プロローグ『華ノ探偵少女』弐
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全員から名前と年齢を聴いた友香は、事件の現場となった男子トイレを調べていた。他の四人にはレジの奥にあった休憩スペースで待機してもらい、店主には店を閉めてもらった。
彼女は、被害者の遺体を観察する。
被害者は見た目二十代、中肉中背、金髪のホスト風の男性だった。凶器は、床に落ちていた包丁。おそらくホームセンターなどで購入できる量産品だろう。包丁が引き抜かれたせいか辺りは血が飛び散っており、事件の凄惨さを物語っていた。
「ん?」
友香は何気なく目にした、被害者の手がキラリと光ったのを見た。正確に言えば、光ったのは爪の間。被害者の手を持ち、爪の間を凝視する。
「これは……塗料?」
その正体は、塗料が乾いて剥がれたようなものだった。色は橙色をしていた。
それを摘み取り触ってみると、少しの弾性を感じられた。
「まさか……」
ここで、友香の頭の中に、一つの可能性がよぎった。
彼女は開いていた窓に駆け寄る。サッシに手をかけ、外を見下ろす。そこは小さな子供が一人やっと通れる程度のスペースしかなく、廃品となった電化製品が無造作に投棄されていた。
じゃり……
彼女は、手のひらに異物感を覚えた。手のひらを広げて見ると、なにやら土のようなものが付着していた。
彼女は目を丸くし、再び窓から身を乗り出し背伸びして、今度は上を向いた。
「やっぱり……ね」
何かに納得した彼女は、身体を窓から戻すと携帯電話を取り出し、ボタンを押す。
「もしもし、私だけど……少し調べてもらいたいことがあるんだけど」
どこかに電話をかける友香。しばらくして相手からの返答があると、礼を言い通信を切った。携帯電話をスカートのポケットにしまった友香は不敵な笑みを浮かべた。