第十話
チュンチュン。
この世界にも雀に似た鳴き方の鳥が存在する。
そして、その鳥が早朝から鳴き出すことも知っている。
つ・ま・り!!
またやってしまったのだ!!!!
私はベッドの上でゴロゴロと転がりながら悶絶した。
……駄目だ。
記憶があやふやで……自分が何をしたのかハッキリと思い出せない。
昨日の御披露目会はどうなった?!
あぁぁぁぁぁぁぁ……。
穴があったら入りたい!
またなのだ!また!!
シャルル様の前で記憶を失くすだなんて失態をしてしまった……。一杯しか飲んでいないのに。
もう二度とシャルル様は私に会ってくれないかもしれない。
そう思うだけで涙が滲んでくる。
……何故だ。…………何故なのだ。
自分の邸で飲んでいる時には、どんなに飲んでも記憶が失くならないというのに、だ。
どうしてシャルル様がいる時だけこうなってしまうのか。
……久し振りに会えたのにな。
ゴロゴロと動かしていた身体をピタッと止めて天井を見つめる。
一年前に会った時よりも身長も伸びていたし、胸板だって厚くなっていた。
中性的な顔立ちのシャルル様は更に綺麗に……格好良くなっていた。
三男だなんて関係ない。シャルル様との結婚を望む令嬢は私以外にもたくさんいるはずだ。
カージナス様の婚約者候補になんてなってる場合じゃないのに……。自分のこの立場が恨めしい。
また返事を聞けなかった。
お酒の勢いとはいえ、誰よりも早く求婚したのに……。
しかし、今の立場で返事を聞いてもどうにもなれない現実もある。
ここはやはり私を婚約者候補に推したカージナス様を恨むべきかもしれない。
きっと……シャルル様はたくさん誤解をしている。
私は本当にカージナス様との結婚は望んでないし、ミレーヌを応援している。
……私が今心から望んでいるのはシャルル様の隣に立てる資格だ。
一生仲良く添い遂げる将来なのだ。
シャルル様に似た男の子が産まれたら絶対に可愛いだろうな……。
いや、女の子も捨てがたい。どちらとも美男美女に育つことは間違いない。
……って、こんな先を妄想してどうする。
はあ……。
そんな深い深い溜息を吐いた時。
コンコン。
「ローズ。入るわよー。」
部屋の扉が叩かれ、すぐににひょっこりとミレーヌが顔を出した。
ミレーヌ?!
予想外な来客に私は慌ててベッドから飛び起き、ミレーヌの元に駆け寄った。
「こんなに朝早くどうしたの?!ていうか、どうしてミレーヌがここにいるの!?」
頭の中は?でいっぱいだ。
そして、ふと…………気付く。
自分の着ている夜着がいつも愛用している物とは違うことに。
え?え?
何?どうなってるの!?
っていうかここは何処だ!!?
私の心情を正しく読み取ったらしいミレーヌは、可笑しそうにクスクスと笑っている。
笑う所?!
目尻の涙を拭ったミレーヌは……って、涙が出るくらい可笑しかったの?!
まあ……それは置いといて。
「ここは王宮の客間よ」
ミレーヌはコテンと首を傾げながら微笑んだ。
「え……?王宮?…………どうして?」
「昨日のローズは大分酔ってたみたいだし、カージナス様がローズと話したいことがあるって言うから、そのまま王宮に泊めたのよ。だから私も一緒にお泊まりしちゃった」
ミレーヌはニコニコと楽しそうだが、私は気が気じゃない。
昨日の失態のせいでカージナス様に何を言われるか分からないからだ。
それでなくても記憶がないというのに……。
まさか王子相手に何もやらかしてないだろうな…………私。
「ねえ、ミレーヌ。昨日の私って……どうだった?」
「色んな意味で可愛かったわよ?」
恐る恐る尋ねると、ミレーヌは瞳を細めた。
色んな意味で?!
……怖い。でも聞かないといけない気がする。
「酔ったローズってあんな風になるのね」
「『あんな』とは?!そこを詳しく教えて!!」
「ふふっ。シャルル様も面白かったし」
「え?!」
……私の質問はスルーですか?!
ていうか…………え?シャルル様が面白かった?
「ふふふっ」
ミレーヌは口元に手を当てながら笑っている。
どうやらミレーヌはこの件を詳しく話してくれるつもりはないらしい。。
「教えてはくれないのね……」
「ええ。私の口からではなく、シャルル様本人から聞いた方が良いと思うわ」
うっ……。
それはまたハードルが高いな…………。
恨めし気にミレーヌを見ると『頑張って』と、にこやかに笑い返された。
「さて、そろそろ朝食に行く用意をしましょうか」
パチンと一回だけ手を合わせたミレーヌは、私をドレッサーの前へ連れて行く。
そうしてそのまま私を座らせると、ミレーヌは自らブラシを手に取った。
「……ミレーヌがやってくれるの?」
「そうよ。意外かもしれないけど、好きなのよ」
好きだというだけあって、ミレーヌの手捌きは慣れていた。
「ローズの髪はサラサラのストレートで羨ましいわ」
「そう?ミレーヌの巻き髪も素敵だと思うけど」
「ありがとう。でも、この巻き髪はどんなに真っ直ぐに伸ばそうとしても頑固で駄目なのよ。真っ直ぐにしている最中から戻ってしまうの」
ミレーヌは苦笑いを浮かべた。
おお、鋼のドリル……。
そんな他愛もない会話をしながら、器用なミレーヌの指先は私の髪をどんどん編み込んでいった。
「さあ、完成よ。どうかしら?」
ミレーヌに手鏡を渡された私は、鏡と手鏡を交互に見ながら感嘆の声を上げた。
「凄い!!ありがとう!ミレーヌ!」
綺麗に編み込まれた髪は一つにまとめて横に流され、紐でくくった所には花付きのリボンが巻かれていた。
私も髪を結うことはできるが、こんな風に綺麗には仕上げることなんてできない。
お世辞抜きしてもプロと同じクオリティーだと思う。
そしてミレーヌはドレスまで着させてくれたのだった。
「うん。完璧だわ」
ニコリと笑うミレーヌはとても満足そうだ。
「ありがとう。ミレーヌ」
「どう致しまして。お人形さん遊びみたいで楽しかったわ」
……お人形さん遊びって……ミレーヌさん。
いいたいことは分かるけど、口に出したら駄目でしよう?!
苦笑いを浮かべる私に、ミレーヌは笑顔でサラッと爆弾を落とした。
「朝食の席にはシャルル様もいるわよ」
………はい?!
え?じゃあ、シャルル様も泊まったってこと?!私のせいで?
……うううっ。
それでなくとも合わせる顔なんてないのに……。
穴があったら入りたい。
寧ろ、穴を掘って引き籠もりたい…………。
ミレーヌは無情にも、両手で顔を覆う私を引き摺るようにして朝食の席へと連れて行った。
っていうか、ミレーヌ……。
あなたは何で、こんなに力が強いの!?




