第十話
朝、扉を開けると、廊下に二番目の勇者が跪いていた。
隣に”土下座”した月の巫女もいる。
何事もなかったように、そっと、扉を閉じる。
「正宗。この二人どうにかしろ」
ガーランドの声だ。
夜明け前からずっとこの状態で、のけようとするとその体勢のまま、音もなく自分の影に入り、しばらくすると出てくる。
諦めて扉を開けた。
「えーと」
「ミカゲと言う」
「我が一族は、素顔を見せたものに仕える掟が有る」
「何なりとご命令を」
すっと短刀を出して、受けないのなら首を落とせとジェスチャーして来た。
「マナお姉さま。おひさしぶりです」
「ん」
マナと呼ばれた月の巫女も、同じように自分の首も落とせとジェスチャーする。
「・・・わかったよ。これからお前らの主だ」
「御用があれば」
影の中に消えていった。
無言で頭を下げて、マオもミカゲを追いかけていく。
早速、フロー王国の状況を調べるように指示した。
◆
冬が過ぎ、春が来た。
フロー王国の頼りにして来た、勇者は残りあと一人。
新たに勇者を召喚するための”裏聖典”も”生贄”もない。
(召喚しても来ない)
反フロー王国の同盟軍は、アレイル王国に集結した。
その数、約5万。
対して、フロー王国軍は約8万の兵力である。
結局、残りの勇者に対応するために、代表はマガリアとガーランドがすることになった。
やはり、勇者に頼り切ったフロー王国軍の士気は低く、進行上の都市は次々陥落。
王都”フロー”の前の平原まで進軍する。
しかしフロー王国軍はまだ6万の兵を残していた。
5番目の勇者は、王都に呼び出されていた。
小柄な体に、白髪。濃い褐色の肌。ダークエルフと人間のハーフだという。
小太刀を持ち、胸にサラシを巻いた侍装束の女性。
”ハヤミ”と言う。
「外の者たちをどうにかしてこい。そうだ6番目の勇者は剣では斬れないそうだぞ」
「お前は何でも斬れるんじゃなかったのか」
アルフ王がハヤミを挑発する。
言うことはほとんど聞かないが、腕は恐ろしく立つ。
ちなみに隷属の腕輪は、持ってきたその場で真っ二つにしている。
「私に斬れないものはないわよ」
「・・・おもしろそうね」
斬れないと言われた6番目の勇者に、興味を持ったようだ。
「それから、そろそろ出てきたらどう?」
背後の影に向かって声をかけた。
「ほう。我に気づくか」
ミカゲが影から出てくる。
次の瞬間、ハヤミに真っ二つにされている。
既に小太刀は納刀されていた。
「あら?」
別の影から飛んできた黒いダガーを、最低限の動きで避ける。
「ひいいい。依頼はどうした。2番目の勇者」
「うるさいわね」
一言でアルフ王を黙らせたハヤミは、一瞬で三体のミカゲのミラージュボディーを斬り飛ばす。
「影技、散弾」
次の瞬間、全周囲の影から放たれたダガーが、ハヤミに殺到する。
「ふーん」
忍術系の空間跳蹴術で、空中を三次元機動で移動しながら、
「そこね」
一つの影を斬る。
少し離れた影からミカゲが出てきた。
「不覚」
右腕がすっと落ちる。
大慌てでマナが物陰から現れて、ぺこりと頭を下げ右腕を回収。
右腕を持ったマナを、左腕でミカゲが回収。
影の中へ消えていった。
「お姉さま~ かっこよかったです~ 最高です~ ナイスです~」
どこからともなく現れた、黒髪ツインテールの月の巫女が、ハヤミの周りをくるくると回りながら言う。
「そ、そう?」
少し引き気味である。
ハヤミについた月の巫女”ミヤコ”は、ツインテールをぶんぶん振りながら首を縦に何度も振った。
しばらくした後、4回目の”大地の怒り”が起こった。




