熱砂の彼方 2
翌日も同じことだった。ダリオは砂漠を彷徨った。
疲労が彼を蝕んで、日ごとにやつれて捨てられた家畜のように痩せて汚れていった。
心にある渇望だけが容赦なく強まり、彼を追い詰め苛立たせた。
「どこだ。どこにある」
目を剥いたダリオは叫んで腰に差していた短剣を抜き、屹立する唄うサボテンに切りつけた。
サボテンの幹は硬く、倒れこそしなかったが短剣に裂かれて傷つき棘も切り払われ悲鳴を挙げた。
同胞を裂かれたサボテン達も一斉に叫び出し、鋭く長い幾本もの棘でダリオを刺した。
「フェンネルに魅入られた者め、お前は狂っている。お前もお前の血を流せ」
砂の上に赤い血が点々としたたり落ち、ダリオは正気を取り戻した。
不思議と痛みを感じなかった。
ある時はささやかなオアシスの小さな水場に、青く光る蝶の群れが憩っていた。
その中に倒れこんでダリオは蝶と一緒に水を啜り、蝶に尋ねた。
「君たちはフェンネルを知らないか。フェンネルの居場所を教えてくれ」
青い蝶たちは口々に言った。
「フェンネルの森は現れる。そして消える。フェンネルのそばには眷属のカマキリがいる」
「カマキリを探せ、カマキリに訊け」
そして蝶の群れはやがて青い一陣の風のように飛び去った。
現れてまた消えるというのか、
一体俺は命あるうちにフェンネルと再びめぐり合うことができるのかとダリオは案じた。
砂漠にさすらうこの身を乾きや灼熱や凍える寒さからなんとか守り、かろうじて日々を生き延びている。
しかし、心の中に現れ広がり続ける砂漠から俺は逃れられない。
この渇望を癒してほしい。
フェンネルよ、あなたの花藍色の瞳を覗きたい。