花藍色の瞳 1
荒々しく吹き荒れる風に日毎翻弄される移り気な砂漠にも花が咲いた。
それはサボテンに咲く真紅の花だった。
花は風塵に逆らい、灼熱注ぐ青空に向かって斬りつけるように咲いていた。
このところ暫く灰色のピスターシュの姿を見ない。
奴を呑んでやりたい、いずれかはと蛇は思いかえした。
真紅の花が尽きた頃、彼は水と青草の薫りを纏って再び砂漠にやって来た。
「砂漠に突然現れるという美しい森を見つけたんだ。きらめく水の流れと大粒の朝露を見た。緑の放つ香りに染まった気がしたよ」
と灰色のピスターシュは言い
「確かにお前は緑の放つ香りを纏い、水のきらめきを眼に宿しているな」と蛇は答えた。
いつも彼の上に煙る灰色は払拭されて、瑞々しく薫る緑が現れているようだった。
彼の放つ瑞々しい湿りを帯びた熱気と渇望が砂漠を巡り、親切なサボテン達が体を揺らしそこここで笑い唄う。
「あいつは森でフェンネルを見たのさ」
「ああ、奴はフェンネルに心奪われた」
「フェンネルは守る術なき者達から容赦なく奪うのさ」
「ピスターシュはもうフェンネルの餌食になったのさ」
蛇は激しい渇きを覚えながら聞いた。
「フェンネルとは何者だ」