己の舞
キッーンキッーン
剣と剣がぶつかり合う音が真夜中の街に響き合う。まだ夜中の11時頃なので人が歩いていてもおかしくない時間帯なのだが全く人の気配がしない。それもそのはず、ここ一週間毎晩人が通り魔によって殺されているのだから。その犯人がまさに俺と剣を交えているこいつで、予想通り正気の沙汰ではなかった。
「人の血が欲しい!お前の血をよこせ!!」
よほど俺の血が欲しいのか舌を出して口をペロペロしながらずっとこの発言をしている。
「お前は6人も罪のない人を切った!その罪を償い反省する気はあるか!?」
俺はほとんど人間の心がない男の人間の心に響くように精一杯の声で叫んだ
「早く!早く!血をよこせーーー!」
残念ながら俺の声は狂気の男には届かなかった。我慢の限界なのか、男は剣を大きく振りかぶってから俺の首を切り落としに来た。だがそんな隙のある攻撃が当たる訳はなく俺はそれを難なく交わし一旦距離を取るため、いや人を殺す許可を得るため、狂気の男の腹部に蹴りを入れた。そして俺と男の間に距離が生まれたのを確認してその場で回転した。モーターが回転して力を得るように、はたまた龍がとぐろを巻くように。
(火の舞!派生火龍!!)
俺は加速し燃え盛る龍を纏う剣と共に狂気の男が反応出来ない速度で男を真っ二つに切った。パチパチ
「うん!火の舞も大分も上手くなってきたね!空澄くんは上達が早いから教えてて楽しいよ!」
本来聞こえるはずがないだろう方向つまり俺の真上から拍手する音と高い声が聞こえる。俺は慣れてしまったその光景に驚きもせず、首を上にあげる。そこには夜空を大きな白い羽で舞う10歳になるかならないかな女の子がいた。
「ありがとう。悪いんだけどこの人天に召してくんない?ウリエル」
例えここが剣と魔法が飛び交うファンタジーの世界だったとしても天使のキラキラネームを付けるような親はいない。今絶賛俺に肩車して不満そうにしているのは正真正銘の天使だ。人に人を切る事は許されない。だから俺たち人間は天使と師弟になり舞を教わる。舞を踊り師匠《天使》に許可を得た時のみ技を使えるようになる。舞は天使の数だけあるので沢山ある。舞を覚えそこから派生させるのは俺たち人間の役割だ。そしてその力を持ってこの男のような悲惨なモノを作らせないために。
「ムムム…やっぱり二週間ほど前の奴と同じだ。この首筋の跡。隣の街から立て続けとなるとやはり同一犯だ。しかも元凶はすぐ近くにいると言っていいだろう」
狂気の男を天に召すために、狂気の男のすぐ近くまで近づいていたウリエルがさっきまでのおちゃらけた雰囲気を消し、神妙に語りかけてくる。と、グググ…ウリエルのお腹がちょっと離れた俺にも聞こえるくらい大きな音を鳴らした。
「うん。元凶の前にまずは腹ごしらえしよう!近くのコンビニが空いてたな。早く行こう!」
俺は本当にこの師匠《天使》に付いて行って大丈夫なのか?俺は内心師を変えるか検討しながら、何度でも言うが剣と魔法が飛び交うファンタジーな世界をコンビニ目指して突っ走る。