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彼岸の聖者  作者: 空波宥氷
11/39

女子中学生・反町友香

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。


・九重優衣(ココノエ ユイ

友香のクラスメイトであり、親友。

活発な金髪サイドテールの少女。

一度身体を使ったことなら忘れない才能がある。

機械仕掛けの身体を持つ。


・生天目 響(ナマタメ ヒビキ

友香、優衣のクラスメイトで、親友。

黒髪ロングをハーフアップにした少女。

天才ハッカー。バニラアイスが好物。


11


 日は沈み、また昇る。

 反町友香は、目覚まし時計の音で目を覚ました。

 時計の頭にあるスイッチを押して、アラームを止める。カーテンの隙間から差す陽の光が、春の陽気を感じさせた。


 彼女は上半身を起こすと、瞼を擦りながら、左肩から落ちたキャミソールの紐を掛け直した。

 カーテンを開け窓の下を覗くと、人々がちらほらと中央通りを行き交い始めていた。


 月曜日の午前8時。


 天才といえど友香も中学生である。昨日一日中、探偵業をして疲れていても学生の本分は果たさなければならない。



「ふあ……ぁあっ……!」



 伸びをして、友香はベッドから足を降ろすと身支度を始めた。










(やっぱり制服はいいわね。何着るか迷わないし)



 授業を終えた友香は、キャンパスのベンチに腰掛けていた。

 目の前のグラウンドからは、野球部やテニス部員の掛け声が聞こえてくる。

 今日は、学校全体が午前授業だったため、昼過ぎの頃、彼女は友人と待ち合わせをしていたのだった。



「友香!」



 木漏れ日のそよ風に吹かれていると、待ち合わせ相手の声が聞こえた。

 友香が顔をあげると2人の少女が駆け寄って来た。



「あら、おつかれさま」

「ごめん!待った?」

「売店混んでて……」

「大丈夫よ。ほら座って座って」



 2人が座れるよう、端にずれる友香。



「あれ?モカと夢は?」

「あー、誘ったんだけど」

「共同の研究発表で忙しいんだって」

「それは残念ね」

「秘密だけど、透明人間になるんだって」

「ふふ、なにそれ」



 横に置いた鞄から、桃色の巾着袋を取り出し弁当箱を膝に置く友香。

 空いたスペースに座った2人も、それぞれビニール袋からサンドウィッチと牛丼を取り出した。



「それじゃあ」


「「「いただきます」」」



 手を合わせる3人。

 少女たちは、昼食を一緒に食べるために待ち合わせをしていたのだ。



「それ小籠包?」

「ええ、昨日の晩御飯の残りを詰めたの」

「へ〜美味しそう」

「意外と女子力高いよなぁ、友香は」

「意外と、は余計よ」

「あはは、悪い悪い」



 他愛もない会話をしたあと、友香は2人に尋ねた。



「どう?理系コースは」

「いや〜それが大変でさぁ」



 友香が話を振ると、金髪の少女が苦笑いしながら答える。

 彼女の名前は九重優衣ここのえ ゆい。友香のクラスメイトであり、親友であった。


 ただ、学年は同じだが、幼い頃大病を患い留年しているため、歳はひとつ上である。

 肩の下まである金髪を頭の横で結んでおり、彼女が動くたびにフリフリと揺れる。


 笑顔が絶えない活発な少女で、一度身体を使ったことなら忘れないという特技がある。そのため運動神経が良く、体育の授業では大活躍で、運動部の助っ人にも度々呼ばれていた。また、幼い頃習っていたピアノとバイオリンが弾ける。


 一方で、頭を使うのは苦手で、成績は良くはない。が、悪いわけでもない。



「私も文系にすればよかったかな〜」

「あら、文系は文系で大変よ?」



 3人の中で唯一、文系選択をした友香が笑う。



「うー……そうだけどさ」

「大丈夫。優衣も、ちゃんと理系の方に適正でてたじゃない」



 そう言うのは、優衣の横に座った少女、生天目響なまため ひびき。彼女も友香のクラスメイトであり、親友である。

 

 ロングの黒髪をハーフアップにしており、育ちのいいお嬢様のような雰囲気があった。彼女もまた、優衣と同じく理系コースにいる。



「でも、響と比べるとあまり自分の能力を生かせてないというか……」

「人を気にしすぎるのはあまり良くないわよ。というか、響とは専門分野が違うじゃない」

「そうだけど……」



 同じ理系といえど、優衣は工学科、響は情報学科を専門分野としている。

 情報学科とは、プログラミングなどを履修する学科で、言ってしまえばホワイトハッカーを育成するコースであった。


 その中でも響は、天性の才能があり、学生でありながらネット犯罪の検挙に貢献していた。

 まぁ、幼い頃からネットに触れていたからかもしれないけど、と友香は思う。


 というのも響の父は、サイバーセキュリティ会社を経営している、敏腕ハッカーなのである。国務省と提携し、防衛プログラムを作成したハッカーの一人でもある。先の大戦では、国防サイバー軍として戦っていたそうだ。


 響がサラブレッドかと言われると、そうではない。友香曰く、いくら優れた遺伝子を継ごうとも、中学生にしてあの才覚は本物と認めざるを得ない、だそうだ。



「うあー!私も響みたいに活躍したいぞ!」

「いや……あなたも充分活躍してるじゃない」



 頭を掻き毟る優衣に、ため息をつく友香。



「まぁ、優衣のお陰で医療技術が進んだみたいなところもあるからねぇ」



 ペットボトルのお茶を飲みつつ、響が呟く。



「お、このタレ美味い」



 隣でコロコロと表情を変える姿からはとても想像つかないが、彼女はその命をサイボーグ技術によって維持管理している。


 彼女が幼い頃患った大病は、医療技術が発達した現代においても治療が困難な不治の病だった。


 だが、臨床研究の段階にあった全身サイボーグ技術を適応することで、彼女は一命を取り留めたのである。


 彼女の身体は、その9割以上を技術に頼っている。サイボーグの全身適応は、前代未聞であり、成功例も彼女しかいない。それゆえ、臨床データとして、技術と医療両面の発展において重要な存在となっている。


 そのことをよく理解していた友香が頷く。



「確かに、あなたが生きてるだけで科学は発展するでしょうね」

「いや……そういう、すぐに結果が出ないやつじゃなくてさ……」



 口を尖らせて牛丼の肉をつつく優衣。

 それに見かねて友香は、仕方ないわね、と呟き優衣に話を持ちかける。



「じゃあひとつ、優衣に頼みたいことがあるんだけどいいかしら?」

「ん?なんだ?」


 口元にご飯粒をつけながら、優衣が顔を上げた。


「ちょっとした、ボディーガードみたいなのをして欲しいんだけど……」

「ボディーガード?いいぞ!引き受けた!」



 彼女はサイドテールを揺らし、ガッツポーズをする。


 九重優衣はお人好しである。


 活躍することを求めているためか、人の頼みをよく引き受けていた。友香の無茶振りにも、何度も付き合っている。


 以前、その理由を本人に尋ねたところ「自分が生きた証を残したいんだ」という回答が返ってきて、友香は豆鉄砲を食らった。


 今回も、詳細を聴かず快諾している。単にお人好しということではなく、友香への厚い信頼があってのことかもしれない。



「友香友香、私は?」



 優衣越しに、下から覗き込むようにして友香に尋ねる響。



「えーと……響にはまた今度頼むわ」

「えー」

「ごめんなさいね」



 不満げなポーズをとる響に、思わず苦笑する友香。



「ふふっ冗談だよ。助けが必要になったらいつでも言ってね!力になるから!」

「ええ、ありがとう。助かるわ」



 口元を抑えながら響が笑う。それにつられて友香も笑う。

 3人の昼食は、和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。

 なんとなしに空を見上げた友香は、いい友人たちに恵まれたとつくづく思うのであった。

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