第73話 だって、俺たちは。
「ふー、決まった決まった。のんびりお茶でもしてから帰りましょ」
そう言って歩き出すビアンカ。
ドロテアもそれに賛同して、駆け足で彼女を追いかけ始める。
「お二人さん? おーいお二人さん、今一応仕事時間中だよ!?」
あまりにも自由気まますぎるのでペルシオのつっこみが入った。
その通りだ。
空を見上げれば、緩やかな昼下がり。
昼食はまだなのでそれはいいのだが、のんびり、という部分はいただけない。
「えー、もうここまで来たんだからだんちょーもふくだんちょーも同罪だとおもうよー」
「いいから行こう! ちょっとぐらい羽伸ばしたところで怒られないって!」
そりゃあ本来怒る立場にいる団長がここにいるのだから当たり前である。
「ねえー、いいじゃん、たまには団員を労ってよ~!」
本当にこの光景を別のところの所属の騎士たちに見せてやりたいぐらいだとペルシオは頭を抱える。
クロフォードも顔には出ていないが、内心やっぱり今日来るのはやめた方がよかったな、どうしてあの二人の口車に乗せられてしまったんだとかなり後悔していた。
もう無理だからあきらめなさい。
「仕方ないな……今日だけは特別だ……」
大きくため息をつきながら彼が言えば、ビアンカとドロテアは飛び上がって手を叩いた。
「やりぃ! だんちょーわかってるぅ!」
「団長の奢り! 団長の奢り!」
なぜか奢らされることも決定した。
「あ、俺の分も頼むよ」
ペルシオもちゃっかり奢ってもらう枠に入っていった。
「んん、団長最高」
「一生ついてくー!」
ということで一行は適当に入った店で昼食をとっていた。
単純に料理がおいしいのか、それとも人のお金で食べる料理がいいのかは分からないが、彼女たちは上機嫌なので放っておこう。
「ははは、団長も大変だね」
そうは言いつつペルシオだって彼のお金で食べているのだが……
「はあ……なぜ近衛騎士団はこんなによく分からない組織なんだ……」
ため息をついて、空を仰ぐ。
「同じ騎士団でも特務師団とこうも違えるものなのか? ゼルディランはいつも団員は自分を慕ってくれていて、自分をみんなを信頼していて、和やかな騎士団だと言っていたのに……」
「そりゃあ無理だよ」
笑顔でばっさり切られた。
悲しいね。
「だってさあ、ゼルディランはみんなの弟って感じがするし、よく笑うし、でもそのおかげでギャップがうまれるしさ。難しくても頑張ってやろうとひたむきに努力するし、団員からも可愛がられるでしょ。でもクロフォードはそのせい反対っていっても過言じゃない。無口だし愛想はないし、頭いいから何でもこなせちゃうし」
そういわれて、彼は唇を噛んだ。
反論は出来ない。
事実、ゼルディランは家でだってみんなの弟で、まだまだ幼い子供の様で、守ってやりたくなる。
自分はああは絶対になれないのだ。
少し、目が伏せられた。
と思ったらいきなりペルシオに肩を叩かれた。
「だからさ、みんなのいじられ役になっただよ! ほら、さ。みんなクロフォードのこと、大事に思ってるからだよ。俺も、ビアンカも、ドロテアも。いいじゃん、無口な団長と、賑やかな団員。どっちかに振り切ったっていいけど、それじゃあつまんなかったりまとまらない。だから俺たちは俺たちの仲間で行こう? この面子で始めた時からそうだっただろ!」
弾けんばかりの笑顔で、そう言い切った彼女。
そうだ。
このごちゃっとしていてすぐに悪ノリして、でも真面目にやるときは真剣な、近衛騎士団の面子。
ほんの数刻まえの様子を思い出し、氷の王子の頬が緩む。
笑って、いるのだろうか。
分からないほど小さな変化だったが、ペルシオはそれを見てさらに笑顔になった。
「どーお、団長。俺たちの騎士団って最高じゃない?」
「そうだな」
クロフォードはどこか誇らしげに、彼女の言葉にうなずいたのだった。
ペルシオがあまりにも男装俺っ娘なので、地の文の時に彼女、じゃなくて彼って書きかけます。普通に自分のこと女の子だと思ってるから彼女じゃないとだめなんだよ……気をつけようね……
次の更新予定日は一月二十三日です!