第十二話
今日は待ちに待ったワイナリーの視察だ!
この日のためにお酒を我慢したりは……………していない!
良いじゃないか。だってお酒だもの。
昨日は、甘くて美味しい果実酒を頂きました。
大変美味でございました。
そして今日は…………浴びるほどに飲むぞ!!
……コホン。
失礼。取り乱してしまいました。
ミレーヌの代理として、カージナス様の視察に同行する私は見えない内面はどうあれ、外面は完璧な令嬢モードでなければならない。
カージナス様に恥をかかせることになったら……我が家は終わりです。お取り潰しです。
……決して冗談ではなく。
ミレーヌみたいにカージナス様のことが好きならば、何でも頑張れるのだろうが……。
寧ろ、関わりたくない分類のカージナス様との視察だなんて、ワイナリーの誘惑がなければ絶対に無理だ。どんな理由を付けてもお断りしたい。
私はカージナス様が好きではないのだから。
なのに……視察に向かう馬車の中は二人きりだ……。苦痛でしかない。
瞳を細めながら、ニコニコとこちらを見ているカージナス様はとても気持ちが悪い。
「何か、酷いこと考えてない?」
「考えてません」
勿論、嘘だ。考えている。ああ、考えているさ!
心の中くらいは自由にさせてよ。
「はあ……。私はローズともっと仲良くなりたいと思っているのに、君は本当に懐かない猫みたいだね」
大袈裟なほどに大きな溜息を吐くカージナス様。
「あら。カージナス様は私のことなんてお好きではないのですから、良いではないですか」
私はツンとすまして良い放った。
私はお断りだ!!
「好きだと言ったらどうする?」
はあ……?
どの顔と口でそのセリフを吐くんだ。この王子様は。
「ミレーヌに言いますよ?カージナス様が浮気者だと」
そのままミレーヌに嫌われてしまえ!!
「いや、ミレーヌは喜ぶよ」
「……は?」
「ローズが側室になったら喜ぶよって」
いやいやいやいや!!
「お断り致します。私は一番でないと嫌なのです」
側室なんてお断りだ!!
カージナス様なんかと結婚するものか!
「なら、正妻にしてあげようか?ミレーヌは側室にすれば良いよ」
意図の読めない顔をしながら笑っているカージナス様。
何でこんなにこの話題を引き伸ばす?
カージナス様はミレーヌのことだけを考えて、さっさとくっ付けば良いじゃないか。
私のことなんて放っていて欲しい。
「そんな冗談は嫌いです」
イライラが溜まっていた私は不敬だと知りつつカージナス様をジロリと睨み付けた。
「はは。ごめん。君は……シャルルが好きなんだもんね」
『シャルル』この名前が出てくるだけで、反応してしまう自分が恨めしい……。
赤くなった頬を押さえながら溜息を吐く。
「それで……」
「ん?」
「何かあったのではないですか?だから私でストレス発散しているのでは?」
そうでもなければこんなにしつこく絡んでこないだろう。
カージナス様は一瞬だけこちらを伺う素振りをした後に、くしゃりと顔を歪ませた。
「実は……最近、ミレーヌが君の話しかしないんだ」
「……は?」
何だそれは。
「『ローズ可愛い』『ああ、お人形さんごっこしたい!』とか、口を開けば君のことばかりでね」
「……ええと、すみません?」
ミレーヌが私のことを考えてくれるのはとても嬉しいが……。
……そうか。カージナス様はヤキモチを焼いて拗ねて、私に八つ当たりをしているのだ。
って……あれ?私ただの被害者じゃない?
「甘い雰囲気になって……愛を囁こうとすると、君の話題を出すんだ」
シュンと肩を落とすカージナス様。
いつもなら『いい気味だ』と思う所だが……少しだけ可哀想だと思ってしまった。
フォローしてあげようと口を開くと……。
「あの……カージナス様」
「可愛いミレーヌに愛を囁きながら、熱い口吻を何度も交わしたいと言うのに……!!」
んん!?
「あの細い首筋にも口吻を落としながら、ミレーヌの柔肌に……」
「カージナス様!!ストップ!!」
男性からこんな生々しい情事の内容は聞きたくない!
真っ赤になりながら、話しを中断させた私はもういっぱいいっぱいだ。
なのに…………。
「プッ……。クッ…ハハハ!!」
爆笑ってどういうことですか!?
この時になってようやく私は、カージナス様にからかわれていただけなのに気が付いた。
……心配して損した!もう、知らない!!
私は唇を堅く結んでプイッと横を向いた。
ニヤニヤと笑いながらこちらを見ているカージナス様の視線を無視し続けていると、ガタンと馬車が止まった。
「着いたか。思ったよりも早かったな」
カージナス様はスッと立ち上がり、従者が開いた扉から外に出て行く。
正直気分が乗らないが……これは仕事だと割り切り、カージナス様の後に続いた。
馬車の外には私をエスコートするために、カージナス様が待ち受けていた。
周囲に気付かれないようにそっと溜息を漏らした私は、令嬢スマイルを作りながら差し出された手を取った。
さて、ここは何処だろう?
周囲を見渡した私は、作り笑顔を貼り付けたまま固まった。
どうして……ここにいるの!?




