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刻印の花嫁 〜姫の嫁ぎ先は闇の国〜  作者: 森ののか
第2章 ジルダー勇者伝説
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第63話 事件の主格犯

「さて」


暗い牢獄の、扉が開く。

その中にいるこちらを睨んでくる男に、ウィルフルは蔑むような視線を投げた。

鋭い眼光で、相手が少し怯む。


「話を聞いてやろうではないか。我が愛しい妃と民に手を出した理由をな」


「う゛う゛」


彼の目は、相変わらず反抗的だ。

暴れないように騎士たちに取り押さえられ、彼はそのまま猿轡を外された。


「そうだな。まず……誰の命令だ?」


絶対に答えまいという強い意志を感じる。

そんな彼を見て、ウィルフルは大きくため息をついた。


「お前のような連中が近隣諸国で様々な王族や貴族を狙っているという話を聞いた。我が国も例外ではないが……お前もその一味か?」


「……」


怖い。

怖い。

この状況を誰よりも怖がっているのは、男をおさえる騎士だ。

だって彼らは恐怖で放してしまいそうな手を、恐怖で縫い付けているのだから。


「答えろ。それとも……お前のその口はお飾りか……?」


ぞくりと悪寒がはしる。

いつも妃であるシェレネに向けられていた甘い視線はそこにはなくて、この人が彼女が来る前の、冷酷で無慈悲な国王から変わっていないことを思い出した。

思うに、自分たちは平和ぼけしていたのだ、と騎士たちは思う。

そして、この顔で言われて、拒否できるはずなどないのだ。

すっかり怯え切った男は、吹っ切れたように必死に言葉を紡ぎだした。


「そ、そうだ。同じ連中がやってる」


「ほう……仲間はどこに……?」


「知らない。俺の知ってるやつらは全員死んだ!」


その言葉に、ウィルフルは目を見開く。

死んだ?

どうして。

全員捕まって殺されたのだろうか。

一番上に立つ人間は、そんなにも無能な人間ばかり集めているのだろうか。

ほんの数秒で、様々な疑問が頭を駆け巡る。

でも答えは、全く違うものだったのだ。


「はは……俺、この仕事を受ければ高い給料が出るって言われたんだ……仕事の内容は、王族貴族の暗殺。とりあえず他国を混乱させろって……金に目がくらんで仕事を引き受けた。はじめは仲間がたくさんいたんだ! 一緒に訓練して、それで……一人が初めに行けって言われた。一番強かったやつだ。でも……」


「でも?」


興味津々、と言った様子でウィルフルは男を覗き込む。


「そいつは帰ってこなかった。はじめのうちは俺たちもああ捕まったんだなって思ってたんだ。でもある日俺は見たんだ。頭がよくて指示を出すのが得意な奴が、上のやつらに殺されてるところを。そいつは俺たちとは違う方法で行ったんだ。別のやつを雇って、何にも知らせないまま暗殺させる。その手口を知ったやつらは喜んで次からその手を使おうって言って、口封じに仲間を殺した」


用済みは死刑、ということだ、つまりは。


「仲間はそのことを知らなくて、でも俺が言えば見つかって殺される。だから俺は……使い捨てみたいに一回仕事しただけで殺される仲間を見て見ぬふりしてたんだ! それで、とうとう俺の番が回ってきて……どうせ帰っても悪趣味な観客の前で殺されるんだ。いっそここで殺してくれ……」


「悪趣味な観客?」


そこが引っ掛かったのだろうか。

ウィルフルが首を傾げる。


「観客がいるのか? その観客もその組織の一員なのか?」


「いや、違う」


それでは口封じにはならないのでは。


「いったい誰の命令なんだ」


訝しげに尋ねた彼に、男は重い口を開いた。


「ジルダー王国の王子。ゼオジルド・ヴェザー、だ」



ジルダー王国のゼオジルド。

不機嫌を隠そうともせずウィルフルは廊下を歩く。

ゼオジルド王子、と言えば彼は会ったことはおそらくないかほとんどないかだが、面倒くさいことこの上ない相手だった。


「我が妃よ」


大きな音を立てて、シェレネの部屋の扉が開かれる。


「まずい。一連の事件を指揮していた者が分かった」


「誰なんですか?」


全く思いつかなくって、彼女は小首をかしげる。


「ジルダー王国だ。よりによってなぜあの国が……主犯のゼオジルドは今までもだったが最近急速に国民からの支持が増えている。なぜかわかるか」


「ジルダー王国……」


何か重要なことがあったような、と思った瞬間、彼女の頭の中の霧がぱっと晴れた。


「ジルダー、勇者、伝説……最近また敵視が強まってるって……!」


「それだ。あちらはもう手を出してきている、ということは」


そこで一度彼は言葉を切る。

言いたくなさそうだ。

だってせっかく、平和が続いているのに。


「戦いは免れないかもしれない」

やばいかもしれません。

次の更新予定日は十一月十四日です!

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