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冷たい抱擁 2

あやすようにダリオを優しく抱いていながら、彼の腕からも体躯からも血潮の巡りは全く感じられず、ダリオは徐々に体が冷えていく心地がしてきた。

生命の危機と絶望を心底味わいながら堕ちていく。

しかしその途上で、安堵と充足が幻の翼を広げて包み凌駕(りょうが)する。

「あなたは何て美しいんだろう。俺はあなたに魂を奪われて、ここにたどり着いた。あなたに命を捧げる覚悟はできています」

激しい思いに反して、やはり弱々しい小さな声しか発することができない。

「人間の恋とは愚かで見すぼらしい。私は誰の命も必要としない。私は永遠だからだ。命とは他の生のために捧げるか、続く繁栄に()き与えることをもってしか報いることはできないのだよ。虫けら呼ばわりされるささやかな命ですら知っている真実を人間だけが知らないのだよ」

ハデスは花藍の瞳でダリオを見据えてくつくつと笑った。

そしてダリオの耳元に唇を寄せると優しく囁いた。

「お前は今、真実に触れたのだ。祝福しよう」

身体はますます冷えて重く痺れていく。

俺は砂漠で出会った蛇に命を与えはしなかった。

生きる道のりで、数え切れない命を奪ってきた。

ただ怒りに任せ、逃げる足を持たないサボテンを切り裂いた。

俺は誰かを愛することも子をなすこともなく過ごし、命を割き与えることもしなかった。

かつて砂漠で出会った蛇との会話を思い出す。

俺は命の価値に生きて報いることも死んで報いることもない、灰色の人間だった。

でも、今この時、

ハデスの深い星空のような瞳が底知れぬ闇であって、俺の命を呑み込むと知っても不思議と恐怖を感じない。

「冥王ハデスよ、俺は命の真実を知り、それに従う。最期に願いを聞いてもらえないか」

ダリオは弱くかすれる声で言った。


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