第八話
四番目の勇者の襲撃の次の日、大きな地震があった。
「大地の怒りです」
自分の左肩のすぐ近くから声がする。
四番目の勇者を襲撃の後から、レイリアが引っついて離れなくなった。
「月の巫女にあれだけのことをしたからなあ」
ガーランドが笑いながら言う。
時々、熱っぽい目でガーランドを見ているマガリアに、気づいているのだろうか?
バイクを自走状態にして、レイリアの馬で、レイリアを膝の上にのせて移動している。
無言で見上げてくるレイリアの視線に逆らえない。
悪い気は全然していないのだが。
約三日の移動で”鋼の絆”団の根城、”シラル城”に着いた。
団員、約500名。
フロー国の騎士団が勇者に頼りきりになり、腐敗した後、治安や魔物退治を代わりに行ってきた。
「団長。本国の穀倉地帯が回復したっていうのは本当ですか」
「ああ。ここにいる勇者の”正宗”様が直してくださった」
「本国はもう大丈夫だ」
「よく見ると、マガリア様も一緒じゃないですか」
「二人とも正宗様に剣を捧げている」
「おおお」
「近いうちに本国に帰るぞ」
「おおおおおお」
「その前に、正宗様から、来年の勇者の生贄200名が、”大監獄”に収監されていると聞いた」
「”鋼の絆”団のこの国の最後の仕事は、生贄の救出だ」
「おおおおおおおおおお」
「ここは引き払う。出発は、明後日の朝だ。準備しろ」
精鋭500名の傭兵が”大監獄”攻略に動き始まる。
◆
”大監獄、トリニア”
城塞都市を丸々一つ監獄にしたもので、駐屯している騎士は、約1000名。
出世から外れた騎士の左遷先であるため士気はすこぶる低い。
他国の王族や政治犯も、多数収監されている。
”鋼の絆”団、輜重隊100名を覗いた、400名で攻略予定である。
「大丈夫ですか。隊長」
基本、城攻めは三倍の兵力がいる。
「1000名と言っても三分の一は、騎士ではなく看守だ」
「声をかけると寝返る騎士もいると思う」
「勇者である、正宗様もいるしな」
「声をかけるだけでいいんでお願いできますか?」
それと古い下水道から都市内に、潜入が可能なので、潜入が得意なものを、20人ほど送りこむことになった。
正面門に”鋼の絆”団が集まる。
「門を開けろ。こちらには、アレイル王国で奇跡を起こされた勇者様がいる」
「勝ち目はないぞ」
門の上の城壁から声がする。
「鋼の絆”団。裏切ったのか」
「残念だな。こちらにも勇者はいるぞ」
「トオル様。よろしくお願いします」
四番目の勇者様、”トオル”だ。
「その女。死ななかったのか。まあいい、二人とも今度こそ殺してやるよ」
「全員、射程距離の外までさがれ」
団員を下がらせる。
目に仕込んだレーザービームの射程距離を正宗に教わっていた。
正宗とレイリアだけがその場に残った。
レイリアが緩やかな舞を舞いながら、”神鏡”の祝詞を唱える。
正宗はゆっくりとレーザーライフルを構えた。
正宗は、前回のリベンジをレイリアに頼まれたのである。
「うふふ。月の六番目の巫女、”レイリア・アングレウム”参ります」
「ああ。なめてんのか、てめえ」
「まあいい。・・・てめえより先に勇者を殺してやるぜ」
「勇者様。あの舞は・・・」
四番目の巫女が言おうとするが
「うるせえ!」
右目から、ビームが正宗に伸びた。
レイリアが舞いながら、祝詞をあげ、腕を向ける。
正宗の前に、八角形の神鏡が現れた。
神鏡が跳ね返したビームが、城壁に横に一の字を書いた。
「次は、外しません」
「があああ。次はお前だ」
レイリアに向けてビームを発射させた。
「勇者様。駄目です」
巫女が、トオルを押しのけようとする。
「邪魔だっ」
今度は神鏡が三枚現れ、三回ビームを反射させ、正確にトオルと巫女を貫通させる。
「馬、馬鹿な」
「ごふっ。神鏡は・・・一枚だけでは・・・ありません」
折り重なったまま二人は絶命した。
「四番目のお姉さまは、一緒に逝けて本望ですわね・・・?」
正宗は少しの間、無表情に涙を流しているレイリアの顔を、自分の胸で隠した。
レイリアは巫女の中で一番の武闘派です。