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刻印の花嫁 〜姫の嫁ぎ先は闇の国〜  作者: 森ののか
第2章 ジルダー勇者伝説
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第61話 王族として優秀である

「花束……とって、きて……ちょうだい……」


その場にいる人々のトラウマにならないよう、鮮血の流れ出る傷が見えないように黒いドレスでおさえる。

黒い服しか着られなくてよかった、と彼女は心の底から安堵した。

もしこれで白い服を着ていれば、すぐに赤が滲み出てしまっていた。


「で、でもお妃様……」


「いいから……」


突然そんなことを言われ、駆け寄ってきたララが泣きそうな顔をする。

だって自分が、シェレネのことを押したのだから。


「こ、これでよろしいので……」


最後、ウィルフルに渡す予定だった花束を彼女は差し出す。

ちょうどその時、その場に息を切らしたウィルフルが駆け込んできた。


「我が妃よ!!」


「陛下……」


はあはあと肩で息をしながら、彼は彼女を抱き上げる。

不安げに顔が歪んでいるのを見て、シェレネは彼の頬に手を添えた。


「いったい何が……」


「春です……」


小さい声だった。

でも、力がこもっていた。

ウィルフルの心配の声を、遮ったのだから。


「ペルセフォネ、様……が……地上、に……お戻り……です……今年、も……花々が……綺麗……ですね……」


本来もっと先、王宮で言うこの口上を、シェレネはここで言ったのだ。

その場にいた誰もが驚き、先程の事件など頭から追い出されてしまった。


「受け、とって……くださら……ない、のですか……?」


呆けていたウィルフルにシェレネが問いかけ、彼はびくりと肩を揺らす。


「あ、ああ、愛しい我が妃よ。皆共に春の訪れを祝おうではないか」


なんとか平静を取り繕って、彼は返事をした。

とても愛おしそうに彼女を見つめながら。

愛しいと言ったのだから当たり前だろうが。


「陛下……」


そっと、シェレネの小さな手がウィルフルのくちびるに触れる。


「今日の……お衣装……とって、も……かっこいい……です……」


「っ、それは嬉しい言葉だな」


するりとその手が鎖骨に降りた。


「お似合い……か、どう……か……聞かれ、たら……いいえ、です……けど……」


「それは私も自分で思う」


さっきもした会話だ。

でもここでもう一度このやり取りを繰り返すのにはちゃんと意味があるのだ。


「我が妃はその衣装、とてもよく似合っていると思うぞ」


「当たり、前……です……よ……」


ほう、と人々の口からため息が漏れた。


「やっぱり国王陛下と聖妃様は本当にお似合いね」


「いつ見ても仲睦まじいお方たちだ」


「あれだけ楽しそうにお話になってるってことは、さっきの傷はきっと心配いらないのね」


シェレネが待っていたのはこれだ。

ウィルフルと楽しそうに話していれば、自分が耐えるだけで人々は安心できるのだ。

流石優しき王女、考えることが違う。


「陛下、先程の刺客をとらえました」


静かにやって来たクロフォードが、二人に耳打ちした。

シェレネはよかった、と言わんばかりにほっと息をついた。


「皆様……」


人びとに呼び掛ける声に、話し声が止む。

彼女の声はか細くて聞き取りにくいから、しっかり耳を傾けなければならないのだ。


「先ほど、の……男は……この間、捕ま……えた……組織、の……一員です……あの男……が、最後の……一人、だった……ので……もう、心配、は……いりません……ご協力、ありが……とう、ござい……ました……」


うそだ。

全てが、真っ赤な嘘。

でも、必要な嘘なのだ。

今ここで人々を混乱や恐怖に陥れるのは、得策ではないのだ。

まだ何も情報は分からない。

でもひとまず、この精霊祭を終わらせなければならない。


「よかった、万事丸く収まったのね!」


「いきなり変な男が聖妃様に切りかかったときはすごく驚いたけど、あいつを捕まえるための罠だったのか」


「なるほどなあ、よく考えたもんだ」


すっかりそのように思われているから問題ないだろう。

シェレネはウィルフルの袖を引く。


「王宮、に……戻り……ましょう……?」


「そうだな。そうしよう。行くぞ!」


「「はい!」」


ララ達や騎士たちが気持ちのいい返事をした。

そうして異例の精霊祭はウィルフルとシェレネが王宮に帰り着いたところで、何の心配もなく幕を閉じたのだった。

これ、シェレネちゃん傷の手当なしにやってます。やばいね。

次の更新予定日は十一月七日です!

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