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第六話

「え。小麦が、一面に」

「収穫して・・・」

「これで冬が越せ・・・」

「餓死者が出ない・・・」

 マガリアはその場で崩れ落ちて、両手で目を覆いすんすん泣き始めた。

 王都が壊滅して三年間、頼りにする王家は全滅し、一番の穀倉地が黒く染まり、王国民の5分の1

が餓死した。

 耐え切れず国外に出ようとすると、ほとんどが奴隷として捕まった。

 ガーランドが、マガリアの頭をなだめるように撫でている。

「収穫だー」

「急げー」

「今ならまだ冬に間に合う」

 国民総出で収穫が始まった。


 次の日、ガーランドに呼び出された。

 隣に、マガリアもいる。


「正宗。俺はこの国の出身だ」

「相手にならなかったが、この国と(隣にいるマガリアをちらりと見て)民に酷いことをするのなら、刺し違えてでも、お前を止めるつもりだった」


「勇者様。勇者様は、月の女神様が、この国の民のために遣わしてくれたのですね」

 マガリアが跪いた。


「その通りです」


「最初の無礼どうかお許しください」

「それと・・・」

 マガリアは腰のショートソードを、ガーランドは剣を差し出しながら、

「俺たち」

「私たち」

「「の剣をお受けください。”騎士の宣誓”を」」


「月の女神の前で誓えますか?」


「月の巫女様、”宣誓の儀”をお願いします」


「わかりました」


 いつもは、ふざけた感じのガーランドの真剣な目と、マガリアの生真面目で張り詰めた目に、嫌とは言えずレイリアに言われるまま、宣誓を受けるのだった。

 

 旅の同行者に、マガリアが加わった。



 フロー王国に報告に帰った。

 アルフ王も含め、その場にいる人は誰も、呪いの大地を浄化し、小麦を一瞬で生やしたことを信じなかった。

 本来なら、空気も何もないところから、惑星改造を始めるので、あの程度大したことではないのだが、ややこしくなるので言わなかった。


 それよりも、太った大臣が、

「そこの女は、アレイル王国の元近衛騎士団長ではないか。私に献上しろ」

 好色な目でマガリアを見る。


「なっ。私の剣は、正宗様に捧げています。月の女神の教会を敵に回す気ですか」


「ならば、勇者に献上させればいいのだろう」


 正宗の隷属の腕輪の周りに、黒い文字が浮かび上がり、ゆっくりとまわる。


「どうだ?苦しいだろう。そろそろお前の立場をはっきりさせてやる」


「いま、キャンセルします」

 レイリアが、複雑な祝詞を唱え始める。


「ふむ。ロケットパンチ」

 パシュッという軽い圧縮空気の音と共に、左手が、巻かれた隷属の腕輪ごと、大臣に飛んだ。

 左手が大臣の肩をつかんだ。


「ぎゃあああああ。止めろ。止めてくれえ」

 床をのたうち回っている。

 すぐに黒い文字が消えた。


「感じる痛みを、倍にして苦痛を与えるのか」

 左手を、繋がっているワイヤーで回収する。


「そんな勇者様ったら、そういうプレイがお望みなら・・・」

 レイリアが体をくねらせていた。


 半目でレイリアを見ながら、無いなら無いで寂しいような気がする正宗である。


「そろそろ限界か」

 周りを衛兵に取り囲まれながら、正宗はつぶやいた。


「加速装置」


 一瞬でアルフ王の前に移動し、左手で首をつかんで宙吊りにする。

「そこの魔術師。最後の質問だ。”召喚の魔法陣”とはなんだ」


「し、知らない。月の女神の裏聖典に書かれていた通りにしただけだ」


 隷属の腕輪に強制的に介入し、呪いを発動させる。


「ぎゃあああああ」

 今度はアルフ王が叫んだ。


「本当だ。そこの月の巫女の方が詳しいはずだ」


 呪いを止める。


「裏聖典を持ってこい」


「そんなことが出来るか。あれがあるから、他国を抑えていられるんだ」


 呪いを発動させる。


「わ、わかった。もうやめてくれ」


 王を下ろした。


 持ってきた裏聖典をパパパパと開き、全てのページを記録した後、ナノマシンで灰にする。


 そのまま出て行こうとすると


「無事出ていけると思っているのか」

 衛兵に囲まれたアルフ王が叫ぶ。

 次の瞬間、再びアルフ王は正宗の左手に吊るされていた。


「殺す、殺さないは自分が決めると言ったはずだ」


 下ろされた後、へなへなと座り込んだ王の横を通り、正宗たちは城の外に出た。

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