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第三十話

ルカ様との楽しかったお茶会(?)の二日後。


我がステファニー家に、カージナス様がシャルル様を伴ってやって来た。


……この王子は暇なのだろうか?

あ、シャルル様は別!

シャルル様ならいつでも大歓迎である!

色々と多忙だろうに、暇なカージナス様に付き合わされて可哀想に……。


「ルカとの会談はどうだったかな?」

カージナス様はソファーに深く座り、長い足をゆったりと組みながら首を傾げた。

流れるように優雅な動作ができるのは、流石は王子様といったところだが……。

軽く鼻につく。ホント、容姿だけは良いんだよね……。好みじゃないけど。


「とても楽しい時間を過ごさせていただきました」

ティーカップを持ち上げた私は、にこやかにそう返した。


事実、ルカ様とのお話は楽しかった。

《《推し》》が目の前にいるだけでも眼福だったのに、たくさんの会話ができたのだ。

天使のようなルカ様との時間は幸せだった……。

心の中にしこりとなって残るものもあったけれど。


「……だ、そうだぞ?シャルル」

カージナス様は人の悪い笑みを浮かべながら、自分の隣に座わっているシャルル様に視線を向けた。


「楽しかったのであれば何も問題はないでしょう。良かったではないですか」

カージナス様を一瞥したシャルル様は、気分を害した様子もなく、微笑みながら紅茶をすすった。


ちょっとはヤキモチを妬いてもらえたら……なんて、私の甘い考えだったようだ。


「会わせたのは私だ。怒るなよ」

「怒ってませんよ」

「いやいやいや、私の目は誤魔化せないぞ」

「殿下は気にし過ぎなのですよ」

ニヤニヤ笑うカージナス様と、ニッコリ笑顔のシャルル様。


……二人の間の空気が重く感じるのは私の気のせいだろうか?


「そうか。シャルルは私が思っていたよりも寛容な男だったようだ。良かったな。ローズ」

「……え?ええ、そうですね?」

こちらに振らないでよ!腹黒王子!!


「ルカはまだ幼いながらも紳士としての教養を学んでいるし、将来は優しい夫になることだろう」

「そ、そうですね。とても素敵な旦那様になって下さることでしょう」

「おっ!ローズも乗り気だな」

カージナス様とあまり話したくはないが、推しの話題ならば乗らなくもない!!


「何が『乗り気』かは分かりかねますが……ルカ様はまるで天使のように愛らしく、私にもたくさん話し掛けて下さるような優しいお方でしたもの」

あの時のことを思い出すと、顔がにやけそうになる。

だって、ルカ様は一番の推しだもの!!


「随分と話しも弾んで、楽しそうにしていたしな」

「まさか憧れのルカ様とお話ができるだなんて夢にも思っていませんでしたから」

「仲良くなりすぎていてちょっと目のやり場に困ったがな」

「え……?」


……仲良くなりすぎていて……目のやり場に困る?

ちょっと待って。カージナス様は何かおかしなことを言わなかった?


『随分と話しも弾んで、楽しそうにしていたしな』

って、まるでその場を見ていたかのような発言だった。


だけどあの部屋の中には私とルカ様の二人だけしかいなかった。

外に給仕の侍女が控えていたはずだけど……。


……まさか。

「見ていたのですか……?」

覗いていたの!?だとしたら最低だ!


「ああ。見ていた」

アッサリと頷くカージナス様。


「……っ!でしたら中に入って来て下されば良かったではないですか!」

最低だ!やっぱり最低な腹黒王子だった!


「そんなに怒るなよ。私も初めは入ろうと思ったんだ。だが、予想以上に話が盛り上がっていたようだったから遠慮したんだ」

「遠慮することなんか……!」

黙って覗かれているよりも邪魔された方が、まだ文句も言えるし、その場で怒りの矛先を向けることだってできた。


「それにシャルルも中に入るのを遠慮したからな」


……は?

シャルル様が遠慮した、って……ここでもシャルル様を巻き込んだの!?


私は思いきりカージナス様を睨み付けた。


……見られていた。

大好きな相手に、推しに会えたことで舞い上がっていた私の姿を見られてしまっていた。

最悪だ。カージナス様も最悪だが……それは私も同じだ。

今だってこの場にシャルル様がいるというのに、カージナス様から出されたルカ様の話題に食い付いてしまったのだ


シャルル様に告白をしたくせに、他の男性と楽しそうに話している私の姿は、シャルル様の目にどう映ったのだろうか?

あのの時のことを今も楽しそうに語る私を、気が多い浮気者とは思ってはいないだろうか――?


全身からサーッと血の気が引くのを感じた。


このままでは駄目だ。きっとシャルル様は誤解をしている。


「……シャルル様。あの……!」

「大丈夫です。僕は何も気にしていません」

「……え?」

にこやかに笑うシャルル様から明確な拒絶の意志を感じた。


ギュッと握り締めた手は汗ばみ、微かに震えだした。


どうしよう。どうしよう……どうしたら……?

やっぱりシャルル様は誤解をしている。

……私が心から想っているのはシャルル様だけなのに……。


『違う』と言いたいのに、呼吸が乱れ上手く息が吸えない。

そのせいか思考もままならない。


「先ほども言いましたが、楽しかったのであれば何も問題はないでしょう?ルカ様は聡明でとても素敵な方ですから、良かったではないですか。ローズ嬢とルカ様とことは僕には関係ありません」

最近よく見せてくれるようになった穏やかな優しい微笑みではなく、シャルル様は貼り付けたような作り物の笑顔を浮かべながら言った。


その瞬間に、まるで底の見えない崖の上から突き落とされた気分になった。


私を見ているはずのシャルル様のその瞳の中に『私』は映ってはいなかった。


「……シャルル!それは言い過ぎだ!」

「そうですか?ああ、ローズ嬢の立場は殿下の婚約者候補なのですから、これは問題かもしれませんが、まあそれは大丈夫でしょう?」

「いいから、お前はもう何も話すな!」


シャルル様とカージナス様の声が、どこか別の世界から聞こえてくるような感覚がした。

これは……夢か、現実か……。

……いや。これは紛れもない現実だ。


私は今、シャルル様にハッキリと振られてしまったのだ。


だけど仕方ないよね。

今まで自分がしてきたことを考えたら、シャルル様から好かれる要素なんて全くなかったのだ。

少しは好意を持ってもらえているのかと思った時もあったが、あれは私の勘違いだったようだ。

寧ろ、散々迷惑を掛けて振り回した挙句に、《《浮気》》だなんて……シャルル様が愛想を尽かす理由の方が多すぎる。


ああ、ミランダ達に色々と協力してもらったのが無駄になっちゃったな。

ジワリと涙が溢れそうになるが、これは全て自業自得で……私の身勝手な感情だ。

シャルル様にもカージナス様にも迷惑は掛けられない。


――絶対に泣くもんか。

私はギュッと唇を噛み締めた。


……これ以上、シャルル様に嫌われたくない。

『泣けば済むと思うなんて、これだから女は』なんて思われたくない。

重い女だと……迷惑な女だとは思われたくない……。


胸に手を当てながら何度も深呼吸を繰り返すと、少しだけ呼吸が楽になってきた。


「……ローズ、すまない。私のせいで……でもこれは……」

「大丈夫です。私は何も気にしていませんから」

私が口にしたのは、先ほどシャルル様が言ったこととほとんど同じ言葉だった。


ズキン。……ズキン。

また胸が痛みだしたが、私はそれを誤魔化すように笑う。


「そろそろ、お二人の今日の訪問の理由をお伺いしたいのですが?」

頑張れ、私。……絶対に泣くな。

泣くのは二人が帰ってからだ……。


震えそうになる手に力を込めて感情を堪える。


「ローズ……」

カージナス様が労るように私の名を呼ぶ。


いつも飄々としているカージナス様には珍しく、心から私を心配してくれているらしい。

シャルル様に振られた私をカージナス様はきっと甘やかしてくれるだろう。

だけど……それは違う。やってはいけないことだ。

私はカージナス様を欲していないし、カージナス様はもう心に決めた相手がいる。

そんな人に甘えたら私はもっと駄目な人間になってしまう。

もう二度とシャルル様に顔向けなんかできない……。


「カージナス様。今度は一体どんな頼み事ですか?」

笑顔を崩そうとしない私を一瞥したカージナス様は、大きな溜息を吐いた後にグシャッと髪をかき上げた。


そして、フッと不敵な笑みを浮かべた。

「……流石はローズだな。私の考えが読めるとは」

「ふふっ。だってカージナス様ですもの。慣れました」

《《王子の顔》》になったカージナス様が笑うのに合わせて、私も笑う。


……こんな私を気遣って下さって、ありがとうございます。

私はカージナス様に心の中で感謝をした。


いつものようなカージナス様との他愛もないやり取りは、ほんの少しだけ私の気持ちを軽くしてくれた。カージナス様からは、これだけで十分だ。


だけど、シャルル様の方はもう……見れない。


「話が早くて助かる。実はな――」


――今、シャルル様は何を考えているのだろうか?


私という厄介な存在から縁を切れて、スッキリした顔をしている?

……それとも、少しは罪悪感を感じてくれている?

今度はカージナス様を誑かすつもりか、とでも考えている?



シャルル様の方を見れない私には、彼の表情なんて知る由もなかった。

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