天使の昼休み
「どいつもこいつも矛盾してるやつばっかり…」
「仕方ないでしょう、人間はそういう生き物なのよ。私はあなたが天使になりきれるか心配だわ。」
そういってわざとらしくため息をついたのは、ぼくの姉である〝天使壱号〟。
姉弟揃って天使になる修行をしているのだけど、まだ姉の方が天使らしい。
そもそもぼくは天使になりたくて修行してるわけじゃない。理想ばっかり高くて、努力もまともにしない癖に、必ず誰かのせいにする。そんな汚いサル共…失礼、人間共に鉄槌を下すことが出来れば、悪魔になる事だって構わないのだ。ただちょっと、(他人曰く)ぼくは性格が変わってるから、天使らしい天使になれないだけで。でも、それも個性だ。悪い物だとは思ってない。
「それで?今回のテストの点は?」
「筆記は94点、実技はC。」
「あら、相変わらずイタズラっこなのね。勿体無い」
「なにが?ぼくはぼくらしい仕事のこなし方をしただけで、何も悪いことはしてないと思うけど?姉さんこそ、先生に隠れてコソコソやってたんじゃないの?秘薬の開発とかさ」
「もうっ、人聞きの悪いこと言うんだからっ。秘薬じゃなくて、お花のエッセンスから作った幸せの素よ!今度は成功したんだから!」
ぼくより不器用でドジなくせに、優しさだけは一人前の姉が嫌いだ。失敗ばかりするのに、人の為になりたがる。理解が追いつかない。
「それでね、今度のエッセンスは桜からとったのよ。どうかしら」
それでも、彼女が作る、幸せの素であるエッセンスの成功品は、誰が作ったものよりも確かな効果が現れる。
匂いを嗅いだその瞬間から、幸せが始まる。
「…うん、いいんじゃないかな。良い点取れそうな香り」
「でしょう?〝天使弍号〟、あなたの今度の実技がうまく行きますようにって願いを込めて、」
「そうじゃなくて。…でも、ありがとう」
つい姉の話を遮ってしまった。
喋りたいわけではなかったのに。
「?、どういうこと?」
「ううん、なんでもないよ。それと、校内では〝アクマ〟って呼んでって言ってるだろ」
「あらそうだった?ごめんなさいね。なんだか自分の弟を悪魔呼ばわりするのは気分が良くないの」
ふふ、と頭の輪っかに飾られたリボンを揺らしながら微笑む。
ボクはその微笑を、どうしても嫌いになれなくて、ついつい姉を褒めてしまう。
「次の実技は、もっと明るく楽しいことをしなさい、弍号。誰かの夢を実現化させたりね」
「それは、ぼくはがもっと真っ白な天使に成長することを期待してるってことかい?」
「うっふふ、どうかしらね?結果を楽しみにしてるわよ」
そう言って、バイバイと手をひらひら振った刹那、姉は花びらとなって消えてしまった。
もうそろそろ次の授業が始まる。
ぼくは、矛盾ばかりだったころの自分を思い出す前に、座っていたベンチに背を向けて歩き出した。
姉の言ったことを忘れるつもりは、無い。
小悪魔的天使見習い
アクマ(天使弍号)
天使の修行をする学校、「グレイス・マリア聖学校」の「更生科」に通う天使の見習い。
人間の事があんまり好きじゃない。天使みたいにふわふわしてない。実はシスコン。
ふわふわおっとり?
天使壱号
アクマの姉。アクマより1歳年上。
同じ天使学校の幸運科で、人を幸せにするための技術を学んでいる。
全体的に不器用だが、幸せのエッセンスを作ること、そして弟の面倒を見ることは大好き。
・実技テストについて
月に一度、人間界にて、人や動物に紛れながら天使としての力を発揮し、誰か一人でも、設定した目標通り幸せにすることが出来れば高い成績を得ることが出来る。
設定した目標が天使らしいものではなかった場合、成功か失敗かに関わらず、低く評価される。