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引退間際のくたびれたおっさん冒険者がダンジョンで見つけた超古代文明の魔導鎧はバトルスーツで変身ッ!  作者: 坂東太郎
『第三章』

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第四話 突入! ヒーローは観衆の喝采を浴びる


 広場に怒号が響く。

 踏み鳴らされる靴音は一定のリズムを持って、人々の怒りを現しているかのようだ。

 冒険者や戦える者が前に出て、二十人の護衛部隊と向かい合う。


 壇上では立て札に縛られた看板娘が涙を落とし、年若い領主が無意識に後ずさる。

 冒険者ギルド長とSランク冒険者『鉄壁の戦乙女』ことコロナが、壇上に続くステップに足をかけた。


 一触即発。


 カケルは、そんな広場を見下ろした。


(魔導”大気(エアカレント)操作(コントロール)”。残魔力(エネルギー)95%です)


『暴れるには充分だな! うっし、このまま突っ込むぞ』


 魔導鎧(マギア)の機能を解放して変身したカケルは、屋根の上からさらに飛び上がる。


 空中へ。


 屋根の上から飛び出して、カケルが左足を突き出す。


『速さは強さで、高い場所から落ちりゃ速くなるってな!』


(運動エネルギーは重さ×速度の二乗×1/2です。落下速度は高さ×重力加速度です)


 ざっくりとしたカケルの発言に、アルカが補足を入れる。

 カケルの脳内には、無表情でため息を吐くアルカのイメージが浮かんだ。


 カケルはアルカにかまわず目標を定める。


『マギアストームキーック!』


 カケルの魔力を受けて、魔導鎧(マギア)に赤い光が走る。

 残光を曳いて、カケルは広場に飛び込んだ。


 壇上へ。


「侯爵様ッ!」


 一撃で決めようと侯爵を狙ったカケルの飛び蹴りは、侯爵の護衛らしき騎士に遮られた。

 ガンッと大きな音を立てて盾にぶつかり、騎士が吹き飛ぶ。


 突然の闖入者に、広場に集まった人々は静まり返った。


「何者だ!」


 侯爵の問いに、カケルはニヤリと笑った。

 魔導鎧(マギア)におおわれて表情は見えない。


「力に溺れて害なすヤツは、力に負けて死ぬといい。力ある『マギア』が、力を(もっ)てお前を倒す!」


 見得を切って名乗りをあげる。

 侯爵は訝しげに眉をあげ、領主や冒険者や街の住人は「あれが噂の」などとざわめく。

 『マギア』と名乗る黒い鎧の噂を知る人々の声が歓声に変わるまで、さほど時間はかからなかった。


 幼い頃に憧れたヒーローのように歓声を浴びて、壇上のカケルがほくそ笑む。


「ふん、正義の味方気取りの平民など殺してくれるわ!」


 侯爵が手を振り下ろす。

 それは攻撃ではなく、合図だった。


 舞台を囲んでいた侯爵の護衛部隊二十人のうち、十人が上がってくる。

 侯爵の横にいた護衛の魔法使いがブツブツと詠唱をはじめ、カケルの飛び蹴りで吹き飛ばされた騎士が立ち上がる。


 少なくとも十二人が、カケルを倒すべく向かってきた。


「『マギア』とやら、私も戦うぞ!」


「領民を守るのは領主の仕事。魔法使いとして(わたくし)もともに」


 背後から『鉄壁の戦乙女』と領主の声がかけられる。

 カケルは振り返ることもなく、ただ左腕を伸ばした。


 俺一人で充分だ、というかのごとく。


『まるでヒーローみてえだな俺! 行くぞアルカ!』


感覚強化(センスアップ)身体強化(ストレングスアップ)発動中。高速行動(クロックアップ)を発動します)


 意識しない限り、魔導鎧(マギア)機能解放時にカケルの声は外に漏れない。


 迫りくる敵を前に、カケルは足を踏み出した。


 最初に攻撃を仕掛けてきたのは、十人の護衛部隊だ。

 前方の四人が剣で斬りかかり、その陰から残る六人が短槍を突き出す。

 訓練の成果なのだろう、一糸乱れぬ集団攻撃に、Eランク冒険者のカケルであればここで終わっていたことだろう。

 あるいは、街最強のSランク冒険者『鉄壁の戦乙女』も危なかったかもしれない。


 だが、いまのカケルには、超古代文明のマジックアイテム「魔導鎧(マギア)」がある。


『ははっ、おせえおせえ!』


 引退間際のおっさん冒険者ではありえないほどの速度で反応して、カケルは舞台を蹴って飛び上がった。

 空中でくるりとトンボを切って、護衛部隊の背後にまわる。

 振り返るよりも早く拳と蹴りを叩き込む。

 隊列が乱れてしまえば、変身したカケルの敵ではない。

 護衛部隊を次々と吹き飛ばすカケルには、立て札に縛られた看板娘に当たらないよう調整する余裕さえあった。


「舐めやがって! 死ねッ!」


 十人の護衛部隊に気を取られたカケルは横から不意打ちを喰らう。

 最初に吹き飛ばした、護衛の長らしき騎士の斬撃だ。

 騎士が斬り抜けると続けざまに魔法が飛んできた。


火矢(フレイムアロー)三連発(トリプル)!」


 侯爵の横で集中していた魔法使いによる火矢が、連続で。


 足元で倒れていた護衛部隊さえ火傷するほどの炎が、魔導鎧(マギア)を装着したカケルを包み込む。


 広場に、集まった人々の悲鳴が響いた。


 魔法使いでもある領主は「そんな、魔法の連続使用は高位の魔法使いしか」などと驚愕している。

 コロナがベルトに差し込んだポーションの瓶を掴んで魔導鎧(マギア)に飲ませようとして。


 炎が消えた。


『あつ……くねえ。おい、どういうことだアルカ?』


(私はドラゴンのブレスを耐えられるように設計されています。この程度の魔法、問題ありません)


『ははっ、そいつはすげえ』


(この程度であれば吸収が可能です。残魔力(エネルギー)96%。わずかな補充にしかなりませんね)


『余裕だなおい』


 騎士の斬撃は魔導鎧(マギア)に傷一つつけられず、火魔法はダメージを与えられない。

 カケルの頭の中のマギアは無表情なのにどこか誇らしげなことが伝わってきた。

 安心したのか、カケルはゆらりとファイティングポーズをとる。

 護身術しか修めていないカケルの、見掛け倒しの構えだ。


 だが、侯爵とその護衛には充分なはったりになったらしい。


「なっ、無傷、だと!?」

「侯爵様、撤退をご考慮ください」

「くっ、使えんヤツらめ!」


 焦る騎士と進言する魔法使いの元へ、カケルが飛び込んだ。

 攻撃されても効かないならば、回避に気をまわす必要もない。


 高速行動(クロックアップ)筋力強化(ストレングスアップ)感覚強化(センスアップ)、それに斬撃を通さない純粋な防御力。

 本来はカケルよりも騎士の方が近接戦闘に長けているだろうが、カケルは騎士を圧倒した。


『これで終わりだ!』


「ごふっ」


 それでも騎士は粘っていたが、ついにカケルのボディブローが騎士のみぞおちを捉えた。

 体がくの字に曲がる。

 続けて、怯えて逃げ腰な魔法使いの意識をハイキックで刈り取る。


 広場に、集まった人々の歓声が響いた。


 カケルの活躍に触発されたのか、小さな舞台を守る残る十人の護衛部隊に、冒険者がジリジリと近づいて圧力をかける。


 力関係は逆転した。


 カケルは、後ずさる侯爵にゆっくりと近づいていく。


「な、何をする気だ、儂は侯爵、封龍公だぞ、儂に何かあれば」


『聞こえねえなあ』


(はい、拾得人(ファインダー)の声は外に聞こえていません)


『いやそういうことじゃなくてよ、まあいいけど』


 どこか気の抜けた会話をしながら、侯爵との距離を詰める。

 舞台の下の護衛部隊はチラチラと壇上を気にしながらも、目の前の冒険者に睨まれて動けない。

 あるいは、こちらの十人はカケルにのされた護衛部隊より侯爵への忠誠心が低いのか。


「そうだ、コレをやろう、ん? どうだ? 平民では手に入らない逸品だぞ?」


 助けが来ないことを理解して、侯爵は指輪を外してカケルに差し出す。

 魔導鎧(マギア)の内側でカケルの表情が揺れ動くが、外からはわからない。

 侯爵の眼前に立ったカケルは——


「ひぶっ」


 赤い残光を曳いて、侯爵を殴り飛ばした。


(貴族の血も赤い。確認しました)


 広場には一瞬の静寂が訪れる。


 アルカのどこか場違いな魔導心話(テレパシー)がカケルの脳内に届く。


 広場はすぐに、大歓声に包まれた。


「さあ、逃げずに来るなら殺してやる」


 落ちた侯爵を壇上から見下ろしてカケルが告げる。

 護衛部隊に受け止められた侯爵は、ふがふがと聞き取りづらい声で指示を出した。


 残る十人の私兵が一斉に行動をはじめる。

 二人掛かりで侯爵を抱え、倒れた護衛を助け起こし、護衛部隊の一部はふらふらとよろめきながら、小さな舞台から離れていく。


 広場に集まった冒険者もほかの領民も、これ以上かかわりたくないとばかりに道を開けた。

 それとも、向かってこないなら見逃そうというカケルの言葉に配慮したのかもしれない。


「マギアとやら、逃すのか?」


 Sランク冒険者・コロナの問いに、カケルはこくりと頷くと、コロナは「そうか」と言い置いて、立て札に縛り付けられた看板娘の拘束を解く。

 婚約者である男性が壇上に駆けて看板娘にすがりつく。

 領主は思案顔だ。


 広場を見下ろすカケルの視線の先。

 豪奢な馬車に侯爵が、もう一台に護衛部隊のうち動けない者が乗せられた。

 馬車が動き出す。

 領主館ではなく、街の外に出る門の方向へ。


「『マギア』と言ったな! 覚えていろ、必ず、必ず貴様を殺してやる!」


 殴られた傷は高位ポーションで癒したのだろう。

 動き出した馬車から、憎しみのこもった侯爵の叫びが聞こえてきた。


 壇上に立つカケルはピクリとも動かない。


 看板娘と婚約者が泣きながら抱き合い、背中を向けるカケルに何度も感謝の言葉を口にして、集まった人々は英雄(ヒーロー)の勝利に湧きたつ。


 ただ、「侯爵」の言葉に、領主のみが顔を青くしていた。


拾得人(ファインダー)よ、殺さなくてよいのですか?)


『物騒だなアルカ。まあなんかあったら返り討ちにすりゃいいだろ』


(そうですか。人間はよくわかりませんね)



 黒い魔導鎧(マギア)を装着したカケルは、脳内でわずかに首を傾げるアルカを無視して、高々と拳を突き上げる。


 二十二年前、助けに行けなかった過去を吹っ切るかのように。

 看板娘を、領主を守れたことを誇るかのように。



 広場には、『マギア』と名乗った英雄を讃える声が響き渡った。


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