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彼岸の聖者  作者: 空波宥氷
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蜃楼

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶を愛飲している。


・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の刑事。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。


・九重優衣(ココノエ ユイ

友香のクラスメイトであり、親友。

活発な金髪サイドテールの少女。

一度身体を使ったことなら忘れない才能がある。

機械仕掛けの身体を持つ。


・生天目 響(ナマタメ ヒビキ

友香、優衣のクラスメイトで、親友。

黒髪ロングをハーフアップにした少女。

天才ハッカー。バニラアイスが好物。




その他の人物


・羽川モカ(ハネカワ モカ

友香たちの友人。

関係省庁に技術提供を行っている。

透明人間になれる『スケルトンX』を開発した人物。

工学科の才女。


・セラ

萌芽の家ができる契機となった事件の生存者。

同組織の広告塔を担っている。


14






「まぁ……」






 友香は、施設に背を向けるとしゃがみ込み、頬杖をついて不貞腐れていた。


「7割方、門前払いくらうとは思っていたけど、まさかこんな形で失敗するとは……」

「ごめんよ友香……」


 ため息をつく友香と、その隣でうなだれる優衣。


 セラとの接触に失敗した2人は、門前で立ち往生していた。


「過ぎたことを言っても仕方ないわ。次に活かしましょう」

「天への扉は固く閉ざされた……」


 友香が膝を払い、立ち上がる。


 一方で、親友の頼みを手伝えず、むしろ邪魔になってしまったことがショックだったのだろう。


 友香がフォローを入れたものの、優衣は落ち込んだままだった。




「さて、どうしようかしら?」




 考えるポーズを取る友香。


 こちらは、すでに気持ちを入れ替えているようだ。


 彼女は、なんとなしに向かいにあったビルをぼんやりと眺めた。そのビルは、ほとんどガラスでできており、清潔感に溢れる外見だった。


 その窓ガラスを見ていた友香が、不意にあることを閃く。


 彼女はおもむろに携帯電話を取り出すと、どこかへと電話をかけた。


「もしもしモカ?私だけど。え?もちろん急ぎで。ええ、わかったわ、ありがとう。よろしく頼むわね」


 相手は、友人の羽川モカだった。


 二、三事、手短に話すと、折り合いがついたようで通話を切る友香。


「モカに電話?」


 優衣が尋ねる。


「ええ。優衣、あなたに頼みがあるんだけど、あなたの首輪、ちょっと貸してくれないかしら?」

「お?いいぞ!」


 汚名返上とばかりに、快諾する優衣。


 首輪を外そうと両手をかけたが、友香が待ったをかけた。


「ありがとう。あ、嵌めたままでいいわよ」

「どうするんだ?」


 貸してと言われたにも関わらず、嵌めたままでいいと言う。優衣の頭の上にクエスチョンマークが出ているようだった。


「そろそろ来るんじゃないかしら?」

「え?」


 優衣が疑問を口にしたとき、一通のメールが届いた。送り主はモカだった。


「モカからだ。ん?なんだこれ?」

「それを開いて、中にあるアプリをインストールして」


 指示を出す友香。


 メールには、あるアプリが添付されていた。


 表記には、『スケルトンくんX』とある。アイコンには、デフォルメされた可愛らしいブタの顔が使われていた。


「これか、わかった。けど、これどういうアプリなんだ?」

「透明人間になるアプリよ」

「透明人間?……あ!モカが共同研究に使うって言ってた……」

「ええ」




スケルトンくんXーー


 工学部の才女、羽川モカが、関係省庁からの要請を受けて開発した光学迷彩アプリケーションである。


 首輪から、特殊な熱光線を放つことによって、姿を隠せる仕組みになっている。と、友香は聴いていた。

詳しいことは尋ねても、「それ、国家機密に触れちゃうから言えないんだよね〜あい きゃんと てる ゆー♡」という、ふざけた返答が返ってくるだけだった。


 マイペースな彼女でも、守るべき約束は守るということか。まぁ、手の内を明かしたくないということもあるのだろう。






『さぁ、飛び立ていざ天竺へ!目当てのお宝、見つけられなきゃ、骨折り損のくたびれ儲け!』






「な、なんだぁ?」


 友香が考えに耽っていると、起動音が鳴り響いた。アプリが起動したようだ。


 この、モカの独特なセンスが表れた起動音、というか音声は、試験的に実践導入された際に抹消されたそうだ。彼女は、これに不満を感じているらしく、愚痴をこぼしていた。


「アプリの起動音ね。モカが吹き込んだのかしら?」

「な、なんていうか……モカらしい仕掛けだな、あはは……」




 友香は振り返り、閉ざされた門を見上げた。


 ついさっき優衣は、この門を天国への扉と比喩した。しかし、友香には地獄の門にも見てとれた。


 一切の希望を捨てよーー


 この先に待ち構える困難に、何があっても打ち勝つと友香は心に誓った。




「さぁ、行きましょう……!」




 少女は親友の手をとり、再び門の中へと歩き始めた。


 空は、今にも雨が降りそうな色をしていた。


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