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冷たい抱擁 1
何かの冷たい肌あたりに気がついて目を開いた。
ダリオはフェンネルの腕に抱かれ、花藍の双眸に見据えられていた。
焦がれ続けた瞳が目の前で自分を覗き込んでいる。
ああ。
けれど、ついに再びフェンネルと遭えたというのに、麻痺したように体が動かない。
フェンネルはダリオを見据えて、緋い唇で妖しく微笑みながら言った。
「ふん、美しい青年よ。しかし俺はお前の形骸に一片の関心もない」
フェンネルの微笑みは冷たいが、ダリオを魅了した。
「フェンネル、やっとあなたに遭えた。あなたはどこから来たの。人ではないのですね」
ダリオは渇ききった喉から引き絞るように、ようやく声を発した。
「俺は万物の死と蘇りを統べている。人間からはハデスと呼ばれることもある。春から秋には地上の命の営みを見守り、時には血潮を受け止める。冬には地の下で生気を地中に封じ、來たる春の芽吹きを扶けるのだよ」
とフェンネルは深い声音で答えた。
フェンネルとは冥府の王だったのか。
ダリオは知った。