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廃墟となった魔王の間

廃墟となった魔王城。

ところどころに穴の空いた天井から雨粒が落ちていく。

かつて勇者が魔王と決戦した魔王の間は瓦礫が散乱し、豪華であっただろうシャンデリアは部屋中央に落ちて割れている。赤と金と黒い刺繍のカーペットはその切れ端があるのみだった。


魔王の椅子―――玉座だけは今もなお同じ場所に置かれていた。今ややってくる勇者は存在しない。しかし、椅子の上には凛として前を向く女性が座っていた。冷たい雨水がぽちゃっと玉座に落ちてくる。雨水は玉座に落ちてくることはなく、彼女の赤い髪を濡らした。少女は見た目が10代半ば。その身には黒いローブを羽織り、ドクロの杖を持っていた。


「ちべたっ!」


玉座の上で真っ直ぐ前を見つめ彼女は溜息を漏らす。まだかまだかとある人物を待っているのである。勇者に殺される事無く残った数少ない魔王軍幹部を………

幾ばくかの時が流れ、玉座に入る者がいた。ガチャガチャと何かのガラクタの音がするのはその人物が何かの二足歩行の魔道具の上に乗っていたからである。


「は、はやく来なさいよシグマ爺!」


プシューと蒸気を吐き出すその何かの機械の全面部が開き男が降りてくる。シグマ爺と呼ばれる人物は茶髪で爺と言うよりどこかの貴族のような容姿であった。

鷹のようなつり目をし、口を白い髭で覆っていた。服装もまた白いコートをはおっている。彼こそが魔王軍科学開発室・魔道具開発のエキスパートこと、シグマである。

シグマは床に銀板を置きその上に乗るとぬるぬると蛇行運転しながら近ずいてくる。玉座の前でその銀板を止めようとすると蛇行運転から円運動に変わり、竜巻回転をした。「ぐおおおおっ!とまれ!おえええええ!」やがて竜巻の中からペッと吐き出されたシグマ爺は玉座の前の彼女の前に転がり落ちた。


「魔王様!馳せ参じました!おえっ!」

「誰が魔王よっ!?ていうか変態よアンタっ!なんつー現れかたよっ!」

「いえいえ、魔王様はおりません。貴方様が現魔王様であられます!おしめを変えていた頃から早14年……つい数年前まで毎朝お漏らししていた頃が懐かしゅうございます。りっぱに成られました…」

「あんた魔王軍クビね」

「そうでした!偉大なる魔王様のご息女リオネーゼ様!本日もごきげん麗しゅうございます!」


リオネーゼは顔を真っ赤にしながら顔を膨らめた。こいつの頭をぶん殴って記憶を飛ばしたい。


「はぁ……なんでこんなのしか生き残らなかったのかしら…てか何よそれ」

「この二足歩行のモノは"電動機械"と呼ばれる人間界の発明でございます。なんでも人間界ではこれを使っての移動・力仕事が近年目覚ましく、人の何倍もの力を出す事もあって兵士の変わりから年寄りの車椅子としてまで使われております。」

「兵士の変わりってどれ位強いのよ?ふふん。見てみた感じだとまともに動くのも大変そうだけど?」

「電動機械1つで兵士20人分位の戦力になるでしょうな!これが人間界では一家に1台!老人には国から無償給付されますから私ももらってきました!テへ!」

「へ、兵士20人分!?無償給付!?てかアンタ何ちゃっかりもらってんのよ!?」

「魔王軍には社会福祉制度はなかったのでお分かりになられないでしょうけど、あれはいいものですよリオネーゼ様!年寄りには年金が給付されかつては魔王軍に所属していた者たちも皆、人間達に帰属しました。見た目を誤魔化すためある者は頭のツノを折り、ある者は…」


リオネーゼは思った。結局魔族もより良い社会に生きたい事を。そしてまた、魔族達を支える財力が必要な事を。そしてまた、彼女の豚の貯金箱には1銅貨しか入ってない事を。魔族再興の金がねぇ!


「もういい。じゃあ今人間に再び闘いを挑んだらどうなるのかしら?」

「半日で魔王軍の魔の字も無く鎮圧されるでしょうな。蟻が人間に勝てないように、それほどかの人間は文明を発展させました。」

「なんだと………!」


リオネーゼは魔王軍の再興を夢見ていた。かつて父魔王を討った勇者。人間達に目にもの見せてやるつもりだった。しかし……魔王が討たれてたった10数年で人間と魔族には追い付けないほど文明に差が出来ていた事を知った。

もはや……魔族は終わりなのか……一粒の涙が彼女の頬を伝った。


「リオネーゼ様…おいたわしや……ですがこのシグマ!一発逆転の秘策がございます!」

「ぐすっ…!なんだそれは…!?いや、分かる。どうせ……」


シグマの言う事を脳内予想する。人間に紛れて生きましょうと。そして年寄りになったら年金をもらい、電動機械を乗り回して孫とハイキング。孫に「魔族ってどうしていなくなっちゃったの?と言われて何も言えなくなっしまった私は……魔王の娘が諦めたから……」と言った。そして私は諦めるのだわ……

そんな事を考えながら、シグマの言葉を待った。


「過去に戻って魔王様をお救いするのです!」

「は?」

「そして魔族の再興を!姫様にお願いします!」

「いやいやいや」

「このシグマ!魔王軍1の忠である事を誇りとし、人間界に紛れて科学を学んでいたのはタイムマシン開発のため!魔王様の事を忘れた事などございません!」

「シグマ爺…」


あたしはシグマ爺をポンコツ変態としか見ていなかった。人間界で若い女の子とよろしくしてる写真を送りつけてきた時、シネスケベ爺!と思ってごめんなさい。見直したわ!


「タイムマシンって……時間を遡る機械って事よね?どこにそんな者が……」


シグマはニヤリと笑みを浮かべた。


「目の前にあるではございませんか。」

「は?」


シグマは後ろを振り返り自分が乗ってきた電動機械を指差した。


「タイムマシン・Σ零式。御身に捧げますぞ」



「あれかよおおおおおおお!?」


リオネーゼの叫びが王座の間にこだました。






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