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第8話 下町デートは唐突に 前編

「シェ〜レ〜ネ!」


「どうかされたんですか? 陛下」


いついなく上機嫌な様子で話しかけてきたウィルフルにシェレネは問いかける。


「明日ね、なんと僕の仕事が休みなんだ〜!」


「そうなんですか? じゃあゆっくり休んで……」


言いかけたところで、ウィルフルが言葉を遮る。


「だめだめ! そんなことしたらシェレネと過ごす大切な時間が無くなるでしょ! だから、デートしようデート!」


必死に主張してくる彼に、シェレネは若干戸惑いを見せている。


「デート、ですか?」


「うんそう。行ってくれるよね?」


期待を込めた目で、ウィルフルはシェレネを覗きこんだ。


「えっと……何処に行くんですか?」


諦めたように行き先を聞く。


「下町」


「え?」


彼の答えを聞いて、彼女の思考は一瞬だけ停止した。


「下町だよ。王都の」


「ええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


「そんなに驚かなくてもいいじゃん……」


しゅんとしたように彼は彼女を見上げる。


「でも、私はどうするんですか?」


彼から目をそらしつつ彼女はウィルフルに問う。

あまりにも特徴が多すぎる彼女は、秘密裏に動くことは不可能である。


「まあまあ、それは明日になったら分かるから〜」


「う〜、意味わかんないです!」


にこにこと笑うウィルフルに向かって、シェレネは叫んだ。


翌日、朝起きたシェレネにウィルフルは声をかけた。


「シェレネ〜、これ着てみて?」


彼が彼女に手渡したのは町娘のような服。


「わざわざ買ってきたんですか?」


「もちろん!」


不審げに聞いた彼女に、ウィルフルは元気よく答えた。


「…………ありがとうございます…………」


「べべべべっ別に僕が買いに行った訳じゃないからね!? クリスティン! クリスティン嬢に頼んだの!」


慌てたように、ウィルフルは叫んだ。

そんな彼にシェレネはこてんと首を傾げ、こう言い放った。


「職権乱用ですか?」


「違う! 違うから! それに僕、王様だから職権乱用じゃないし!」


必死に反論するウィルフル。

シェレネはふふ、と笑った。


「違うならいいです。とりあえず着替えてきますね〜」



「着替えましたよ?」


ウィルフルの前でくるりと回ったシェレネ。

スカートがふわりと揺れる。


「可愛い……買ってよかった……」


彼女の様子を見て、ウィルフルが呟いた。


「何か言いました?」


「言ってないよーはははははー」


明らかに棒読みだったような気もするが……


「……はあ、でも包帯は隠れたけど眼帯はどうするんですか?」


腕は隠そうと思えば隠すことが可能だろう。

だが目までは無理である。

心配そうなシェレネにウィルフルは笑いかけた。


「大丈夫!あ〜、ちょっと待って。力のかかるところを変えるから。あんまり長いことは無理だけど。あとごめんね、目は見えないままなんだよ……」


申し訳なさそうに言ったウィルフルだったが、シェレネは特に何とも思っていないようだ。


「目、見えなくてもいいですよ? 右目はぼんやりなら見えますし、そもそも私目じゃなくて心で見てるから目なんてほぼ飾りです」


「あ、そうだった……」


目なんてほぼ飾り……



「あ、陛下のことなんて呼べばいいですか?」


こっそりと王城を抜け出し王都に着いた二人は、名前の存在に気が付いた。


「ん? 僕はウィルフレッドかな。シェレネは?」


「私はセレンで〜」


「分かったよ」


意外と本名に似た偽名にしたな……

そんなことをひそひそと話している二人。

後ろから、誰かがシェレネの肩をたたいた。

驚いたように彼女は後ろを振り返る。

そこには、飛び切りの笑顔の少女が立っていた。


「あー、やっぱり! セレンでしょ? 久しぶり〜! 何年も前の話だけど、覚えてる?」


「フィナ!」


シェレネの顔がぱっと輝いた。


「何よ〜、ちょっと見ない間にすごく元気になったじゃない。まえはすごく大人しかったのに。可愛くなってるー! それにその人、セレンのいい人?」


「えへへ〜、未来の旦那様なの〜」


「っ…………!」


いきなり「未来の旦那様」という言葉を聞いたウィルフル。

嬉しさのあまり言葉を失っているようである。


「どうしたんですか、ウィルフレッド様?」


「……何も無いよ」


「あら〜様づけ? 良いわね、ラブラブじゃない。お邪魔かしら。またね、セレン!」


「うん! またね~」


そういうとフィナは、路地の向こう側に消えて行った。


「ねぇセレン、ここ来たことあるの? 君、王女だよね?」


「あ、えーっとですね」


視線をそらしながら彼女はあいまいに答える。

彼女は昔、何度もここに来ていたことがある。

暇だったのか、求婚の嵐から逃れたかったのか。

それは分からないのだが、とにかく10歳まではよく来ていたのである。

フィナその時出来た友達の一人である。


「まあいいよ。セレンもたまには息抜き必要だよね。僕も実際何度か来てるし」


「そうなんですか? 国王様なのにですか?」


「あはは〜まあね〜」


二人とも王宮より下町のほうがいいのだろうか。

顔を見合わせた二人は同時に笑いだした。

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