懐かしい風の音がする
「ねえ、私の恋が終わったら、あなたはどうなっちゃうの?」
〝ん?終わるっていうのは、ハッピーエンド?それとも…〟
「それはいいから。質問に答えろ」
〝へーへー。〟
風音、実はね、ぼくはとあるキューピットから依頼を受けた道具に過ぎないのさ。役目が終わったら、必要なくなる。所詮風船だからね、使い回しもできない。お別れってこと。
「道具…?どういうこと?」
〝ねぇ風音、きみは昔、ぼくの持ち主になった時間が少しだけあったんだよ。覚えてる?〟
「さぁ…どういうこと?」
〝遊園地。ジェットコースターが壊れる少し前。〟
「…………あ」
幼い君が強い風に吹かれて、ぼくから手を離してしまったあの後、天使がぼくに言ったんだ。「あの子を幸せにしたいでしょ?」ってね。もちろん、遊園地の風船としての任務を果たしたいと思ったよ。そしたら天使がぼくを地上に下ろしてくれて、きみのそばにある木に結びつけてくれたんだ。
でも、ぼくは任務をこなせなかった。だってきみはそれどころじゃなくて、ぼくを忘れてしまったから。
それから天使の道具として過ごしていたけど、君のこと、ずっと考えていたんだ。生まれて初めての持ち主だったから、かわいいきみがとても愛しくて。
〝あの頃、恋をしてたのはぼくのほうだったんだからね?またきみのそばにいられる!って思ったら、まさか恋愛成就のお手伝いだなんて。〟
「夢みたいな話だね…」
〝夢であってほしかったさ。でも、ぼくは風船。あくまでおもちゃ。結ばれないことなんか分かってた。〟
「………」
〝まあまあ落ち込まないで。きみはきみの好きな人を、ずっと好きでいたらいいのさ。〟
「…うん、ありがとう」
ただのゴムの膜だったぼくに宿されたのは、幼い頃のきみの心。好きなものにまっすぐだった、純粋で澄んだ瞳をしていた、宝石のような思考回路。
「だからやけに好きなものに対して素直になれるんだね。…てことは、その声はもしかして」
〝うん、小さい頃の君の声だよ〟
「どうして自分のことをぼくって呼ぶの?」
〝その天使さんの一人称がそれだったから、テキトーに真似したんだ。〟
「あっそう…それで?その任務はいつこなしてくれるの?」
〝は?〟
「え?」
〝あのねえ、ぼくはあくまでお手伝いって言ったでしょ!そんな、ワークの答案冊子じゃないんだから、半分くらいは自分でなんとか努力なさい!〟
「えぇえ〜〜〜〜っ…」
恋する17歳の女の子
春藁風音
自分が恋をしていると分かってしまったので、ひたすら我慢することに精神を使っている。
風船さん
とある天使学校のキューピットから送り出された、恋の成就のためのお手伝いさん。
遊園地で、小学生の風音に貰われたが、すぐに風で飛ばされてしまった。それ以来、風音のことを忘れずにいた。
我慢なんてしないで、早く素直になりなさい!