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休日の過ごし方

 休日の日差し溢れる公園。

 本来なら子供達が笑顔で走り回っている時間帯だ。


 このところ仕事がツラい。

 ようやく時間を貰えた俺は、気晴らしに近所の公園に来てみた。


 俺の名前は土方歳三(ひじかたとしぞう)、あの有名な維新志士と同姓同名だ。

 母親が歴史が好きで、「土方」という名前の男性と恋に落ち、「歳三」とつける。まさに仕組まれたネーミングなのだ。

 父は「お前の母ちゃんは土方って名前の男なら誰でもよかったんじゃないか?」とぼやいていたが、俺が知る限り、仲の良いおしどり夫婦だと思う。

 しかし、そのおしどりってやつは、毎年違う番いで繁殖する鳥なんだが……


 話が逸れたが、そんな経緯で産まれた俺は、特にこれといった倒幕もせずに、37年の年月を過ごしてきた。


 そんな37歳のおっさんが、片手にハンバーガー、片手にコーラを持って公園の入り口に(たたず)んでいる。

 もちろん一人だ。

 彼女が居るなら、せめてカフェのテイクアウトみたいな洒落たやつにする。


 と、一瞬現実逃避してしまうほど、そこは目も当てられない光景だった。


「ゾンビだらけじゃねえか」


 俺はため息を付く。

 毎日毎日、ゾンビゾンビでくたくたになって帰ってくる、それでその気晴らしに、久し振りの休みに公園まできて、またゾンビ!


 かといって、ゾンビを見ない日もない。

 彼らとは適切な距離を取って、公園の端に座ると、さっさと包みを開けて、ハンバーガーを頬張ろうとする。


「――っと、あぶねぇ忘れるところだった」


 このご時世だ、手を除菌をしてから食べないと。

 そう思って除菌グッズを探すが見当たらない。


「あれっ、やばい忘れてきたかな?」


 通常は持ち歩くのだが、記憶の最後を辿ると、通勤用の鞄に入れっぱなしになってるようだ。


「参ったな……」


 ここまできて食事もしなけりゃ、何のために来たかわかったもんじゃない。気晴らしがむしろ逆効果だ。


 俺はキョロキョロと辺りを見回した。


 公園の端っこに俺と同じように、一人で来ている女性がいた。

 俺はその女性に話しかけるためそちらに向かう。


 通りすぎるゾンビを、適切な距離でかわし、まっすぐ女性の元へと歩みを進める。向こうも俺に気付いたのだろう、キュッと身をしぼって、怯える雰囲気を出した。

 こりゃまずい。すこし離れているが……


「すみません、除菌アイテムを忘れてしまって、スプレーとか持ってませんか?」


 女性は俺が話しかけた事で、ゾンビじゃないと確信したのだろう、少しだけ警戒を解いてくれたが。

 手を前に伸ばして、手のひらをこちらに向けて言った。


「ソーシャルディスタンスです!」


「はい、2mですね。大丈夫です」


 お互いにマスクをしてモゴモゴと話す。

 女性の手のひらの美しさに見とれていると、反対の手でバックを漁って、スプレー容器を取り出した。


「投げちゃって良いですか?」

「すみません、助かります」


 彼女はもう俺がこれ以上近付かない事を確認した上で、スプレーを手のひらに吹き付けると、スプレー本体を擦り、除菌した。


「あ、次亜塩素酸(じあえんそさん)ですか?」

「はい、アルコール赤くなっちゃうから」

「ははっ、俺もです」


 一通り除菌が済んだようで、「いちにのさん」でこっちに投げてきた。


「助かります」


 俺はそれを受け取り、手のひらを入念に除菌してから、スプレー容器も除菌した。


「投げますね」

 またも「いちにのさん」で投げ返す。



「助かりました、これ食べたら早く帰ろう」

 そう言ってハンバーガーをエコバッグから取り出す。


「あ、良いですね、マックですか」


「ははは、仕事の時もこればっかりなのに、休日まで同じの買ってきちゃいました」


 話しかけられたのに、そのまま立ち去るのも何だかなって、感じになったので、ソーシャルディスタンスを取りながら、女性の向いている方にあわせて座って見る。


「ここからの眺め、結構良いですね」


 緑の芝生が斜めにゆっくりとした傾斜で下りていき、下には池、そしてそれを越える大きな吊り橋が見える。

 ゾンビさえうろついて居なければ素敵な光景だ。


「子供の頃からこの公園にはよく来ていて、この場所でピクニック気分でお弁当食べるのが好きだったんです」

 

 目深の帽子、大きなマスクで年齢はわからないが。さっきの綺麗な手のひらを思い出す。


「子供の頃って言っても、最近でしょ?」


「小学生の頃だからちょっと昔、5年前……かな?」


「ははっ、俺たちおじさんからしたら最近だよ」


 5年前何をやってたか思い出すが、今の仕事場で頑張ってた。今も変わらず頑張ってる。


「でも、その五年でこんなに変わるって思わなかった……」

 消え入るような語尾に、俺も共感した。


「そっか、五年か」


 二人は緑の芝生を歩き回るゾンビを見ながらため息をついたのだった。


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