第六話
「え。小麦が、一面に」
「収穫して・・・」
「これで冬が越せ・・・」
「餓死者が出ない・・・」
マガリアはその場で崩れ落ちて、両手で目を覆いすんすん泣き始めた。
王都が壊滅して三年間、頼りにする王家は全滅し、一番の穀倉地が黒く染まり、王国民の5分の1
が餓死した。
耐え切れず国外に出ようとすると、ほとんどが奴隷として捕まった。
ガーランドが、マガリアの頭をなだめるように撫でている。
「収穫だー」
「急げー」
「今ならまだ冬に間に合う」
国民総出で収穫が始まった。
次の日、ガーランドに呼び出された。
隣に、マガリアもいる。
「正宗。俺はこの国の出身だ」
「相手にならなかったが、この国と(隣にいるマガリアをちらりと見て)民に酷いことをするのなら、刺し違えてでも、お前を止めるつもりだった」
「勇者様。勇者様は、月の女神様が、この国の民のために遣わしてくれたのですね」
マガリアが跪いた。
「その通りです」
「最初の無礼どうかお許しください」
「それと・・・」
マガリアは腰のショートソードを、ガーランドは剣を差し出しながら、
「俺たち」
「私たち」
「「の剣をお受けください。”騎士の宣誓”を」」
「月の女神の前で誓えますか?」
「月の巫女様、”宣誓の儀”をお願いします」
「わかりました」
いつもは、ふざけた感じのガーランドの真剣な目と、マガリアの生真面目で張り詰めた目に、嫌とは言えずレイリアに言われるまま、宣誓を受けるのだった。
旅の同行者に、マガリアが加わった。
◆
フロー王国に報告に帰った。
アルフ王も含め、その場にいる人は誰も、呪いの大地を浄化し、小麦を一瞬で生やしたことを信じなかった。
本来なら、空気も何もないところから、惑星改造を始めるので、あの程度大したことではないのだが、ややこしくなるので言わなかった。
それよりも、太った大臣が、
「そこの女は、アレイル王国の元近衛騎士団長ではないか。私に献上しろ」
好色な目でマガリアを見る。
「なっ。私の剣は、正宗様に捧げています。月の女神の教会を敵に回す気ですか」
「ならば、勇者に献上させればいいのだろう」
正宗の隷属の腕輪の周りに、黒い文字が浮かび上がり、ゆっくりとまわる。
「どうだ?苦しいだろう。そろそろお前の立場をはっきりさせてやる」
「いま、キャンセルします」
レイリアが、複雑な祝詞を唱え始める。
「ふむ。ロケットパンチ」
パシュッという軽い圧縮空気の音と共に、左手が、巻かれた隷属の腕輪ごと、大臣に飛んだ。
左手が大臣の肩をつかんだ。
「ぎゃあああああ。止めろ。止めてくれえ」
床をのたうち回っている。
すぐに黒い文字が消えた。
「感じる痛みを、倍にして苦痛を与えるのか」
左手を、繋がっているワイヤーで回収する。
「そんな勇者様ったら、そういうプレイがお望みなら・・・」
レイリアが体をくねらせていた。
半目でレイリアを見ながら、無いなら無いで寂しいような気がする正宗である。
「そろそろ限界か」
周りを衛兵に取り囲まれながら、正宗はつぶやいた。
「加速装置」
一瞬でアルフ王の前に移動し、左手で首をつかんで宙吊りにする。
「そこの魔術師。最後の質問だ。”召喚の魔法陣”とはなんだ」
「し、知らない。月の女神の裏聖典に書かれていた通りにしただけだ」
隷属の腕輪に強制的に介入し、呪いを発動させる。
「ぎゃあああああ」
今度はアルフ王が叫んだ。
「本当だ。そこの月の巫女の方が詳しいはずだ」
呪いを止める。
「裏聖典を持ってこい」
「そんなことが出来るか。あれがあるから、他国を抑えていられるんだ」
呪いを発動させる。
「わ、わかった。もうやめてくれ」
王を下ろした。
持ってきた裏聖典をパパパパと開き、全てのページを記録した後、ナノマシンで灰にする。
そのまま出て行こうとすると
「無事出ていけると思っているのか」
衛兵に囲まれたアルフ王が叫ぶ。
次の瞬間、再びアルフ王は正宗の左手に吊るされていた。
「殺す、殺さないは自分が決めると言ったはずだ」
下ろされた後、へなへなと座り込んだ王の横を通り、正宗たちは城の外に出た。