第二十三話
二回目の席替えはあっという間に終了した。
大きなテーブルを挟むようにして、大きめなソファーが二つ置かれた。
『部屋を移動した方が早いんじゃ……?』は、禁句です。
こんな大掛かりな《《席替え》》を何度もするなんて、貴族のする行動は凡人には理解が出来ない。……って、私も今はその貴族の一員なのだけど。
うーん。分からない。
「さあ、皆様。お座り下さいませ」
ミランダにそう促されたので、私はソファーの一番端っこに座った。
真ん中に座るのは苦手だから……。
それでなくても、これからミランダ達から話されるのは私自身が無意識に使用していると思われる【魅了】という魔法の話なのだ。
話の主役だからとはいえ、あまり目立ちたくないのと……面倒くさいと思っているのが本音である。
美味しいお酒を沢山飲んだのだから、このまま幸せな気持ちで静かに眠りにつきたいじゃないか。私の魅了も、とても気になるが……。
ソファーの端にもたれていると、隣が沈んだ。
ミレーヌかミランダのどちらだろうか?
……そう思いながら視線を向けると、なんと隣に座ったのはシャルル様だった。
てっきり女性と男性でとで分かれて座ると思っていたので、とても驚いた。
シャルル様の横にはラドクリフが座り、正面のソファーには真ん中のカージナス様を挟むように、ミランダとミレーヌが座っている。
私の正面がミレーヌだ。ラドクリフの正面にミレーヌを座らせない辺りに、カージナス様の独占欲の強さが透けて見える気がするのは、考えすぎだろうか……?
私の横にシャルル様が座ったのも、独占欲からだったら良いのにな。
そんな身勝手な事を考えながら、チラッとシャルル様を上目遣いに見ると、シャルル様とバッチリと目が合ってしまった。
……あああっ!
何か話したいと思うのに、酩酊している思考では何の話題も出てこない。
仕方がないので……取り敢えずは笑って誤魔化した。
我ながら不自然な笑みだな……と思いながらもニコッと笑うと、一瞬だけ驚いた様な顔をしたシャルル様も直ぐに笑い返してくれた。
柔らかいシャルル様の笑顔に胸がキュンとした。
シャルル様が近くにいると、顔が熱くなって、胸がギュッとしたり、キュンとしたり少しも落ち着かないのに――たまに、泣きそうになる位に幸せな気持ちにもなる。
ずっとこうして一緒にいたいなぁ……。
キュッとシャルル様の着ているジャケットの裾を握ると、
「どうしましたか?」
シャルル様が微笑みながら首を傾げた。
その顔がほんの少しだけ赤く染まっている気がするけど……段々と瞼が重くなってきて、思考もまとまらなくなってきた。
笑い掛けると、笑い返してくれて……話し掛けると、嫌な顔一つせずにきちんと答えてくれるシャルル様が好き。
シャルル様の顔が好き。その笑顔が好き。剣術を頑張っているのが分かる少し固い手も好き。
――本当は告白の答えが欲しいけど、その答えを聞くのは……少し怖い。
自分に自信なんてない。沢山、迷惑かけてしまった。
今のまま甘えていられたら幸せだけど……もっと独り占めしたい。
『シャルル様は私の物だから手を出さないで』と胸を張って言える権利が欲しい。
でも……今の関係が変わるのは怖い。
少しずつ話が出来る様になった《《今》》を手放したくない。
カージナス様が恨めしい……。
どうして、私を婚約者候補になんて推薦したの……?
これがなかったら私は……私は…………。
「――だそうですわよ?」
ミランダ様が笑いながら僕とカージナス殿下を交互に見た。
……ローズ、君は……。
僕は熱く熱を持った顔面を隠すように片手で覆ったが……手の隙間から頬が赤く染まっているのは見えているだろう。
「……まあ、そうだろうな」
カージナス殿下の苦笑混じりの声が聞こえた。
こっそりと溜め息を逃がすと、少しだけ顔の熱が冷めた気がした。
こんな熱烈な告白をしてくれるのなら、二人だけの時にして欲しかった。
せめて、ニヤニヤと笑う殿下やラドクリフ様のいない所で……。
暫くはこれをネタにされるだろうが……ローズの素直な気持ちを聞く事ができて嬉しい方が勝っているので、これから殿下達にからかわれても耐えられそうだ。
「これがローズの本音ですのね」
「ええ。嘘偽りのないローズの本音ですわ」
指の隙間から、ミレーヌ様とミランダ様のやり取りが見えた。
彼女達は、ローズの大切な友人である。
心の声を全て口に出してしまっていた事に気付かないローズは、頭を僕の左胸に預けながらスヤスヤと寝息を立てている。
僕が顔を隠すのに、片手しか使えなかったのは、眠ってたあるローズを支えているからなのだ。
「……ふふふっ」
どんな夢を見ているのか……。
ローズの口元は、ニッコリと弧を描いている。
……まあ、どんな夢でも構わない。
ローズ。君が幸せなら。
僕の腕をさらりと流れるローズの絹糸のような髪を一房掬い上げると……ローズが身動ぎした。
そして――――
「んっ……」
「ローズ――」
今度はなんと僕の背中に両腕を回し、胸元に抱き付く形で眠り始めたのだ。
……っ!!
僕は思わずそのまま固まった。
小さくて柔らかいローズの温もりが直に伝わってくる様で落ち着かない。
良い匂いだ……なんて、そんな不埒な考えている余裕はないはずなのに、動揺し過ぎて逆に冷静になってきた気がする。
「くくっ。やっぱりローズ姫は可愛いね。面白い」
「あら、お兄様。ローズはとても可愛いのよ。それに、乙女の事を笑ってはいけませんわ」
「ああ、違いないな。悪かったよ」
ジト目を向けてくる妹のミランダ様に、ラドクリフ様が素直に謝罪をしている。
ここも何だかんだで妹に甘い兄なのだろう。
「さて、皆様。そろそろ本題に入ろうかと思いますが…………今日のローズの事は他言無用ですわよ?」
「ええ。特にカージナス様とラドクリフ様は、ローズをここまで酔わせてしまった責任がありますからね。その責任は後からしっかり取って頂きますわ」
ミランダ様がニッコリ笑うと、ミレーヌ様もそれに追従しながら微笑んだ。
二人共、笑顔のはずなのに瞳が笑ってはおらず、背筋に何やら寒いものも感じる――。
……怖い。
この二人は味方なら頼もしいが、決して敵にしてはいけないと、僕は改めて思った。
まあ、ローズの事ならば言われずとも、是が非でも守るが。
「では、お話しを始めましょうか」
ミランダ様が開始の合図の様に、パチンと両手を合わせた。




