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第三十四話

――どうして、知っているの?


サイガの爆弾発言のせいで、全身からサーッと血の気が引き、意識が遠くなりかけた。

心臓の音だけがやけに大きく私の中で響いている。


先ほどまでサイガと一緒にいたカージナス様は、私の物言いたげな視線に気付くと、困ったような顔をしながら首を横に振った。


私の個人情報を漏らしたのは、どうやらカージナス様ではないらしい。自分にとって利用価値のある人間の機嫌を損ねることをカージナス様ならまずしないだろう。

『聞かれたけど上手く誤魔化してあげたよ?』と恩着せがましいことを言うタイプである。


不安そうな顔で私を見守っているミランダでもないだろうし、アイリスに至っては、そもそも何も話していないのでキョトンとしている。

少しだけ距離があるので、ミレーヌがどんな顔をしているのかハッキリは見えないが……カージナス様へならともかく、隣国の王子に迂闊に話す人だとは思っていない。


そうすると、この情報を掴んだのはサイガ自身である可能性が高い。


私はグッとお腹に力を込めた。


ここで弱味を見せたら漬け込まれる。

これは、カージナス様の時に懲りたことである。

サイガにまで良いように利用されるのは嫌だ。


「殿下。どこからの情報かは存じ上げませんが、カージナス様の婚約者である私に、そんなことがあるはずがありませんわ」


先ほどのアイリスのキョトン顔を意識しながら、私は首を傾げて微笑んだ。

『私は女優』そう心に言い聞かせながら。


「多少は動揺したものの、すぐに建て直したか」


笑顔のサイガが呟いた言葉は、まるで私の行動を試していたかのような言葉だった。


……なっ?!


その言葉通りに受け取るのであれば、サイガは全てを知っていた上で《《わざと》》この話題を出したことになる。


悪趣味な。……でも何故、私は試された?


「ますます気に入ったよ」


ニッコリと笑いながら首を傾げるサイガ。

その顔は笑っているのに、目は少しも笑っていない。


「私なら君を一生愛し続ける自信がある。だから安心して嫁いでおいで」

私を掴む手に更に力が込められた。


普通の女性ならば、隣国の王子であるサイガからのプロポーズを嬉しく思うかもしれないが……サイガの本質や彼を取り巻く状況を知っている私には、無理だ。


捕まれた手を振りほどこうにも、ピクリとも動かない。


こういう時は、女であることが嫌になる。

身分差がある状況な上に、最後に力に訴えられたなら……どうしたら良いのだろうか。


冷静になろうとする心とは裏腹に苛立ちが募る。


――そんな私の目の端に突然、鮮やかな赤色が映り込んだ。


「せっかちな男性は嫌われますわよ?殿下」


鮮やかな赤色の正体は、赤いドレスを着たミレーヌだった。


上半身は上品な光沢のあるベロア地で、腰から下にかけて、少しずつ色味の違うシフォン生地を重ねた大輪の薔薇を思わせるデザインのドレス。

鮮やかな赤色は、ミレーヌのハッキリとした顔立ちと抜群のスタイルの良さを十分に際立てていて、とても良く似合う。


今まで壁際にいたはずのミレーヌが、サイガから私を遮るように割って入ってきていたのだ。


驚く私に向かって笑顔を浮かべたミレーヌは、『任せて』とでもいうように片目を瞑ってみせた。


サイガに掴まれていた手はやんわりと外され、ミランダに背後から抱き締められるようにしながら、サイガから少しずつ距離を取らされた。


「……この状況は何?どういうこと?」


壁際まで後退した私達の元に、周囲を気にするようにしながら近付いて来たアイリスが、小声で尋ねてくるが……


残念ながら、アイリスの疑問には答えることができそうにない。

何故ならば、アイリスの疑問は私の疑問でもあるからだ。


ミレーヌとミランダが私を守ろうと動いてくれたことは理解しているが……。



「お久し振りですわね。サイガ殿下」

「ああ、久し振り。ミレーヌは、ますます綺麗になったんじゃないかい?」

サイガと対峙するように立つミレーヌ。


「暫くお会いしていない間に、殿下は少し野蛮になられたのではなくて?」

「……何だって?」


いつもは穏やかで優しいミレーヌの顔が、サイガと一緒にいると意地悪な悪役令嬢のように見えるのは…………私の気のせい?


「嫌がる女性を力で強引に従えようとするなんて、紳士のする行為ではありませんわ」

皮肉気な眼差しをサイガに向けながらミレーヌが微笑む。


ミレーヌがサイガを挑発している!?

《《あの》》純粋で優しいミレーヌが……!?


「君こそ理解していないな。女性は常に男性側からリードされたいと思っているんだ」

「それは一体どなたの話を参考になさったのかしら?」

「一般的な女性の話だ」

「ああ、なるほど。その『一般的な女性の話』を鵜呑みになさるなんて……殿下もまだ青いですわね」


にこやかに笑うサイガとミレーヌとの間に、バチバチと火花が飛び散って見える気がする。


「……ちょっと、ちょっと……何か変じゃない?」

ツンツンとミランダの袖を引きながらアイリスが言う。


アイリスも二人の雰囲気から険悪な何かを感じたらしい。


「ミレーヌ様とサイガ殿下は、幼少の頃からのお知り合いだと聞いたことがあるわ」

私の背後にいるミランダが答えた。


「あの様子だと……お二人関係は微妙ね」

ミランダはハッキリとは言わなかったが、見れば分かることだ。


「……そうね。私とミランダとは《《随分と》》違うわね」

空気を読んだアイリスは黙って頷いた。


「君は可憐なローズ嬢を見習って、もう少しお淑やかにしたら良いんじゃないかい?」

「あら。この仕様は殿下にだけですので、ご心配なく」

「相変わらず質が悪いな」

「その言葉はそのままお返しいたしますわ」


この二人は幼馴染みでもあり、犬猿の仲でもある……といったところだろうか。


『マイプリ』でそんな設定はあっただろうか?

サイガルートはそんなにプレイしていないので、正直ほとんど覚えていないが……少なくとも、ローズにいきなりプロポーズをするなんていう流れはなかったはずだ。


――仮にそんな選択が現れても、普通は誰も選ばないだろう。好感度が上がっていない状態なら振られて終わりだから。


「こうなると長いから、ミレーヌには離れていてもらったのだが……色々と失敗したな」

苦笑いを浮かべたカージナス様がこちらに近付いて来る。


「止めなくて良いのですか?」

「ああ、うん。……まだ無理だろうな」


ミレーヌとサイガの攻防戦は終わる気配がない。もう少しガス抜きが必要なのだろう。


「……ミレーヌのこういう姿を初めてみました」

「サイガが絡まなければ基本的には穏やかな性格だからな。だから、まさかミレーヌから動くとは思わなかった」

チラリとカージナス様が私を見た。


……遠回しに『私のせいだ』と責められている気がしれなくもないが、私は悪くないと思う。寧ろ、私は被害者側だ。


カージナス様が私を見捨てたりしなければ、こうはならなかっただろうから。


私はジト目でカージナス様を見た。


「……そんな顔をするな。私も少なからず動揺していたのだ」


……動揺?お腹が真っ黒で頭の回転の早いカージナス様が?


「今夜の夜会が私主催でなくて良かったよ。王の機転で助かった」


いつの間にか夜会は始まっており、意外にも私達を気にする者は少なかった。


――その理由はホールにあった。

国王夫妻が自らホールの中央で踊っていたのだ。


いつもは王子達がファーストダンスをするのだが、今日に限っては国王夫妻が……となれば、当然注目は全てホールに集中するだろう。

夜会に招かれたゲスト達は、それこそ始めは私達を注目していたようだが、今はほとんどが国王夫妻の華麗なダンスに魅力されていた。


「ふふふっ。素敵……」

呟いたのはアイリスだ。


その瞳は爛々と輝いており、国王夫妻のダンスに釘付けだ。


……まさか、アイリスのハーレム願望は王様も対象なの?

確かに国王は、カージナス様を渋くしたようなとても格好いい方だけど……。


「気にしていると疲れるわよ」

「……そうする」

ミランダの助言に素直に従うことにする。


国王夫妻のダンスやマイペースなアイリスのお陰で、波立った心が落ち着いてきた。


なので、今の内に状況を整理したい。

サイガの突然のプロポーズの理由をカージナス様とミランダ、ミレーヌは知っているはずだから。


「カージナス様。説明をお聞かせ願えますか?」


チャンスは今しかない。

国王夫妻のダンスが終われば、次は私達の番だ。そうなればこうして話している時間はないし、状況も分からないままにサイガに接するのには限界がある。

思いがけずにミレーヌがサイガを足止めしてくれている――今しかないのだ。


……この場から逃げ出しても良いなら話は別だが。


「分かった。手短にはなるが説明しよう。始めに言っておきたいのだが……この状況は私にとってもイレギュラーだった。そのことは覚えていて欲しい」


私を夜会から帰すつもりのないカージナス様は、そう前置きをしてから話し始めた。

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