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刻印の花嫁 〜姫の嫁ぎ先は闇の国〜  作者: 森ののか
第2章 ジルダー勇者伝説
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第58話 どうするつもりだったんですか(にっこり)

「陛下、ただいま戻りました」


ウィルフルに謁見したゼルディランが、頭を下げる。

割と短い期間で帰ってきた彼に、ウィルフルは少し驚きながら労いの言葉をかける。

彼は一週間は向こうに滞在するだろうと踏んでいたようだが、みんながみんな自分と同じだと思わないで欲しい。


「早かったな。首尾は?」


「王妃様から返事を受け取ってまいりました」


そう言って書簡を渡してくるゼルディランに、彼は首を傾げる。


「それはいいのだが、私が出立前に言ったことは忘れたのか?」


「陛下」


眉をひそめるウィルフルを、シェレネが止める。


「不躾……ですよ……ただで、さえ……誘導……していたん、ですから……」


「うっ」


図星のようだ。ふう、と息をつくと、シェレネはゼルディランの方を向いた。


「おし……つけ、る、ような……かたち……になって、しまって……ごめんなさい……」


「い、いえ!」


何の話かやっと理解した彼が、慌てて彼女の言葉を否定する。


「国王陛下、このような機会を作っていただき本当にありがとうございます。リデュレス王国の人々はたいへん親切で、すぐにあの国を気に入ってしまいました。それから……」


笑顔でリデュレス王国について語ったゼルディランは、そこで言葉をとめた。

少し言いにくそうにしながら続きを話し出す。


「陛下が仰っていたのって、その……王子妃様の妹君のことですよね……?」


「まあそうだな……」


先程シェレネに怒られたので、ウィルフルはばつが悪そうに目を泳がせた。

だが別に、そんなこと気にしなくていいのだ。


「あの、僕、んん私は、彼女のことを一目で気に入ってしまって、その……文通の……約束を……」


瞬間、ウィルフルの目が大きく見開かれる。

こころなしかシェレネも驚いているように見えるのは気のせいだろうか。


「そ……それはめでたいな……」


予期していなかった返事にぽかんとしながら彼はゼルディランにそう告げた。

彼に言いたいことがある。

普通の人間は一目惚れして声をかけてその場で結婚を申し込んだり――クロフォードの耳が痛そうだが、まだ自分も意思も持っていないような幼い時期に一方的に結婚を取り付けたり――今度はウィルフルの耳が痛そうだ、そんなことはしないのだ。

ましてやゼルディランとニーナはまだ子供と呼べる年齢で、可愛い恋愛をしているところなのだからありえないものを見る目はやめなさい。


「ニーナ、は……ちょっと……ぽや、っとした……ところ、が……あるけど……可愛い、から……仲良く……して、あげてね……」


シェレネの方は一方的に取り付けられた方なのでそんなこと思っていないし、ニーナだって自分の兄の義妹だからぜひとも順調に進んでほしいと思っている。

そして呆けているウィルフルに部屋に帰りますよと言うと、女官のララに抱き上げてもらってその場を後にした。



「陛下」


「な、なんだ? 我が妃よ」


むっとした表情でウィルフルを見上げてくるシェレネに、彼は後ずさる。


「今回はちゃんとニーナとゼルディランがくっついてくれましたけど、いつもそうって訳じゃ無いんですからね!」


「うっ……」


全くその通りである。


「さて」


あまりにも綺麗な切り替えに、シェレネはおいて行かれた。


「今年も精霊祭の季節がやって来たわけだが」


「また責任者でもめるんですか?」


彼女はそれは嫌そうな顔をした。

もうここに来た時のように、変なことになるのはこりごりだ。


「いや、もう責任者はこれからアランドル、バジル、レンで固定してしまおうと思ってな。いつもよくやってくれているし、他のやつらよりめんどくさくない」


それはどうなんだ、と思うが心の中にしまっておこう。

ふうん、相槌を打つ。


「じゃあ何か問題でも?」


いつも一番もめるのはそこだと聞いていたから、その問題がないのなら別にいいのではないか、と首を傾げるシェレネに、ウィルフルはため息をつきながら抱きつく。


「ああ、最近どこのどいつかは知らんが王族や貴族を狙った暗殺事件が多発しているだろう。幸いどれも未遂だが、これを機にお祭り騒ぎの民を傷つけてくるかもしれなくて」


「なるほど」


それは危ない。

するりとウィルフルの腕の中を抜け出しながら彼女は思った。

祭りの間は自分は王都を回っていて、もしかすると自分を狙った刺客によって誰か別の罪なき人が傷つくかもしれない。

それだけは阻止したい。

だって自分は不死で、その誰かは死すべき人の子なのだから。


「とりあえず巡回とかを強化して騎士団も派遣しようかと思ってるんだけどさ。最悪もうなしにするって手もあるけど、あれだけ楽しみにしてる手前言いにくいんだよね」


年に数回しかないお祭りのために準備する人々の顔は、とても晴れやかなのだ。

だから、取りやめにするのは心苦しい。


「どこに内通者がいるか分かりませんし、でも近衛騎士団だけだと足りるか分かりませんしね……」


自分たちに絶対の忠誠を誓っており、信用できる特務師団と近衛騎士団は人数が少ない。


「最悪私が……動いたほうが、なあ……」


ウィルフルに聞かれれば絶対にやめろと言われると分かっているので、彼女は本当に小さな声でぽつりと呟いた。

なつかしのウィルシェレ。

一番落ち着くけど一番やばい人たちですね。なんなのこいつら。

次の更新予定日は十月二十七日です

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