花藍色の瞳 2
サボテン達は答えて唄った。
「フェンネルは黒髪に花藍色の瞳を持ち、秀麗ながら人にあらず。体躯は瘦せていながら力に満ちて背は高く、裸足で踏みしめる大地はたちまち息づいて緑鮮やかに苔むす」
ピスターシュは今や灰色の片鱗もなくなり、ますます香気に満ちていた。
蛇は砂を蹴立てるようにザリザリと彼の周りを這いずり廻り、伸び上がり、牙を剥いた。
「お前を呑ませろ。俺は腹が減っている」
「俺を呑みたいか」
とピスターシュは言った。
「ああ、今すぐにでも」
お前を一呑みにして腹に蓄え、俺と同じ砂漠の熱と渇きと凍てつく孤独に骨を晒してやりたい。
灰色のピスターシュは蛇を見つめて縦に切り込まれた扉の隙間のような瞳を覗き込むと、まぎれもない意思を知った。
「蛇よ、それはできない。俺はここを永遠に去るよ。もう一度森へ行くと決めた。フェンネルを探すのだ」
蛇は舌を蠢かせ、這いずりながら思った。
なぜ、俺はいきなりこいつに噛み付いて呑み込んでしまわないのだろう。
「おまえの香気に触れることはもうないのだな。人間、お前自身の名を聞かせろ」
「俺の名はダリオだ。蛇よ、ありがとう。もう会うこともないのだな」
ダリオが去っていく中、風に吹かれるサボテンの歌声が細く高く響いた。
「フェンネルに心奪われフェンネルに魅入られた者。
可哀想に、おまえは私。
私が愛する者を頭から食い尽くしたように、
お前もフェンネルに食い尽くされるのだ。
肉を溶かし髄まで消え失せて、お前はフェンネルに与えられるのさ。
希望は潰え命は尽きるのにも関わらず、
失う事は歓びとなり、お前の消滅は永遠となる」