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刻印の花嫁 〜姫の嫁ぎ先は闇の国〜  作者: 森ののか
第2章 ジルダー勇者伝説
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第74話 いたたまれないからやめて頂けると

夏は宴会日和。

ウィルフルたちは、久々に天界からやって来た招待状に頭を抱えていた。


「なんだってゼウスは宴会するときに招待状を当日に送ってくるんだ!」


ウィルフルは書類のつまれた机に突っ伏し、


「せめて前日に言っておいてくだされば……」


シェレネは招待状を片手にため息をついた。

さらにジャンは


「どうして私まで招待を……」


とこめかみをおさえているし、


「それを言うなら私の方だよ」


とアランドルもげっそりとした顔をしている。


「どうやってお屋敷抜け出したらいいのよ!」


ロゼッタはもう抜けだす気満々である。

見つからないようにね。


楽しそうな顔をしているのはルールーリアとクリスティンだけだ。

いや、温和な表情をしているだけで内心悪態をついているかもしれないが。

すべての元凶は、ちょうどいまヘルメスから渡されたゼウスの宴への招待状。

ご丁寧に地上にいる神全員の名前が七人分しっかりのっているので、誰一人として逃げられない。

いや、ウィルフルやシェレネ、ロゼッタはすっぽかしたところで大して問題はないのだが、ジャンたちにそれは無理である。


「仕方ない……我が妃よ、準備を頼む。ジャン、アランドル、さっさと片付けるぞ」


「はい」


あからさまにいやそうな雰囲気を醸し出しつつ、ウィルフルたちはシェレネたちを見送って仕事の続きに取り掛かった。



「でも言って私達、暇ですよね」


いったんシェレネの部屋に大集合した女性陣。

そうだ。

別に服を選ぶ必要もないし、手土産を用意する必要もないし、限りなくひま。

あ、遊び始めた。

旦那頑張って。



「やっと終わったか……」


さて、夕方。

本来なら今日中に終わればいいや程度に思っていた仕事をなんとか終えて、満身創痍で天を仰ぐ。

これは今から酒が飲めると思っていないとまるでやっていられない。

なんならジャンにはそれがないので、おいしいごはんしか目標にできない。

ずっと席に座っていたせいで痛む背中や腰をさすりながら、三人は立ち上がる。


「我が妃よ!!」


駆け足で階段を上ってウィルフルは、シェレネの部屋の扉を勢いよく開けた。

よい子はまねしないように。


「あ、陛下! お仕事終わったんですか? 準備は出来てますけど」


「その前に」


そっと、彼の手がシェレネの頬をなぞる。


「陛下?」


意図がつかめなくて、彼女は困惑した声を出した。

その瞬間。

ぎゅう、と思いっきりウィルフルが、彼女を抱きしめたのだ。


「きゃ、陛下!?」


いきなりで驚いたのか、シェレネが思わず声を上げる。

ウィルフルが唐突なのはいつものことだが、いつまでたっても慣れてくれない。


「はあ……やっと我が妃を堪能できる……」


「何言ってるんですか! 今からどうせ一緒に行くのにどうしてここで!」


「我が妃は天界の人気者ではないか。今ここで抱きしめておかねば言ってすぐ女神どもにつかまる」


シェレネの言葉が詰まった。

どうやら図星のようだ。

彼女は天界きっての人気者。

なので行ってしまえばこんな雰囲気になることはまず不可能なのだ。


「で、でも陛下、皆さんもいらっしゃるし……」


そう言って彼女が見まわすと、ジャンはクリスティンと、アランドルはルールーリアとどちらもいちゃついていた。


「ほら、大丈夫だろう?」


流れるように頬を包み込んで、顔を上にあげさせて、美しい微笑みを浮かべたところで……


「ちょーっとストーップ!!」


全ての雰囲気をぶち壊す渾身の叫び声が室内に響いた。


「な、ん、で、ウィルフル様もセルリオールもテオドシウスも自分の恋人に密着して二人っきりの空間を醸し出してるの!? 私、私だけ何したらいいのか分からないんだけど!!」


そうだった。この中で唯一、ロゼッタの夫だけ神ではないのだ。

おまけにロゼッタは自分の夫にあれほどまでに迫られたことはないし、自分から思いを寄せたこともない。


「ほらほら早く行きましょ。私だけいたたまれないったら仕方ないわ」


そういうとロゼッタはクリスティンとルールーリアの手を取って、ぐいっと引き寄せた。

神は強かった。


「ほ、ほら、へいか。ロゼッタもああいってますから早く行きましょう、ね?」


未だにあきらめずに抱きしめているウィルフルを見上げて、シェレネが上目遣いにこてんと首を傾げる。

ウィルフルはそれにいともたやすく陥落したので、そのうちにさっさと天界に向かうことにした。

可哀想にロゼッタちゃん……

次の更新予定日は一月二十六日です

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