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彼岸の聖者  作者: 空波宥氷
7/39

茶屋-峯楼館-

主な登場人物

 

・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。


・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。


・李徳深(リー トクシン

中華街で茶屋を営む、情報通の男。

茶屋の名前は、峯楼館(ホウロウカン。

友香が幼い頃から親交があり、今では茉莉花茶を一緒に飲む仲。

何かと友香の面倒を見ている。

7

 探偵事務所を出た友香は、とある茶屋の前にいた。


 峯楼館ほうろうかん


 事務所の一階部分にあるその店は、立地条件が悪いためか、あまり客が来ていないようだ。来るのは常連客ばかり。知る人ぞ知る名店、というわけでも無いが、近隣の飲食店からは贔屓にされているようだった。


 大きなガラスが嵌め込まれた、飴色をした木目調の扉を開ける。友香が店へと入ると、鈴がカランカランと音を立てた。


 店内は、落ち着いたアジアンテイストな内装で、ところどころに差し込まれた赤色がいいアクセントになっていた。天井からは、いくつかの赤い提灯がぶら下がっている。


 右手側の壁は全て木目調の棚になっており、パック詰めされた茶葉や、白や土色の茶器が綺麗に並べられていた。また、L字になった棚の中央には、二つの長テーブルが置かれており、その上にも、値引きされた茶葉が籠に入れられていた。左手には、二人掛けの小さなテーブルが三つほど設置されている。


 その奥にレジカウンターがあり、サングラスをかけた長身の男がスーツ姿で立っていた。


 男は店に入ってきた友香に気がつき、顔を上げる。



「買い物か?」

「いいえ、少し訊きたいことがあって」

「残念だ。ちょうど今日、いい茉莉花茶が手に入ったんだがな」



 サングラスの奥、瞳孔が開いたままの切れ長の目が少女を見つめる。



「あら、そうなの?じゃあ後で頂こうかしら?あなたが言うのなら、相当いいものなんでしょうね」

「ああ、保証しよう。で、訊きたいこととはなんだ」



 男はカウンターから出ると、テーブルについた。友香もそれに習い、椅子に座る。



「シン、萌芽の家って知ってる?」

「萌芽の家?あの人権団体か?」



 男は、友香の問いにさらっと答えた。


 シンと呼ばれたこの男、名前を李徳深りー とくしんという。


 彼は茶屋を営む傍ら、中華街の自治組織の代表をしている人物である。また、県教育委員会の後援会に所属しており、あらゆる事情に精通、顔が効く。それゆえ、児童人権を擁護する団体のことは、なおのこと耳にしていて当然だった。


 友香もそれを知っていて、彼の元を訪れているのだった。



「それがどうした?」

「いえ、実は……」



 友香は今朝あったことや、清花から聴いたことをシンに話した。



「ほう、違法改造にテロ行為への関与……前々から、キナ臭いものは感じていたが、ついに警察が動き出したか」

「ええ。で、その萌芽の家について、あなたが知っていることを教えてくれないかしら?」

「悪いが、俺もお前と同じくらいの情報しか持ち合わせていない。違法改造の件が初耳だったくらいだ」

「そう……」



 友香は少し残念そうな顔をする。

 そんな彼女を見てか、「だが」と、表情を変えずシンは言葉を続けた。



「萌芽の家がどうやってできたのか、その経緯くらいなら教えてやれるぞ?聴くか?」



 彼の提案に、一瞬目を見開いたあと、友香はニヤリとした笑みを浮かべた。



「ええ、是非。お願いしたいわね」

「そうか。その前に喉が渇いた。少し待っていろ」



 立ち上がり、カウンターの奥へと消えていくシン。

 しばらく待っていると、彼がトレイを持って現れた。トレイには、急須と茶器が載っていた。

 椅子に座り、茶器にお茶を注ぐシン。


 友香は、それを受け取る。器からほんのりとした温かかみを感じた。

 茶器に入っている、黄金色の液体を口の中へと運ぶ。



「あら……美味しいわね。緑茶?」

「いや、これも茉莉碧螺(モーリービール)という茉莉花茶だ。ただ、緑茶をブレンドして作られているそうだ。アーユの舌は鋭いな」

「へぇ、珍しいわね。香りもいいし、さっぱりしてて美味しいわ」と口元を綻ばせる友香。



 シンも、そんな喜んでいる彼女を見て、満更でもない様子だった。



「気に入ったのなら後で包もう。と、そろそろ本題に入ろうか」

「ええ、頼むわ」



 茶器を置き、真剣な表情をする友香。

 シンが語り始めた。



「萌芽の家ができた根本的な理由には、戦後の不景気やそれに付随する少子化、労働力の貧困化などが存在しているが、この際省くことにする」

「とりあえず、子供に希少価値が付加された、くらいに思っておけばいいかしら?」

「ああ、その解釈でいい」



 頷き、話を続けるぞとシン。



「今から8年前、児童の教育制度や社会保障の見直しなど、少年少女の権利拡大を求める論調が高まっていた頃だ。ある事件が起こった」






「横浜平和教会籠城事件」






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