第九話
四番目の勇者を、倒された都市の守備隊は、潜入した部隊の働きもあり、あっさりと降伏した。
犯罪を犯した者以外は、開放する。
他国の王族や政治犯、フロー王国を出たいものは、一旦アレイルに逃げてから考えることになった。
素早く移動を開始する。
しばらくすると、地震が起きた。
「2回目の”大地の怒り”ですわ」
「5回の”大地の怒り”で何かの封印が解けると言っていたが、大丈夫だろうか?」
「世界が滅びます」
滅ばれても困るのだが・・・。
無事、アレイルまで逃げ延びた後、地方都市”エア”にいる。
これからどうするか相談をした。
「いま、フロー王国は正宗がアルフ王を脅したのと、四番目の勇者が倒されたことで弱気になっている」
「救出した、他国の王族と話し合って、反フロー王国の同盟軍を作るべきだと思う」
「同盟軍の代表として”正宗”になって欲しい」
元々フロー王国より大きな国だったアレイル王国で、今年だけで通常の1.5倍の小麦の収穫があった。
フロー王国にうらみのある周辺国に支援も可能である。
「代表はともかく、フロー王国を止めるのには賛成だ」
周辺国に、同盟軍の結成と支援を知らせる特使がアレイル王国より出された。
一か月後、反フロー王国の同盟軍が結成された。
今は、秋の終わり。
春を待ってフロー王国に攻め入ることが決まった。
◆
正宗は、地方都市”エア”の正宗が寝泊まりしている館の廊下を一人歩いていた。
時刻は夜中である。
「むっ」
廊下の暗がりから黒塗りのダガーが飛んでくる。
手でダガーをはじいた瞬間、背後の影から立ち上がった人物に背中から刺された。
振り向いたときには誰もいない。
「ふむ。”影渡”は有効か」
「刃が通らない」
つぶやきが聞こえて来る。
「誰だ」
「2番目の勇者。暗殺指令が出ている」
「こちらに来ないか?戦う理由がない」
「依頼を受けた。依頼は絶対だ」
2番目の勇者は”アサシン”か。対人レーダーが効かなかったな。
その場は、引き下がったようだ。
寝室に帰るとレイリアが待っていた。
「おかえりなさいませ。正宗様」
口づけを交わしてから、目が覚めると確実に横で寝ているので、慣れてしまった。
まだ一緒に寝るだけである。
「2番目の勇者に会った」
「まあ。暗殺者の方ですね」
「”侵入禁止”の結界を張りましょうか?」
「月の巫女の褥は、絶対不可侵ですわよ」
色々思うところもあるがお願いすることにした。
ベッドに入ると当たり前のように隣に滑り込んでくる。
いい香りと柔らかい感触がした。
「私を好きになさってもいいのですよ。正宗様」
耳元で囁いてきた。
少しかわいそうな気がしたが、精神の状態を強制的に”平常”でブロックした。
この方法には限界があるが、最近は限界が来てもいいような気がしている。
気持ちがいいので抱きしめて寝ることにする。
(うふふ。焦らしプレイですわね。果報は寝て待てですわ)
次の日から、2番目の勇者の攻撃が始まった。
食事には毒が盛られ、物陰からは毒が塗られたダガーが飛んでくる。
どこまで本気でやっているのかわからないが、2番目の勇者についた月の巫女が必ず、近くに隠れているので、来たときは分かるようになった。
こだわりなのか、プライドなのか、自分以外を絶対に狙わないことが分かる。
最近は”毒”の情報が沢山収集出来て、現れるのを心待ちにしているような気がする。
半月ほどして、そろそろ毒の種類が尽きたかなという所で、夜の庭に出て誘ってみた。
勇者の反応は無いが、月の巫女の反応はある。
「・・・耐え切れなくなったか」
どこからともなく声がする。
真正面の物陰から、黒い炎のようなものをまとった短刀を片手に、2番目の勇者が出てくる。
黒い服を着て、顔には髑髏を模した白い仮面をつけていた。
突然横から斬りつけれる。
同じ姿をした勇者がいた。
「ジュッ」という音と共にソフトスキンが焼き切られる。
同時に、正面の勇者が走りこんで斬り掛かってくる。
交わした先のもう一人の勇者に背中を斬られた。
「ミラージュボディー」
ボソリと言う。
今、正宗は合計5体の勇者に、休みなく斬りつけられている。
斬られたソフトスキンは即座に回復に入るが、むき出しになったメインフレームが目立つようになってきた。
「データ解析終了。そこだ」
正宗は、自分の足元の影に腕を突っ込んだ。
相手の結界を侵食しながら、本体の勇者の、のどもとを掴み、影から引きずり出す。
短刀で支えた腕を斬ろうとするが、メインフレームに傷一つつけることは出来ない。
正宗は、顎の先を空いた手で引っかけるように殴り、意識を刈り取った。
その時の衝撃で、白い仮面が粉々に砕け散った。
意外と若い顔をしている。
ミラージュボディーも消え去っていた。
隠れていた月の巫女が大慌てで出てくる。
涙目でこちらを見た後、小柄な体をさらに小さく畳むように、無言で”土下座”をした。
「”毒”の情報を沢山くれたしなあ」
そっと勇者を巫女の前に横たえた。
巫女が何度も頭を下げながら、勇者を回収していった。
小柄な体で、勇者を運ぶのは大変そうだが
「手伝うわけにはいかないよな」
つぶやいた後、寝室に帰った。
しばらくした後、3回目の”大地の怒り”が起こった。
2番目の勇者の隷属の腕輪は、痛みに耐えるため意味がないものになっている。