熱砂の彼方 3
やがて所々に土や低い潅木が見えてきた。
草叢も現れてきた。
音はしないが水の匂いが感じられる。
草叢の中に何か小さく動くものがあった。
鮮やかな緑色をしたカマキリだ。
ついに見つけたフェンネルの眷属だ。ダリオの心に嬉しさがこみ上げた。
そっと近づくと、カマキリのメスがオスの体を食べているところだった。
すでに首のないオスの亡骸をメスは強靭な顎で食んでいる。
どうしてこれがフェンネルの眷属なんだろう。
ダリオは渇きで半ば焦点の定まらない目で見つめた。
メスのカマキリはダリオに気づくと、薄笑いを含んだ一瞥をくれて言った。
「私は彼が差し出したものを受け取るの。そして繋ぐの命を。これが私たちの習い」
ダリオは問いかけようとしたが、カマキリを見つめて、つと言葉を失くしていると
「お前は何かに向かって乞うばかり。求めるばかり。なんとまあ、みすぼらしい姿。差し出すものは、投げ打つものは、捧げるものはないの」
と、カマキリはダリオを眺めて問いかけた。
返す言葉を失って、強烈なめまいに襲われた。
まわる世界の中で、カマキリは再びオスの胴体に食らいついた。
俺はフェンネルに何を求めているの。再び出会うことか、触れ合うことか、愛されることか。
「差し出しなさい、大地に命を。フェンネルが現れるのは捧げ物を受け取る時なのだから」
頭の中に声が響く。
気が遠くなり、ダリオは草叢に膝をつき倒れ込んだ。
その時だった。
不意に冷たい腕がダリオの体を抱きとめた。