだな。
無防備だ。
ホント、母親でなければいいのに。
しかしこの人、この母親、とても美人だ。
産後だからか胸も大きいし、形もいいし、若く見える。
20代後半か、30代前半か?
透き通った肌に青みがかったシルバーの髪、曇りない綺麗な瞳・・・は、今閉店しているが、とにかく綺麗で癒される。
あまりにも美形過ぎてまだ自分の母親であるという実感が湧かない。
最初ビックリしたけど髪は染めているのだろうか?
地毛か?欧米か?そんな色あるか?
アジア人・・・日本風な顔立ちのような気もするし。
どの辺の地域だ?
疑問はさめやらない。
あー、もしかして僕も美形になるのだろうか?
俺はイケメンではありたくない。
言うなれば中の下の上とかその辺のランクがいい。
そうであってくれ。
生前がそうであった様に。
美形は疲れそうで嫌だ。
って事にしていた。
無駄にモテたくもないしとか。
っていう、生前の容姿が悪い事をムリヤリ正当化してこれでいいんだと自分に言い聞かせていた頃の考えが浮かんで来る。
美形なら・・・、まぁ美形でもいいんだけどね。
なんか調子狂うな。
まぁいいか。
見渡した所に鏡が無いから確認も出来ない。
あるとすれば母親の瞳くらいか。
彼女の瞳に写る自分を見るしか今の所自分の姿を確認する方法が無いとか、地味にお洒落なのが面白い。
まぁ母の澄んだ瞳なら十分可能だろう。
今度マジマジと見つめてみるか。
しかしこの状況は一体何なんだ。
俺は日本産まれで34歳既婚男性のハズだ。
子供も3人居て、裕福ではないにしろ幸せな家庭を築けていたハズだ。
それが何故・・・。
・・・その時。
爆発してしまった。
感情が。
正直自分でも驚いている。
考えを巡らせ記憶を探っていると、突然僕の感情は爆発したのだ。
完全に制御できないのが分かる。
生前の家族の事を思い出したからだろうか、心の奥底から悲しみが込み上げて来たのだ。
「オギャーオギャー」
僕は警報の如く泣き叫んでしまった。
寝ていたはずの彼女はビクッと目を覚まし僕を抱き寄せた。
「あらあら、どうしたのかしら?さっきオッパイあげたばかりなのに。オシメかしら。」
と母親はポンポンと僕のお尻辺りの布の感触を確かめた。
「…違うわね。寒いのかしら」
そういうと、母親は足や手。おでこを触り、心配した顔をしては立ち上がり、僕を抱き上げ背中をポンポンと叩いた。
「ゲップ出してなかったわね。気持ち悪かったのかしら。よーしよしよし、大丈夫よ」
んー。
実は正直何を言っているのか分からない。
背中をポンポン叩いたりしながら心配してくれているのは分かるのだが、泣いてしまった原因は生前の過去を振り返った事だ。
彼女に分かるはずもない。
それを伝える手段も無い。
迷惑をかけないように、冷静でいた自信はある。
が、この体はコントロールはやはり難しい。
体というか、心のコントロールが難しい。
制御はほぼ不可能、本能100パーセントなのを感じる。
難儀なものだ。
「オギャーオギャーオギャー」
我ながら会心の泣きだ。
こんな泣き方をされれば、僕なら精神崩壊してのではなかろうか。
我ながらとても不快な声だ・・・。
そんな感じで自分のことは冷静に観て取れるのだが、この感情の暴走は俺にはどうしようもない。
言うなれば、小便をしている途中で止めれないとか、それと同じような原理だろう。
・・・また申し訳ない。
ーーー
感覚としては1時間程でだろうか。
僕のサイレンの様な泣き声は鳴り止んだ。
泣き疲れたのだ。
泣き疲れたし、眠い。
それらのおかげで僕の感情という暴れ馬は落ち着きを取り戻した。
ああなったら今の僕にはどうしようもないな。
自分の感情をコントロール出来ない事を最早他人事の様に考えてしまう。
赤子に生まれ変わった事にまだ実感が湧いてないからか・・・。
とにかくだ。
大変だ。
・・・母上。
ありがとう。
今も昔も母親とは逞しいものだ。
尊敬に値する。
眠気と共に僕はふと思った。
ハッキリ言ってこの子育てという行為は尋常ではないほど過酷だ。
自我が芽生えた上でその当事者となった今、自分の認識の甘さに得も言われぬ感情に襲われている。
僕も生前3人ほど子育てをしてきたが、この苦行を乗り越えた嫁のありがたみを再確認した。
ある程度一緒に子育てもしたが、7割以上子育ては妻に任せていた。
大した稼ぎも無かったクセに、仕事をしているんだからと偉そうにしていた自分を呪いたい。
甘えた行動を恥じなければならないと感じさせられた。
そうだな。
考えを巡らせる。
想像してみたら恐ろしい事だ。
命を賭けて子供を産み、疲弊したその体で一日5回か6回か。
定期的に大音量で不快音を鳴らされて起き、母乳を与えなければならない。
どれだけ眠たくてもだ。
母乳を与えると言えば聞こえは愛らしく、軽く聞こえるが、強制的に採血させられると思えば恐ろしいものだ。
疲労は蓄積されていくだろう。
母の愛情とは・・・。
そんなことを考えていると、また自分の心が暴走する予感がしてきた。
しまった。
ヤバイ。
イカンイカンイカンイカン。
僕はとんでもない失敗をしてしまった。
今このタイミングで感情を暴走させてしまおうとしている・・・。
こんなに気持ちよく寝ているのに。
腹が減ってるわけでもないのに。
そして僕は母の愛情と生前の妻への感謝の気持ちでいっぱいになってしまった。
また感情を暴走させてしまったのだ。
「オギャーオギャーオギャー」
さっきまであった僕の眠気も飛んでしまった。
母が寝静まってものの数分も経っていないのに。
彼女は僕が泣き出すと同時にまたビクッと反応し、のそっと身体を起こした。
「んーーー」
母は目も半開きで辛そうだ。
睡眠の一番深いところで起こしてしまったのかもしれない。
僕は、申し訳なさと感謝の気持ちでまた泣き叫んだ。
「オギャーオギャーオギャー」
「フーーーー」
彼女は眼を瞑って大きく息を吐いている。
辛そうだ。
僕は・・・
泣き叫んだままだ。
「オギャーオギャーオギャー」
不甲斐ない。
どうして僕にはコレをどうしようも出来ないのだ。
彼女が辛そうであればある程、ありがとうという気持ちが溢れて来る。
その溢れた気持ちが僕を更に泣かせてしまう。
「んしょっと」
彼女は立ち上がりまた僕を胸に抱き上げ、ポンポンと背中を軽く叩いてくれる。
暖かい手の温もりが伝わってくる。
「どうしたの、どうしたの」
「オギャーオギャーオギャーオギャー」
僕は涙が溢れて来た。
感謝の涙だ。
彼女はこんなに辛い目にあっていても声色一つ変えず、優しく愛情のこもった優しい声で語りかけてくれる。
これは。
この涙は自分が赤子だから出た訳ではないのが分かる。
こんな理不尽な事があっていいのだろうか。
「オギャーオギャーオギャーオギャーオギャーオギャー」
僕は確信した。
僕は彼女から愛されている。
よく分からない状況ではあるが、母から受け継いだこの愛情を無下にする事は出来ない。
この世に生を受けたからには、この命に意味を持たせなければならない。
そうだ。
子供が欲しいな。
その前に嫁さんか。
その前に立派な男にならんとな。
受け取った母親のこの愛情を次の世代に受け継がせるのだ。
生前にもそうした様に、いい嫁さん見つけて子供を産んで。
僕の様に僕を困らせる子を愛し育てるのだ。
よーし。
よーし。
・・・泣いてたらまた腹が減って来た。
「オギャーオギャーオギャーオギャー」
「ん。この泣き方は・・・。よーしよしよし」
腹が減った時の泣き方とどう違うのかわからないが、僕の心でも読んだのか。
母はポロリと乳を出し乳首を僕にくわえさせた。
チュパチュパチュパ
美味い。
推定、生後3ヶ月で子供を産み育てる決意をした。
僕は・・・
僕は・・・
ん?僕だよな?女じゃないよな?
もう明るくなって来たし、起きたらまた確認しよっかな。
早く大きく立派にならねば。
チュパチュパチュパ
んめぇ。
お母さん、いつもありがとう。
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序盤は色々と難しいですね。